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砲兵戦術講授録 原則之部

第二篇 砲兵戦闘ノ共通原則

第五章 射撃実施

第四節 効力射

効力射は 射撃目標に対し効力を収めんが為に行う射撃にして 砲兵射撃の真目的なりと謂うべく 砲兵戦闘の骨子なりと称し得べし

第一款 一般の要則
  1. 一、火力の集中

    砲兵火力の最大を期せんには 精神的 及 物質的効果を同時に発揚するを要し 該火力を不意 且 至短時間に集中するときは 更に其効果を倍増し得るものにして 欧州大戦後各国兵学界に於て 近代砲兵使用の鉄則として 集中射撃を推賞しある所以 亦 実に茲に存す

    然れども 多数部隊の火力を有効に集中せんには 周到なる射撃準備 就中 統一せる精密なる測地 及 完備せる連絡施設を必要とするを以って 運動戦に在りては 砲兵火力の集中に相当の制限を受くること明らかにして 之が実施は 一に状況に適合し中正を得るを以って肝要とし 従って 徒に精度不良にして効果伴わざる火力の集中を行いて弾薬を浪費し 或は 火力機動性の増大を過信して集中火力の移動をして戦機を逸せしめ 又は 所要方面に対する火力の指向を等閑に附し 以って全般の戦闘進捗に害を及ぼすが如き弊に陥らざること肝要なり

    火力の集中に使用すべき兵力は 全般の砲兵力、射撃の目的、戦況、射撃地域の広狭、射撃準備の程度、連絡施設等により差異を有するも 火力の集中を行うに方りては 集中火力を指向せざる部分に対しても 所要に応じ一部の火力を指向するものとす

  2. 二、破壊 並びに 殲滅の適用度

    各種目標の完全なる破壊 若は殲滅を行うことを得ば 独り物質上の効果を至大にし 該敵をして又起能わざらしむるを得るのみならず 敵に対する精神上の効果亦絶大なるや必せりと雖も 而も之が実施に方りては 多大の弾薬と時間とを必要とし 之を遂行するに時間的に制限ある一定状況の下に於て 而も限定装備の弾薬を以ってするを要し 且 東射西撃に忙殺せらるるを常態とする比較的豊富ならざる砲兵力を以ってせんには 多大の困難を伴うこと明らかにして 状況に適合せざる結果を生ずること屡々なるべし 故に砲兵に破壊 並びに 殲滅の任務を与えるは 戦術上必須の要求に基き 且 一般の状況之を許す場合に限るものとし 其他の場合に在りては 或は制圧を以ってし 若は限定せる某程度の破壊を以って 戦機の要求に合致せしめんことを期せざるべからざること多し

  3. 三、超過射撃

    超過射撃に方りては 弾道高 及 飛散界を顧慮して 友軍に危害を及ぼすことなく 且 成るべく永く射撃を継続し得る如くするを要し 之が為 彼我の識別 及 射弾観測の難易、地形、弾種、友軍と射線との関係 彼我の歩兵近接の状態 並びに 射撃の精度等に着意するを要し 運用上の参考たるべき要項を適述すれば左の如し

    1. (イ)近距離射撃に任ずる野山砲

      砲口前三百米以内に在りて 地形 若は工事の掩護を受けざる友軍を超過して射撃することは 成るべく之を避けるを要す

    2. (ロ)野山砲用略近式

      友軍の頭上一米(野山砲弾丸の友軍に対し生理的傷害を与えざる最少限度)以上を標準とし 左記の略近式により某位置に於ける弾道高を求むることを得

      野砲
      H = 1/4 * d/100 * D/100
      山砲
      H = 1/2 * d/100 * D/100
      <<挿図>>
    3. (ハ)平均点目標に通ずる場合に於ける基高榴霰弾の曳火射撃を以って友軍に危害を与えざる限界
      • 〇野山砲

