javascript、CSSガオフカ、妙ナUA使ッテルカ、妙ナセキュリティヲ適用シテイルト思ワレマスノデ適切ナCSSヲ適用デキマセン

砲兵戦術講授録 原則之部

第三篇 砲兵戦闘ノ特別原則

第一章 戦闘の為の前進 及 遭遇戦に於ける砲兵

本篇は 前篇に於ける砲兵戦闘の共通原則を継承し 各種戦闘の特質に応じ 砲兵用法上準拠すべき主要なる戦闘原則を略述するものとす

第一節 戦闘の為の前進に於ける砲兵

本節に於ては 戦闘の為の砲兵の前進部署 及 前進間の行動を述べん

抑々戦闘姿勢に在らざる砲兵の無力なるは 前篇所述の如くにして 戦闘の為に前進する砲兵は即ち行軍縦隊に在りて 殆ど其全弱点を暴露しあるを以て 此の間常に戦闘準備の為必要なる処置を為し 機を失せず直ちに其威力を発揚し得むる如くするを要し 状況 特に之を要する場合には 砲兵の掩護下に地区より地区に向かい逐次前進の方法を採用するを要することあるべし

第一款 前進の為の部署
  1. 一、軍直属砲兵及砲兵情報班の部署

    軍が戦闘を予期して前進するに方りては 一般の戦況に基き 速やかに全般の兵力の重点を定むべく 軍直属の砲兵 及 砲兵情報班も 亦 重点成形の見地に基き 所要の部隊 就中 歩砲協同上必要なるものは 速やかに之を主決戦方面の師団に配属するか 若は 未だ之を師団に配属することなく軍司令官の直轄として所要師団(通常 将来の配属を予期するもの 若は 将来の配属に便なる位置を前進するもの)をして 其前進を区処せしむるものとす

    1. (一)軍直属砲兵の部署

      軍直属砲兵を当初より第一線各師団に配属するときは 状況に応じ当該師団をして迅速に其能率を発揮せしむるに適するも 状況の推移予期の如くならざるとき 軍重点成形の為 既に某々師団に配属しある軍直属砲兵を他の師団に転属するの必要を生じ 此間指揮の混雑を招くのみならず動々もすれば之が為戦機を逸するの憾あり

      第一線師団をして軍直属砲兵の前進区処せしむるときは 其利害は概ね前項と反対にして 即ち戦況の発展に伴い軍全般の重点成形の決定 即ち戦闘一般の部署の確定と共に所要の師団に対し適切に軍直属砲兵を配属することを得るを以て軍戦闘の指導は至便なるも 戦況の発展神速なる状況に在りては 某師団の区処前進せる軍直属砲兵を 適時所望の師団に配属し 且 其運用をして機に適せしむるには多大の困難を生ずべし

      従って 師団配属とすべきや 或は軍直轄の儘にて単に其前進のみを師団に区処せしむべきや 又 配属するとせば 其時期を如何に選定すべきや 或は師団をして区処前進せしむるときは其区処法(師団の決定 要すれば其師団内に於ける行軍位置の決定等)を如何にすべきや等に関しては 全般の状況を考慮し各種の利害を較量して決定するを要し 敵と遭遇するとき 新に軍隊区分の変更を行うことなくして 適時戦闘を開始し得る如くするを以て 肝要なる条件とす

      各種砲兵の特性に応ずる配属若は区処の要領は 既に前篇の所述に依り明なるべく 独立山砲兵は 山地又は沼沢地等特種の地形に依りては 之を該方面の師団に分属することあるも 成るべく速やかに之を重点方面の師団に分属するを要し 野戦重砲兵も亦概ね重点方面の師団に分属すべしと雖も 未だ重点方面の決定困難なる時期 或は軍直轄として使用するを有利とする場合に在りては 重点方面と予想する師団 或は何れの方面にも配属するに容易なる某師団をして其行軍を区処せしめ 爾後適時之を所要の師団に配属するか 或は軍直轄砲兵として之を使用し 独立野戦重砲兵は軍直轄砲兵として使用するを目途として 要すれば単に其行軍のみを某師団に区処せしむべきも 稀に 地形上 若は特別なる用法を行はんとする場合に限り 所要の時期に之を所望の師団に配属すべきものとす

    2. (二)砲兵情報班の部署

      抑々砲兵情報班は 軍全般の砲兵用途に供すべき広汎なる任務を有するを以て 之を軍に於て統一使用するを本則とし 其行軍は軍の重点方面と予想し得る師団 若は全般関係上何れの方面にも使用容易なる位置を前進せる師団をして 情報班の前進を区処せしむるを一般とす

      然れども 敵と遭遇を予期するが如き状況に於て 砲兵情報班を統一的に使用するの余裕を有せざる場合には 其地上標定隊は適時之を重点方面の師団に配属若は分属し 砲兵観測隊も亦要すれば同様に之を区処し 以て戦機に投合する適切なる用法に遺憾なからしめ 之れに依て全軍砲兵の為重要にして 且 一般情報勤務上利用の余地ある唯一の砲兵情報班をして 可惜戦闘の圏外に袖手せしむるが如きことなきを期すべきものとす 但し音源標定隊は其特性上 遭遇戦当初の用途に応じ難きを以て 之を師団に配属することなく 依然軍直轄として保持し爾後適時に其使用を策するを通常とす

      茲に於てか 論者或は高唱せんとす 即ち遭遇戦と雖も 旧来の思想の如く半日乃至一日を以て戦闘の決を告ると思惟するは 近世戦闘の情勢を無視せるものにして 輓近火器の進歩に伴い戦闘は靭強となり 遭遇戦も亦数日に亙るを一般とするを要し 之が為 砲兵情報班の如きも 単に一日程度の戦闘継続を目途として其用法を律すべきものに非ず 宜しく戦闘終始の全般を予め達識して其用法を決定企画すべきものなりと

      右は一理なきに非ず 然れども 欧州戦の史質に徴するも軍の遭遇戦にして概ね一日間に戦闘の結を見たるもの往々あり 勿論 同時に四乃至五日の戦闘経過を見たるものあるも 此等は全く状況の如何に依るものにして 遭遇戦の経過の靭強性を帯たるは之を認むると共に 速戦速決に努力すべき重要性に鑑み 砲兵情報班の用法の如きも 遭遇戦を予期せば 先ず経過迅速なる場合を第一目標として其用法を律し 爾後は戦闘継続の時間に応じ 逐次之に応ずる如く区処するを以て肝要なりとし 之に反して最初より全然経過の迅速に終了すべき場合を無視して其根本を律せんとするは軽重を謬るものと云うべし 要は状況に応ずべき自在の運用を主義とすべきものなり

