作戦要務令

第四部


上陸戦闘

第2章 上陸戦闘実施

第2節 各兵種の戦闘
第1款 歩兵
  1. 第80
    歩兵は上陸の初期に於いては他兵種、特に砲兵の協同を受くること困難なるを以って、独力戦闘を遂行し、特に水際戦闘に於いては断乎突進し白兵の威力を遺憾なく発揮し、速やかに戦勝を獲得せざるべからず
小(分)隊
  1. 第81
    移乗の為小隊長は中隊長の命令に基き艇長と連絡し、要すれば小隊を区分し、所定の発動艇に移乗せしむ。此の際、第1回上陸部隊に在りては綿密的確に指導し、錯誤混雑なからしむること緊要なり。又、同一舟艇に乗組むべき他部隊の人員に対しては事前に連絡するを要す
  2. 第82
    移乗の為進出を命ぜらるるや、小隊長は所定の進路を経て部下を移乗位置に誘導し、配当せられたる索梯に応じ、移乗順序に通常一列縦隊の分隊を併列す
    小隊を区分して乗艇せしむる場合に於いては自ら其の主力を指揮し、爾余は先任分隊長をして指揮せしむ
  3. 第83
    小隊長(小隊を区分したるときは先任分隊長を含む、以下同じ)は移乗の為、甲板及び舟艇内に各々1、2名の幇助者を配置し、命令あるや速やかに移乗を開始す。此の際、小隊長は通常最初に移乗し艇首に在りて部下の移乗及び艇内に於ける占位を指導するものとす
  4. 第84
    索梯降下に方り、小銃、軽機関銃は銃身を前にし負革を以って肩に懸くるか、或は負うを可とす。時として、負革を頸に懸け、救命胴衣又は背嚢の上端に負うを便とすることあり
    波浪高く移乗動作困難なるときは、小銃或は軽機関銃は一纏めとし天幕に包み、畚(フリガナ:もっこ)、網、又は揚貨機を以って艇内に卸下することあり
  5. 第85
    移乗に方りては幹部の指示、幇助者の合図に依り、遅疑することなく舷牆を跨ぎ降下す
    降下に方りては、確実に中綱を握り上体を索梯に沿わしめ、体重を両腕に托する如くし、交互に迅速に桁を踏み舟艇内に降下し、速やかに所定の位置に到り踞坐す。此の際、艇員の動作を妨げざるを要す
  6. 第86
    移乗に方り、波浪の為舟艇の動揺大なるときは、舟艇に移る直前、幇助者の「待テ」の合図に依り先ず両足を揃えて確実に桁を踏み、次いで波浪の最高点に達せんとするとき幇助者の「宜シ」の合図に依り軽く踏切り、同時に両手を中綱より離して艇内に跳降りる。此の際、幇助者は顛倒せしめざる如く幇助す
  7. 第87
    第1回に上陸する重火器等は第43に拠り通常泛水前舟艇に搭載し、第2回以後に在りては、畚(フリガナ:もっこ)、網、揚貨機、或は端艇鉤を以って卸下するものとす
  8. 第88
    小隊は水上及び水際の戦闘に便なる如く艇内に占位す。之が為、艇首に軽、重機関銃を置き、各分隊は之を重畳又は併列し、最後に上陸する者は之を艇尾附近に配置せしむるを可とす。而して、小隊長は艇長と共に通常艇首に位置するものとす
  9. 第89
    航進中、敵の射撃又は照明を受くるも乗艇部隊は妄りに応戦することなく、沈着(1字不明)粛を旨とし迅速に上陸するを要す
    艇内に於いて各兵は姿勢を変じ又は位置を移動すべからず。而して、波浪特に大にして動揺甚だしきときは舷側に近き兵は足掛りを把持し、其の他の者は互いに腕を組み、以って安定を図るを可とす
  10. 第90
    敵を制圧するにあらざれば上陸困難なる場合に於いては、予め準備せる所に基き軽、重機関銃、擲弾筒、歩兵砲等を以って艇上より射撃を行い、上陸を強行するものとす
    • 軽機関銃を以って艇上射撃を行うに方りては、艇の動揺に応ずる如く身体を屈伸す
    • 擲弾筒を以って艇上射撃を行うには艇首に近く舷側に位置せしむ。而して、射撃に方りては止板を舷側上に置き、艇の概ね水平となりたる時機に発射するを有利とす。此の際、止板下に土嚢を準備し置くを可とす
    • 機関銃を以って艇上射撃を行うに方りては、通常歯弧及び駐螺桿を脱し、舟艇の動揺に応じ身体を屈伸す
    • 歩兵砲を以って艇上射撃を行うに方りては、艇内に砲を固定し、適当なる照準高を得る如く所要の設備を施す。艇長は射方向と舟艇前進方向を一致せしめ、砲手は舟艇波浪の最高点に達したる瞬間発射す
  11. 第91
    舟艇達着するやOn閨iフリガナ:おもてしゅ ユニコードどうしよう?)は直ちに跳込みて模合綱を保持し、小隊長は「跳込メ」の号令を下すと共に率先先頭に立ち、分隊長以下は此の号令に依り直ちに勇敢機敏に跳込み、所命の目標に向い突進すべし
  12. 第92