        射距離二千 乃至 三千米に於ては 目標の近方位約百五十米迄友軍を近接せしめ得、以上の離隔度は二千米以下 及三千米以上に於ては 共に増大せしめ 約二百米とするの要あり

      • 〇十五榴

        射距離三千米に於て約百五十米、四千米に於て約二百米とするの要あり

    4. (ニ)
      直接支援 並びに 阻止の為 新制式榴弾を以ってする射撃に於て 友軍歩兵に危害を与えざる為 最近表尺の射弾の平均点と 歩兵最前線との離隔度は砲種、地形、友軍に対する射撃方向、射距離等に依り差異あるも 平坦地に於ける一般の標準たるべき最少限度は左の如し
      1. 野山砲
        百五十米
      2. 十加
        二百五十米
      3. 十五榴
        三百米
      以上の数値は 平均点目標に通したる時 概ね左記の射距離を目途とせるものにして 理論的(射距離公算誤差の五又は六倍と 破片の後方に及ぶ距離 野山砲五十米 十加百米 十五榴百六十米との和) 並びに 実験上の成果の一致せるを認め 且 多数中隊の集中射撃に於ても適用し得べきものとす
      1. 野山砲
        三 乃至 五粁
      2. 十加
        四 乃至 七粁
      3. 十五榴
        三 乃至 五粁
  4. 四、高射砲兵の射撃

    高射砲兵戦闘指揮の要は 適時適切なる目標に対し 急襲的に所要の火力を集中し 之を撃墜する如く戦闘を指導するに存し 其射撃又は照射の開始は 高射砲兵各級指揮官各其任務に基き 全般の状況を顧慮して自ら開始するを本則とす 然れども 状況特に之を要するときは 高級指揮官又は高射砲兵指揮官に於て其時機を命ずることあり

第二款 運用

各種目標に対する砲兵射撃の運用に関する一般的事項を適述すること左の如し

  1. 一、人員に対する射撃

    人員に対する射撃には 射撃速度大なる火砲を用い 榴弾 又は 榴霰弾を使用するを一般とし 特に精神的効果を増大せんとするときは口径 及 炸薬量の大なる弾丸を併用するものとし 更に敵情 特に目標の遮蔽 及 掩護の度、協同する友軍歩兵の行動、射撃の目的等に応じ射撃方式の適用を異にす

    1. (一)一般の要領
      1. (イ)暴露せる人員に対する射撃

        通常急襲的に射撃を開始し 至短時間に初期の目的を達成することを勉むるを肝要とし 状況に依り更に殲滅的効果を企図する場合と制圧効果を目途とする場合とを生じ 前者は 敵をして其占領地帯を撤退するにあらざれば我火力を完全に免れること能わざる程度に十分なる射撃を行うものにして 通常半数内外の殺傷を目途とし 後者は 戦闘中の人員を火制して敵の動作を掣肘し 以って一時友軍に対し危害を与うること能わざらしむる程度に効力を及ぼすものとす

        射撃は急襲的に開始し 最大発射速度を発揚し 射撃の継続時間は一定の型式を以って限定すべきにあらざるも 制圧の為には通常最大限三分間とし 以って速やかに効果の獲得を期するも 殲滅の場合に在りては 一中隊を以ってすれば三乃至五分間継続するものとす

        殲滅の為の所要弾数を一大隊を以って射撃するとき 一ヘクタールの敵に対する鉄槌的打撃所要時間は一分内外とし 真に敵の心胆を寒からしめ砲弾病患者たらしめ得べし

      2. (ロ)工事に依り掩護せられたる人員に対する射撃

        所要弾薬 及 時間の関係上 通常工事に依り戦闘中の者を殺傷するに止め 従って 其実施要領は概ね前項に等しく 工事に被れる敵をして掩蔽部内に蟄伏するの止むを得ざるに至らしむるを以って主眼とし 之が為 勉めて精神的効果の至大なる弾丸を用いるを可とす

