1936年発布

赤軍臨時野外教令


第七章 攻撃
  1. 其の一 行軍より行う攻撃
    1. 第169
      行軍を以って敵陣地帯に近接して行う攻撃に在りては、前衛は左の如き任務に服す
      1. 障害物及び其の掩護部隊の清掃
      2. 敵戦闘警戒部隊の掃蕩
      3. 敵陣地帯第一線の偵察並びに攻撃の為の主力の展開掩護
      前衛には強大なる砲兵(為し得れば歩兵1大隊に砲兵2大隊の比率)を配属する外、最も完全且つ速かに障碍を除去し得る如く工兵及び化学兵部隊を配属するを要す
      若し前衛の攻撃正面著しく大なる時は、兵団指揮官は前衛と同様の任務を以って狙撃1大隊を基幹とする諸兵連合部隊を補足的に推進す
      前衛の行動は勇敢且つ迅速にして、而も全く独立的ならざるべからず。敵警戒部隊の攻撃に当りては、之を捕捉するを要す。此の際、脱逸して主陣地帯に退却し得たる部隊と雖も、混乱して再び立つ能わざるまでに徹底的打撃を加うること肝要なり
      前衛は敵警戒部隊の敗残部隊に膚接して前進し、仮令局部的なりとも、一挙に敵主陣地帯に突入することに努むべし。敵は実際的の陣地前線の径始を秘する為、某地区には強大なる警戒部隊を配置し、他の地区には弱小なる一部を配置することあるべきを考慮せざるべからず
      斯かる状況に於いて、能く敵陣地帯前縁の径始を判定し得るものは、一に前衛の勇敢なる行動あるのみ
    2. 第170
      前衛と敵警戒部隊との戦闘間、主力は師団の攻撃地域内に於いて、爾後任意の方向に対し攻撃を開始し得ることを顧慮し、遮蔽せる位置に兵力を集結す(敵陣地帯前線より3乃至4粁)此の間、各部隊は夫々戦闘警戒部隊を配置し、且つ随時敵の出撃に対抗し得るの準備にあらざるべからず。此の際、対空、対化学、及び対戦車防禦の為、あらゆる手段を講ずること特に緊要なり
      敵、若し陣地帯外に出撃を企図せば、機動戦を以って之を破摧し、其の背後に膚接して、主力を以って敵陣地帯内に闖入すべし
      師団砲兵指揮官は、前衛の戦闘間、師団攻撃地域内に於ける捜索を部署し、且つ歩兵部隊の掩護の下に、師団長の指示に依り、予定攻撃計画に基づく砲兵の展開を行う。砲兵は前衛の行動を支援し、且つ起こり得べき敵の出撃を撃退するの準備に在らざるべからず
    3. 第171
      若し、翌払暁に攻撃を予定するときは、兵力移動の有無を監視し、敵陣地帯前方の近接路及び障害物の状況を確かめ、俘虜を獲得する目的を以って夜間捜索を行うこと肝要なり
      飛行機は照明弾を使用して、敵の夜間機動を偵知す
      あらゆる捜索は我が主攻方向を暴露せざる如く、全正面に亙りて之を実施するを要す
    4. 第172
      攻撃計画は其の側面攻撃たると突破たるとを問わず、常に敵の兵力資材を捕捉殲滅するを以って目的とし、決して圧迫を主とすべからず
      攻撃成功の最大の要件は敵の不意に乗ずるに在り、此れ故に軍隊のあらゆる準備行動は極力之を秘匿するを要す
    5. 第173
      敵の開放翼及び兵団接合部は取って以って乗ずべき最大の薄弱部なり。故に手段を尽くして之を探知し、好機に投じて之を攻撃するを要す。蓋し多くの場合開放翼の放任は単に一時的の現象に過ぎざればなり。敵陣地の外翼を迂回せば、陣地に在る砲兵、司令部、通信中枢及び輜重を襲撃して、直接之に打撃を与うることを得べし。此の際に於いては、一部の兵力を以って同時に此の敵を正面より攻撃すること肝要なり
      迂回は必ず其の外翼を援護するの手段を講じ、最も迅速果敢に行動するを要す
      戦車及び飛行機を伴う迂回は行動比較的容易にして、而も大なる成果を齎し得べし
      開放翼を迂回するに当りては、遠距離行動戦車群は先ず持って敵の主要退路上に進出して敵を背面より攻撃し、主力は之に続行す
