作戦要務令

第三部


第1篇 輸送

第2章 船舶

第1節 船舶輸送
第2款 船内の動作
  1. 第68
    輸送指揮官は速やかに船内の警備、軍隊の内務等に関し、監督将校及び船長に議り、所要の命令を下す
  2. 第69
    輸送指揮官は諸勤務、日課時限、火災予防、給養、衛生等、内務に関し所要の事項を規定す
  3. 第70
    各輸送船には、日直将校1名、日直下士官若干名(本部、各兵種の中隊若しくは中隊以下の独立せる部隊毎に少なくも各1名)を置き、且つ、衛兵及び所要の巡察を設くるものとす
    日直将校は輸送指揮官の命を受け日直下士官、衛兵及び巡察を指揮し、通常、軍旗、危険品、貴重品、給水栓の位置、出入口等に哨兵を配置し、時々船内を巡視し、軍紀の維持及び諸規定の実施を警視するものとす
    日直下士官は日直将校より内務に関し所要の指示を受け、之を所属部隊長に報告し、之に関する部隊長の命令実施せらるるや否やを警視するものとす
    巡察は衛兵の勤務を監視し、且つ屡々船内、特に材料置場、厩、食事分配所、給水所等を巡視するものとす
    衛兵は船内の軍紀を維持し、火災を予防し、衛生に注意するものにして、其の人員は哨所の数に応じ之を定む
    勤務員の服装及び服務要領は輸送指揮官之を定む
  4. 第71
    輸送指揮官は輸送船及び乗船部隊の対敵、保安上必要なる警戒を統括す。之が為処置すべき事項概ね左の如し
    1. 一・ 前檣、船橋、船尾楼等に監視者を配置し、敵飛行機、艦船、魚雷、機雷其の他海上危険物を監視せしむ
    2. 二・ 敵潜水艦又は飛行機出没の虞ある海面に於いては、常に自衛兵器に所要の人員を配置し、要すれば甲板上に所要の部隊を配置し、随時射撃を開始し得る如く準備せしめ、且つ瓦斯警戒及び防護の処置を講ず
    3. 三・ 防水扉、防水蓋、舷窓等は必要なる場合の外、常に之を密閉す。火災又は浸水時に於ける乗船部隊の行動に関し予め規定す
    4. 四・ 救命艇、救命具、及び搭載舟艇の使用区分を規定し、総員の乗艇避難するに方り混乱を生ぜざらしむ
    5. 五・ 船内燈火の漏洩、甲板上に於ける燈火の使用、及び夜間に於ける騒音を厳に戒め、且つ危険予防の処置を講ず
    6. 六・ 企図秘匿の為、要すれば甲板上に於ける行動を制限す
    7. 七・ 輸送指揮官は状況の急変に応ずる為定位(通常船橋)に位置し、且つ、監督将校、船長、所要の部隊との連絡を確保す
      輸送指揮官其の定位を離るる場合に於いては代理者を置くものとす
    前項第一及び第二号の業務を実施する為、輸送指揮官は特に警備司令を設け、之に必要の人員、部隊等を属するを可とすること多し
  5. 第72
    輸送指揮官は船内に於ける交通、連絡に便ならしむる為、概ね左の諸設備を実施す
    1. 一・ 非常時及び上陸時に於ける各部隊の集合場、及び之への進出路を定め、特に暗黒時に於ける行動を容易ならしむる為、夜光ペンキ、白堊(はくあ)等を以って標識を設置す
    2. 二・ 高級指揮官、輸送指揮官、主要なる部隊長、監督将校、警備司令、日直将校、及び船長の居室、ならびに各部隊の位置を揚記せる要図を調製し、船橋、衛兵所、其の他所要の場所に掲示す
    3. 三・ 輸送指揮官の位置、船橋、其の他所要の場所に伝令を配置し、又、移動伝声管、乗船部隊の電話等に依り連絡施設を整う
  6. 第73
    輸送指揮官は監督将校に議り、時期を得る毎に乗船部隊をして上陸動作、非常措置、救命具の使用法等を演練せしむるを要す
  7. 第74
    輸送指揮官は監督将校を介して護衛艦及び僚船との連絡を保持し、常に其の動静に注意し、又、機を失せず輸送船隊高級先任指揮官の命令を接受し、以って状況の変化に即応し得るの準備に在ること必要なり。危険海面の航行中に於いて特に然り
  8. 第75
    輸送船、敵の艦船に遭遇するか、又は敵の攻撃を受けたる場合に於いて護衛艦より指令を受くる能わざるときは、監督将校は状況之を許せば輸送船の進退に関し輸送指揮官に議るものとす。但し、乗船部隊最後の処決は常に乗船部隊の高級先任の将校、之を断ずるものとす
  9. 第76
    船内に於いて一般に遵守すべき事項、概ね左の如し
    • 火災予防に注意すること
    • 喫煙、洗面等は必ず所定の場所に於いてし、又船内を汚損せざること
    • 清水を節約すること
    • 船橋、船尾楼、操舵室、機関室、炊事場、其の他危険なる場所等に立入り、又は通路、階段等に佇立せざること
    • 妄りに点燈し、又は所定の位置に在る燈火を他に持行かざること
    • 危険海面の航行中に在りては浮遊物を海中に投棄せざること。但し、止むを得ざる場合に於いては叺(かます)、嚢等に収納し重量物を附して投棄す
    • 船員の動作を妨害せざること等
  10. 第77
    幹部は屡々厩を視察し馬の健否を検し、又、換気、湿度、清潔等に注意し、若し馬欄の弛緩、破損等を発見せば直ちに修理補強等を行い、換気不十分なるときは所要の処置を講じ、時々馬の位置を変更するを可とす。特に夜間、降雨、厳寒時等に在りては、艙口を全閉し換気を不良ならしめ易きを以って、注意するを要す
    馬糧は1日3、4回に分与し、干草は常に之を与うるに勉め、飼与前に水与を行うを要す
    馬欄には若干の莚又は藁を敷きて馬の滑走を防ぎ、且つ清掃に便ならしめ、時々防臭剤を使用す
    船内に於いては時々馬の四肢を摩擦し、又は前進、後退運動を課するを可とす。上陸直前に於いて特に然り。又、船内に牽馬運動の設備あるときは、之が利用に勉むるを要す
    懸帯は海面静穏なる場合に於いては馬の四肢の負量を軽減する為、又風浪烈しく船体の動揺大なる場合に於いては馬体駐立の安定を補助する為、之を使用す。而して、懸帯は前の場合に於いては之を緊張すべきも、後の場合に於いては適宜緩むるを要す