        敵の被れる掩護物を破壊し 同時に人員の殺傷をも企図するときは工事に対する射撃の要領に依る

    2. (二)直接支援 及 阻止の為の射撃

      常に戦機に適合する如く所要の火力を所望の場所に指向するを以って要訣とし 之が為 状況に応じ臨機指向する火力の移動 或は 予め準備せる火力の移動 若は 固定弾幕に依り 稀に移動弾幕に依ることあるものとす

      1. (イ)火力の移動に依る射撃

        臨機指向する火力 及 予め準備せる火力の両移動法ありて 前者は所謂「状況射撃」にして 国軍旧来の慣用射撃方式に属し 後者は所謂「集中地域の移動」と俗称せらるるものとし 状況之を許す限り後者を採用するの方針に出づべきこと勿論なりとす

        直接支援の為には 野山砲の外 成るべく十五榴を併用し 精神的効果を増大し 阻止の為には野山砲の外 地形、弾道の死角等の関係に依り 所要に応じ十五榴を併用するものとす

      2. (ロ)固定弾幕に依る射撃

        固定弾幕に依る射撃は 阻止の為に用いるものにして 所要砲兵力 及 弾薬の関係上 重要なる方面に於て 而も 通常適宜敵歩兵の前方 或は 友軍歩兵の直前に弾幕を構成し 地域的に限定して運用するを要し 防御に於て敵の前進阻止に適用する外 攻撃に於て敵の逆襲又は攻勢移転を阻止する為用いることあり

        砲種は野山砲を使用するを通常とするも 十五榴を併用することあるものにして 野山砲中隊の担任すべき正面幅は二〇〇米を以って標準とし 通常単一表尺各個射を以って其各砲車(三門を常用す)に 十五米正面に対し毎分二発の比を以って 四方向(八発、六十米)を射撃するものとす

        以上は一定型式にあらざるを以って 四門を用いるも禁ずる所にあらず

      3. (ハ)移動弾幕に依る射撃

        欧州戦に於て誕生せし誘導弾幕射撃に類似するものなるも 我国情に鑑み 之を直接支援に使用するものにして 特に主要なる方面に対してのみ 稀に適用すべきものとせらる

        移動弾幕の射撃は 友軍歩兵の行動を基調とし 逐次其前方に弾幕を移動せしむるものにして 弾幕を躍進せしむべき距離 及 之を停止せしむべき時間は 友軍歩兵の前進速度 並びに 前進地域の状態等を考慮して之を定むるものにして 常に歩兵の行動と弾幕の躍進とを密接に連繋せしむるを以って最大要件とす

        使用砲種は 野山砲を主とし 十分なる効果を収めんには 一中隊の担任正面を一〇〇米とし 各砲車(四門中三門を常用)密度の最大限は 通常約十五米の正面に対し毎分二発の比を以って 二方向を射撃するを以って標準とす

      十五榴を移動弾幕射撃に参与せしめんとするは 野山砲の移動弾幕線より遠方位に在る要点に対し特に威力を要する場合 或は 敵工事の要点を詳にする能わざる場合 或は 野山砲を以って射撃し得ざる敵方斜面地域に対する場合等に於けるが如き之なり 茲に附言すべきは 仏軍等に於ける所謂「梳櫛射撃」にして 該射撃は誘導弾幕の射弾の散布界に応ずる深さに等しき地帯外の前方若干の地帯に対し行うものとして 抵抗中枢の構成 機関銃の迅速配備 漏斗孔の占領を妨害する等を以って目的とし 我国軍に於ては特に該名称を使用せざるも 砲兵操典に於ては直接支援の射撃と併行し 其射弾の効力界外に於ける局部抵抗 特に機関銃の応急配備 及 漏斗孔の占領等 敵の各種の行動を困難ならしむる為 之と同時に其遠方位の若干地域に対し間隔不規なる射撃を行うを有利とせらるあるは 即ち同様の主旨に外ならざるものとす、斯くの如き目的に使用すべき砲種は 野、山砲 弾種は通常曳火榴霰弾 時として榴弾にして 射撃密度は移動弾幕射撃の二分の一 即ち一中隊の担任正面は二〇〇米とす

