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リパブリック P-47 サンダーボルト(Thunderbolt:雷電) 本格排気タービン装備の重戦闘機

P-47(26.8K)P-47
堂々たる体躯を誇る P-47 サンダーボルト。水滴風防装備の後期生産型だが詳しいサブタイプは不明。12.7mm 八連装の瞬発火力はレシプロ戦闘機最強クラスで、ひとたび火網に捕捉されれば大抵の機体は助からなかった。


 P-47 は第二次大戦中実戦参加した単発単座戦闘機では最重量級を誇る文字通りの「重戦闘機」でしたが、初期プロジェクト案 XP-47A はのちのサンダーボルトとは正反対の低高度用軽戦闘機でした。社内呼称 AP-10 と呼ばれたこの機体は 1939 年 8 月に発注されたもので、アリソン V-1710 液冷エンジンを搭載し 415mph(668Km/h) を出す予定でした。しかしヨーロッパからの戦訓が伝えられると武装・防弾などの要求が増大し、小柄な機体にこれらを詰めこむととても予定性能は出ないことが判明し、1940 年はじめにプロジェクトは中断します。

 振り出しに戻った設計者アレキサンダー・カートベリ(Alexander Kartveli) は軍から与えられた要求を改めて見直し、これらを実現するには何より強力なエンジンパワーが必要だと結論づけます。当時実用最強の出力を誇ったプラットアンドホイットニー R-2800 18気筒空冷 2000hp に排気タービンを搭載し、主翼には 12.7mm 機銃を八連装で搭載するという過激な新型戦闘機のアイデアがまとまったのは 1940 年 6 月のことでした。軍はこの提案を受け入れましたが、何故かキャンセルになった番号を再利用し XP-47B の型番で試作を命じます。

 新生 P-47 は従来の戦闘機の延長ではなく、新時代の戦闘機として全てをゼロから見直して設計されました。排気タービンは胴体後部下面に搭載され、エンジン直下を通って吸気および排気ダクトを通すため胴体断面は縦長の楕円となりました。太い胴体を活かして操縦席下部に大容積の燃料タンクを格納しており、エンジン燃費が悪い割には長い航続距離を実現していました。これらのタンクはすべて防漏被服が施されており、被弾面積の減少とあいまって P-47 の撃たれ強さの秘訣となりました。
 強力な R-2800 のパワーを最大限に活かすため直径 12ft(3.66m) の巨大なプロペラを採用し、地面との接触を避けるため主脚は油圧で 9in(23cm) 伸縮する構造になっていました。日本では川西の「紫電」が採用し故障続出に泣かされた機構ですが、P-47 ではほとんどトラブルはなかったそうです。仮に不時着する事態となっても胴体下部に張り出した排気タービンダクトがクッションの役割を果たすため、頑丈な機体とあいまって P-47 の生存率は非常に高かったそうです。

 試作機 XP-47B はわずか8ヶ月後の 1941 年 5 月 6 日に初飛行しました。しかし初の本格的高々度高速戦闘機ということで、量産に至るまでは続出するトラブルの対策に追われました。特に急降下時に遷音速領域に突入するため、機体から部分的に発生する衝撃派によるフラッター(震動)や異常な舵の重さ・構造破壊などの問題は当時未知の領域であり、解決には長い時間と各方面にわたる実験、そして多くのテストパイロットの犠牲を要しました。

 実戦型の P-47C は 1943 年 3 月からヨーロッパ戦線で重爆援護の任務に就きました。速度ではドイツ戦闘機を上回っていたものの横転を除く運動性は劣り、大馬力に関わらず機体が重いため上昇力でも見劣りしました。しかし遷音速に達する急降下速度では並ぶものがなく、高度に余裕さえあれば背後に付いた敵機を容易に振り切ることが可能でした。しかし、この徹底した一撃離脱戦法は重爆編隊に密着して援護するのは不向きで、より俊敏な P-51 が登場すると P-47 は援護任務から外され地上攻撃任務に回されました。
 12.7mm 機銃8挺の火力、日本の重爆に匹敵する爆弾搭載量に加え、強靭な対弾性を持った P-47 は地上攻撃に最適の機材でした。持ち前の対弾装備に加え大直径の空冷エンジンはパイロットを守る盾の役割も果たし、被弾に弱い液冷エンジンと違いシリンダが2つ3つ欠落しても帰還するタフさ見せました。重武装で頑丈な P-47 は実戦での生還率も高く、パイロットから「ジャグ(Jug...ジャガーノート(Juggernaut※)の略」の愛称で親しまれました。P-47 パイロットからはフランシス・ガブレスキー(Francis S. Gabreski,31機撃墜)やハバート・ゼムケ(Hubert Zemke,20 機撃墜)など全米トップクラスの撃墜王も生まれています。

