作戦要務令

第四部


上陸戦闘

第1章 上陸戦闘に関する諸準備

第1節 上陸点の選定及び偵察
  1. 第20
    上陸点は上陸軍指揮官任務に基き護衛艦隊指揮官(上陸作戦に任ずる艦隊の最高指揮官を謂う)と協議決定するものとす
    師団長は前項に基き護衛指揮官と泊地及び上陸海岸を協議決定す
  2. 第21
    上陸点は状況の許す限り敵の防備なきか、若しくは其の薄弱なる地点に選定す。此の際、上陸後に於ける作戦の便否、陸海軍各部隊の協同、揚陸作業の難易等を考慮するを要す
  3. 第22
    上陸点は、上陸地に1箇若しくは数箇の地点に之を選定す。1地点に上陸せんとする場合に於いては、敵情、気象及び海象の変化に応ずる為、予備上陸点を選定し置くを可とす。又、数地点に上陸せんとする場合に於いては、兵力分散の弊に陥ることなく、且つ1地点に於ける戦果を直ちに他地点に及ぼし、以って全局の勝利を収め得ると共に、一部の為に選定せし上陸点に於いても状況に応じ主力の上陸を決行し得る如く之を選定すること緊要なり
  4. 第23
    上陸点の偵察は企図を暴露するの虞ありと雖も、予め之を実施するを要すること少なからず
    事前の偵察を予め実施することなく上陸を敢行する場合に於いても、泊地進入及び上陸戦闘の為直接必要なる直前の偵察は実施せざるべからざるを通常とす
    上陸点の偵察は陸海軍協同して之を実施するを有利とす
  5. 第24
    上陸点の偵察には、飛行機、潜水艦、軽快艦艇等を使用し、時として地方民船を利用することあり
    飛行機は広範囲に亙り迅速且つ比較的正確に偵知し得るも、航続時間の制限及び気象の障害を受け易し
    潜水艦は隠密偵察に適するも、潜航中は通信不便、視界狭小にして、其の行動は水深の制限を受くること大なり
    軽快艦艇は行動比較的敏活にして、偵察範囲潜水艦の如く狭小ならず、且つ偵察実施中に於いて航海者又は漁夫を捕らえて糺問するに便なりと雖も、時として其の企図を暴露するの不利あり
    地方民船は敵の注意を喚起すること少なきも、之が取得困難にして、且つ其の行動迅速ならず
    偵察者隠密に敵地に上陸して偵察を実施するを得ば有利なり
  6. 第25
    上陸点の偵察は、状況、特に偵察の目的、時機、使用機関等に依り異なるも、概ね左の事項に就き実施するものとす
    • 地形一般の観察
    • 敵情、特に防備施設(敵艦艇及び水中障碍物の状況、水際及び陸上の防禦施設)
    • 海面の状況(水路、泊地、風浪、潮流、潮汐、霧)
    • 飛行場、若しくは着陸(水)場に適する地(水)域の有無及び状態
    • 地形図、海図及び水路誌と現地との対照等
    時として、上陸戦闘の実施を容易ならしむる為、成るべく多くの上陸部隊の指揮官をして其の上陸海岸を観察せしむるを有利とすることあり
  7. 第26
    上陸戦闘直前の偵察は通常師団長の計画に基き、揚陸作業隊及び上陸部隊の将校、要すれば幕僚等之に任じ、通常高速艇に依り泊地侵入前より偵察に着手するものとす。此の際、勉めて2隻以上同行するを可とす
    偵察の結果は輸送船隊の泊地投錨時、若しくは遅くも上陸開始時刻以前に無線其の他の方法を以って成るべく速やかに指揮官に到達せしむること緊要なり
  8. 第27
    上陸戦闘直前の偵察に方りては、主として上陸海岸の確認、海岸の状況、特に波浪、泊地陸岸間の水路の状態等を明らかならしむるを要す。此の際、水際附近の敵情、及び水際障碍物の状況を偵知し得ば有利なり
    上陸海岸及び水路に於ける暗洲、暗礁、其の他危険なる地点には、明暗の度に応じ通常偵察に任ずる舟艇乗組員をして所要の標識を設置せしむ。此の際、海軍の行う掃海標識との誤認を避け、且つ敵に発見せられざる如く注意するを要す