    3. (三)交通遮断の為の射撃

      交通路上 特に其要点に於ける敵の行動を妨害し 時として其行動を不可能ならしむるを以って目的とし 長時間に亙り絶対的の遮断は 所要弾数の関係上至難なるを以って 斯くの如きを企図することなく 敵に最も苦痛を与うべき時機と場所とを選び 至短時間内に之を行うこと肝要なり

      使用砲種は野砲、十加、十五加等を可とし 成るべく隘路、橋梁、徒渉場等 自然に敵の行動を制限する場所に対して射撃を指向するか 或は 交通路を縦射するを可とし 敵の通過に方り直ちに射撃を指向し 又 監視困難なる場合には諸種の情報に依り敵の通過すべき時機を判定し 或は 推定せる時機に於て 急襲的に行い 要すれば之を断続するものとす

    4. (四)擾乱の為の射撃

      重要なる敵地域 例えば司令部、宿営地、集合地、停車場、補給所等に於ける敵を擾乱し 案じて其業務、駐止、休息等を為し得しめざるを目的とす

      此射撃は 射距離の要求に応じ 野砲、十加 若は十五加を使用し 既述の如く地域に敵の存在することを偵知するか 或は 推定せる時機に於て 通常急襲的に射撃するものにして 状況によりては緩徐にして間隔不規なる射撃を以って目的を達成し得ることあり 又 此射撃の密度は 通常濃密なるを要せざるものとす

    5. (五)補修妨害の為の射撃

      敵の陣地設備 又は各種の術工物を破壊したる後 其効果を維持する為 引き続き之を射撃し 以って敵の補修を妨害するを目的とす

      本射撃を実施せんには 通常野山砲を使用し 敵の補修作業に方り直ちに射撃を指向し 又 監視困難なる場合には間隔不規なる射撃を行うものとす

    6. (六)煙幕射撃

      発煙弾を以ってする射撃は 目潰しの為の射撃 及 友軍遮蔽の為の射撃に区分し得べく 其前者は煙幕を以って直接敵の目視を遮りて其指揮 及 射撃を妨害し 後者は目潰しの為の射撃に依るか 又は 煙幕を以って直接に友軍を遮蔽し 其企図 及 行動を秘匿するものとす

      此射撃には野山砲 及 十五榴を使用し 先ず発煙弾を以って迅速に煙幕を構成し 次いで緩徐なる射撃にに依り之を維持するを通常とし 目潰し射撃の為には状況により発煙弾を射撃するに先ち榴弾の急襲的射撃を行い 或は 発煙弾に若干の榴弾を混用するを有利とすることあり

    7. (七)照明の為の射撃

      夜間敵を照明して歩砲兵の戦闘を容易にし 或は前地を照明して警戒するを目的とす

      此射撃は 野山砲を使用し 其目的に応じ照明せんとする地域を連続 若は 間欠的に 又は 直接射撃目標を照明する如く射撃するものとす

  2. 二、砲兵に対する射撃

    近時 砲兵威力の増進に伴い 敵砲兵より被るべき友軍歩砲兵の損害は増大し 而も 敵砲兵を圧伏するは我砲兵の力に俟たざるべからざるを以って 対砲兵戦は近代砲兵の重要なる一任務となれり

    対砲兵戦上考慮すべきは 運動中の砲兵は全く無力にして 殲滅的損害を与えるに好適せること 及 敵砲兵の放列陣地の外 其観測所を求めて之を圧倒火制するの有利なること之なり

    1. (一)砲兵の制圧

      敵砲兵を制圧するには 其掩護の程度 及 射距離により異なるも 為し得れば炸薬量大なる中口径火砲の弾丸を併用するを要し 野山砲の外十五榴、十加 及 十五加等を賞用する所以は茲に存す

