第十七章
The End of Destiny

アラスカ級大型巡洋艦




S:巡洋艦なんだけどね・・・
★:アラスカですね
S:彼女は、つまりは米海軍の金剛コンプレックスが産み出したものだと言える
☆:でも、この性能では金剛型には対抗できないようにも感じますよ〜

S:さて、大和で考察したように
  大和は遊撃打撃部隊用の戦力ではない
  それは金剛型と重巡洋艦が果たす任務だ
★:アラスカはそれに対する兵力だったと?
S:それだけならアイオワと重巡で構わないよね
  アラスカは重巡を潰すにはちょっと大げさだし、金剛には勝てない
  つまり中途半端にも思える
☆:アイオワがあるのに建造する意味は無いですーっ
S:そうなんだ、必要性の薄い存在だといえる
  だけど
  日本軍が12インチ級の主砲を備えた巡洋戦艦モドキを計画しているという情報が入ってしまった
  そうなると既存の重巡は対抗できない、これはすっごく困るな
★:でも、それって中途半端では?
S:日本には金剛が居る、つまりこの新型艦は重巡だけを考えればよい
  米軍は金剛という厄介な代物も考えないといけないのに対して、こいつはそれを考えなくて良い
  つまり成立する余地は充分にある
  日本軍は重巡や巡戦が大好きで、その傾向からしても納得できる
  そして、そいつが登場したら、金剛とセットで暴れたら、何とかしないといけない
☆:はいっ、それもアイオワで潰しましょうーっ
S:3万トン程度の代物を潰すのに5万トン近いアイオワを使うのか?
  そしたら金剛はどうするんだ?
☆:えと、いっぱい作れば・・・・勿体無いですね
S:そゆ事だな、アラスカはこの幻の日本の超甲巡への過剰反応として計画されたんだ
  勿論、二級戦艦であるダンケルクやシャルンホルストにも一定の対抗が出来る位置付けで
  戦艦以外の全てに勝利出来る存在という側面も無視できない
  軍縮条約直前の重巡洋艦と同様の性格を持っているとも言える
★:戦艦には勝てないけど軽巡には勝てる存在、それが重巡洋艦だとするなら
  確かにアラスカは戦艦には勝てないですが重巡には勝てますから、位置付けは判ります
S:こうした位置付けは、戦力を一種のピラミッドとして考えてみるとわかる
  食物連鎖と同じだ、より強いグループが上位に来る
  戦艦と重巡の間が大きいなら、そこの狭間に一つのグループを設けるのは悪くない

S:アラスカは米軍だから必要性が有った
  ライバルである日本軍には沢山の重巡がいて、その対応策に苦慮していた
  米軍には有力な高速大型戦闘艦が少ない
  アイオワ級やそれ以降の超高速戦艦が充実してくればそれらの問題は大きく緩和するけど
  それには時間とコストの両面で非常に難しい
  日本軍が高速大型戦闘艦艇の駒を増やすとしたら、何とかして一定の対抗戦力を用意しないといけない
★:一種のピンチヒッター的な存在ですね
S:アラスカが中途半端な艦艇になったのは、米軍がその程度の代物として計画したからだし
  その理由は、応急的対応策だったのだから仕方が無いと言える

