作戦要務令

第四部


上陸戦闘

第1章 上陸戦闘に関する諸準備

第5節 泊地進入時期及び泊地に於ける準備
  1. 第42
    上陸部隊及び揚陸作業隊の上陸準備は、勉めて早期(上陸前日の夕刻迄)に整え、輸送船隊泊地投錨に先だち夫々之を完了するを要す。而して、輸送船投錨後、舟艇の泛水及び部隊の移乗を整斉迅速ならしめ上陸開始迄の時間を短縮するは、上陸戦闘の為極めて緊要なり
    上陸準備間火光及び騒音を発するを厳に戒め、且つ船上の作業を妨害せざること緊要なり
  2. 第43
    上陸部隊及び揚陸作業隊の上陸準備の要領、概ね左の如し
    • 当初に上陸すべき部隊の重火器、火砲、其の他の携行材料等は、之を舟艇に搭載固縛し、要すれば射撃設備を行う。瓦斯空襲の虞ある場合に於いては、舟艇に被毒防止の処置を講ず
    • 弾薬、器具、戦闘用諸材料、糧秣、飲料水等は適宜之を分配し、其の携行法を定む
    • 通信機材、発煙筒、信号弾、防毒面、眼鏡、地図等は予め防湿の処置を講ず
    • 上陸の為の勤務員を配置す
    • 各兵をして着装を整えしむ。徒歩兵着装の一例左の如し
      • ゴム足袋を穿ち、背嚢を除き、水筒、雑嚢を肩に懸く
      • 規定外の弾薬、糧食、飯盒等は、天幕に入組み背負袋と為し、之を負うか或は腰に巻く
      • 小円匙等の器具は背部の帯革に挿し、或は紐にて肩に懸く
      • 防毒面は待機姿勢とす
      • 鉄條鋏は之を腰部にて帯革に挿す
      • 救命胴衣は射撃を妨害せざる如く、着脱部を右肩に在らしむ
      • 手榴弾は雑嚢に収容す
    • 上陸用資材、特に舟艇の機能及び燃料の整備を点検し、且つ其の卸下を準備す。又、汽艇は為し得れば船上にて汽醸す
    • 揚貨機、舷梯、策梯等は直ちに之を使用し得る如く準備し、且つ其の作業に要する人員を配置す
  3. 第44
    各級指揮官は、舟艇の集合位置、航進隊形、航路、航進速度、上陸海岸達着予定時刻等を承知して、之を部下部隊に徹底せしめ置くこと緊要なり
  4. 第45
    輸送船投錨と共に、揚陸作業隊は舟艇を泛水す。而して、当初に於いては各輸送船に搭載せる舟艇を以って各々其の乗船部隊を上陸せしむるを通常とす。時として、計画に基き各輸送船搭載舟艇を彼此融通することあり
  5. 第46
    輸送指揮官は揚陸作業隊と密に連絡し、舟艇の準備進捗に伴い速やかに乗船部隊を之に移乗せしめ発進準備を完了す
  6. 第47
    第1回上陸部隊移乗を完了せば、各舟艇は通常本船附近所定の位置に集合して艇隊を編成し、直ちに出発し得る如く所定の隊形を整え発進の命を待つ
    輸送指揮官は前項の準備を完了せば、示されたる所に依り速やかに之を師団長に報告するものとす