堀越氏の零戦の遺産という著書からの抜粋です。 <設計者がみた弱点> 本機は1000馬力級戦闘機のチャンピオンであった。1200ー1300馬力級を含めて タイトルを取れたと思うが、1500馬力級の後の戦闘機と比べたら本機の弱点は 次にある。 1.馬力の過小 零戦の性能向上改造を阻んだ原因は、始めに小さい発動機を選んだことと換装 の為の設計技術者不足である。金星を始めから選べば、九六式艦戦より50%も 大きい飛行機になり、当時のパイロットからは到底受け入れられない機体だった。 2.急降下速度の不足 僅か1000馬力の発動機では、急降下制限速度を断然上げるのに、思う存分重量 をかけるわけにはいかない。艦戦の生命である軽快性を捨てない限り、急降下 速度を大して上げることは、物理的に不可能なのである。 3.高々度性能の不足 1000馬力級で中型空母から発進するためには、全開高度の低い発動機が必要で だった。日本では2速加給器が採用されて以来、高空馬力が額面値を割る傾向が あり、発動機の性能が向上されればされる程、その傾向が強かった。 4.高速時補助翼重く効き不足 日本の戦闘機が高速時に補助翼が重く、効きが鈍くなるのは空戦のテクニックに起因 する。すなわち空戦において日本機は、縦の面内の運動を重視する設計されて いた。その結果として高速時にかの症状が出てしまった。 5.防弾の欠除 防弾の欠除は日本軍用機の共通した短所であった。 1000馬力の発動機から、性能の一滴でも余計に引き出せという国家の至上命令 を任務に設計された零戦に、要求のない防弾まで行なう余裕が無かった。 対等の敵との戦いならば、防弾欠除も戦闘機としてはそれ程深刻な弱点には ならない と考えられていた。 さすがに設計者の言葉です。 大戦後期になると、米国機は特に2.3.5.の弱点をついて攻撃してきたようです。 すなわち 攻撃も退避も、高々度空域と急降下を利用する戦法です。 さて 次回は零戦の変遷についての話をば。