      機械化旅団及び騎兵師団は、迂回兵団の外翼に之を使用す
      敵の正面に対しては、狙撃兵団の一部を以って攻撃を行う
    6. 第174
      敵に開放翼無き時は、高級指揮官は突破を行う。此の場合に在りても、砲兵の支援を有する歩兵、遠距離行動戦車、及び飛行機の協同は、敵兵力資材の捕捉殲滅を目標とせざるべからず
    7. 第175
      主攻方面には徹底的に敵に優越する兵力資材を集結するを要す。主攻撃を指向すべき正面は、制圧資材の多寡、地形の特性、対戦車防禦の状態、ならびに技術的設備の強度如何に依りて差異あり
      急遽防禦に転移せる敵に対する攻撃に当りては、打撃部隊第一線1大隊は砲兵1大隊と戦車1中隊又は砲兵2大隊を以って支援せらる。此の場合に於ける大隊の戦闘正面は約600米とす
      砲兵及び戦車の支援更に有力なるときは、戦闘正面は約1000米まで之を拡大し得べし
      固有編成其の侭の師団打撃部隊の正面幅は2000乃至2500米にして、砲兵1連隊、戦車1大隊を増加せられたる師団に在りては3000乃至3500米に達するものとす
      師団の全攻撃正面は、打撃部隊戦闘正面の2倍たらしむることを得
      最も重要にして而も敵の防禦力大なる方面の兵団は、最も多数の重砲、戦車、及び其の他の総司令官用予備資材を増加せらる
    8. 第176
      攻撃戦闘に於ける対空、対化学、対戦車防禦は第二章に示す所に拠る。其の主要なる目的は打撃兵力の行動を安全ならしむるに在り
    9. 第177
      後方組織及び資材の補給は攻撃奏功の為緊要なる用件なり。制圧資材の集結大なるに従い、後方業務は益々困難の度を加うるを常とす
      軍隊に対する間断無き弾薬の補給と敵航空に対する後方の掩護とは、攻撃成功の主要条件なりとす
    10. 第178
      攻撃戦闘の技術的保障は特に重要にして、之に依り戦車及び歩兵の前進速度を増大し、砲兵の推進を容易ならしむることを得るものとす。其の主要なる任務左の如し
      1. 地形及び敵陣地組織に対する不断の技術的捜索
      2. 縦隊路及び通路の設定
      3. 集結せる兵力の秘匿
      4. 軍隊に対する給水作業
      5. 攻撃前進の際、障碍物通過の為の多数資材(梯子、計橋梁、筵等)の準備ならびに製作
      6. 障碍物の除去ならびに障碍地域の通貨作業
      7. 占領工事ならびに障碍の設置
      8. 後方補給を容易ならしむる為、道路及び橋梁の構築
      攻撃間、高級指揮官は技術的兵力資材の予備を掌握しあるを要す
    11. 第179
      攻撃に於ける通信連絡は、戦闘の全期間中最も緊要なる時期(第二線部隊の加入、逆襲の撃退、火力機動、包囲の完成)に於ける戦闘指揮を保障せざるべからず
      攻撃戦闘に於ける通信網は軸線及び岐線の方向に従いて構成せらる。連絡軸は戦闘指令所の移動に伴い、其の経路に沿いて設定せられ、連絡岐線は部下各部隊ならびに戦闘指令所予定位置に向かい設置せらる
      無線の攻撃戦闘に於ける価値は大なり。或は陣地帯内部に於ける移動戦闘資材の指揮を容易ならしめ、或は特に無線信号を以って各兵種の協同に資す
      敵陣地帯内部に於ける行動を指揮するためには指揮用飛行機を活用し、戦場を経由する命令、通報、報告等の送達には機械化兵器を使用するを要す
      予備通信機材は常に戦闘指令所の近傍に位置す
    12. 第180
      軍団長は、幕僚幹部の飛行機を以ってする観察に依り、各種捜索に依りて得たる情報を確かめたる後、攻撃に関する決心を確定し、各師団前衛の敵警戒部隊駆逐までに軍団命令を下達す。此の際、各師団に攻撃の為戦闘地境を与え、軍団直轄部隊を使用すべき方向を示し、全般に亙る攻撃準備の時間を規定す
