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砲兵戦術講授録 原則之部

第二篇 砲兵戦闘ノ共通原則

第五章 射撃実施

第五節 弾薬

第一款 弾薬の整備及補給

砲兵に弾薬の必要なることは歩兵の比に非ざるものにして 弾薬は砲兵の兵力なりとも称し得べく 如何に多数の砲数を有するも 弾薬寡少なるときは 砲兵威力を発揚するに由なし

近時砲兵材料の発達に伴い 発射速度大に増進し 為に至短時間に莫大なる弾薬を要するの傾向著しく 実に砲兵の弾薬は 砲兵威力発揚の尖端にしが 之が整備 及 補給は 高級指揮官以下の重大なる考慮を要するところなりとす

  1. 一、弾薬の基数

    弾薬の基数とは 各種砲の弾薬毎に其弾数に関する一定の標準単位を設けたるものにして 弾薬の整備 及 補給数量の莫大なる上級司令部等に於ては 其計画、命令、指示等に関し 一々発数(弾数)を以ってするときは 頗る繁雑にして 動もすれば錯誤を生ずるを避けんが為 有利に利用せらるるものとし 基数に応ずる弾数は一門分とす 従って 此弾薬算定の単位たる基数を如何に定むるも戦闘実施上支障なきのみならず 各部隊に於ては 寧ろ発数に依り取扱うを便利とすること多し

    弾薬の基数は 我国軍重砲兵に於ては日露戦役時代より使用しありしものにして 欧州戦役に於ては各種火砲用弾薬数の増大に伴い 軽砲に至るまで之を適用することとなれるに過ぎざるものと謂うべく

    基数決定の為考慮すべき条件 及 方法を示せば 左の如し

    1. 成るべく基数に分数を用いる必要なからしむる如く適宜小ならしむると共に 基数を以ってする弾数計算の為 小なる数字を用い得る如く適宜之を大ならしむるを要す
    2. 戦場に於て使用せらるる比例を顧慮するを要し 各火砲の発射速度を参酌するの要あり
    3. 運搬 若は 輸送機関の積載量を顧慮し 為し得れば該単位の数量 若は 其倍数を用いるを便とす
    4. 全般の装備数を考慮せざるべからず

    以上の要旨を参酌して基数を決定するに方りては 各個の規定に基き 相互の錯誤を避ける為 少なくも軍に於て一定するの要あり

    今 発射速度 及 装備弾薬数を考慮し 併せて所要運搬量を参配して基数の一標準を例示すれば 左の如し

    • 野山砲
      一〇〇発
    • 十五榴
      三〇〜四〇発
    • 十加
      五〇発
    • 十五加
      二五〜三〇発
    • 二十四榴
      二〇発
  2. 二、弾薬の消費及補給量

    砲兵弾薬の消費 及 之に伴う補給量の標準は 高級指揮官 及 幕僚の 知悉すべき重要元なるも 其数字的決定は 状況 特に敵情 及 之に対する我戦闘の指導法、地形 並びに 我砲兵力 及 弾薬の補給能力等により差ありて一定ならず 假に之を白紙的に立論せんとするも 砲兵弾薬の消費は某時間内に某正面内に落達せしむべき鉄量の要求なるを以って 少なくも我砲兵の展開密度に即して之を討究せざる可からざるものとす

    今 参考の為 欧州戦の経験 並びに 戦後に於ける各国軍の研究基礎値等を参酌し 大砲一門の一日間に於ける弾薬消費量の平均値として概察し得べきものを示せば 左の如し

    1. (一)運動戦に於ける場合
      • 軽砲
        一二〇
      • 中口径砲
        四〇〜六〇
    2. (二)陣地戦(数時間の攻撃準備射撃を行うが如き)に於ける場合
      • 軽砲
        四五〇
      • 中口径砲
        一二〇〜二〇〇
      • 大口径砲
        四〇〜八〇
  3. 三、野戦砲の弾薬

    野戦砲の弾丸は 旧時は榴霰弾を主体とせしも 今や榴弾の発達に伴い 各種榴弾は各種火砲の主要なる弾丸となり 全装備弾数の少なくも半数を榴弾とし 爾余は榴霰弾(要すれば)及 特種弾たらしむるを一般とす