S:さて、アラスカを詳細に見てみよう
  基本的なデザインは条約後期の重巡や条約型戦艦と共通しており
  米軍の基本的なスタイルと言える、バランスの良い優れた配置だといえる
  武装は新型の12インチ、当然SHS
  火力はかなり大きい
  だけど射程は短く、金剛を追跡するような任務には不適格だ
  またその防御は36サンチに対抗するには貧弱で、接近戦に持ち込まないと金剛には勝てない
☆:重巡洋艦を叩くには充分な威力ですーっ
S:そうだね、重巡潰しには上等だ、防御力も重巡相手なら余裕がある
  ある意味金剛対アイオワの縮小版とも言える
  ただし、アイオワが優秀な戦艦として活用できるのに対して、アラスカは戦艦として使うには貧弱だ
  重巡洋艦を2隻建造した方が使い勝手は良いかもしれない
★:通用する最低限の戦力で最大多数・・・
S:つまり、有ると思っていた、戦力ピラミッドの隙間は、無かったんだ
  最低レベルはたぶん金剛のレベルだったんだ
  もしくは、その位置付けが空いていたとしても、それはあまりにもコストパフォーマンスが悪かった
  アラスカが中途半端になった理由は単純だ
☆:火力が足りないんですねーっ
S:そう、戦艦の存在意義とは火力に尽きる
  アラスカが戦艦として成立しないのは火力が無いからだ
  もし16インチ6門とかを備えた艦にしていたら、金剛にだって対抗できたし
  決戦でも支援戦力として十分に活用できただろう
  多少防御が不満だが、使えないわけではない
★:シャルンホルストと同様の問題を抱えてしまったんですね
S:重巡を射撃するとか、超甲巡を撃つ状況なら
  つまり自己の火力が敵に通用するならば、砲の威力はどうでも良い、手数が重要になる
  この場合、16インチ6門よりも12インチ9門の方が効率的だろう
  だけど12インチではそれがSHSでも、戦艦に通用しない領域が大きすぎる
  戦艦という厄介な奴が居る事がはっきりと判っているのに
  それに対して対応する能力が無いというのは非常に問題だ
  米軍の場合は重巡洋艦も同様の問題を持っている
  戦略レベルで見た場合、これはあまり大きな問題にはならないけど
  戦場では、必ずしも有力な味方の支援が期待できるという保証は無い
  自分の力で何とかしなくてはならないという局面が多発する
  特に大型戦闘艦ではそういった事が要求される
  アラスカは優れた性能を持った艦艇だ、その目的によく合致した性能を持っている
  だけど、その前提条件がそもそも間違っていたのと、能力を絞りすぎた結果
  非常に限界の低い尖った性能を持った艦になってしまった
★:機能を限定する事の危険性と
  火力に注力しなかった事のマイナスがこの結果に繋がったと見て良いですね
S:結果的にアラスカの戦力価値は重巡に毛が生えたような代物でしかない
  アイオワや金剛が持っていたような、対応に苦慮するような恐ろしさを持っていない
  そして重巡洋艦としてみた場合、ちょっと図体がでかすぎる
  これらは、米軍の戦力構成が急速に変化する過渡期だったから起きてしまった問題点だろうね

S:さて、けなしても始まらないね
  アラスカの戦闘能力を考えてみよう
  まずは、実際に運用するとしたら一番良く遭遇したと思われるのは?
★:日本軍の1万トン級重巡洋艦群ですね
S:連中は傾斜した100mm級の舷側装甲を持ち、甲板は60〜30mmになってる
  丁度良い機会なので、日本軍重巡の一風代わった甲板装甲を見てみよう

  

S:傾斜した甲板で砲弾を防ぐという奴があったよね?
  あれを応用したスタイルだ、60〜65mmの傾斜甲板と100mmの舷側装甲を組み合わせたんだな
  傾斜甲板によって得られる防御効果と甲板主体で失う船内容積の妥協点を高いレベルに持っていこうとしたんだな
★:でも、この場合、遠距離で大きな落角で降って来る砲弾には辛いのではないでしょうか?
S:そうだね、この甲板の傾斜角度は、ざっと見て約15度ぐらいだ
  水平部は約30〜35mmだから、これは16,000mぐらい遠距離なら20cm砲弾で貫徹する
  さすがにそこまでは踏ん張れないんだが、凡そ12,000ぐらいまでならこの傾斜甲板は耐えるんだよ
  近距離なら、落角が小さいので、20cm砲弾には対抗できる
  つまり舷側装甲と甲板装甲の役割を充分に果たす事ができて、船内容積を確保できる
  最大の利点は製造に厄介な厚い装甲の使用を局限できる事だ
  1万m以内の戦闘を想定していた場合、この甲板装甲は極めて有効な防御になる
  勿論完璧ではない
  美汐が言うように遠距離では半分の厚さの水平甲板よりも弱い
  あくまでも限られた範囲での防御しかないんだ
☆:この装甲って、想定より大威力の砲弾相手では、ほぼ全距離で貫徹されるんですよね
S:そう、遠くに離れても接近しても、駄目だね
  この装甲は20cm以内、1万以内という条件ではたぶん最高の重量効率を持つ装甲だったんだ