      次いで、各師団第一線敵陣地帯の前縁に触接するに至らば、軍団長は更に自己の決心を具体化して最終的攻撃計画を確定し、攻撃命令を下達す
      敵の翼を迂回すべき師団に対しては、敵の翼に至るまでの戦闘地境を示し、爾後の行動は状況に依りて之を規正し得る如く単に一般的方向のみを示すものとす
      遠距離行動戦車群1大隊に過ぎざるときは、通常軍団長自ら其の砲兵を以って之を支援するも、遠距離行動戦車群2群を編成するに十分なる戦車を有する時は之に対する砲兵火力の随伴は狙撃師団長の任とす。此の場合に於いては各師団に所要なる砲兵を増加す
      軍団攻撃命令には準備砲撃の継続時間、遠距離行動戦車群の襲撃時期、歩兵の突撃前進開始時期等を示す。就中、歩兵の突撃前進開始時刻は攻撃に関するあらゆる時間算定の基礎をなすものとす。此の際、歩兵、砲兵、及び戦車の為、現地に於いて具体的協調を遂ぐるの時間を与うること肝要なり
      軍団長は遠距離行動戦車群に無線機を有する連絡者を派遣し、戦場全般ならびに戦車群の行動を監視する為、幕僚をして空中観察を行わしむるを要す
      軍団長及び軍団幕僚は主攻方面に対する弾薬の補給を中絶せざる如く、不断の監督を怠るべからず
    13. 第181
      遠距離行動戦車群は敵陣地帯突破の為決定的な価値を有するを以って、特に之が使用は厳に当時の状況に適合せざるべからず。遠距離行動戦車群の突破地区ならびに之が掩護手段の選択は、一に敵陣地に於ける対戦車火力の強弱、対戦車障碍物の状態、ならびに地形の特性に依るべきものとす
      遠距離行動戦車群の任務は敵陣地帯の後方に突入して、敵の予備隊、司令部、及び主力砲兵群を剿滅し、敵主力の退路を遮断するに在り
      遠距離行動戦車群の襲撃は、多くの場合歩兵及び歩兵支援戦車群をして其の敵陣地帯第一線通過に当り生起すべき防禦火網の混乱を利用し得しむる如く計画せらるべきものとす。遠距離行動戦車群と支援戦車を伴う歩兵との梯隊距離を短縮することは、敵に火網組織を回復するの余裕を与えざるの利益あり
      支援戦車を伴う歩兵の攻撃は全線同時に之を開始すべきものとす
      敵陣地帯の第一線が戦車の通過困難なる地区に沿いて配備せられあるときは、砲兵及び戦車の支援を伴う歩兵の攻撃は遠距離行動戦車群の攻撃に先じて実施せらるるを要す。此の際、歩兵は先ず敵陣地帯第一線を占領して障碍地域に戦車の通路を開設し、次いで遠距離行動戦車群は歩兵の戦果を拡張しつつ之を超越して敵陣地帯内部に深く突入す
      遠距離行動戦車群の各大隊は砲兵火力を以って其の正面及び側面を援護せられつつ、通常各車輌間の間隔及び各部隊間の距離を短縮し、数線隊形を以って攻撃前進す。此の場合、1大隊の突破正面は、地形の状態、砲兵の多寡、及び隊形の如何に依り300乃至1000米の間を変化す
      攻撃部隊敵陣地の開放翼を迂回する場合に在りては、遠距離行動戦車群は敵の後方に指向せらる
    14. 第182
      特別の場合軍団に配属せらるべき戦闘飛行集団は、近接中の敵の予備隊を阻止し、包囲圏より脱逸せんとする敵を破摧する目的を以って使用せらる
      此の際、航空部隊の特に重要なる任務は、敵砲兵をして脱逸せしめざるに在り
      攻撃中の歩兵及び戦車は、友軍飛行機に対し其の位置を表示する為、空中より識別し易き標識を携行す
    15. 第183
      師団長は前衛の戦闘決を見るまでに決心を確定するに十分なる資料を収集せざるべからず。之が為、師団長は敵警戒部隊との戦闘間、既に一般的ならびに砲兵其の他特科部隊の為の捜索を部署す