      射撃の実施は至短時間に於て 且 精神的効果を大ならしむるを可とし 為し得れば斜射側射を利用して効果の増大を図ること必要なり

      敵砲兵沈黙するも過早に其戦闘力を失いたるものと判定することなく 厳に之を監視し 適時其復活を妨害するを要す

    2. (二)砲兵の破壊

      状況之を許せば 多数中隊の火力を集中し 短時間に射撃するを有利とす、然れども 砲門射撃の場合には小なる部隊を使用し 精密なる射撃を行うを可とす

      使用すべき砲種は 敵砲兵の掩護の度に依り概ね左の如し

      1. (イ)掩蓋を有せざるもの

        主として野山砲 及 十五榴を用う、射距離大なるものには十加 及 十五加を用う

      2. (ロ)堅固なる掩蓋を有するもの

        野山砲を以ってする砲門射撃を行う

        十五榴を使用し掩蓋を貫通せしむ

      3. (ハ)特に堅固なる掩蓋を有するもの

        二十四榴を用う

    3. (三)観測所に対する射撃

      前項の主旨に依る外 工事に対する射撃の要領に依るべきものとす

  3. 三、諸工事に対する射撃

    諸工事に対しては 企図する効果、工事の種類 及 強度、射撃の準備の程度 特に射弾観測の難易度等に依り 之を破壊すべきや 或は 単に之に隠れる人員を制圧すべきやを決定するものとす

    一般に散兵壕、交通壕、機関銃等の掩体、掩蔽部に対しては 其位置明瞭にして直接に試射を行い得るか 又は 精度良好なる転移射を施行し得 且 状況之を許す場合に限り之を破壊し 其他の場合に於ては 人員に対する射撃の要領に依り 守兵を制圧するものとす

    長大なる散兵壕、交通壕等を悉く破壊するには多大の弾薬と時間とを要するを以って 最も重要なる部分 即ち側防機能 若は 観測所の存在すべしと推定する地点、交通壕の輻輳点 或は 重要なる障害物を同時に破壊し得る場所等を選定して射撃するを通常とす

    諸工事の破壊には 射距離、目標の種類 及 状態等を考慮し 砲種を選定するものとして 其着眼左の如し

    1. (一)
      散兵壕の破壊、木材製掩蓋の貫通、掩蔽部入口の密閉等には十五榴
    2. (二)
      散兵壕 及 交通壕を縦射 又は 斜射し得るときは野山砲
    3. (三)
      近距離に在る掩蓋を有する機関銃掩体には 野山砲を以ってする砲門射撃
    4. (四)
      前述の諸工事より堅固なる野戦築城は 十五榴の榴弾数発の命中に依り効果を期待し得るも 為し得れば二十四榴を使用するものとす
    5. (五)
      コンクリート製工事に対しては二十四榴
  4. 四、障害物に対する射撃

    運動戦に於ける軽易なる陣地の防御に於ても 障害物 特に鉄条網の存在を認むるは 近時の趨向にして 攻者は其攻撃計画に於て 之を如何に破壊すべきやの考慮を要し 其手段としては後述する如く諸種あるも 砲兵を以ってするは重要なる手段なりとす

    鉄条網を破壊すべき場所、破壊口の数 及 幅員、破壊の程度 並びに 破壊の時期等は 高級指揮官の企図 及 第一線歩兵指揮官の要求等に基き 状況 特に障害物の位置、種類、強度 及 我砲兵力 就中 準備弾薬数 並びに 戦車の有無等を考慮して決定するものとす

    破壊の為の砲種は野山砲を使用するを通常とし 其死角内に在るものに対しては十五榴を用い 射距離の関係之を要すれば十加を使用するものとし 破壊の完全を期することなく歩工兵の簡易なる補備作業に依り通過し得る程度の破壊口を開設するには 概ね半数の弾薬を以って標準とせば可なり

