作戦要務令

第四部


特種陣地の攻撃

第1章 攻撃一般の要領

要則
  1. 第3
    特種陣地の強度は状況に依り著しく其の趣を異にす
    特火点を配置しあるも、之に連繋する各種防御設備未だ整わざる陣地は薄弱なり。又、縦い陣地の応急設備施しあるも配兵少なきか或は適時増援し難き場合等に於いては、其の強度大ならず。然れども、既に十分の陣地設備を整え配兵充実し警戒亦厳なる場合に於いては、其の強度特に増大す
  2. 第4
    特種陣地の特性上、弱点と認むべきもの概ね左の如し
    • 陣地編成を暴露し易く、攻者をして予め対策を講ずることを得しむ
    • 特火点を破壊若しくは制圧せらるるときは爾余の一般陣地を脆弱ならしむ
    • 状況に応ずる配備の変更困難なり
    • 特火点を占領せる部隊と一般陣地を占領せる部隊との協同困難なり。状況の変化ある場合に於いて特に然り
    • 夜間、濃霧等、特火点の威力発揮し難き場合に於いては陣地の強度低下す
  3. 第5
    特種陣地の攻撃に方りては、予め十分なる準備を整え、之を急襲して神速且つ一挙に其の全深を突破し、機を失せず爾後の作戦を遂行すべきものとす。此の際、巧に敵の弱点を看破し、或は夜暗、困難なる気象、地形等を克服利用し、敵の意表に出でて不意に攻撃を開始し、極力突破速度を大にし、敵増援部隊の来着に先だち敵を席巻して所望の線に進出するの着意最も緊要なり 我が軍の兵力、敵陣地の状態等に依りては逐次に敵陣地を攻略することあり。此の場合に於いても、第一線部隊は昼夜を問わず地上、時として地下より絶えず近迫し、有ゆる手段を講じて速やかに所命の目標に進出すること緊要なり
  4. 第6
    特種陣地の攻撃に方りては夜暗を利用すること極めて緊要なり
    状況、特に季節に依り黎明、薄暮を利用して攻撃を開始し、或は大規模に瓦斯、煙を使用して、我が攻撃を容易ならしむること少なからず
  5. 第7
    特種陣地の攻撃に任ずる第一線部隊は、所要の特火点攻撃隊を設けて直接特火点を攻撃せしめ、主力を以って爾余の一般陣地の攻撃に専念せしめ、速やかに敵陣地を穿貫突破すること緊要なり
    特火点の施設薄弱なる場合等に於いては特に特火点攻撃隊を設くることなく、当面の各部隊をして適宜処理せしむることあり
  6. 第8
    高級指揮官は、重砲兵、工兵(己)(己隊と略称す)等をして第一線部隊の攻撃に協同し、随時所要の特火点を破壊若しくは制圧し、敵陣地の攻略を神速ならしむること緊要なり。此の際、其の威力を分散することなく地区毎に確実に所望の成果を収むるを有利とす。此等部隊の兵力少き場合に於いて特に然り。又、縦い此等部隊を使用し得ざる場合に於いても、巧に一部の野戦砲兵等をして特火点を制圧せしめ、或は目潰射撃を行わしむるの着意必要なり
  7. 第9
    特火点の特性上、弱点と認むべきもの概ね左の如し
    • 通常其の位置の秘匿困難なり
    • 射界を制限せられ、死角少からず
    • 銃眼(砲門を含む)射撃を受けある間に於いては鉄扉を開きて射撃を行うこと困難なり
    • 目潰射撃を受け易し
    • 特火点の内部に砲弾命中するときは其の効力著しく大なり
    • 特火点内部よりする射撃は瓦斯の発生に依り通常能力を低下す
    • 送風装置を有せざる特火点は一度瓦斯侵入せば空気の浄化困難なり
  8. 第10
    特火点攻撃隊は、肉薄攻撃に依り先ず其の火力機能を奪い、次いで之を掃蕩するを通常とす。時として、別に編成する部隊をして特火点の掃蕩を担任せしむることあり
    瓦斯は、特火点内部に侵入するときは敵を撲滅し、或は持続的に敵を制圧し、或は特火点の利用を妨害するの特性を有するを以って、特火点攻撃隊は有利に之を使用し得ることあり
  9. 第11
    己隊は第一線師団に配属せられ、歩兵に緊密に協同して特火点の爆破に任ず。此の際、特火点の強度、近接の難易、爾余の手段を以ってする特火点処理の難易等を考慮し、勉めて其の特性を発揮せしむる如く之を使用するを要す
    師団長は配属せられたる己隊を通常主攻撃の重点方面の第一線部隊に配属す。而して、各己中隊は第一線歩兵連(大)隊に配属せられ、若しくは直接協同に任ずるものとす
    状況に依り、師団長は縦深に亙る特火点を撲滅せしむる等の目的を以って、己連隊の全部若しくは一部を直轄使用し第一線部隊に協同せしむることあり。時として己隊の一部を戦車隊に配属することあり
  10. 第12
    戦車は之を後方に於ける敵陣地の突破に使用するを可とす
    戦車を使用するに方りては一般陣地の攻撃に協同せしむるを通常とするも、時として所要の戦車を以って特火点攻撃隊の戦闘に直接協同せしむることあり
  11. 第13
    飛行部隊、地上の戦闘に直接協同する要領は一般陣地攻撃の場合に準ず。而して、特火点に対する爆撃は必ずしも其の成果を期待し得ざるを以って、通常之を行わざるものとす
  12. 第14
    特種陣地の攻撃に任ずる部隊は、敵陣地の編成、素質、地形、部隊配備の状態等を考慮し、彼我の現況に応ずる攻撃手段及び戦闘資材に関し、工夫を凝らして敵の意表に出づるに勉むると共に、極力戦場訓練を実施すること緊要なり