      戦場に於ける諸兵種の具体的協同動作に任ずるものは、歩兵大隊長、騎兵連隊長、及び砲兵大隊長にして、此れ等の指揮官に対しては状況之を許す限り最大限の時間の余裕を与うるを要す。此れ故に師団長は、定められたる攻撃開始時刻までに司令部及び師団砲兵指揮官の計画作業、連隊本部の業務、特に各歩兵大隊と砲兵及び戦車との現地に於ける 具体的協調に十分の時間を与えうることを考慮して決心を確定せざるべからず。就中、歩砲戦の協同を効果的ならしむる為、天光を有する間に於いて数時間の余裕を与うること肝要なり
      師団長の主要なる責務は打撃部隊の歩兵及び戦車と歩兵支援砲兵群との協調を容易ならしむるに在り。攻撃準備所要時間の大部は専ら此の目的達成に使用せらるべきものとす
      師団打撃部隊の兵力は少なくも狙撃2連隊とす。此れ等両連隊は並列して攻撃を行う
      師団砲兵の主力及び師団配属砲兵の全力は、師団打撃部隊の行動を支援す
      師団幕僚は、要すれば戦闘計画を調製し、歩兵、砲兵、及び戦車部隊に之を分配す
      戦闘間、師団長は歩兵支援砲兵群の活動を監督し、決戦時期に当りては全砲兵火力を決戦地区に集中す
      若し戦果を認むるに至らば、予備隊、捜索大隊の機動部隊、其の他あらゆる師団の資材を挙げて該方面に使用し、其の戦果を拡張す
      師団幕僚は、決戦時期に於ける砲兵弾薬の補充に遺憾無からしむると共に、断えず弾薬の消耗及び其の現状に注意しあらざるべからず
    16. 第184
      狙撃連隊長は多くの場合大隊を2線に配置し、戦闘正面狭小なる時は之を3線に部署す
      第1及び第2線大隊に任務を付与するには敵陣地帯内部の戦闘に於いて最も緊要なる時期に当り、第2線を以って第1線の翼後より敵を攻撃して戦闘の決を与え得ることを顧慮せざるべからず
      歩兵支援砲兵群の砲兵大隊(若しくは中隊)に対しては夫々其の任務に応ずる如く、支援すべき歩兵大隊を配当す
      狙撃連隊長は後方より打撃兵力を以って戦線を培養することに関し重大なる役割を演ずるものとす
      連隊長は、第2線部隊の前進遅滞は其の程度極めて僅少なる場合と雖も戦闘の進捗を妨げ、往々第2線の行動を無益に終わらしむるものなることを顧慮し、常に第2線大隊の前進をして時宜に適せしむる如く之を督励す
      連隊第2線部隊の戦線加入は、適時砲兵及び戦車を以って支援せらるるを要す
      連隊長は、敵戦車の逆襲に当りては配属戦車及び連大隊砲を使用して連隊打撃部隊の前進を遺憾なからしめざるべからず。配属戦車及び連大隊砲は此の目的を以って歩兵の後方に近く随伴するものとす
      連隊長は自己の観察(または幹部を以ってする)に依り、断えず戦闘進捗の状況を監視し、全力を尽くしてあらゆる局部的成果を拡張し、特に戦況進展せる部隊、側面、及び背面を掩護し、極力爾余の部隊の前進を督励す
      連隊長及び其の幕僚は、戦闘の全期間を通して常に弾薬の補充を遺憾無からしむることに注意せざるべからず
      連隊長の決心ならびに攻撃命令の下達は、歩兵大隊、配属戦車、及び砲兵大隊の諸準備の為、為し得る限り多くの天光ある時間を利用し得ることを顧慮して其の時期を決定せざるべからず
    17. 第185
      砲兵及び戦車は、歩兵の突撃に当りては、陣地の守兵をして頭を挙げて之を射撃し得しめざる如く行動せざるべからず
      砲弾の破片に対する抗力を有する戦車は、我が砲弾の炸裂線に近接して敵の火点を制圧し、以って歩兵の突撃を掩護す。戦車の襲撃は、遮蔽せる敵の対戦車砲に対し全正面に亙り炸裂榴弾と煙弾とを使用する砲兵の火力を以って支援せらるるを要す
      戦車の数十分ならざるか、又は戦車を有せざる場合に於ける砲兵の主要なる任務は直接歩兵の行動を支援するに在り。此の際、戦車は敵陣地帯内部に於ける戦闘に於いて、砲兵の準備不完全なる局部の補足に任ずるものとす
    18. 第186
      砲兵は左記任務に服す
      1. イ 準備砲撃時期