  5. 五、其他の射撃
    1. (一)戦車に対する射撃

      野山砲を使用するを通常とし 攻撃に在りては第一線附近に進出しある砲兵、防御に在りては歩兵の抵抗地帯附近に配置しある対戦車砲兵をして射撃を担任せしめ 状況によりては戦車の集合地を偵知して之を射撃するを利とすることあり 而して 射距離千米以内は通常試射を行わず測定距離を以って連続発射し 射距離七百米(山砲五百米)以内にては通常距離を修正せざるものとす

    2. (二)気球に対する射撃

      射距離 及 射撃速度共に大にして 曳火榴霰弾射撃を実施し得べき火砲を使用するを可とし 十加 及 十五加の如き其適例なり

      射撃の実施は 方位交会法に依り試射するか(四百米以上に夾叉) 又は 敏速に之を標定し 弾道側視図等に依り射撃諸元を算定し 成るべく数中隊の急襲的集中火力に依り 迅速なる破壊を企図するを可とし 気球と同時に繋留車の位置を求め 通常曳火榴霰弾 又は 瞬発信管附榴弾を以って 之を射撃するを有利とす

    3. (三)森林内の敵に対する射撃

      森林の状態を考慮して砲種 及 弾薬を選定するものとし 高き森林に対しては 精神的 及 物質的効果を大ならしむる為 成るべく口径大なる榴弾を使用し 大落角を以ってするを可とし 十五榴の如き其適例なり

    4. (四)住民地に対する射撃
      1. (イ)園壁の破壊
        • 厚五十糎以下のものに対しては 野山砲(榴弾)
        • 厚一米内外のものに対しては 十加 若は 十五加(破甲榴弾 若は 榴弾)
      2. (ロ)住民地内部の敵の殺傷

        人員に対する射撃に準ずと雖も 特に家屋の状態に適応する火砲を選定し 榴弾 又は 破甲榴弾を用う

      3. (ハ)家屋の破壊

        家屋の強度に応じ火砲を選定す

      4. (ニ)特に堅固なる園壁直後の敵

        十五榴の榴弾を用い 高射界射撃を行うを可とし 之と同時に二十四榴の一部にても使用することを得ば 精神的 及 物質的共に其効果絶大なるや必せり

  6. 六、高射砲兵の射撃

    高射砲兵の射撃 又は 照射すべき目標は 任務に基き 主として目標の価値を判定して之を決するを要し 其価値は 通常軍隊 又は 要地に及ぼす影響の程度に依るものとす

    射撃は 昼間に在りては主として各高射砲隊をして 各個に直接照準に依る追随射撃を行わしめ 夜間に在りては 目標を照射し 昼間に準じ射撃を行うか 或は 移動 又は 固定阻止の射撃を行うものとす 然れども 少数火砲を以ってする阻止の射撃は敵機を威嚇し其行動を妨害するに過ぎざるものとす

第三款 射撃能力
  1. 一、

    不平の射撃能力として知悉検討すべきは 各種砲兵の射撃効力にして 高級指揮官 及 幕僚として 砲兵の用法を計画立案する為の準縄たるべく 又 之と同時に 高級指揮官 及 幕僚は 各種砲兵の大隊単位程度の部隊毎に 通常発生すべき主要なる射撃目的に対して射撃能力の標準を概括的に熟知し 以って砲兵用法上大局の着意に於て欠くるところなきを要す