S:重巡洋艦の防御力は大目に見ても舷側150の甲板50程度だから
  アラスカの主砲は全域で有効で、ほぼ全ての距離で有効弾発生確率が100%になる
  命中すれば潰せるって事だ、重巡を叩くには最高だね
★:でもこの火力ですと戦艦級に出会ったら悲惨ですね
S:うん、甲板への威力は全然足りない
  ある程度以上の改装をした戦艦には無力に近い
  舷側への威力は中々強力で、侮れないけど、それでも戦艦級への対応で考えると力不足だし
  もう一つの問題として、防御力が不足している
☆:12インチ砲弾には対応した防御なんですけどね・・・
S:不運なのは、世界中の殆どの戦艦は12インチよりも大きな大砲を積んでいるって事だな
  まあ、アラスカのライバルと呼べるのはシャルンホルストだと思うので
  そっちと、ついでに天敵とも言える金剛で比較してみようか

☆:えっと、 金剛    シャル : アラスカ で比較しますーっ
  舷側装甲 203 : 350 : 229
  甲板装甲 152 : 105 : 102

★:金剛VSシャルで
  安全範囲は
  金剛   舷側25km〜 甲板は〜36km
  シャル  舷側16km〜 甲板は〜25km
☆:全然かみ合ってないですねーっ
  20km弱ならシャル、25km以遠では金剛って感じでしょうか

★:金剛VSアラスカですと
  安全範囲は
  金剛   舷側32km〜 甲板は〜30km
  アラスカ 舷側26km〜 甲板は〜25km
☆:お互いに相手の砲弾に対する安全距離が無いです〜

★:そして、シャルVSアラスカですと
  安全範囲は
  シャル  舷側20km〜 甲板は〜25km
  アラスカ 舷側23km〜 甲板は〜27km

S:その距離の有効弾発生確率も考えてみると?
  つまりはこんなグラフになる
  まずはシャルンホルスト対金剛だ

  

★:独艦は2万近辺、金剛は25km以遠が有利ポジションですね
  接近したらどちらもグチャです
S:味方同士だから実際、この両者を比較しても意味は無いんだが
  火力絶大防御薄弱と火力最低重防御の比較としてみてもらいたい

S:そして、これが金剛対アラスカ

  

★:安全距離が殆ど無い同士の対決ですが
  金剛の方が有利なようですね

S:そして最後がシャルとアラスカの比較だ

  

★:20kmで戦ったらアラスカ不利
  25kmだシャルンホルスト不利と見て良いでしょう

S:実際には、対敵姿勢の影響を考慮していないので
  近距離側はもっと悪くなると思う、つまり甲板打撃力の大きい金剛が有利だ
★:そして、大半の戦艦は金剛よりも火力が大きく、そして金剛よりも舷側装甲が厚いのですね
S:3万トン級の船体に30cm前後の主砲を適度に搭載した艦は
  結局、基本となる火力が中途半端であるがゆえに、戦力として中途半端なんだ
  シャルンホルストもアラスカも、技術的には大変に優れたところの多い優秀な艦だ
  だけど、改造を何度も行っているとはいえ、30年近く前の巡洋戦艦にも対抗が難しい
  勿論、これは金剛がバケモノだったことが最大の理由なんだが
  金剛が化け物だった理由は、その絶大な火力に有った
  火力こそが全て、つまりはそういう事なんだ
  大型戦闘艦は建造にも維持にも大きなコストがかかる
  それだけのコストを支払う事を考えると
  中途半端な火力しか無い、こういった艦は存在意義そのものが失敗だったといえるんだろうな
★:なんで、こんな艦が出てしまうんでしょうね
S:一つは戦艦の大型化があるんだと思う
☆:巨大で高価な戦艦では必要量を賄えないんですねーっ
S:この手の、適当なサイズでバランスの良い攻防性能を持った艦艇ってのは偶に出てくる
  第一次大戦直前ぐらいの各国が熱心に建造した大型装甲巡洋艦なんかも同類だ
  こんな奴だね
  