    各種火砲の弾薬装備 及 補給の大綱は 重要数量表等により 窺知し得べきを以って 左に若干の運用上の参考事項を述べるに止めんとす

    1. (一)野砲弾

      戦砲隊、中隊段列、大隊段列 及 連隊段列を有し 且 師団輜重隊 及 野戦砲兵廠 並びに 野戦砲兵本廠より 補給せらる

    2. (二)山砲弾
      1. (イ)
        師団砲兵に在りては 装備 及 補給区分は野砲に等しく 各弾薬駄馬は 弾薬十二発宛を駄載す
      2. (ロ)
        独立山砲兵連隊のものも右に準ず
    3. (三)十五榴弾

      装備 及 補給区分は 野砲に準ず

    4. (四)十加弾

      自動車編制なるを以って 所要に応じ 連隊段列等を以って 直接に兵站末地等より補給を受くるの便宜あり

  4. 四、攻城砲の弾薬

    攻城重砲兵に関しては 既に説述せしが如く 過去の歴史的遺物臭は尚其跡を絶たずして 其弾薬の如きも全く特異の関係にあり

    即ち 攻城重砲兵の弾薬は 之を当該部隊に装備することなく 全部を一括して攻城砲兵廠なる特種機関に於て戦地に携行す

第二款 弾薬の運用

弾薬は砲兵の戦力にして 門数 又は 部隊数のみを以って砲兵戦力と考える如きは適当ならず 部隊数の砲兵戦力を表すは携行弾薬を有する連隊迄の事にして 此の弾薬のみを以って戦闘の決を結ぶものとせば 部隊数(携行弾薬を含む)即ち砲兵戦力なり

此弾薬を以って勝利を決するは 遭遇戦以外先ず無きものとすれば 爾余は輜重 及 兵站の補給に俟たざるべからず

之れ 部隊数と弾薬との相乗積を以って砲兵戦力と考えるべしと云う所以にして 砲兵の重点形成の為にも 門数の外 弾薬数を忘れべからざるなり

高級指揮官 及 幕僚は 之に関し多大の注意を払うの要あり

仏軍は 世界大戦前ラングロア将軍の主張せし 野砲弾一門三千発準備説を採用せず 一門千五百発にて開戦し 間もなく其製造に苦しみたり

又 弾薬の不足、弾種の適否は 戦闘遂行上非常なる困難を招来するは 戦史の証するところなり 明治三十七年五月二十六日 南山の戦闘に於いて 日本軍は 榴霰弾三〇、二一〇発 榴弾三、八四〇発を射耗せり 当時本戦役に参加せし日本軍砲兵(4A 13A 1A 14A 13A 3A(三中)) 計一九八門、一門宛弾数 約一六九発にして 而かも障害物 及 散兵壕等を破壊し得べき榴弾と 人員殺傷の為の榴霰弾との比は一:八なり 之を以って見るも 第二軍が苦戦に陥りしは宜なりと謂うべし 況んや 敵の砲兵は約一三一門の多数を擁し 剰え地形は機動の余地なきに於ておや

然るに 之に参加せし各砲兵部隊の弾薬欠乏の状況は 左の如し

  • 3A
    午前十時 弾薬欠乏
  • 15A
    午前十一時 弾薬欠乏 十分射撃をなす能わず
  • 4A
    午後三時過ぎ 弾薬欠乏 午後四時三十分過 射撃中止
  • 13A
    午後三時過ぎ 弾薬欠乏 午後四時 射撃中止

翻って 歩兵の漸次前進を始めしは 4A 13Aの協力せし第四師団方面に於て午後六時三十分なり 而かも 第四師団の突撃に依り 南山は陥落の動機を作りしものなり

如何に当時弾薬使用上 砲兵各級指揮官が何等の制限を加えざりし結果 砲兵の援助なく歩兵が突撃を敢行し 為に多大の死傷を出したるかを知るに足らん

之れ 戦闘綱要に 師団長は使用し得べき弾薬の概数を示し 砲兵操典に 弾薬の整備 及 使用に関し示せる所以なり

砲兵操典第千三十二に曰く
「砲兵各級指揮官は 上級指揮官の企図に基き 且 戦況の推移を判断し 各々其職に応じ 弾薬の整備、使用 並びに 補充に関し 所要の事項を命令するものとす」