      以上の如くなるを以て 経過迅速なる戦闘に於いても 少なくとも一般捜索の為 当初より利用し得べき砲兵情報班中 地上標定隊の如きは躊躇することなく之を師団に分属して其活用を期するを可とす 又一度之を分属するも爾後戦闘経過の推移に応じては適時之を統一するの区処を講じ 又音源標定隊の如きも戦況に応じ適時戦闘に加入せしめて其利用を策するを以て適当とし 単に敵砲兵の砲種 及 口径を判定するのみに止むる場合に在りては 聴音哨位置の測地成果を要せざるのみならず 主哨の外に一乃至二個の聴音哨を配するを以て足れりとするを以て 状況之を要すれば比較的軽易 且 快速に之が利用をも期し得べきものとす

  2. 二、師団砲兵の部署

    師団砲兵 及 師団配属の砲兵情報班に関し 其戦闘の為の前進に於ける軍隊区分 及 行軍位置に関し述べんとす

    (一)軍隊区分
    1. (イ) 警戒部隊 及 主力縦隊以外の縦隊に附すべき砲兵

      此等の部隊に所要の砲兵を附するは 状況特に敵と遭遇を予期するときに於て必要にして 之が為 野戦砲兵特に野砲を用いるを一般とするも 地形に依り 山砲等を用いるを可とすることあり

      附すべき兵力は 警戒部隊 及 主力縦隊以外の部隊の兵力 並びに地形等により差あるも 要は此等部隊の本来の任務達成を容易ならしむると共に 戦闘開始に方り 本隊砲兵を展開するや 直ちに状況に応ずる全砲兵火力の重点を成形し得る如く配慮するを要す 又 主力縦隊以外の縦隊には 附すべき砲兵力に応じ 要すれば連隊段列等の一部をも属するものとす

      警戒部隊若は主力縦隊以外の縦隊に於て 更に其部隊の軍隊区分に基き 其砲兵を主力以外の前方部隊に附すべきや否やは 前進途中に於ける敵情 特に歩々抵抗排除の要否 並びに 地形特に道路網の状態は 砲兵をして歩兵の超過前進を許すや否やを考慮し 且 其砲兵の種類等を参酌して決定すべし

      騎兵旅団に於ける騎砲兵は 屡々分割して前衛に附せらるることあり 敵の装甲自動車と衝突する慮あるときは 特に所要の兵力を配属するを必要とす

    2. (ロ) 主力縦隊本隊砲兵 及 配属砲兵情報班

      前項の如き部隊に附するものの外は 師団長の直轄として其砲兵指揮官の下に於て主力縦隊本隊中に在りて前進せしめ 師団に配属せられたる砲兵情報班は 其全力を師団長の直轄として前進せしむるを本則とす

    3. (ハ) 行軍位置

      行軍序列の決定は 主として 予め考定せる各部隊運用上の順序に従い 且 部隊の建制を保持し 其行進並びに警戒を容易ならしむるを方針とし 特に砲兵戦闘準備完成の要素たる 所要の時間の余裕を有せしむるを準則として決定すべきものとす

      1. a. 前進砲兵の配置

        歩兵一大隊以下の警戒部隊に砲兵を配属するは 特別の場合の外 適当ならず

        其 害する所 左の如し

        1. 不意に敵と衝突するの慮多く 砲兵使用の自由を拘束し 時として逆行して陣地を占領すべき場合を生ず
        2. 独立して戦闘する期間極めて小にして 一中隊程度の砲兵ならば直ちに大隊長の手裡に掌握せらるべきを以て 最初より大隊長の統一指揮下に在るを可とす
        3. 砲兵は後方に位置するも 其距離僅小 且 速度大なるを以て 時期を失することなし 指揮機関の挺進にて充分なり

        之を以て 道路の景況上超越困難なる場合 若は山砲兵の如く速度を利用し難き場合の外 特に配属せざるものとす

      2. b. 本隊砲兵の配置

        警戒上之を許す限り本隊の先頭に近く前進せしめ 以て機を逸せず戦闘に参加して 先制の獲得に遺憾なからしむるを切要とし 長大なる行軍縦隊に在りては 其中間に歩兵部隊を行進せしめて 上空 及 地上に対する警戒の利便に資するを肝要とす

        本隊砲兵に師団固有砲兵以外の野戦重砲兵等を有する場合には 野(山)砲兵よりも後方を前進せしむるを通常とす 騎兵旅団等の騎砲兵は指揮官の企図、騎砲兵の兵力 進路上の地形等にも依るべしと雖も 敵と衝突を予想するときは本隊先頭連隊の次に位置せしめ 以て展開に於ける先制の利を獲得するを利ありとす

      3. c. 砲兵各隊長の位置

        砲兵各級指揮官は 軍隊区分に依る各歩兵指揮官と同一の位置なるを可とす

        例えば 前衛砲兵隊長は前衛司令官と 側方一部縦隊の砲兵指揮官は其縦隊長と 本隊砲兵指揮官は師団長と同行するが如し

        是等の場合に於ける随従者は 副官 及 観測班(小隊)長 並びに 挺進班にて可なり

      4. d. 砲兵観測団の位置

        本問題は重要なる問題なり 其決定は砲兵の戦闘準備、行軍 及 指揮の難易等を考慮し 状況に応じて適合せしむるを可とす

        砲兵大隊の観測班 及 各中隊の観測小隊は 通常大隊毎に一団として所属大隊の先頭に 又連隊(旅団)の観測班は 連隊旅団の先頭に在りて行進せしむるは 使用の順序 特に射撃準備促進の必要に基づくものにして 状況更に之を要すれば此等観測班の一部 若は大部を観測団として前衛本隊の後尾に続行せしめ 或は前衛本隊と本隊との中間に在りて前進せしむるものとし 然るときは此等は行軍に関する序列として 師団命令に於いて適確なる指示を行うべきものとす

        先進すべき観測団は 状況により観測班又は観測小隊より挺進せる挺進班のみを以てするか 或は其全部を以てするやを定むるべきも 要は各観測機関を使用する砲兵各級指揮官の使用に不便を感せざる如くし 前衛本隊と本隊先頭との中間に前進すべき他部隊の存在 及 本隊歩兵の迅速なる戦闘加入を妨害せざることをも考慮し 成るべく必要の最小限たらしむべきものとす