        敵砲兵の制圧、暴露せる対戦車防禦資材の撲滅、其の存在を予想せらるる地区の制圧、観測所及び独立掩体、特に戦車の制圧し得ざるべき特殊火点の破壊、ならびに戦車の攻撃を受けざるか、又は戦車の近接を許さざる地区に於ける機関銃火網の制圧
      2. ロ 遠距離行動戦車群の襲撃時期
        対戦車資材の撲滅、又は対戦車火力の減殺を目的とする火力随伴、及び新たに発見せる敵砲兵の制圧
      3. ハ 支援戦車を伴う歩兵の突撃時期
        歩兵の前進を援助する目的を以って対戦車資材及び敵機関銃の制圧、完全に敵を撃滅するに至るまで、攻撃戦闘の全経過に亙り火力又は陣地変換を以って歩兵に随伴
    19. 第187
      砲兵の準備射撃は、攻撃正面1粁に対し火砲30乃至35門以上を有し(遠距離砲兵を含まず)、而も狙撃1師団に対し戦車2大隊を有する場合に於いて之を1時間半に短縮することを得
      戦車の数十分ならざる時は準備砲撃は3時間に亙り実施せらるべく、敵防禦陣地帯の強度大なるときは其の所要時間著しく延長す
      一地区に対する戦車及び砲兵の数極めて豊富なる時は、準備砲撃は敵の第一線及び最近の対戦車地区に対する10分乃至15分間の急襲射撃を以って之に代え得ることあり(陣地の設備十分ならざる敵に対し奇襲の目的を達せんとする場合の如き)此の際に於いては爾後移動弾幕射撃を以って戦車の運動に随伴するものとす
      夕刻より準備砲撃を行う場合には、通常砲兵は夜間射撃を行い、戦車及び歩兵を以って払暁攻撃を行うを有利とす
      夜間の準備砲撃は対戦車資材の存在を予想せらるる地区、抵抗中枢、予備隊及び司令部に対して之を行う
      歩兵支援戦車群に対する火力随伴の時間は準備砲撃の時間外とす
    20. 第188
      遠距離行動戦車に対する砲兵火力の随伴は、敵陣地帯の全縦線に亙る移動弾幕射撃を以って最も確実なりとす。弾幕の躍進ならびに集中射撃の移動は、現地の状況に応ずる戦車の実際的速度を基礎として決定せらる
      移動弾幕射撃は砲兵1大隊に対し、正面幅又は縦長(側面掩護)300乃至400米を担任せしむる場合に於いて、はじめて戦車に対し信頼すべき掩護を与え得るものとす
      移動弾幕射撃の外、集中射撃の移動、若しくは移動弾幕射撃と集中射撃の移動とを併用することあり
      集中射撃の移動は敵対戦車砲の配置を十分に確認し得る場合之を適用す。但し、之が為には準備の為大なる時間を要するを以って、敵の対戦車防禦組織十分判明せざるときは移動弾幕射撃に依るを有利とす
      何れの場合に在りても敵の第一線に対する戦車の襲撃は砲兵の支援を伴わざるべからず。砲兵の支援無き戦車の襲撃は、本攻撃の場合たると捜索の場合たるとを問わず、之を実施するを許さず
      遠距離行動戦車を以ってする敵翼の迂回に当りても砲兵火力(放射状射撃)の随伴を必要とす。蓋し防者は自動車化対戦車資材を以って迂回に対する組織的抵抗力を構成し得べければなり
      遠距離行動戦車に対する砲兵火力の随伴其の必要無きか又は不可能なるに至らば、之に任じたる砲兵は支援戦車を伴う歩兵に対する支援射撃に移るものとす
    21. 第189
      歩兵支援戦車と歩兵支援砲兵との協同は、通常歩兵支援小砲兵群が支援すべき歩兵大隊支援戦車の前方に在る敵の対戦車資材又は其の存在を予想する地区に対し火力を指向することに帰着す
      歩兵大隊を支援する戦車中隊は砲兵火力の掩護の下に防者の機関銃火網を制圧す
      砲兵大(中)隊は戦車中隊長との間に火力転移又は射撃連続要求の為、最も簡単なる記号を定む
      尚、歩兵中隊に派遣せられたる砲兵連絡班は、戦車の前進状況、戦車の遭遇せる障碍、戦車の前進停頓の原因等に関し、機を失せず砲兵に報告す