    小発動艇より跳込みを行うには「跳込メ」の号令にて右(左)舷より跳込む。右(左)舷より跳込むには、銃を右(左)手に保持し、左(右)手にて舷側頂を握り、左(右)足を足掛けに掛け、右(左)足にて舷側頂を踏切り、膝を屈め重心を低くして、銃を高く保持しつつ、脚を開き両足同時に地に着く如く跳込むものとす
    • 軽機関銃を小発動艇より揚陸するには1名の銃手先ず跳込み、銃を受取り、分隊長に続行して上陸し射手となる
    • 機関銃を小発動艇より揚陸するには2名の銃手先ず舟艇の一側に跳込み、艇内の2名協同して銃を射撃位置より後方に引下げ、前、後棍を装したる後、之を渡す。受領したる2名の銃手は協同して搬送す。分隊長は右の動作を指導したる後速やかに跳込み、銃と共に上陸す。波浪大なるときは四人搬送又は分解搬送を可とすることあり
    • 自動砲を小発動艇より揚陸するには機関銃に準ず
  13. 第93
    大発動艇より上陸するには歩板に依るを通常とす。状況に依り艇首に近き舷側よりする跳込みを併用することあり
    歩兵砲の揚陸は山砲に準ず
  14. 第94
    救命胴衣は上陸後成るべく速やかに海岸附近に於いて之を脱し、発見容易にして且つ満潮に際し流失せざる位置に集積し置くものとす。而して、之が収集、整理は揚陸作業隊の担任とす
中隊
  1. 第95
    第1回に上陸する中隊は通常全力を第一線に展開するものとす
    中隊長の上陸に関する命令には、概ね左の事項中必要の件を包含せしむるものとす
    • 中隊の上陸海岸及び進出すべき地点
    • 乗艇区分、移乗順序及び移乗の為の集合法(待機位置、集合時機、移乗位置、進出時機、進出路、集合隊形等)
    • 上陸直後に於ける大隊長及び各部隊との連絡法
    • 勤務員の割出及び帰還に関する事項
    • 第2回以降上陸する者の行動
    • 輸送船に残置せる物件の処置法等
  2. 第96
    中隊の乗艇区分を決定するに方り考慮すべき件、概ね左の如し
    • 艇隊の編成及び達着時に於ける舟艇の関係位置を考慮し、各小(分)隊の配置を適切ならしむ
    • 他部隊の乗艇者は各々其の任務に基き適宜乗艇せしむ
    • 中隊長は艇隊長と共に基準艇に乗艇す
    • 小隊長の乗艇せざる舟艇には要すれば適任の幹部を配当す
  3. 第97
    艇隊の航進中、中隊長は部下の状況を明らかにし、敵の急襲、舟艇の故障等に対しては艇隊長と連繋して所要の処置を講ずること必要なり
    中隊長は、航進中陸岸を観望し得るに至れば、現地の実況に基き戦闘指導の要領を確定し、上陸するや機を失せず的確なる指導を為し得る如く準備すること必要なり
  4. 第98
    中隊長上陸するや、直ちに率先先頭に立ち、中隊を提げ一挙所命の目標に向い突進すべし。此の際、速やかに部下部隊を掌握し、且つ現地に就き攻撃目標若しくは攻撃前進すべき方向を的確に示すこと緊要なり
大隊
  1. 第99
    大隊長の上陸に関する命令には、概ね左の事項中必要の件を包含せしむるものとす
    • 大隊の上陸海岸及び進出すべき地点
    • 各中隊の上陸海岸及び進出すべき地点
    • 艇隊群(艇隊)の編成及び行動
    • 勤務員、連絡員、及び其の任務
    • 第2回以後の上陸部隊の任務若しくは其の行動
    • 弁当、糧秣、及び飲料水に関する事項
    • 水際戦闘に於ける救護等
  2. 第100
    大隊は当初上陸する部隊の全力を第一線に展開するを通常とす。予備隊は爾後上陸する部隊中所要のものを以って之に充て、若しくは第一線部隊より適時控置するものとす
    状況に依り、上陸当初所要の重火器を第一線部隊に分属することあり
  3. 第101
    大隊は当面の敵を攻撃して所命の進出すべき地点に向い前進す。之が為、第一線各中隊をして一挙に大隊の進出すべき地線に進出せしむべきや、或は各中隊の先ず進出すべき地点を示すべきやは状況に依る。後者の場合に於いて各中隊に命ずる進出すべき地点は、敵情、地形に鑑み、大隊の統一せる戦力の発揮、大隊の進出すべき地線への進出に便なること等を考慮し選定するを要す
  4. 第102
    大隊長は第一線中隊と共に第1回に上陸す。此の際、所要の指揮機関を伴い、通常大隊艇隊群の指揮艇に乗組む。又、大隊長は連絡班をして上陸直後に於ける連絡に遺憾なからしむること緊要なり
  5. 第103
    大隊長上陸戦闘を指揮するに方りては既定計画の断行に勉むべしと雖も、戦火を拡張せんが為、第2回以後に於ける上陸部隊の上陸海岸及び上陸後の行動に関し臨機部署するを要することあり。此の際、機を失せず揚陸作業隊及び連絡員に自己の企図を明示し、爾後の上陸部隊の行動を戦機に投ぜしむること緊要なり