        抑々観測機関は 其専属する指揮官の指揮機関にして 上級指揮官が部下指揮官の指揮機関を引上げ統一使用するが如きは稀有の場合なり 例えば 大隊長が各中隊の観測挺進班を随えて先行し 中隊長到着以前に大隊長又は大隊観測班が之に指示を与え準備を為さしむるが如きは変則なり 故に各観測機関は其指揮官の使用に最も便なる如く位置すべきものなり

      5. e. 砲兵情報班の位置

        砲兵情報班の一部 特に地上標定隊 及 砲兵測地隊の一部若は大部を師団に配属せられたるとき 其行軍序列を如何に決定すべきやは 状況 及 地形に依り差あるも 全力若は主力を本隊砲兵の戦闘若は本隊野戦砲兵の直後に行進せしむるを可とすること多く 要すれば更に其地上標定隊の一部の如きは之を前衛本隊の後尾に続行せしむることあり

        元来此種機関は 既述の如く 砲兵戦闘準備 及 戦闘実施の為 利便なるものにして 而かも経過迅速なる戦況に於ても其使用企画し得べきものなると 状況之を許す限り 予め成るべく前方に在りて行進せしめ置くこと肝要にして 又 其行軍長径短少なるを以て 之が実施に関し比較的困難を惹起すること少なし

      6. f. 砲兵段列の位置

        大隊段列 及 中隊段列は 其部隊長の直接指揮下に当該部隊の後尾に前進すべきも 連隊段列は 高級指揮官の部署に依り 師団戦列部隊の直後を行進せしむるを通常とす

        野戦重砲兵の一部と共に師団に附せられたる野戦重砲兵連隊段列の一部 若は師団の主力縦隊以外の縦隊に附せる連隊段列の一部の如きも 前述の要旨により 行軍序列を定むるべきものとす

  3. 三、師団配属高射砲兵の部署

    野戦高射砲隊は 緊要なる時期 及 地点に於て 師団の主要なる行動を掩護し得る如く 通常 要点より要点に向かい 躍進的に陣地を占領せしむるものとし 此際 別路を使用することを得ば有利なり

    元来師団に配属し得べき高射砲隊の兵力 該砲兵の戦闘威力、師団の行軍長径 及 前進地域の道路網の関係等を較量するに 該高射砲隊を以て 師団の全縦長に亙り常に制空を完全ならしめんとするが如きは 殆ど不可能の事項に属し 単に白紙的若は算数的配置を行い形式上の全般防空を試むるも 往々緊要なる時期及地点に於て 師団の主要なる行動を掩護し難き欠陥を生ずることあるべし

    右の見地に基き 任務達成上緊要なる時期及地点に対し躍進的用法を行はしむる為 着眼すべき要項は概ね左の如し

    1. (一)
      遭遇戦指導上 重点成形の為 主力分進の時期及其重要地域の防空
    2. (二)
      包囲完成の為 主力の転進及集結の時期及其地域の防空
    3. (三)
      隘路若は橋梁等の通過の時期及地点に対する防空 特に主力の行動の掩護 就中 砲兵の掩護
    4. (四)
      前進地域の地形の隠蔽及開濶の状態を大察し 且 主力縦隊の行動を参酌して 之に応ずる防空の要度及地域の決定

    縦隊掩護の為、高射砲兵の躍進距離及一陣地に於ける掩護の時間を決定するには 高射砲隊の兵力 道路網の状態 高射砲隊及縦隊の行進速度 並 其長径、陣地占領及撤去に要する時間等を考慮して之れを定むるを要し 過度に躍進回数を増加するは却って労数相償はざるべし

  4. 四、師団の区処前進すべき軍直属砲兵部隊の部署

    軍命令により師団の区処前進すべき軍直属砲兵は 当該師団の戦闘部隊の後方を前進せしむるを一般とし 此際 師団長は区処すべき軍直属砲兵各部隊の将来の使用を予め考定して 其前進目標 及 集結地域を定め 其行進の便否 及 各部隊行進の速度を顧慮して 行進路 及 行軍の為の梯隊区分等を決定すべきものとす 部隊の特性に応じ特に顧慮すべき件 左の如し

    1. (一)
      独立野戦重砲兵連隊は 其編制中に各種速度の自動車を有するを以て 状況之を許せば独立して他の道路を使用せしむるを最良とし 然らざるときは逐次の躍進的前進法を採用せしむるに利便ならしむるを可とし 両梯隊間に在りて一進一止せしむるを要する場合に在りては 状況之を許す限り成るべく両梯隊間の距離を増大するを要す
    2. (二)
      砲兵情報班は 状況之を要すれば 其情報班をして所要の機関を伴いて師団の前衛本隊の後尾に続行せしめ 以て所要に臨み速やかに其将来の用法を企画準備するの利便あらしむるを必要とす
第二款 前進間の行動
  1. 一、前進間に於ける砲兵一般の行動

    戦闘の為の前進間に於ける砲兵一般の行動 及 之に対する高級指揮官の指導要領に関しては 第二篇に於ける陣地決定の要領中に於いて述べたる事項と重複するを以って 之を省略するも 戦闘開始に方り適時適切なる戦闘準備を完成し得る如く 不断適正の状況判断に基き 予め事前に於て逐次に所要の準備を遂行実施するを以って要訣とす

  2. 二、躍進的前進法に於ける砲兵の行動

    近世火器威力の発達に伴い 軍隊の 隊形の選択 偽装の巧妙 行動の欺瞞等は 所謂 戦場寂寞の度を増加し 彼我共に状況不明裡に於て行動するを要することあるべく 他面 敵に対し機先を制せんが為には 斯くの如き状況に在りても遅滞なき自主的行動を緊要とし 此処に於てか敵と近接せるも状況明ならず爾後の前進に大なる危険を感ずる場合に於ても 戦闘準備を整い地区より地区に向かい前進するの已むを得ざることあり 且 此際 砲兵をして其前進を掩護せしむるを要することあるものとす

    抑々此種の前進法 及 其砲兵運用は 欧州大戦の産物にして 理論上首肯せべき点なきに非ずと雖も 之が為 軍隊の行動は鈍重に堕し 運用は型式に陥り 速戦速決の本義に戻り 卓抜創意の根本に反するを以って 我国軍に於ては素より之を賞用せざるところなり 然れ共 将来戦の傾向を洞察するときは全然之を忘却無視するを許さざるを以って 状況之を要する場合には 已むを得ず採用すべき一方法なりと認められあるものとす