砲兵各級指揮官は 弾薬の整備 及 使用に関しては 任務達成の為必要なる弾薬の整備、各部隊に対する弾薬の配当、弾薬使用の標準等を命令するものとす

整備上 顧慮すべき件 左の如し

  1. (一)決戦を企図する方面に使用すべき部隊に豊富なる弾薬を配当す
    • 攻撃の場合
      1. 攻撃準備射撃を為すや
        1. イ、
          鉄条網破壊口数如何(完成なりや 概成なりや
        2. ロ、
          工事の破壊 及 補修妨害を如何にするや
        3. ハ、
          対砲兵戦の目標数如何(発見標定し得る標準如何 一目標の射撃地域の広狭如何
      2. 直接協同の為の射撃を如何にするや
        1. イ、
          移動弾幕の射撃に依るや 集中地域の移動に依るや
        2. ロ、
          臨機目標の射撃を如何にするや
        3. ハ、
          殲滅程度にするや 制圧程度にするや
        4. ニ、
          歩兵の攻撃前進間 何回の射撃を復行すべきや
        5. ホ、
          突撃準備 及 突撃支援の為の射撃法を如何に定むるや
        6. ヘ、
          側防機能に対しては如何にするや
        7. ト、
          陣内戦闘 及 戦果拡張の為の射撃を如何にするや
        8. チ、
          発煙弾射撃の要否、時期、回数
    • 防御の場合
      1. 近接妨害を如何にするや
      2. 対砲兵戦を如何にするや
      3. 警戒陣地前の阻止及警戒部隊に協力する為 如何に射撃を指導するや
      4. 攻撃準備破砕の為 如何に射撃を指導すべきや
      5. 攻撃前進阻止の為 如何に射撃を準備するや
      6. 歩兵火網前端の内外の 火力協調を如何にするや
      7. 突撃準備破砕の為 如何にするや
      8. 突撃阻止の為 如何にするや(集中地域の移動に依るや 固定弾幕の阻止に依るべきや
      9. 陣内戦闘の為 如何にするや
      10. 攻勢移転 及 逆襲支援の為 如何にするや
      11. 対戦車射撃を如何にするや
    • 各種場合を通じ
      1. 交通遮断 後方擾乱を如何にするや
      2. 砲種の配合を如何にするや
      3. 弾種 信管の選定 如何
    • 各種目標に対する砲兵射撃の効力射所要弾数を示せば左の如し
      各種目標に対する砲兵射撃効力一覧表
      目標の状態及射撃目的 砲種 所要弾数 摘要
      人員に対する射撃 暴露 殲滅的効果を企図するとき 野山砲 100〜150 毎ヘクタルに対する弾数
      ヘクタルは百米平方なり
      敵をして其地域を撤退するにあらざれば 我火力を完全に免るに能はざらしむる程度に損害を与え得べく 之が為 通常迅速に射撃するものとす 瞬発信管 若は短延期信管を附したる榴弾若は鋼性銃榴弾
      十五榴 40〜60
      十加 80〜120
      制圧 野山砲 毎分 16以下 敵をして我歩兵に大なる危害を与え得しめざる程度に制圧せんが為には 通常上記所要弾数の最大限を用い約三分間射撃するものとす
      十五榴 毎分 6以下
      十加 毎分 12以下
      掩護 工事に據りて戦闘中のもの 殲滅的 人員の殺傷に適する火砲 及 工事の強度に応ずる火砲 概ね暴露せる人員に対し殲滅的効果を企図するときに同じ 弾種及信管は 目標の状態に応じ射撃目的に適応するものを選定
      制圧 概ね暴露せる人員に対し制圧的効果を企図するときに同じ
      敵をして 常に不安の念を懐かしめんとするとき 毎時 100〜200
      工事補修妨害 野山砲 通常一中隊以下を以って 一門三発以下の急襲射撃を適時復行、夜間濃霧の際は一五〇発 毎時一ヘクタルに対する弾数
      担任中隊は要するに二門一門毎に分担して妨害射撃を実行す
      交通遮断 一部遮断 野砲
      十加
      十五加
      一時間 100 遮断すべき地点毎に一ヘクタルに対し一時間の野砲弾数にして十加は約八割とす
      射撃実施は工事補修妨害に準ず
      絶対遮断 一時間 200
      擾乱 同右
      及十五榴
      暴露せる人員に対する制圧射撃の弾数 --
      直接支援射撃 集中地域の移動 殲滅 掩蔽部内にある敵 野山砲 1,200 塹壕正面100米幅 射距離6,000米の所要弾数なるを以って 距離の大小に応じ若干の増減を為すものとす
      十加 900
      十五榴 600
      二十四榴 200
      制圧 野山砲 16以下 毎ヘクタル 毎分の弾数
      十五榴 8以下
      移動弾幕射撃 移動弾幕射撃 野山砲 榴、鋼榴、2 15米正面 毎分の弾数、一中隊担任正面100米 野山砲の弾幕射撃の威力及ばざる地域等に対し所要に応じ十五榴の支援射撃を交うることあり 其弾数は 毎ヘクタル 毎分約8発以下を標準とす