    各種砲兵一大隊の射撃能力の標準として 重砲兵学校に於て研究発表せられたるもの次表の如く 運用上の参考たるべきものと認む

    射撃区分 使用砲種
    野山砲 十加 十五榴 十五加 二十四榴
    人員 精度良好なる転移射を以って 工事に據り射撃中の敵歩兵の半数を三分間に殺傷せんが為 射撃を担任せしめ得べき敵陣地の正面幅(米) 240 90 120 -- --
    直接地上観測を以って試射せし後 掩護部内の人員の半数を五分間に殺傷するため 射撃を担任せしめ得べき敵陣地塹壕の正面幅(米) 33 15 25 -- --
    弾幕射撃の担任幅(米) 移動弾幕にして 長時間に亘る場合 200
    乃至
    300
    -- -- -- --
    固定弾幕にして 短時間の場合 600 400 600 -- --
    交通遮断又は敵の工事補修を妨害するとき 長時間に亘り担任し得べき射撃箇所の数 8 3 -- 2 --
    発煙弾に依る目潰射撃を行うとき 担任し得る正面幅(米) 300 300 600 -- --
    砲兵 精度良好なる転移射を以って 射撃中の敵砲兵(四門)に対し 殲滅的制圧を加えとする為、一時間に制圧し得べき敵砲兵中隊数 6 3 4 1.5 --
    直接地上観測を以って 敵砲兵(四門)に対し 破壊射撃を企図する為 一時間に於て破壊し得べき敵砲兵中隊数 3 1 1.5 0.5 0.5
    障害物工事 敵第一線の鉄条網(深十米)に対し 幅十米の突撃路を一時間に開設し得る数 観測を許す場合 3 2 2 -- --
    観測不能の場合 1 1 1 -- --
    直接観測に依り 敵の観測所等の如き小工事の破壊を企図する時 一時間に破壊し得る数 8 2.5 3 1 1
  2. 二、

    瓦斯弾に関しては 外国の例を以って左の概括的の標準たるべき数値を述べんとす

    射撃の要領 目的 目標 所要弾数 摘要
    殲滅射撃 活動中の小目標に対し 其無防護に乗じ 急襲的に大濃度を以って 之を殺傷殲滅せんとす 放列、観測所、機関銃陣地、散兵壕又は交通壕の交叉点等 風速三米以下のとき、1ヘクタールに対し作用急激なる一時弾を用い
    野山砲 100
    十加 50
    十五榴 25
    各種の観測手段を利用し 周密なる準備を整え 多数中隊を以って 急襲的に集中射撃を開始し 通常1分間に発射し終える如くす
    制圧射撃 瓦斯雲を以って所望の場所を被い 数時間に亘り防毒面の装着を余儀なくせしめ 以って其戦闘動作を妨害せんとす
    小目標
    放列観測所、散兵壕、交通壕の要点、急峻なる谷地若は森林中の通路等
    大目標
    少々広地域の歩兵宿舎等
    風速三米以下のとき 1ヘクタールに対し一時弾(催涙、噴嚏)を用い 四時間完全に制圧するための概数
    野山砲 500
    十加 300
    十五榴 200
    一時弾を以って急襲的集中射撃を行い 爾後同一目標に対して之を反復す 而して 反復の為の時間間隔は長短不規ならしむるを可とす
    目標広地域に亘るときは 之を1若は数ヘクタールに分ち 風上より逐次に射撃す
    撒毒射撃 敵をして其位置を撤退せしめ 或は其利用を予期する要点に対し 長時間之が使用不可能ならしめ 又は交通を遮断せんとす 毒化を希望する地点 森林 橋梁 部落の出入り口 道路の交叉点 及 隘路等 風速五米以下のとき 1ヘクタール1時間に対し特急弾を用い
    野山砲 100
    十加 50
    十五榴 25
    所望の地点を毒化する為 其地域内に等斉密度に射弾の落達する如く 逐次に地域内を射撃し 爾後は補充的に射撃を持続す
  3. 三、
    高射砲に就て

    現時に於ける最新装備の高射砲隊に於て 敵飛行機一機を撃墜する為に要する弾薬数を 敵機の高度と対比し 且 之に要する砲数を考察するときは概ね左の如くなるべし

    高度(粁) 弾数(発) 砲数(門)
    二四
    五〇
    八〇 一四