    此種の砲兵用法を策するに方りては 自ら各縦隊毎に砲兵を使用せざる可からざること多かるべきも 師団砲兵の主力は 為し得れば之を統一して使用するを可とし 各縦隊の砲兵は通常之を二群に分ち相互連繋の下に交互に躍進せしめ 且 所要に応じ射撃せしむるものとす

    交互躍進せしむべき兵力区分は 主力縦隊方面の掩護に任ずべき砲兵二大隊なるときは之を一大隊宛の交互躍進とし 主力縦隊以外の縦隊の如き砲兵一大隊のみを有するが如き場合に在りては一中隊と二中隊に区分するものとし 若し後者の如く兵力区分不同なるを要するときは 全般の状況に稽へ緊要なる地区に於いて大なる砲兵力を使用し得る如く予め部署するを要し 又 両場合共に敵と衝突するに方りては 当時後方より躍進中のものも亦直ちに適当なる陣地に進入して戦闘に参加せしむべきこと勿論なりとす

    以上の如く 躍進前進する砲兵は 常に陣地を占領するものに非ずして 或は単に射撃準備を整えるのみに止むべきや 若は放列附近に待機せしむべきや 乃至は完全に陣地を占領せしむべきや等の程度問題は全く当時の状況によりて之を定むるものとす

    上述の要旨に基き 此種の前進法を採用する場合に於ける歩兵の行軍縦隊と躍進砲兵との関係の一例を研究する時は 挿図の如く 其根本として考定せる左の如し

    1. (イ)歩兵の前進速度
      毎時二粁

      状況不明にして 極力捜索 及 警戒の手段を講じつつ前進する場合に於ける警戒部隊の前進速度にして 戦史上の統計値たる二乃至三粁に基く

    2. (ロ)歩兵に協力すべき砲兵射程の限界
      五粁

      歩砲の密接なる協同を基としたる歩砲の離隔距離四粁 及 普通地形に於ける地上観測の限度を假りに五粁と定む

    3. (ハ)砲兵の躍進距離(速度)
      六粁(一時間半)

      砲兵の前進速度は 普通道路上を速歩にて歩兵の縦隊を超越前進する場合を基準とし 且 旧陣地の放列撤去 及 新陣地の放列布置 及 射撃準備(逐次に予め観測挺進班を躍進せしめあるものとす)等を含み 六粁の陣地推進に要する時間を一時間半とす

    以上の関係に依り左の如き結果を得

    1. (イ)
      歩兵は三粁毎の逐次前進を行う
    2. (ロ)
      砲兵の交互躍進する両群の陣地は三粁を隔す
    3. (ハ)
      砲兵の 所要に応じ一陣地に於て歩兵を支援し得る時間は一時間半となる
    4. (ニ)
      砲兵の一群は歩兵の先頭より一粁後方に於て協力支援の態勢を了し 爾後 歩兵先頭が更に三粁前進する迄支援を継続し得べく 最終時に於ける砲兵の有効射程は歩兵の前方一粁に及ぶ

    <<挿図>>

    右の如き前進に於ける図示は白紙的一例に過ぎずして 事実に即し 状況 特に敵情 及 地形を加味するときは 更に幾多の変化を呈すべきものとし 要は時間を徒費せざる如く万般の手段を竭するを以って最も肝要なりとし 時間の空費は則ち 状況不明にして危険を感ずること大なる場合に於ても 無為に停止することなく敢為積極の前進を行はしめんとするの根本方針に背戻するものなることに 留意せざるべからず

第二節 遭遇戦に於ける砲兵

遭遇戦に於ける砲兵運用の根本は 先制獲得の要訣に一貫すべき遭遇戦指導の本義に立脚し 敏速 且 軽妙にして 戦機に投合して遺憾なきを期するに在りとす 然れども 茲に銘刻すべきものあり 即ち 敵に先たち砲火の第一撃を放つは必ずしも先制の目的達成を意味するものに非ずして 敵を圧倒殲滅すべき火力発揚の先制を以って 戦闘の目的に合致すべき真の先制なりと信念して疑わざること之れなり

第一款 遭遇戦に於ける砲兵運用の要則
  1. 一、遭遇戦に於ける砲兵運用の着眼

    遭遇戦に於ける砲兵は 我が展開を掩護し 敵の展開を妨害し 友軍をして終始主動の地位を確保せしめ 戦闘の初動より戦局を支配せしむるを以って着眼とすべく 其戦闘の特質上 考慮すべき事項 左の如し

    1. (一)
      戦闘準備為 使用し得べき時間の余裕に乏しきを常態とする以って 特に適切なる状況の判断と 神速機敏なる決意とに依り 其運用を律し 以って戦機を逸せざるを要す 之が為 飛行機 為し得れば気球を配属する
    2. (二)
      彼我共に展開の迅速 及 包囲の促進等に腐心し 軍隊の行動は躁急に流れ 地形地物の利用は閑却せられ 歩砲の協同は適切を失し易く 好目標を呈するの機会多きを以って 此機に於て敵に至大の損害を与うる如く戦機を捕捉するを要す
    3. (三)
      戦闘初期 砲兵の使用は 行軍の為の軍隊区分に依る分割的用法なるを常態とするも 戦闘の経過に伴い漸次敵に先立ち統一的に使用し 以って組織的に先制を獲得するを可とす
    4. (四)
      敵をして過早に展開せしめ 敵の展開を困難にし 或は 之を不利に導き 相対的に我展開を有利ならしめ 敵に先立ちて展開を完了する為 分進する各縦隊に相当の砲兵を区分配属し 要すれば一部の砲兵を先遣し 或は 長射程砲を前方部隊に編組するを可とす
  2. 二、軍直属砲兵の部署

    戦闘の為の前進間に於ける軍直属砲兵の部署に就いては 前節に於て詳述せしが如く 更に遭遇戦を開始するに方りては 該態勢を以って逐次戦闘に移るものとし 縦い軍命令なきも 各師団長は 軍司令官の企図と一般の状況判断とに依り速やかに決戦を指導すべきも 軍司令官も亦 適時第一線師団に攻撃を命ずると共に 軍直属砲兵中 主要のものは 速やかに之れを更に師団に増加配属し 爾余は之を軍直轄砲兵として其使用を策すべきものとす 茲に附言すべきは 独立野戦重砲兵の用法にして 単に遭遇戦なるの故を以って師団に配属するは適当ならず 該砲兵の特性に鑑み 之を軍直轄砲兵として二師団以上の正面に亙り 且 縦深地域に対して大いに活用すべきものとす

