作戦要務令

第四部


上陸戦闘

第2章 上陸戦闘実施

第1節 上陸戦闘一般の要領
第1款 艇隊群(艇隊)の航進
  1. 第48
    上陸開始の時刻は、状況、特に戦術上の要求、護衛の程度、敵情、明暗の度、泊地及び潮汐の関係等を考慮し、師団長護衛指揮官と協議決定するを通常とす
    上陸開始の時刻は通常当初に上陸すべき部隊の達着を天明直前ならしむる如く定むるを有利とす。状況に依り、夜間又は濃霧に乗じ、或は昼間上陸を決行することあり
  2. 第49
    上陸開始に方りては、師団長の命令に依り通常全艇隊群(艇隊)一斉に発進す。各艇隊群(艇隊)は指揮艇(艇隊群長の乗艇【基準艇 艇隊長の乗艇】)の誘導を以って、一意所命の上陸海岸に向い航進す
    発進の命令は無線電信、電話、電波感受に依る点燈装置、敵に対し遮蔽装置を施せる信号燈、舟艇等に依り伝達し、或は此等を併用して其の迅速確実を期するものとす
  3. 第50
    艇隊群(艇隊)は、当初指揮及び運動に便なる隊形を以って航進し、陸岸に接近するに従い横広の隊形に移るを通常とす
    艇隊群(艇隊)は敵の不意に乗ずる如く勉めて隠密に行動し、過早に我が企図を暴露せざるに注意するを要す。然れども、一度敵に発見せられ射撃を受くるに至れば敢然上陸を強行するを要す。状況に依り、最初より敵の抵抗を破摧し障碍を排除して上陸を強行することあり
  4. 第51
    上陸に方り、計画の如く艇隊群(艇隊)或は舟艇を上陸海岸に誘導するは艇隊群(艇隊)長又は艇長の任とす。而して、達着海岸を変更する場合に等に於いては、艇隊群(艇隊)の指揮は乗艇部隊高級先任指揮官の指示に基き、艇隊群長(艇隊長)之に任ずるものとす
    艇隊群(艇隊)の航進中、乗艇部隊の各級指揮官は為し得る限り当面の状況を観察し、必要の事項を部下に指示し、以って意図の徹底を図るを要す
    艇隊群長(艇隊長)は指揮、連絡の為、通常信号、記号等を規定し、又、各舟艇は信号燈、手旗等を以って相互の連絡を行うものとす
  5. 第52
    艇隊群(艇隊)の航進中、敵は武装せる舟艇を以って擾乱を企図し、或は障碍物を急設することあるを以って、不断の警戒を怠らざるを要す。此の際、特に装甲艇隊等を以って艇隊群(艇隊)の進路又は翼側を援護せしむるを得ば有利なり
    艇隊の航進中、舟艇敵弾或は不慮の原因に依り故障を生じたるときは、乗艇部隊は舟艇乗組員に協力し、且つ機宜の処置を講じ、一意上陸目的の達成に勉むるものとす
  6. 第53
    水路を閉塞する障碍物は之を超越通過し、或は迂回するを可とす。然れども、水中障碍物を排除するを要するときは通常揚陸作業隊之に任ず
  7. 第54
    水際障碍物の排除は、状況、特に障碍物の種類及び強度に依り異なるも、各舟艇毎に予め破壊班を準備し、上陸と同時に之を実施するを通常とす。状況に依り、揚陸作業隊の一部を先行して之を排除せしむることあり。而して、水際障碍物を排除せば其の位置に所要の標識を附し、且つ速やかに関係部隊に連絡すること緊要なり
  8. 第55
    障碍物の排除は、発動艇、装甲艇等を利用し、器具又は爆薬を以ってするの外、舟艇の曳力又は其の衝力を利用して之を行う
  9. 第56
    艇隊群(艇隊)の航進と相前後し瓦斯雨下、瓦斯弾投下、舟艇を利用する瓦斯放射等に依り敵を制圧し、上陸を容易ならしむることあり
  10. 第57
    状況に依り、艇隊群を以って遠く海上機動を行うことあり。此の場合に於いては、通常大なる艇隊群を編成し、運動に便なる隊形の艇隊を重畳或は併列し、警戒の処置を講じ、適切なる航路を選び上陸海岸に向い航進す。此の際に於ける輸送船又は艦艇の嚮導は航路の維持に便なるも、企図を暴露し易し
    艇隊群の警戒の為には、装甲艇隊をして艇隊群の前方及び所要の方側を監視せしめ、又、飛行機、高速艇をして其の周縁を捜索せしむ。此の際、海軍の協同を得ば有利なり