S:これは先代のシャルンホルスト
  12000トンぐらいの装甲巡洋艦で
  この規模の艦としては比較的高速、充実した防御力を持っていて
  21サンチ砲を片舷に6門向けられる
★:当時としてはバランスの取れた優秀な艦艇ですね
S:だから同類っていうか、性能バランスの悪い英国の装甲巡洋艦に勝てた
★:そして、巡洋戦艦にいいところなしで粉砕されました
S:では、なんで、こういった装甲巡洋艦が沢山作られたのかだ
  装甲巡洋艦に熱心だった日本海軍は、さっさと装甲巡洋艦の主砲を戦艦主砲と同じにしちゃった
  つまり、彼らは殴りあいでモノを言うのは何かを判っていた上に
  装甲巡洋艦を殴りあいに用いるつもりだったんだ
☆:つまり、戦うつもりなら、武装に多くのリソースを回すべきですよね
S:ダンケルクの項でも言ったよね
  一番でかい大砲を載せたのが戦艦だ
  だから、他の艦は『戦艦じゃない』事の理由として、主砲が小さいとも言える
  日本以外の各国の装甲巡洋艦は、言わば一等巡洋艦であり
  つまりは海外植民地警備とかにも多用される艦艇だから
★:政治的に『戦艦じゃない』事も求められると
S:第二次大戦時のシャルンホルストが
  英国の顔色を気にして38サンチ砲を諦めたのも、似てるよね
☆:アラスカが戦艦では無くて『大型巡洋艦』なのも同じ理由ですか・・・
S:はっきりと断言は出来ないんだけど
  日米の『戦艦』は決戦用の伝家の宝刀なんだ
  つまり、簡単には使えない、だから日米は重巡洋艦を多用したね
☆:でも、日本軍は金剛型巡洋戦艦も『こき使い戦力』として使ってますーっ
S:巡戦だからでしょ
  それに、それでも、難しい根回しが根底にあったんだ
  戦艦部隊としては金剛を戦艦として使いたい、でも遊撃部隊からはあれを寄越せと言ってくる
  まあ、日本軍の場合は、金剛を投入しようと思えば投入できる
  では米国の場合は?
★:アイオワ級もあるのでは?
S:彼女達は金剛が暴れだしたらそれに対するカードになる
  つまり、日本軍の重巡に対するカードとして用いる事が出来ない
  それに1万トンの重巡を何とかするのに、最新の5万トン戦艦を使いたくないだろ
★:数が揃いませんね
S:この手の艦は
  下を重巡、上を戦艦に挟また有るのか無いのか微妙な隙間に存在を置くしかない
  日米が重巡洋艦という艦種を愛用したために
  重巡キラーとしての意味がアラスカの意義だったんだ
  だが、程よいバランスで建造された彼女は
  つまりは重巡にしか勝てない艦で、巨大な強力な、超重巡洋艦でしかない
☆:日本の対抗艦の名称がそれですねっ
S:超甲巡だな
  甲巡とは重巡の事だから、つまりは、そーいう事だ
  意義も価値も、つまりはでっかい重巡でしか無かったんだな
  軽巡洋艦としても使えて、それでいて強いってのが重巡の良い所だから
  その軽巡洋艦としての有用性を捨てた艦は、極めて中途半端な艦だと結論するしかない
★:コレを作るなら、真っ当な巡戦なり戦艦なり多数の重巡なりを作りますよね
S:米軍では維持するのが問題だったみたいだけどね
  戦艦並にコストがかかるのに、巡洋艦よりも役に立たない
  勿論、戦艦としてはとても使えないわけだし
☆:どういった戦力を作ればよいのかって、難しいんですねっ
S:アラスカは幻の、つまりは存在しない日本の超甲巡が根底にあったからね
  ただでさえ、金剛と重巡に悩んでいたし・・・
  つまりは、これも金剛への恐怖だったと言える


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