  3. 三、師団砲兵の部署
    1. (一) 統一 及 配属論

      師団砲兵は之を統一使用し 火力の分散に陥らざるを可とするは勿論なるも 師団の正面広大なる時は 射程も制限 及 通信連絡施設の関係上、又 地形掩蔽隔絶せるときは 各部隊の射界制限を受け 観測所の視界制限せられて共同射界を減少し 連絡も亦充分ならず 特に斯くの如き地形に於て 各方面に不期の戦闘を惹起するが如き場合に在りては 統一的使用は時期を逸すること多きを以って 是等の場合に在りては 戦闘の初期より所要の砲兵を第一線歩兵部隊に配属するに躊躇すべからず 濃霧雨雪の際に於ても亦然り

    2. (二) 配属より統一

      歩兵配属砲兵以外の砲兵は 師団砲兵指揮官をして之を統一指揮せしむべきは勿論なるも 歩兵配属砲兵と雖も 状況之を許すに至らば 統一使用を策すべきこと必要なり 蓋し配属使用は之を無条件に賞用するに非ずして 状況 及 地形上 止むを得ざる次善の手段として 善処せしに過ぎざるを以って 戦況の推移と共に 包囲圏の収縮 及 砲兵陣地の変換等に伴い 広大なりし戦闘正面を縮少し 或は 戦況の進展に伴い砲兵陣地の変換と相俟って掩蔽錯雑の度を異にし 又 時間的余裕に伴い統一の可能性を生じたるが如き場合 或は 気象の変化に際して統一指揮に復すべきものとす 之が為 師団砲兵指揮官と第一線配属砲兵とは 勉めて通信連絡を保持せしめ 且 各部隊相互に陣地変換等に関する情報を交換せしむるが如き処置を講じ 統一指揮の容易なるが如く準備するを可とす

    3. (三) 戦闘の進捗に伴う配属

      戦闘の進捗に伴い 一部の砲兵を第一線歩兵部隊に配属することあり 蓋し歩兵の戦闘漸く酣にして 我が損害続出し 戦況の発展漸く困難となるや 歩兵直協の砲兵火力を以ってする支援は 動もすれば隔靴掻痒の憾あることあるべければなり

  4. 四、師団配属の砲兵情報班の部署

    師団に配属せられたる砲兵情報班 特に地上標定隊 及 砲兵測地隊の一部 若は 主力は 之を統一使用するを本則とし 師団砲兵指揮官の下に於て直轄使用せしむるを一般とす

    抑々遭遇戦に於ける地上標定隊の用途は 先ず迅速なる戦闘経過に応ぜしむる為 目標の捜索を主眼として使用し 以って戦況推移に伴い目標標定を実施し得る如く逐次に企画使用すべきものにして 之が為 配属せられたる全力を統一使用し 師団砲兵全般の用途に共通せしむるを通常とし 稀に配属せられたる地上標定隊の兵力大にして 且 有力なる師団砲兵の一部が其主力と離隔して行動するが如き場合に限り 該砲兵隊に地上標定隊の一部を配属するが如き場合を生ずることあるべし

    又 師団に配属せられたる砲兵測地隊は 之を統一して 師団砲兵全般の為の基礎測地作業に任ぜしむるを本則とし 之を某砲兵隊に分属するが如きは 砲兵測地隊の兵力 及 作業力の関係 並びに 遭遇戦の本義に稽ふるときは極めて稀有の場合に属するものとす

第二款 前衛及本隊砲兵の用法
  1. 一、前衛砲兵の用法
    1. (一)陣地

      前衛砲兵の陣地は 成るべく速やかに之を占領し得るを第一義として選定すべく 縦い地形上有利なる陣地と雖も 之が占領の為に多時を要するときは 其本来の目的に背戻するものとす 従って 戦術上の要求と 地形の特質とを較量して 機宜に適せしむること最も肝要にして 特に其観測所と 放列陣地とは 成るべく之を接近せしめ 以って連絡施設の簡易と射撃指揮の利便とに資すべきものとす

      敵 若し 我に先だち戦闘準備を完了すべきを察知し 十分なる兵力を展開し得るに至るまで 真面目の戦闘を避けるが如き戦闘指導法を採用する場合に於ける前衛砲兵は 成るべく速やかに 広地域を射撃し得べき陣地を占めて 十分に敵の展開を妨害し得る如くし 且 要すれば其陣地を適宜分散することあり 是 彼我接触の初期に於て 我が砲兵の配置に依り 敵をして状況判断を誤らしむることあるは 史実の明証するところにして 斯くの如き配置は 敵をして我全般兵力を誤認せしむるの効果あると共に 総合的に広射界を得るの利あるを以ってなり

    2. (二)運用

      前衛砲兵は 前衛の要地占領に協力せしめ 若は 敵の展開を妨害せしむる為活用すべきものとす

      前衛司令官は 速やかに之等の任務を前衛砲兵大隊長に付与し 以って陣地占領、火力の運用、歩砲の協同、陣地変換等 戦闘全般に関し的確なる準拠を与えるを要す

      前衛砲兵の戦闘は 常に必ずしも従属的に前衛の戦闘に協力するものに非ず 例えば 特に敵の展開妨害の如きは 寧ろ砲兵が主体たるものなり

      前衛の要地占領に協力する砲兵は 最も神速機敏に歩兵戦闘を直接支援し 要地占領後は 占領後の歩兵と協同し 敵の攻撃を撃退し 或は 敵の前進を阻止し 又は 殲滅すべきものとす

      各級指揮官は 適正なる戦術的判断と 溌剌たる企図心に基く独断専行とにより 敢為適切なる戦闘成果を獲得すべきものとす 而して 砲兵は連絡掛将校を歩兵部隊に派遣し 戦術単位以上の砲兵指揮官は前衛司令官の附近に位置するの着意あると共に 状況に依りては副官等を派遣するものとす

      敵の展開を妨害せんが為には 迅速に我陣地を占領し 長遠なる射程を活用して 敵をして交通路上の要点に於て阻止し 又 敵砲兵を其運動中に於て圧倒するを以って旨とすべく 此際 我砲兵の行動適切なるときは 少なくも 敵をして過早に分散して前進を行わしむるに至り 之に依って 敵の行動を妨害せしめ 以って我師団全般の遭遇戦指導を有利ならしむることを得べし

  2. 二、本隊砲兵の用法
    1. (一) 一般の指導
      1. (イ) 砲兵の挺進

        敵と接触の機近づくや 師団長は 適時本隊砲兵に挺進を命じ 全般の指導上逐次展開を実施する場合に在りては 速やかに前衛等の戦闘に加入せしめ 統一展開を行う場合に在りては 成るべく速やかに砲兵の展開を完了せしめ 以って先制獲得に遺憾なからしむること極めて肝要なり 然るときは 師団の展開完了前一、二時間に亙り 其猛威を振るい得べく 戦闘に及ぼす効果も亦大なるべし