      攻撃戦闘間、戦車が万一停滞を余儀無くせられ、爾後の歩兵支援に任じ得ざるに至りたるときは、歩兵は専ら砲兵の直接支援の下に攻撃を続行す。如何なる状況に在りても歩砲間の連絡は仮令1分間といえども断絶することあるべからず。大戦車群の支援を有する場合に於いても亦然り
    22. 第190
      連大隊砲、特に迫撃砲、重機関銃、及び軽機関銃は、全力を挙げて戦車の襲撃を支援せざるべからず
      敵陣地帯の第一線を越えて戦車を推進するため、連大隊砲の内より特に若干門を抽出して戦車支援砲とし、夫々地区を与えて該地区内に於ける敵対戦車砲との戦闘に任ぜしむ
      戦車支援砲の指揮官は戦車の戦闘法ならびに任務を承知しあらざるべからず
      敵陣地帯内部に於ける戦闘に当りては、連大隊砲は歩兵の戦闘部署内に在りて前進し、其の火力を以って歩兵及び戦車を支援す
      戦車直接の支援は、火砲戦車の一部を以ってすることを得。此の際、火砲戦車は逐次遮蔽陣地を占領しつつ前進し、暴露する敵の対戦車砲を制圧す
      新たなる敵の対戦車資材の進出は適時飛行機を以って之を発見し、速かに攻撃部隊に通報すべし
    23. 第191
      歩兵支援戦車は直接突撃歩兵と同行して其の進路を開拓す
      歩兵支援戦車2梯団より成るときは、第1梯団は敵陣地内部に在る敵機関銃を制圧すべき任務を与えらるることあり
      歩兵支援戦車の小部隊指揮官ならびに各車長は、絶えず歩兵指揮官の目標指示に注意し、歩兵の前進を妨害しつつある敵火点の制圧に任ぜざるべからず
      歩兵指揮官の目標指示は特に重要なり。各戦車は之に基き、或は前進し、或は後退し、或は横行して、歩兵の要求を充たさざるべからず
      戦車部隊の最小単位は戦車小隊にして、或は歩兵指揮官に配属せらるることあり、或は歩兵指揮官の支援を命ぜらるることあり。戦車小隊は仮令後者の場合に在りても歩兵指揮官の要求に対しては凡て之を遂行するの義務あり
    24. 第192
      攻撃に於ける化学兵器の使用は、十分之を集結せる場合に於いては大なる効果を期待し得べし。持久性、一時性、刺激性毒物、及び毒煙等、各種毒物の使用は総司令官の指示に依る
      突撃準備時期に於いて、敵をして撤退の余儀無きに至らしむる為、持久性毒物を使用するは有利なり
      攻撃準備間、風向宜しきを得るときは、敵を困憊せしむる為、特に夜間毒煙及び瓦斯波の攻撃を行うことあり
      航空部隊は防者の為特に重要なる地点又は人馬に対し化学爆弾を使用す
      化学部隊は煙幕を以って攻撃中の軍隊を遮蔽し、或は毒化地域を消毒する為に使用せらる
    25. 第193
      狙撃大隊は敵の不意に乗じて展開する目的を以って、砲兵火力の掩護の下に、隠蔽して成るべく近く敵の第一線に近接す。接敵は其の日に突撃を予定する場合に於いては昼間、翌日の突撃を予定する場合に於いては夜間之を行う
      狙撃大隊は、砲兵の陣地進入、観測通信設備、及び射撃準備の完了を待って展開するものとし、若し砲兵の射撃開始後展開を行うを得ば更に有利なり
      狙撃大隊長は其の戦闘警戒部隊の掩護の下に、各中隊長、支援砲兵、及び支援戦車の指揮官と共に、自ら攻撃地区を偵察す
      攻撃戦闘に於ける歩兵と砲兵及び戦車との協同を律する為、歩兵大隊長の責務は極めて重大にして、攻撃の成否をも左右す
      大隊攻撃命令は、大隊長自ら行う偵察、現地に於ける砲兵及び戦車指揮官との協同に関する協定成立の後、はじめて下達せらる
    26. 第194
      歩兵は展開後、砲兵、迫撃砲、重機関銃等の火力を利用し、駈歩躍進又は匍匐前進を以って逐次隠蔽地を躍進し、努めて速かに突撃発起位置に向かい前進して、所定の時刻迄に諸準備を完了す
      各兵は此の際陣内戦に必要なる予備弾薬を携行しあるを要す