      梳櫛射撃は俗称(砲操997、射教233、244のもの)
      梳櫛射撃 一中隊担任正面200米なるとき 一門毎分二発曳霰
      固定弾幕(殲滅) 野山砲
      十五榴
      一中隊担任正面200米なるとき 野山砲は毎分四発以上 15米正面毎分の弾数
      二分以上の射弾波を所要に応じ反復
      阻止射撃 集中地域の移動 絶対阻止 野山砲
      十加
      十五榴
      暴露人員の殲滅と同じ
      1. 一、
        毎ヘクタル 野砲の弾数にして状況に応じ十加及十五榴を用ふ
      2. 二、
        瞬発又は短、榴又は銑榴
      一時的阻止 連続的三分間の制圧
      発煙弾射撃 目潰し射撃 野山砲
      100〜400米
      中隊
      24〜48(8〜12)
      煙幕幅(一弾) 野山砲 30
      1. 一、
        風速三米にして 風向概ね直角なるとき上記正面にに煙幕を作る為の弾数とす(四門中隊)
      2. 二、
        ( )は煙幕構成後 之を維持するために必要なる毎分の弾数
      十加
      150米
      中隊
      16(6)
      十加 50
      十五榴
      200米
      中隊
      8(3)
      十五榴 100
      直接支援(遮蔽) 野山砲 一般移動弾幕に混用し 榴弾三発に煙弾一の比 担任正面は移動弾幕射撃に準ず
      障害物の破壊射撃 鉄条網
      砲種 所要弾数(発)
      射距離(米)
      2,000 3,000 4,000 5,000 6,000
      野砲 100 200 300 400 550
      山砲 100 200 300 -- --
      十五榴 -- 100 150 200 300
      十加 -- -- 200 250 300
      1. 一、
        本表は深さ十米の網形鉄条網に対し 野山砲は十米 十五榴及十加は十五米幅の破壊口を設くる所用弾数とす
      2. 二、
        屋根形(深さ八米)のものに対する弾数は 野山砲に在りては網形に等しく 十五榴及十加は網形の約三分の一とす
      3. 三、
        折畳式蛇腹(深さ八米)のものに対する野山砲の所要段数は 網形の約半数とす
      4. 四、
        概成破壊は 本表の約半数にて足る
      5. 五、
        深さは 射距離公算躱避の二倍迄は弾数に差なし
      6. 六、
        破壊口に概ね比例して弾数を増加す
      鉄製拒馬 鉄条網に準ず 鉄条網に対するものに比し 約五割増加す --
      諸工事に対する射撃 散兵壕、交通壕(縦射斜射) 野山砲 10〜12 落角十五度以上のとき 毎分の弾数
      塹壕頂覆
      丸太製掩蓋貫通
      洞窟掩蔽部入口閉塞
      十五榴 4〜6 射距離1,000乃至6,000米に於ける 毎分の弾数
      臨時築城(コンクリートを用いず)
      掩蓋機関銃銃座、掩蔽部
      戦闘司令所破壊
      野山砲 110 射距離3,000米の弾数
      十五榴 90
      二十四榴 90 射距離6,000米の弾数
      コンクリート製工事 100
      気球に対する射撃 気球の破壊 十加 30〜40 各距離に応ずる標準の弾数にして 気嚢に対するもの及繋留車に対するものは等しきも 後者は一ヘクタル毎分16以下とす
      十五加
      高射砲
      砲兵に対する射撃 四門破壊 掩蓋なきもの及軽易の掩蓋を有するもの 野山砲 600〜1000 射距離3,000〜6,000米の弾数
      十加 400〜700 射距離4,000〜7,000米の弾数
      十五加 400〜500 射距離5,000〜9,000米の弾数
      特に堅固なる掩蓋を有するもの 十五榴 300〜500 射距離4,000〜7,000米の弾数
      二十四榴 200〜300 射距離4,000〜8,000米の弾数
      四門の制圧 右に準ず 破壊射撃の約四分の一 一ヘクタル 少なくも約100発
      永久的築城工事に対する射撃 コンクリート製 戦闘掩蔽部 二十四糎以上の大口径砲 100 --
      観測所
      火砲用穹窖
      棲息掩蔽部 150
      暗路 100〜150 暗路一箇につき縦射するときの弾数
      装甲砲塔 150 --
      装甲砲臺 400〜500
      外壕 十五榴
      十五加
      二十四榴
      150 壕(長さ約40m)一箇につき縦射するときの弾数
      地上土製工事 十五榴 4〜8 毎米の弾数
      十五加 4〜6
      戦車 中距離 野山砲 一ヘクタル 毎分約16以下 瞬発信管附榴弾
      1000米以下の距離 一戦車に対し 一門約十発(破壊)
    <<図>>
  2. (二)整備すべき位置及時期を明にし 要すれば保護法を講ずること

