作戦要務令

第四部


特種陣地の攻撃

第1章 攻撃一般の要領

第1節 攻撃準備
  1. 第15
    攻撃準備は敵の不意に乗ぜんが為、敵に我が企図を秘匿し、防諜に留意し、敵眼に対し極力既往の状態を変化せしむることなく、特に之を周到ならしむること緊要なり。此の間に在りても、要すれば敵の不準備に乗じ随時奇襲し得る如く、先ず緊急なる準備を速やかに整うるの着意を必要とす
  2. 第16
    攻撃準備は、第一線部隊をして極力敵陣地に近接し之を完了せしむべしと雖も、予め現地に通暁しある部隊に在りては企図を秘匿し先ず第一線部隊の所要の幹部及び兵力を以って攻撃準備の位置に進出し準備を整えしめ、攻撃の前夜に於いて一挙に突撃準備の位置に就かしむるを得ば最も有利なり
  3. 第17
    特火点の偵察は既往の調査を参酌し、概ね左の事項に就いて行うものとす。而して、此等の事項は攻撃実行上緊急を要するものと然らざるものとに区別して行い、又、戦闘の経過中に在りても奪取せる特火点を観察し、其の他の特火点の機能の判断に資するを要す
    • 特火点相互及び特火点と一般陣地との火力の関係
    • 特火点所在の地形、地質、死角
    • 特火点自衛障碍物の状況、電流を通ずる施設の有無
    • 特火点直接警戒の施設
    • 特火点の形状、及び壁の厚さ
    • 銃眼の数、射方向、結構及び地上高、趾銃眼の有無
    • 銃眼の鉄扉の厚さ及び開閉の機能
    • 収容火器の種類及び数、守備人員
    • 特火点内部の構造、特に隔壁及び地下室の有無
    • 出入口の位置及び構造
    • 換気、給水、照明、及び潜望の施設
    • 地下交通施設の有無及び其の開口部
    • 司令特火点の判定
    • 連絡施設等
    特火点中には偽特火点及び配兵せざるものあるに留意するを要す
  4. 第18
    銃眼射撃に任ずる火砲及び自動火器は、勉めて特火点に近接し、且つ銃眼に正射する如く陣地を占領すると共に、位置の秘匿及び掩蔽に留意すること緊要なり
  5. 第19
    特種陣地の攻撃に任ずる第一線部隊及び之に直接協同する砲兵は、処理すべき特火点の担任区分、特火点に対する射撃の時機及び要領、特火点攻撃隊との連絡法等に関し、予め協定を遂ぐること緊要なり
  6. 第20
    己隊を使用する場合に於いては、関係指揮官は為し得る限り、現地に就き通常左の事項中必要の件を予め協定するものとす
    • 「ソ」号機を使用すべき時機及び其の攻撃目標
    • 歩戦砲己の行動(射撃)要領
    • 「ソ」号機の出発位置、行動区域、歩兵線超越の時機及び方法
    • 第一線歩兵の突撃と爆破時機との関係、及び爆破の危害予防の為の離隔度
    • 各期に於ける「ソ」号機の行動に対し、歩、砲兵の与うべき支援、又は戦車との協同
    • 「ソ」号機の障害通過に関し一般工兵との協同
    • 連絡法
    • 行動予定の如くならざる場合に於ける処置
    • 「ソ」号機の任務達成後に於ける行動等
  7. 第21
    第一線歩兵連隊は、通常、師団の一挙に攻略すべき敵陣地の全深を神速に突破する如く部署す。之が為、二線の攻撃部隊を設け大隊を超越前進せしむることあり。此の場合に於いては、連隊長は敵陣地の強度、攻撃目標等を考慮し、第一線大隊の為、其の進出すべき地線、要すれば特に速やかに攻略を要する地点を示し、また、第二線大隊に対しても之に準じ通常其の到達線を示すものとす
  8. 第22
    歩兵連隊長は、連隊砲及び所要の配属砲兵をして銃眼射撃に任じ特火点を制圧し、或は特火点攻撃隊を支援せしむるを通常とす。此等部隊を直轄すべきや、或は第一線大隊に配属すべきやは、特火点の数、配属砲兵の多寡等に依る。此の際、連隊長は、銃眼射撃を為すべき目標、射撃の時機、陣地等に漢詩、要すれば所要の統制を行うものとす
  9. 第23
    第一線歩兵大隊長は、第一線中隊をして特火点に顧慮することなく一意突破に任ぜしむるを有利とす。之が為、特火点に対する射撃を統括するのみならず、歩、工兵を以って所要の特火点攻撃隊を設け直轄使用するを通常とす
    歩兵連隊長も亦前項の趣旨に準じ、第一線大隊をして陣地の突破を容易ならしむる如く処置すること必要なり。之が為、自ら所要の特火点攻撃隊を設くることあり
    連、大隊長は、予期せざる特火点に遭遇せる場合、或は特火点攻撃隊の攻撃頓挫せる場合に於いて、機宜の処置を取り得る如く予め考慮すること緊要なり。之が為、予備の特火点攻撃隊を設くるを可とす。大隊長に於いて特に然り
  10. 第24
    歩兵大隊長は処理すべき特火点の配置を考慮し、特火点攻撃隊の行動、銃眼射撃に任ずる重火器及び砲兵の配置、要すれば第一線中隊をして担任せしむべき特火点等を定む
    銃眼射撃の為重火器及び砲兵を隣接部隊の戦闘地域内に配置し、又は射向を隣接部隊の戦闘地域内に在る特火点に指向するを要することあり
    重火器は通常1門(1銃)を以って1銃眼を射撃するものとす
  11. 第25
    特火点の直接攻撃を命ぜられたる戦車は、銃眼射撃に依り之が撲滅に勉め、又は銃眼を閉塞するものとす
  12. 第26
    戦闘の進捗に伴い敵陣地内に進出して特火点の銃眼射撃に任ずる部隊は、障碍物及び弾痕地帯の通過、弾薬の補充、偽装、工事等に関し、予め所要の準備を整え、機先を制して射撃を開始し得る如く考慮すること緊要なり