第三節 運用
効力射準備射撃は
戦闘の攻防に論なく高級指揮官の戦闘指導と密接不分離の関係を有し
近代砲兵の用法上高級指揮官として等閑に附し難き重要件なりとす
抑々砲兵威力の完璧を期せんには
必ずや効力射準備を重要視するを要し
又効力射準備の実施法は
其精度を増進する為
状況之を許す限り効力射準備射撃に依るを可とするも
他面此種の射撃実施は
動々もすれば機に先だちて我が兵力
及
企図を暴露するの端緒となり
或は
状況により
既に戦闘の準備期間に於て砲兵は至大の損害を被り
為に爾後の重要なる戦闘遂行上支障を呈することなしとせず
従って
効力射準備射撃は
極めて肝要なると共に
其実施の時期
及
方法には
絶大の考慮を払うを要し
其時期の選択は
全般の状況
及
自己の企図に基き
高級指揮官の決すべき重大事項なりと云はざる可からず
効力射準備射撃に関し
高級指揮官の運用上参考たるべき一般的諸件を略述すれば左の如し
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- 一、
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効力射準備射撃の実施は
技術上より述べれば
成るべく効力射実施の直前に於て之を行わしめ
以って最も精確なる射撃諸元を活用せしむるを可とするも
戦術上より考察するときは
効力射の実施と時間を隔てて之を行わざるべからざる場合
往々あり
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- 二、
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効力射準備射撃を実施したる後
時間を経過してして効力射を用いる場合に在りては
状況之を許せば
勉めて射撃の点検を行わしむるを可とす
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- 三、
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効力射準備射撃の実施に方りては
状況之を許せば
少数部隊を用い
為し得れば
真陣地以外の地点に於て之を実施し
或は
敵に対し掩蔽良好なる部隊を使用するが如き着意を肝要とす
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- 四、
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直接に射弾を観測して行う試射に要する時間は
要求する射撃精度、地形、射距離の大小、砲種、目標の状態
及
部隊訓練の程度
並びに
観測法等により差異あるも
一目標に対する一般の標準は概ね左の如し
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野騎山砲
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十分
乃至
十五分間
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十五榴
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二十分
乃至
二十五分間
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十加
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十五分
乃至
二十分間
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- 五、
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計算法に依り実射を行わざる効力射準備は
準備の為多くの時間を要するを以って
運動戦に在りては
之が実施上
自ずから制限を受くべきこと明らかにして
又
此法を適用する効力射は
効力射準備射撃の結果を適用する場合に比し
多くの弾薬を消費するに非ざれば
同一の効果を収め難し
従って計算法に依る射撃は
時間の関係上
之が準備を許す場合に於て
而かも全く射弾観測の方法なくして試射を行うを許さざるか
或は
陣地戦の如く
状況上試射を実施するを不利とするか成るべく避くべき(戦闘綱要第二百五十九第三項)場合に於てのみ用いるものとし
此場合に在りては
効力射の直前に於て点検の為の数発射撃を行いて効力射に移るを要す