    仮に 野山砲携行弾薬各〇〇発 輜重〇〇発とすれば 各門前表概算の約八百発を整備する為には 〇〇発は兵站より来るを要し 且 〇〇発は弾薬集積所に集結せざるべからず 然れども 連隊の携行弾薬を放列陣地に却下し 之れを一日の日量とすれば 第二日の日量は格段列に積載しあるを以って 将来補充すべきは〇〇発なり

    弾薬集積所の位置は 敵眼 敵弾に掩蔽し 交通自在にして 且 弾薬補充 及 自衛に便なるを要す 状況特に地形に依り之れを数個所に分置するものとす 一放列陣地に最初より一会戦間所要の一門八百発 四門三千二百発を集積するが如きことは 陣地戦と雖も稀有の例なるべし

    集積所を設くるの要領を 堅固なる陣地の攻撃の場合図示したる一例 左の如し

    <<図>>

    之れに依り考えるに 弾薬の集積は 通常先ず携行弾薬中の日量の分を放列陣地に却下し 爾後 夜間を利用して第二日分を更に放列陣地に補充集積すること多かるべし 而して 補充上 弾薬車を利用すべきを以って 中隊段列には常に満載しあるを要すべく 大隊段列 連隊段列は 補充量に依り 集積地に却下するものあるべく 却下以外の分は満載しあるを可とす

    攻城砲兵に在りては 弾薬は放列陣地附近に於て 直接交付するを通常とす 状況に依り 中口径弾薬は輸送機関を各部隊に配属せられ 攻城砲兵廠の弾薬支廠に於て受領することあり 保護の為には 為し得る限り 敵弾、毒瓦斯、直射日光、風雨、砂塵等に対し防護するを要す

    弾薬の日量に就き説明せんとす

    仏軍に於ては 砲兵操典第二部に於て一基数を以って日量とし 左の如く規定しあり

    口径(密) 七五 一〇五 一二〇長 一五五短 一五五長 二二〇短 二二〇長 二四〇
    基数(発) 200 100 100 75 75 60 50 10

    独軍に於ては一日の補充量を以って一基数としあり

    国軍に於ても 概ね輜重一中隊の積載数を以って一基数となし 左の如き一日所要量を予定したる一案あり

    • 遭遇戦
      1.0〜1.5基数
    • 陣地攻撃
      1.5〜3.0基数
    • 追撃
      0.5基数

    一会戦を 十日 乃至 十五日とすれば 総弾薬量は莫大の量に上るべし

    又 概ね 一門一時間の発射速度を基礎とし 野山砲一〇〇 十加五〇 十五榴四〇とする案あり

    元来基数の決定は既述の如く 補充上の便と 射撃上其効果を企図すべき所要弾数計算の容易と 企図の秘匿と 多数弾薬に対する計画の簡易とを期すべきものなるを以って 上記 何れも各種の要求に切実に適合せりと称するを得ず 其基数決定の根拠 重点に依り 又は 某時日毎に 或は 会戦毎に 適宜規定するも支障なかるべし 然れども 錯誤を避ける為 全軍止むを得ざれば軍に於て統一するを可とす

    要は大戦に於ける数量の増大と 企図秘匿と秘密保持とに生れ来りたるものなるを以って 此の考慮に欠ける所なきを要す

    次は弾薬使用の問題なり

    南山の戦役の失敗の例に鑑み 決戦時期に十分なる弾薬を使用し得る如く配慮し 要すれば戦闘各期に於ける使用区分 並びに 予備弾薬に関し定むるを要す

    然れども 砲兵自体としては 最小弾数を以って最大効果を収むる方法に徹底し 時、場所の選定に甚深の注意を要す

    弾薬の補充に関しては 弾薬集積所、弾薬交付所 及 段列の位置、補充弾薬の種類、交通路の状態、補充機関の能力等を考慮し 弾薬補充路の配当 要すれば補充機関の配属 及 行動 並びに 其統制 補充の時期等を命令するものとす

    補充期間として使用し得べき馬匹、弾薬車、輜重車等の補充能力は考慮の要あり