1936年発布

赤軍臨時野外教令


第七章
  1. 攻撃
    1. 第162
      防禦する敵に対する攻撃は各種の状況に於いて生起す。即ち、攻撃前敵の陣地帯に向かい長距離の接敵を行うことあり、直接敵と相対峙せる状況より生起することあり、遭遇戦に於いて防禦に転移せる敵に対し行わるることあり、 退却又は戦闘離脱の際某地域に於いて逐次抵抗を行う敵に対し行わるることあり、又、河川を渡河して行わるることあり。なかんずく渡河攻撃を以って最も複雑なりとす
    2. 第163
      防禦力は、地形の特性、敵が陣地設備に使用せる時間の大小、及び敵の有する火力及び技術資材の如何に依りて差異あり
      防禦力は仮令之が準備に費やせる時間大ならざる場合に在りても、尚且つ偉大なるものたるを失わず
      故に攻者は主攻方面に最大の兵力資材を集結し、敵に比し該方面に於いて圧倒的優勢を占むること肝要なり
    3. 第164
      攻撃はあらゆる戦闘資材の協調に依り、同時に敵防禦配備の全縦深を制圧するの主義に依りて指導せらるべきものとす。
      之が為、
      1. 航空部隊を以って敵の予備及び後方を攻撃す
      2. 砲兵を以って敵の戦術配置の全縦深を破摧す
      3. 遠距離行動戦車を以って敵の戦術配置の全縦深を突破す
      4. 支援戦車を伴う歩兵を以って敵陣地に突入す
      5. 機械化及び騎兵兵団を敵の後方深く投入す
      6. 広範なる煙の利用により我が機動を秘匿し且つ敵を偽騙して次等地域に之を牽制す
      斯くして敵を防御配備の全縦深に亙りて拘束し、之を包囲殲滅するを要す
      若し開放翼有るときは、主力は之を迂回して背後より敵を攻撃す。此の際、敵の正面に対しては一部の兵力を以って勇敢なる攻撃を行わざるべからず
    4. 第165
      敵陣地帯に対する捜索は、適時其の配備並びに兵力配置を偵知するを以って主眼とす
      捜索に依りて偵知すべき事項左の如し
      1. 陣地帯内部に於ける梯隊配置
      2. 障碍地帯(地域)の所在
      3. 警戒部隊の配備
      4. 主陣地帯の配備
      5. 予備隊の配置
      6. 広報陣地帯の存否
      7. 補給路の方向
      前方部隊並びに兵団主力の敵陣地帯近接に伴い、此れ等の事項に関する情報は組織的捜索に依り逐次確定せらるべきものとす。捜索機関は尚、為し得る限り的確に敵の防禦配備並びに砲兵の兵力配置を判定し、開放翼又は配備無き地区を偵知し、且つ陣地帯内部の状況、守備部隊の編組及び技術的陣地設備 の強度並びに素質を明らかにするを要す。なかんずく対戦車障害物、対戦車砲及び歩兵火網の状態に関する情報は特別の価値を有するものとす
      但し、此れ等の事項に関し、俘虜を得ずして偵知せる情報は未だ完全なるものと謂い難し
    5. 第166
      一般兵団の捜索は、飛行機、騎兵、捜索大隊、斥候群、及び視察(特に指揮官の視察)機関に依りて実施せらる。専門的捜索、即ち砲兵、科学兵、通信兵、技術兵等の捜索は、夫々当該特科部隊の諸機関を以ってす
      捜索機関の派遣並びに視察は、常に限定せる目的を以ってせられざるべからず。即ち不明なる事項、又は状況の判明十分ならざる事項を確め、或いは既に入手せる情報の確否を点検せるが如き是なり
      捜索期間に対しては的確にして而も限定せられたる任務を課すものとし、捜索機関は其の任務に応ずる如く捜索を行わざるべからず。限定せる目的に努力を集中すること無く、徒に全正面に亙り同一程度に注意を分散するが如き捜索は、何等効果無きものとす
    6. 第167
      空中捜索機関は単に視察のみに依ること無く、戦闘手段(爆撃、機関銃射撃)を以って、能く遮蔽せる敵の予備隊をも摘発し得ざるべからず
      敵陣地帯の写真撮影は特に重要なり。写真図は努めて多く之を複製し、先ず以って之を遠距離行動戦車、砲兵、及び主攻方向に行動する歩兵大隊に支給するを要す。写真図の梯尺は5千分の1とす
    7. 第168
      敵は陣地帯前方の地形を利用して、往々技術的並びに化学的障碍地域を設け、一部の狙撃並びに機関銃部隊を以って之を掩護することあり
      斯かる障碍地域に対する捜索の目的は、障碍地域の正面、縦深、及び其の性質を確め、之を援護しつつある敵の兵力を偵知するに在り
      捜索機関は又迂回路及び非毒化地区をも判定せざるべからず。判明せる毒化地域、地雷地帯、及び電流障碍物は之を表示し、且つ監視者を残置す。電流障碍物に到る導電線は之を切断す