      2. (ロ) 一部砲兵の先遣 及 長射程砲の活用

        敵をして逸早に展開するの止むを得ざるに至らしむる為 一般の展開に先だち 一部の砲兵を為し得る限り前方に先遣し 若は 長射程砲をして速やかに陣地を占領して 敵の通過すべき交通路 特に其要点に対し 交通遮断 若は 擾乱等の射撃を実施せしむるを有利とすることあり

        先遣すべき一部の砲兵は 状況に依り前衛砲兵を使用し 若は 本隊砲兵を使用することあるべく 此等砲兵は 前方に派遣しある先遣部隊の掩護に依るか 若は 快速車輌を利用する直接掩護部隊を附するを要し 又 長射程砲の活用としては 軍直属砲兵たる十加部隊を使用するか 若は 射程特に長遠なる野砲を以ってするものとす

        十加部隊を斯くの如き目的に使用せんには 予め軍より師団に配属すべきは勿論 師団には機に臨み 該部隊の高速度を活用して別路を取りて前進せしめ 若は 予め前衛本隊と本隊との梯隊距離を利用して前進せしめ 以って其展開を迅速ならしむるを要し 之に依って 敵に対する有形無形上の両効果を収めしむることを得べし

    2. (二) 敵 若し 我に先立ち戦闘準備を完了せんとする場合に於ける砲兵の使用

      此場合に在りては 砲兵をして成るべく速やかに良好なる陣地を占め 速やかに其戦闘準備を完了せしめ 以って攻撃前進に移りたる敵の歩兵部隊 若は 我が歩兵の行動を妨害せんとする敵砲兵の制圧に勉め 之に依りて 速やかに我歩兵の展開の完了し 全般の態勢を有利に導くこと肝要なりとす

    3. (三) 陣地と為すべき地域

      陣地は進入容易にして 機を失せず砲兵の展開を完了し得るを以って第一義とし 且 勉めて之を敵に近接せしめ 同一陣地より 主として決戦を企図する方面に対し 適時砲火の最大威力を発揮し得しむる如く選定せざる可からず

      抑々遭遇線に於て 砲兵の展開を神速ならしむるを第一義として陣地の配置を定むべきは 敢えて論なきところにして 更に之をして敵に近接せしめんとするは 迅速なる展開方針と矛盾するが如きも 敵に近接せしむるには 他面戦闘の進捗に伴い陣地変換を行うの不利を避け得るを以って 勉めて此の主旨に依るべきものとし 又 主として我が決戦方面に適時砲火の最大威力を及ぼし得る如くするは 主動的戦闘指導上 忘れる可からざる重要事項にして 併せて所要の火力は之を決戦を企図せざる方面にも敵時に指向し得る如くするは 発生すべき状況に対応せしむる為必要なる件なりとす

  3. 三、前衛砲兵と本体砲兵との関係

    前衛砲兵(主力縦隊以外の縦隊に附せられたる砲兵に在りても亦同じ)は 前衛の任務達成の為に第一次の戦闘を行い 爾後 師団全般の戦闘に際しては 本隊砲兵と成るべく統一指揮下に師団全般の為の第二次戦闘を行うべきものとし 此等の時期の転換は 攻撃の為の師団命令に依り之を律するを通常とす

    両者の統一の為 必要なる条件は 連絡通信設備の完了に存し 之に依りて 始めて師団砲兵指揮官をして 確実に両者を掌握して 師団全般の戦闘に参加せしむることを得るものなるを以って 其時期の選択 換言せば統一実施の発動に関しては 深甚の注意を払わざる可からず

    以上の如くなるを以って主義として 成るべく統一を可とするも 一般の戦況 特に旧前衛の戦闘の状態、本隊砲兵の戦闘準備、旧前衛に課すべき新任務 並びに 前衛砲兵と師団砲兵指揮官との連絡通信の状態を較量して 統一の要否 及 時期を決定するを要し 状況之を要すれば 前衛砲兵は某時期迄其指揮系統を更新することなく 或は 又 之を配属砲兵として依然旧前衛に附することあり 例えば 前衛砲兵が重要なる任務に服しあるが如き時期に於て 之を前衛より奪い去るが如きは誤りなりとす 又 斯かる時期に 師団砲兵指揮官の隷下に入りたる前衛砲兵には 依然前任務を続行せしむべきものとす

    前衛砲兵の陣地と 本隊砲兵の陣地とは 適切なる関係を保持すること肝要にして 之が為には 師団全般の戦闘指導に考え 相対的配置を良好ならしめ 又 所要に応じ両者統一指揮の難易を顧慮すると共に 本隊砲兵の展開に際して 止むに前衛砲兵の戦闘間に於て 敵砲兵の射撃修正の完了を予期し得るが如き地域を避けしむるが如き着意を肝要とす

第三款 火力の運用及歩砲の協同
  1. 一、砲兵火力運用の大綱

    遭遇戦に於て 師団長の命令すべき砲兵火力の運用は 火力運用の準拠たるべき大綱にして 克く状況の推移を判断して 其企図せる戦闘指導の方針に適応せしめ 適時所望の場所 特に決戦を企図する方面に砲火の最大威力を発揚せしむる如く指示するを以って要訣とし 師団砲兵指揮官をして先制、独断、主動の本義に立脚して 大に活動の余地を与うべきものとす 蓋し遭遇戦の当初に於て 単に戦闘初期に於ける砲兵の任務のみを示し 爾後状況の推移に応じ逐次に新任務を与えんとするが如きは 戦機を逸すること多ければなり

    戦闘指導の方針に基き 火力運用の準拠となるべき大綱を示すには 状況推移の判断に基きて 主要なる時期 及 場所に対する砲兵火力の指向を命ずるを要し 之が為 軍直轄砲兵の兵力 及 任務を考慮すること肝要にして 其着眼を略述すれば左の如し

