作戦要務令

第四部


上陸戦闘

第1章 上陸戦闘に関する諸準備

通則
  1. 第10
    上陸戦闘に関する諸準備は周到適切にして、指揮官以下必勝の確信を以って一意任務遂行に邁進する如くなるを要す
  2. 第11
    師団長は任務に基き、海軍及び爾他の協同する諸部隊と協定し、所要の計画を策定す。而して、上陸戦闘に関する諸計画は複雑多岐、且つ未定なる要素多きと、其の策定後に於ける補遺、変更困難なるとに鑑み、状況の変化、又は我が一部の損害、故障等の為、全般の計画に齟齬を来さしめざるを要す
    当初計画を1案に限定し得ざる場合に於いては、爾後実行案を決定すべき時機及び条件に関し、具体的に考定しあるを要す
    各級指揮官も亦所要に応じ前諸項に準じ上陸計画を定む
  3. 第12
    上陸計画は戦術上の要求と技術上の関係とを考慮して定め、且つ、之が実行を現実の状況に即応せしめ得る如く、変通独断の余地を存するを要す。此の際、企図を明示し、且つ部下の掌握を確実ならしむるの処置を講ずると共に、臨機計画を補遺、変更する場合に於ける連絡法を定むること緊要なり
  4. 第13
    師団長の策定すべき上陸計画には、概ね左の事項中必要の件を包含せしむるものとす
    • 方針
    • 上陸点(上陸海岸)ならびに其の偵察、要すれば上陸点(上陸海岸)決定の時機及び条件
    • 上陸日程(上陸開始期日、各日に於ける上陸部隊)
    • 上陸開始の時刻(上陸部隊の搭乗せる舟艇、上陸の為最初に輸送船側を発進する時刻)
    • 上陸部署(軍隊区分、任務、上陸海岸の配当、上陸順序、及び上陸用資材の配当)
    • 輸送船の船隊区分(輸送船の順序を定め分隊に区分するを謂い、護衛の便否、乗船区分、上陸部署、各船の性能等を考慮して定めらる)
    • 輸送船隊の行動及び其の非常処置(会敵、魚雷又は機雷の発見、若しくは空襲、遭難時に於ける護衛隊、輸送船隊の行動及び救助に関する処置等)
    • 牽制運動
    • 輸送船隊の泊地、碇泊隊形及び投錨時機
    • 上陸戦闘動作(縦隊の航進、装甲艇隊の行動、煙幕の展張、障碍物の破壊、弾薬及び資材の処置等)
    • 上陸時に於ける他部隊の協同(上陸の掩護、揚陸作業援助等)
    • 上陸戦闘各期に於ける対空処置
    • 通信連絡
    • 瓦斯防護、制毒
    • 補給
    • 救護等
    各級指揮官の定むべき上陸計画も亦前諸項に準ず
  5. 第14
    揚陸作業隊長は命令に基き、概ね左の事項に就き揚陸作業計画を定む。而して、上陸部隊に必要なる事項は、機を失せず当該部隊に通報するものとす
    • 揚陸作業隊の部署
    • 上陸用舟艇の準備及び運用、要すれば泛水順序
    • 上陸海岸及び水路の標示ならびに揚陸設備
    • 水際障碍物の排除
    • 特種艇の用法
    • 煙幕の展張
    • 揚陸作業に必要なる通信連絡
    • 瓦斯防護
    • 救護
    • 上陸海岸に於ける整理要領
    • 舟艇の補修
    • 燃料及び清水の補給等
    上陸部隊に配属せられたる揚陸担任部隊長の計画も亦前諸項に準ず
  6. 第15
    上陸の為の泊地、及び碇泊隊形は、概ね左の事項を考慮し、師団長、護衛指揮官と協議決定するものとす
    • 上陸部署に適応し、上陸効程大にして、風、潮等の影響小なること
    • 敵襲及び陸上よりの敵火に対し、防衛に便なること
    • 泊地進入及び投錨容易なること
    • 泊地内に於ける運動、及び掃海に便なること
    • 信号の通達容易なること
    • 擱坐、又は泊地変更の場合に於いても混乱を来さざること等
    碇泊隊形は成るべく上陸海岸に併行する如く、輸送船を1乃至数列に配置す
  7. 第16
    輸送船隊は上陸の為最初より泊地に進入するを通常とす。状況に依り企図秘匿の為、上陸用舟艇を泛水し、或は第1回上陸部隊を移乗発進せしめたる後泊地に進入する如く、離隔せる仮泊地(輸送船隊集合点出発後、泊地進入迄の間に於いて、某目的の為一時停泊する水域を謂う)、或は漂泊地(輸送船隊集合点出発後、泊地進入迄の間に於いて、某目的の為碇繋することなく一時停止する水域を謂う)を設くるを有利とすることあり
    第1回上陸部隊を仮泊地、或は漂泊地より移乗発進せしむるときは、揚陸作業隊は舟艇を確実に泊地に帰還せしむる為、予め必要の処置を講ずるを要す
  8. 第17
    機宜に適する陽動は、受動の地位に在る敵に対し偉功を奏すること多し
    陽動は統一せる方針に基き之を遂行する如く、陸海軍指揮官、其の目的、方法、時機、地点、之が為使用する輸送船、兵力等に関し、周密に計画すること緊要なり
    陽動の実施は、飛行機、艦艇を以ってする偵察、掃海、爆撃、砲撃、或は輸送船隊を偽上陸点に廻航する等の方法に依る。此の際、一部の兵力をして上陸動作を行わしめ、或は一時偽上陸点に上陸せしむるは陽動の効果を大ならしむるものとす
  9. 第18
    上陸部隊の高級指揮官以下は計画に基き適時所要の命令を下達し、各部隊をして其の準備に遺憾なからしむるを要す。而して、数船に分乗する部隊に対する命令は、遅くも集合点出発迄に下達し、特に指揮官の企図を徹底せしむること緊要なり
  10. 第19
    計画、命令の記述、及び下達、若しくは報告、通報に方りては、企図の秘匿に関し慎重なる考慮を必要とす。之が為、受令者等の地位に鑑み、示すべき程度、記述の要領、下達若しくは報告、通報の時機及び方法等を適切ならしむること緊要なり
    上陸戦闘に関する計画及び命令には、要図、図表、写真、写景図等を併用して之を簡明にし、理解を容易ならしむるを可とす