 1942 年 11 月には機体を軽量化して一層の高速化を図った試作機 XP-47J が試作されています。約一年後に飛んだこの機体は 800Km/h を超える速度を発揮しましたが、より強力なプラット&ホィットニー R-4360(3000hp) を搭載した発展型 XP-72 の実現によって一機のみの試作に終わりました。
※ Juggernaut とはヒンズー教におけるクリシュナ神の神像、転じて「守護神」「大きな破壊力を持つもの」、英語では「大型トラック」の意味があるそうです。
(文・ささき)

XP-47J(9.6K)XP-47J
延長軸、先絞りカウリング、強制冷却ファンを持つ「アメリカ版雷電」XP-47J。カウリング下部の開口部は排気タービン吸気口。風防は水滴型ではなく後部胴体と滑らかにつながったファスト・バック型で、しかも P-47 初期型の鋭く突出した「レザーバック」型とは形状が違う。流麗と言うよりむしろ無骨な機体だが、水平飛行で 507mph(816Km/h) という驚異的速度を記録した。



緒元(P-47D-30)
製作1941年
生産数15683 機(全タイプ合計)
乗員1
全幅40ft 9in(12.42m)
全長36ft 2in(11.02m)
全高14ft 7in(4.45m)
主翼面積300ft2(27.9m2)
乾燥重量10700LBs(4854Kg)
全備重量14600LBs(6623Kg)
武装12.7mm 機銃×8(主翼)
爆弾 1000LBs(454Kg)×2または 500LBs(227Kg)×3
主翼下に HVAR 5in(12.7cm)ロケット弾5発×2
発動機プラット&ホィットニー R-2800-59 空冷18気筒 2535hp
最高速度429mph(690Km/h) 高度 30000ft(9144m)
実用上昇限度40000ft(12192m)
航続距離950ml(1529Km)
1800ml(2897) 増槽使用時

P-47 サブタイプ一覧
サブタイプ生産数特徴
XP-470軽戦闘機案 非武装試作型
XP-47A0軽戦闘機案 武装試作型
XP-47B1試作型
XR-2800-21(1960hp)
P-47B171実質上の量産先行試作型
R-2800-21(2000hp)
P-47C692P-47B の量産向け改良型、全金属舵面、方向舵増積
後期型は機首延長、爆弾/増槽懸下機構装備
P-47D12558主力量産型
生産ブロックによってヴァリエーション多数
P-47D-1964初期生産型、P-47C の小改良
R-2800-21(2000hp)
P-47D-41100水噴射機構に対応(ただし未装備)
P-47D-11650R-2800-63(2300hp)水噴射を標準装備
P-47D-15886胴体に爆弾/増槽懸下機構を装備
P-47D-20926主翼にも爆弾/増槽懸下機構を装備
R-2800-59(2300hp)
P-47D-221739プロペラを大直径(13ft, 3.96m)の幅広タイプに換装
P-47D-25635水滴型風防装備
P-47D-272393垂直尾翼前に背ビレの追加
P-47D-303256主翼にロケット弾懸下器の装備
XP-47E1P-47B を改造、予圧コクピットを備えた高々度型
XP-47F1P-47B を改造、層流翼を備えた試作型
P-47G354P-47D のカーチス生産型、多くは国内で訓練用に使われた
P-47G-1120P-47D-1 とほぼ同仕様
P-47G-10234P-47D-15 とほぼ同仕様
TP-47G2縦列副座の練習機型
XP-47H2液冷エンジン搭載の試作型 予定速度 490mph(789Km/h)
クライスラー XIV-2200 液冷16気筒 2300hp
XP-47J1徹底した高速化を狙った試作型、試験飛行で 507mph(816Km/h)を達成
既存機 P-47D 改造だが胴体は完全に再設計
延長カウリングと強制空冷ファン、主翼機銃を6挺に削減
R-2800-57(2800hp)、新型 CH-5 排気タービン
XP-47K1D-25 の先行試作型、P-47D-5 にホーカー・タイフーンのキャノピーを装備
XP-47L1XP-47K 同様水滴風防の試作型、燃料容積増大
YP-47M3P-47D を改造した P-47M 試作型
R-2800-57(2800hp)+CH-5 タービン
P-47M130ジェット機などドイツ新兵器に対抗するため急遽作られた高速迎撃型
P-47D-25 の出力強化、最高速度 470mph(756Km/h)
主にイギリスで V-1 迎撃に使われた
R-2800-57(2800hp)+CH-5 タービン
YP-47N1P-47D を改造した P-47N 試作型
P-47N1814対日戦線向け長航続型、最大航続距離 2350ml(3782Km)
主翼を再設計し翼内タンクを増設、翼端は切り落とし型
R-2800-57(2800hp)+CH-5 タービン

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