    1. (一) 状況推移の判断に基く事項

      戦闘指導の方針に立脚し 我が決戦を企図する方面に砲火の最大威力を発揚せしむべきも 尚 地形 及 我が砲兵力を考え 敵情を判断して 左記要項を考慮すべきものとす

      1. (イ)
        当初 敵の展開を妨害せしむべき要点 若は 要線の有無 及 其重要の程度
      2. (ロ)
        我が主力の決戦を企図する方面の攻撃を支援せしむるに先だち 別に支援を要すべき方面の有無
      3. (ハ)
        我が主力の決戦方面と 敵の主攻方面と異なる場合に於て 後者に対する火力運用の程度 及 時期
      4. (ニ)
        敵砲兵 及 敵歩兵重火器の行う妨害の程度 及 時期を考え 之に対する我が砲兵火力指向の程度 及 其時期
    2. (二) 軍直轄砲兵の兵力 及 任務の関係

      一般に 遭遇戦に於ける軍直轄砲兵の任務は 遠距離の対砲兵戦を主とし 所要に応じ交通遮断 及 擾乱等の遠戦に任じ 且 戦機に応じ第一線師団の戦闘に直接協力せしむべく 其任務の詳細は 当時の状況 特に地形、敵情 並びに 軍直轄砲兵の兵力を較量したる軍司令官の命令に依りて指示せらるべきを以って 師団長は 軍直轄砲兵の自己師団に対し協力し得べき兵力 及 時期を考慮し 之に応じて自己師団砲兵の任務を按配し 以って師団の主動的戦闘遂行を支援すべき砲兵威力を最大ならしむる如く考慮せざる可からず

  2. 二、歩砲の協同

    遭遇戦に於ける歩砲の協同は 一に変転不定の戦況に処して 克く戦機を捉え 之に適応する如く戦闘を指導するを以って要訣とし 歩砲協同上 留意すべき主要なる事項は 左の如し

    1. (一) 要すれば戦闘の初期より所要の砲兵を第一線歩兵部隊に配属す

      本項に関しては既に説述せしを以って 茲に再言の余地なく 其主旨は 歩砲兵の両指揮官をして 協同の為多くの時間と手段とを要せずして 緊密なる協同を行うに便ならしめんとするに在り 然れども 師団長が 歩砲の協同を律し 統一の威力を発揚し得るに拘らず 状況急迫せりとの理由の下に配属するが如きは 指揮機関に乏しき隷下歩兵部隊の指揮単位を増加し 煩累を増すのみにて 却って戦機を逸することあるに注意するを要す

    2. (二) 状況に依り 歩砲協同を緊密ならしむる為 当初より歩兵直接協同の任務に服する砲兵力を大なりしむる如く 砲兵指揮官に要求しあり

      遭遇戦に於て 主火力を指向すべき主決戦方面は 固定的のものに非ずして 若干の移動性を有し 且 一般に戦況の変化大なるを以って 地形上 戦場に現出する敵の歩砲兵を 我が砲兵火により 逐次圧倒し得べき場合にありては 砲兵主力を統一使用するを可とするも 地形隠蔽錯雑し 加之の第一線は逐次戦闘に加入せんとするが如き状況を呈し 且 砲兵の戦闘準備 特に通信連絡の準備十分なるを期し難き状況に在りては 緊密なる歩砲協同を本旨として 歩兵直協の砲兵力を大ならしむる如く砲兵指揮官に要求しあり 彼我近距離に於て遭遇せし場合の如き 亦然りとす

    3. (三) 歩兵戦闘開始後の協同

      歩砲の協同は 攻撃の進捗に伴い 益々必要の度を増加すると共に 其実施は愈々困難の度を累加するものとす 是 戦闘の初期に於ける両者の協定は不明 且 不確実なる状況に立脚して行われあるを以って 時と共に 増綴補修の必要を生じ 同時に 敵火の為に既設の連絡通信は困難を呈するに至ればなり

      故に 歩砲兵は 我が歩兵の敵歩兵火を被るに先だち 更に規定の協定を捕綴し 相互の通報を益々的確ならしむるを要し 之が為 砲兵の一部は第一線歩兵に近く陣地を推進し 万難を排して適時適所に歩兵の要望を充足し得る如く火力を発揚すべきものとす 而して 右の如き随伴砲兵は 状況に依り 之を第一線指揮官に配属するか 或は 依然之を砲兵指揮官に於て直轄すべきものとし 又 歩兵戦闘開始後に於て 挺進せる砲兵の観測者砲兵の許に派遣せられある連絡者 又は 連絡班は 歩砲の協同を良好ならしむる為 與りて力あるものとす

      随伴砲兵を砲兵指揮官の指揮下にあらしむるべきや 或は 之を 歩兵指揮官に配属すべきやは 概ね次の要素を参酌して決定すべきものとす

      1. (イ) 砲兵指揮官の指揮下に在らしむるを可とする場合
        1. (1)
          師団砲兵全般の兵力大ならず 加之 彼我戦闘相異なる方面に演出せられ 為に成るべく全砲兵火力の統一使用を肝要とし 且 地形 及 通信連絡上之を許すとき
        2. (2)
          随伴砲兵力大にして 之を第一線に配属するときは 全般的砲兵任務の達成を不可ならしめ 且 配属せざるも歩砲の協同上大なる害を伴わざるとき
        3. (3)
          随伴砲兵をして 歩兵の両翼隊を共に有効に支援せしめんとし 且 更に両者に分属するを不利とするとき
      2. (ロ) 第一線歩兵指揮官に配属するを可とする場合
        1. (1)
          随伴砲兵は地形上単に一定せる某歩兵部隊のみを支援し得るとき
        2. (2)
          随伴砲兵にして主力砲兵と著しく離隔し 通信連絡等の関係上 砲兵指揮官の統一指揮を不利とするとき
        3. (3)
          随伴砲兵をして 重点指向方面の敵に対する制圧のみに専任せしめんとするとき
    4. (四) 戦闘進捗中に於ける協同

      戦闘の進捗に伴い 一部の砲兵を第一線歩兵部隊に配属するに方りては 為し得る限り予め之を関係の歩砲兵指揮官に通告し 以って配属に先だち 相互に必要なる協定を遂けしむ

      準備なき状態に於て 突如として砲兵を第一線歩兵に配属するときは 歩兵として砲兵の使用は無計画にして的確を欠き易く 為に 戦闘指導上裨益するところ少く 砲兵も亦 歩兵の要求を的確に知ることなく急遽行動すべきを以って 戦闘準備適切を欠き 配属砲兵として十分なる支援の効果を発揮し能わざるものとす