    27. 第195
      攻撃間は必ず「装面準備」の姿勢を以って防毒面を携行し、且つ防毒外被は之を袋に収れて携帯すべし
      敵戦闘飛行隊の襲撃に当りては、各自速かに防毒面及び外被を装着し、依然戦闘任務を続行すべし
      此の際、特に指定せられたる部隊は対空射撃を行う
      飛行機の毒物雨下、又は毒化地域の為持久毒物の傷害を受けたる者は、直ちに化学繃帯包を使用す
      対化学防禦勤務者(毒化地域の捜索及び境界の査定、予防消毒、毒化物件の蒐集及び後送)は、連隊化学小隊及び師団消毒部隊の援助の下に夫々其の任務を遂行す
    28. 第196
      歩兵支援戦車の攻撃前進は、通常、歩兵の突撃前進の信号となるものとす
      此の信号に依り、各指揮官は直ちに部下を駆って突撃に前進せしむ
      戦車無き時は、所定の時刻、砲兵の射程延伸と共に歩兵大隊長又は中隊長の信号(煙火)を以って突撃を開始す
    29. 第197
      敵陣地帯突入後に於ける、重機関銃、迫撃砲、及び其の他大隊制圧資材の指揮は通常狙撃中隊の行動範囲のみに限らるるに至る。此れ故に大隊長は、多くの場合陣内戦の経過中、適時此れ等の資材を狙撃中隊長に配属する如く予定するものとす
      正面よりすると側面よりするとに論無く、陣内戦に於ける攻撃の成果は、各級指揮官及び各兵の独断、機眼、勇敢、及び剛胆に俟ってはじめて能く之を期待し得べし
      連隊長は適時打撃部隊第二線に戦闘加入を命じ、或は支援砲兵及び戦車に追加任務を付与する等の手段に依り、戦闘に決を与うる事に努むるを要す
      第二線部隊は予め与えられたる任務に基き、仮令戦闘間新たなる指示を受くること無くとも、敵時独断を以って攻撃中の敵の側背に進出し、其の側面及び背面を果敢に攻撃して戦闘の運命を決するを要す
    30. 第198
      敵陣地帯に発生せる突破孔は、凡て縦深に向かう攻撃の発展の為利用せられざるべからず。各級指揮官は、其の発見せる突破口が仮令所命の方向に一致せざる場合に於いても、随所に之に向かって突進し、其の戦果を拡張せざるべからず。仮令小兵力を以ってするも、尚抵抗を継続する敵の側面及び背面に向い攻撃するは極めて有効なり。 陣内戦に於いて攻撃を遅滞し、徒に命令を待ち、若しくは隣接部隊の進出を待つことは最も危険なり。勇敢且つ剛胆なる行動は能く敵の防禦組織を破壊し、敵の抵抗力を挫折するものなり。上級指揮官の努力すべきは、敵方に深く突入せる各部隊を支援し、其の戦果を拡張する為、あらゆる手段を講ずるにあり
    31. 第199
      歩兵は戦車の停滞に依りて前進を渋滞するが如きことあるべからず。戦車若し何等かの障碍に依り停止するに至らば、歩兵指揮官は之に依り一瞬も躊躇すること無く攻撃を続行す。此れ故に歩兵指揮官は常に砲兵連絡班との直接連絡を失うことあるべからず
      陣内戦に於ける歩砲の協同を緊密ならしむる為、予め歩兵の使用すべき着色煙火信号を規定す。又、同様の目的を以って陣地帯内部に於ける狙撃部隊の位置を標定する為、師団飛行隊を使用することあり。歩兵は此の際布板を以って友軍飛行隊に自己位置を表示す
    32. 第200
      敵の逆襲部隊に対しては、砲兵及び各種歩兵火器の火力を集中し、歩兵及び戦車を以って之を撃滅すべし。此の際、戦車は特に断乎として行動するを要す
      敵の逆襲、若し戦車を伴うか、若しくは戦車のみを以って施行せらるる時は、攻者は其の戦車及び連大隊砲を以って之を迎撃すべし。之が為、連大隊砲は常に歩兵の戦闘部署内に在りて前進せざるべからず
    33. 第201
      歩兵及び戦車の戦闘部署は、一挙に敵陣地帯の全縦深を突破して、完全に敵を撃滅し、敵砲兵を其の陣地に捕捉し得ざるべからず
