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カーチス XP-62 米陸軍最大のレシプロ単発戦闘機

 XP-62 は米陸軍最大のレシプロ単発戦闘機であり、カーチスが送り出した最後の単発戦闘機でもありました。疲弊しきったカーチスの開発力に多くを望みすぎた要求仕様の無謀が合わさり、ウェストランド・ウェルキン(英)、ブロム・ウント・フォス BV.155(独) と並び「高々度三馬鹿トリオ 」を結成する迷機となってしまった機体です。

 XP-62 の試作発令は 1941 年 1 月で、当時完成したばかりのライト R-3350「デュプレックス・サイクロン」2300hp に排気タービン装備、予圧コクピットを備え高度 27000ft(8230m) での最高速度 487mph(784Km/h), 武装は 20mm×8門ないし 12.7mm×12挺という欲張った性能が要求されていました。
 この無茶な性能を要求されたため、XP-62 の苦悩は設計台に上がった瞬間から始まっていました。設計開始四ヶ月後には早くも 700Kg 近い重量オーバーが予測され、予定速度は 448mph(721Km/h) にまで引き下げられます。その四ヶ月後には再び重量オーバーに直面し、装備機銃の削減(8門→4門)、プロペラ氷結防止装置の省略などで軽量化を図っています。しかし曲がりなりにもプロの設計者が、一体どんな重量試算をしていたのやら首を傾げてしまいますが…。
 それでも 1942 年 1 月には試作機完成の目処がつき、その四ヶ月後には 100 機の量産発注が行われます。しかし、この発注はわずか二ヶ月後にはキャンセルされました。戦況は軍が想定していたような高々度迎撃戦を必要としておらず、海とも山とも知れない試作機の為にカーチスで生産中だった P-47G のラインを混乱させるだけ無駄と判断されたためです。
 武装・装甲を持たない試作機 XP-62 の製作は「高々度実験機」の名目で続行されましたが、製造側も用兵側もこの機体に対する情熱は冷め切っていました。製作遅延に加えて予圧装置の調達は遅れに遅れ、XP-62 の初飛行は予定より二ヶ月遅れの 1943 年 7 月 21 日でした。しかもこの時点でまだ予圧コクピットは装備されておらず、XP-62 が計画通りの姿になったのは 1944 年 2 月の事でした。もはやこの時点ではジェット戦闘機の実用化が秒読みに入っており、レシプロ高々度実験機に何の将来性もない事は誰の目にも明白だったのです。XP-62 はほとんど飛行もしないまま予圧装置の実験台として使われたあと、1945 年を待たずしてスクラップにされました。

 満足な性能試験を行っていないため XP-62 の真価は不明ですが、残された写真を見る限りどう転んでも高性能機には見えません。機体は XP-60C のデザインを継承していますが一回り大きな図体は水脹れしたように締まりがなく、機首にちょこんと付いた二重反転プロペラさえ何とも便りなげです。風防の窓枠が複雑なのは予圧装備の関係上仕方ないとしても、理解しがたいのは風防直後から垂直尾翼にまでダラダラと伸びるドーサルフィン(背ビレ)の存在です。二重反転ペラを使いながらも方向安定性に自信がなかったのか、それなら垂直尾翼の高さでも増したほうが良さそうなものなのですが、この背ビレのためふやけたような側面形が尚更間が抜けて見えます。
 本機は高々度戦闘機らしくスパン 16m の長い主翼を付けていましたが、強い先細テーパーのかかった平面形はあまり頂けません(翼型や捻じり下げの度合いにもよりますが、強すぎるテーパーには翼端失速を促進し揚力効率が下がりやすい傾向があります)。翼幅に対して明らかに短すぎる胴体は「殺人機」「野獣」と嫌われた SB2C ヘルダイバーを彷彿とさせ、いかにも安定性不良・悪性スピン癖を起こしそうです。だからって長い背ビレを付ければ済む問題とも思えませんが…。XP-60 各型の試行錯誤紆余曲折から察せられるように、この時期のカーチス設計陣はまるで思考の柔軟性を失ってしまっているようです。XP-62 は間違った時期に間違ったコンセプトで間違ったメーカーに発注され、駄作機たるべく生まれ駄作機として消えて行った不幸な機体だったと言えるのではないでしょうか。

(文・ささき)

緒元(XP-62 予定性能)
製作1943年
生産数1 機
乗員1
全幅53ft 8in(16.36m)
全長39ft 6in(12.04m)
全高16ft 3in(4.95m)
主翼面積420ft2(39.0m2)
乾燥重量11773LBs(5340Kg)
全備重量14660LBs(6650Kg)
武装20mm 機銃×4(主翼)
発動機ライト R-3390-17 空冷18気筒+排気タービン 2300hp
最高速度448mph(721Km/h) 高度 27000ft(8230m)
実用上昇限度35700ft(10881m)
航続距離900ml(1448Km)


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