      此の時期に於ける歩砲両者の通報 及 協定を要すべき大綱は 概ね次の如くなるべし

      1. (イ) 歩兵より砲兵に対し行うべき件
        1. (1)
          当面に於ける彼我の状況 特に最前線の位置 並びに 刻下に於ける当面の歩砲協同の現況の通報
        2. (2)
          現下 及 爾後に於ける戦闘指導方針の通報
        3. (3)
          右両事項に基き 砲兵に対する要求 特に火力の指向 及 陣地の概略位置
      2. (ロ) 砲兵より歩兵に対し行うべき件
        1. (1)
          歩兵の戦闘指導方針に適応すべき砲兵戦闘腹案の通報
        2. (2)
          砲兵の見地よりして 歩兵の戦闘指導に対する要求
        3. (3)
          砲兵の戦闘準備 特に其準備完了時期の通報
    5. (五) 決勝時期に於ける協同

      彼我愈々相接近して戦闘激烈となり 特に決勝の前後に至るや 戦線は犬牙錯綜し 比隣部隊は其火力使用上互いに友軍の危険を顧慮するを要し 砲兵 及 機関銃は 友軍の攻撃を支援し難きものを生ずべく 歩砲の通信連絡は屡々断絶するに至るべし

      此際 歩砲兵の指揮官は 渾沌たる戦況に応じて 能く戦機を看破し 比隣相協同して 其戦闘力を決勝点に投入し 以って敵を圧倒するを要し 相互の通報 及 連絡の実施には 極力留意するところなかるべからず

    6. (六) 紛戦時期に於ける協同

      此時期に於て砲兵は 彼我の識別判然たらず 而かも 砲火の最大威力を発揮すべき要求上 時として友軍に危害を与えることなしとせず 従って 歩兵は極力我最前線の位置を通報し 且 砲兵射撃に関する希望を通告し 砲兵は歩兵の要求に基き 極力之が突進を支援すべきものとす

第四款 遭遇戦の各期に於ける砲兵

遭遇戦の戦闘経過の各時期に於ける砲兵戦闘の一般要領を熟知するは 高級指揮官の砲兵戦闘指導上必須の要件にして 之に依って 一般戦闘指導の方針を経とし 状況の判断を緯として 砲兵に対し適切なる命令を与えることを得べし

  1. 一、攻撃前進の初期に於ける砲兵
    1. (イ) 先ず 主として敵砲兵 及 遠距離より射撃する敵機関銃等を射撃して 我歩兵の前進を容易ならしむ

      攻撃前進の初期 我歩兵は未だ其攻撃力を発揮するに至らずして 隠忍して只管前進に勉むべく 此際 我歩兵の前進を妨害阻止するものは 敵砲兵 及 遠距離よりする敵機関銃等なるを以って 砲兵は 其第一次の目標として此等の敵を圧倒すること必然の要求なり

      照準具の進歩 及 機関銃口径の増大に伴い 遠距離射撃の威力を呈するに至れるに鑑み 特に編制上強大なる重機関銃を有する敵軍に対しては 特に其必要を認むるものとす

    2. (ロ) 次いで 砲兵は 其主なる火力を 専ら敵歩兵に集中して 直接に我歩兵の前進を支援し 一部の火力を以って 敵の砲兵を制圧し 或は 敵の後方部隊の増援を妨害す

      我歩兵の益々前進するや 之に痛痒を与えるものは 前二者の外 敵歩兵にして 従って 我砲兵は 其主火力を敵の歩兵 特に我が決戦を企図する正面の敵歩兵に集中すると共に 所要の火力を以って 決戦を企図せざる正面の敵歩兵をも制圧すること肝要なりとす

      然して此際 砲兵火力の一部は依然之を敵砲兵に指向し 之より先 未だ制圧効果を呈せしめ能わざりしものを制圧するは 我歩兵の前進を容易ならしむる為重要なる事項にして 又 敵後方部隊の増援を妨害する為に 一部の砲兵火力を割愛することをも忘る可からざる件なりとす

    3. (ハ) 状況に依りては 当初より 主なる火力を敵の歩兵に集中して之を圧倒するを必要とす

      既述の如き一般の状況と異なり 敵若し我に先だち戦闘準備を完了せんとし 且 地形上初期に於て展開しつつある敵歩砲兵を十分に圧倒する事能わずして 爾後 敵歩兵の攻撃前進移れる後 始めて我砲兵威力を発揚せんとするとき 若は 師団の全正面 或は 主要方面に亙り 不規的に遭遇を惹起したるが如き状況に在りては 我砲兵は 当初より大部の火力を以って敵歩兵を圧倒し 一部を以って敵砲兵等を制圧するを要す

  2. 二、歩兵戦闘開始時期に於ける砲兵

    本項に関しては 既に歩砲協同の部に於て説述せしところなるを以って再説せず

  3. 三、突撃準備時期に於ける砲兵

    砲兵 特に随伴砲兵 及 配属砲兵は 総ての手段を尽して彼我の状況 特に友軍最前線の位置を確かめ 決勝点に対して猛火を集中し 特に我歩兵に危害を与える敵の機関銃 及 歩兵砲等を圧倒して 敵をし震駭せしむるを要し 砲兵として此際 彼我の状況を確認するには 左記手段の総合結果に俟つべきものとす

    1. (一)
      砲兵任務の飛行機の捜索
    2. (二)
      第一線歩兵の通報
    3. (三)
      砲兵より第一線に派遣せる連絡者の通報
    4. (四)
      砲兵各級指揮官の観察
    5. (五)
      各観測 及 情報機関よりする報告
    6. (六)
      高級指揮官の通報

    而して 此際比較的後方に位置して砲兵指揮官の統一指揮下にある砲兵は 彼我戦線の関係上 主として敵の後方部隊の前進阻止に任ぜしむるを通常とし 此等砲兵の砲兵の適切なる運用は 頑強なる敵の抵抗を圧倒して 我前線をして 突撃決行に導かしむるものとす

  4. 四、突撃決行時期に於ける砲兵

    此時期に於ける砲兵は 最も緊密に第一線と連絡し 且 第一線の状況を直視して 適時射程を延伸して 敵の増援を遮断し 以って突撃の奏効を容易確実ならしむるものとす

  5. 五、粉戦 及 戦果拡張時期に於ける砲兵
    1. (一)
      粉戦時期に於ける砲兵は 判然彼我を識別して歩兵に協力すること至難なるも 極力歩兵と連絡を保持して 第一線の状態を明にし 以って歩兵の要求に基き 逐次に要点に射撃を指向して 一意 歩兵の突進を支援するものとす
    2. (二)
      突破 及 戦果拡張時期に於ける砲兵は 概ね前項に準拠し 適宜要点を射撃し 或は 敵の増援を阻止し 以って歩兵を推進するものとし 此際 要すれば逐次陣地を前方に変換して 歩砲の協同を緊密ならしむ