      歩兵は陣地帯の突破に当り交代せらるることなし。第二線は第一線を交代するものにあらず、之を強化し、且つ其の攻撃力を培養するものとす
      遠距離行動戦車及び歩兵支援戦車は、完全に敵を包囲し、且つ之を撃滅するまで間断なく行動す。此れ等の戦車は敵陣地帯内の集合点に停止するが如きことあるべからず
    34. 第202
      突破孔を経て敵陣地帯後方に機械化及び騎兵兵団を投入する場合に於いては、攻撃部隊は此れ等兵団の突破孔通過を安全ならしめざるべからず
      本件は高級指揮官(狙撃軍団及び師団長)の任とし、左の如く処置すべきものとす
      1. 予め予定せる先遣部隊を速かに突破孔を経て投入し、重要なる戦術要点(高地)、隘路、及び渡河点を占領せしむ
      2. 突破正面拡大の為、速やかに突破孔両側の敵開放翼に対し側背及び側面攻撃を行う
      3. 突破孔の両側に在る防者の火点を砲兵火力を以って制圧す
      4. 突破孔の両側を煙幕を以って遮断するの準備を行う
      5. 突破孔に向い急行中の敵の予備隊を航空部隊を以って攻撃す
      6. 突破孔の後方に現出せる遠方目標に対して長射程砲火を指向す
      7. 突破孔付近に於ける道路及び橋梁修築の為、必要なる手段を講ず
    35. 第203
      陣地帯に拠る敵を撃滅せば、直ちに包囲圏を脱逸せる敵に対して追撃を開始し、後方機関及び輜重を捕捉するを要す
      此の際、各種捜索機関は先事項を偵知すること肝要なり
      1. 敵の退路及び退却部署
      2. 敵後衛の兵力及び其の停止線
      3. 退却中に於ける敵の兵力移動(予備隊の近接、各縦隊の退却方向、新陣地帯の準備及び占領)
      包囲圏を脱逸せる敵の殲滅は、一に執拗なる追撃に依らざるべからず。敵の退却を発見せる戦車及び歩兵部隊は、独断を以って直ちに追撃を開始す。追撃は全指揮官の広汎なる独断能力の発揮に依り、全力を尽くして実施せられざるべからず
      追撃に於いて全身遅滞せる隣接部隊の進出を待つが如きは絶対に不可なり。極めて少数の歩兵又は戦車部隊と雖も、勇敢なる行動を以ってする時は敵に決定的損傷を与えるものとす
    36. 第204
      兵団長は追撃を部署し、自己の手裡に在る兵力資材の迅速なる行動に依り、最捷経路を経て敵の退路を遮断することに努む
      常に敵の側面を攻撃する為、追撃は広大なる正面を以って実施せらる
      予期せざる敵の襲撃を防止する為、追撃部隊の指揮官は、警戒ならびに捜索機関を以って自己の側面を安全ならしむるを要す
      機械化兵団は敵の退却部隊の間隙を突破して背後より敵を襲撃し、其の退路を遮断す
      襲撃及び軽爆飛行隊は、特に渡河点若しくは隘路等に於いて、退却中の敵の縦隊を攻撃す。追撃に於ける持久毒物の利用は、敵の退路上遠く後方の地点に限らるべきものとす
      駆逐飛行隊は状況に依り襲撃及び軽爆飛行隊の行動を援護し、且つ敵の空中攻撃に対し追撃縦隊を掩護す
      化学及び工兵部隊は先遣部隊と共に行動するか、若しくは追撃縦隊の先頭に在りて前進す。消毒資材も亦前方に前進せられあるを要す。毒化地域又は毒化隘路に遭遇せば、之を迂回することに努むべし
      追撃開始の瞬時より、直ちに占領地区に於ける道路の修復工事を開始するを要す
      追撃の進捗に伴い、指揮官は第二梯団を編成し、砲兵を之に配属し、敵の後方より近接する予備隊との衝突を顧慮して、最も重要なる方面を前進せしむ
    37. 第205
      追撃間、最高指揮官に限り、兵団の兵力、資材、及び補給の状態、ならびに新たなる敵の現出等を顧慮し、追撃を停止するの権利を有す。各級指揮官は追撃中止の命令を受領せざる限り、部下軍隊の全力を尽くして完全に敵を撃滅することに努力せざるべからず