作戦要務令

第三部


第1篇 輸送

第2章 船舶

第1節 船舶輸送
第1款 乗船、上陸
  1. 第56
    軍隊は碇泊場司令官の定むる乗船又は上陸に関する規定、及び同官と協定せる所に従い、自ら乗船又は上陸を行うものとす
  2. 第57
    輸送指揮官(止むを得ざれば其の代理者)は、所要の人員(為し得れば予定勤務員)を伴い乗船地に先行し、輸送人馬材料明細表を以って乗船すべき人馬、材料の数量を碇泊場司令官に通報し、該司令官より乗船に関する規定、警戒に関する事項等を承知し、碇泊場司令部要員及び船員と共に乗船場及び輸送船内を偵察したる後、適時乗船に関する命令を下す
    輸送指揮官の下す乗船に関する命令に於いて示すべき事項、概ね左の如し
    • 輸送船名
    • 乗船部隊、船内搭載区分
    • 搭載開始及び終了の時刻
    • 軍隊の集合場、馬繋場、砲(車)廠、材料集積場
    • 集合法、集合時刻
    • 桟橋(岸壁)及び交通路の使用区分
    • 搭載要領(搭載順序、舟艇の配当、各舟艇の乗組又は搭載区分、舟艇接着舷、舟艇の運行)
    • 勤務員及び衛兵の割出、差出時刻及び地点
    • 搭載中に於ける陸上と輸送船との連絡法
    • 船内の給養及び衛生
    • 危険予防及び救助に関する事項
    • 輸送指揮官の位置及び乗船時期等
  3. 第58
    勤務員は舟艇の種類、数及び搭載量、乗船場、輸送船内の状況等に応ずる如く、人員、馬、材料毎に、通常将校、止むを得ざれば下士官を長とする搭載掛(所要の勤務員より成る)を設け、要すれば人馬の救護掛を置く
    各搭載掛は輸送指揮官の命令に基き、通常陸上、舟艇、及び輸送船内(人員掛に在りては陸上及び輸送船内)に分れて勤務し、且つ所定の標識を附す
  4. 第59
    船内搭載区分は、上陸時に於ける任務、行動、上陸順序、船内の警戒配備等を基礎とし、輸送船の構造及び設備等を考慮し、整斉迅速に上陸を実施し得る如く之を定む。敵前上陸を企図する場合に於いて特に然り。而して、同一区画内には為し得る限り建制部隊を配当するを可とするも、速やかに上(揚)陸せしむべき部隊(材料)、ならびに迅速に警戒配置に就くを要する部隊等に在りては、之を数区画に分載し、特に其の人員は上層甲板にして出入口に近く位置せしむるの着意を必要とす
  5. 第60
    乗船場に於ける軍隊の集合法及び集合時刻は、搭載準備に要する時間及び搭載順序を考慮して之を定む
    軍隊の搭載準備に要する時間は、其の編制装備、特に馬の数、材料の多寡及び種類等に依り異なるも、徒歩部隊に在りては1時間を、車輌部隊及び自動車部隊に在りては1時間半乃至2時間を、輜重兵に在りては2乃至3時間を標準とす
  6. 第61
    搭載は、船内搭載区分に基き、舟艇の数、搭載量及び運行要領、起重機の数及び能力、舷梯及び索梯の数等を考慮し、且つ人員に在りては全舷梯及び索梯を、馬、材料に在りては全起重機を間断なく使用し、所定時間内に搭載を終了せしむべきものとす。而して、搭載は概ね材料、馬、人員の順序に、又、馬、材料の搭載は揚陸と各々反対順序に之を実施す
    馬は通常上層甲板より逐次下層に搭載し、馬欄に余裕あるときは成るべく各馬欄毎に其の各一端又は両端に予備馬欄を存し、馬欄の掃除に便ならしむ
  7. 第62
    人馬、材料の搭載は概ね左の要領に依る
    1. 一・ 諸材料は搭載前適宜梱包し、且つ標識を附し、破損、紛失、混淆を防止す
      弾薬、揮発油其の他危険品は発火又は引火の予防を周到にし、搭載場所、積付、取扱等に細心の注意を払い、且つ容器及び梱包を常に完全なる状態に在らしむるを要す 輜重車は通常車輪と車体とに分解し、其の他の車輌類は其の侭(前、後車は離脱す)搭載し、馬具は適宜梱包し通常馬と同一区画内に搭載す 戦車、自動車等の搭載に方りては吊具の点検を励行し、其の装着法を適切ならしむると共に、起重機の操作、特に引揚の初期及び甲板上に触るる直前に於ける操作を円滑緩徐ならしむるを要す。又、附属器具及び材料、燃料等は之を車体と分離して梱包搭載す
    2. 二・ 馬は搭載前穀類を減飼して干草を多く与え、若干の運動を行いて其の沈静を図り、又、搭載直前には水与を行うを要す
      搭載に方り、馬の蹴テキ(足偏に易)、滑走を防ぐ為、之に藁沓を装するを可とす
      輸送船、桟橋(岸壁)に接着しあるときは、馬は通常起重機に依り搭載す。時として踏板に依り船内に牽入る。此の際、滑走の防止に注意するを要す。
      輸送船、海上に碇泊しあるときは、馬は舟艇に依り舷側に導き、起重機に依り搭載す。馬を舟艇に搭載するに方りては、舟底に藁、莚等を敷き、堅固なる踏板を架し之を固定し、温順なる馬より逐次に牽入る
      舟艇に牽入れたる馬は同一方側に向かしめキヅナ(文字表示できず)(牽綱)を舷側内に在る馬繋環等に通して保持す。若し舟艇を併列曳航する場合に於いては馬頭を相対向せしめ、輸送船に接着の際、馬頭を輸送船の舷側に向かしむる如く舟艇を位置せしむ
    3. 三・ 馬絡を馬体に装するには、最初之を馬背に置き、然る後回転して馬腹に当て、先ず結縄(むすびなわ)を、次いで頸綱、ムナガイ(革偏に引)、鞦(しりがい)を緊張しつつ正確に結着し、馬絡の位置を正しく、且つ水平ならしむ
      馬絡を馬体より脱するには、先ず頸綱、ムナガイ、鞦を、次いで結縄を解きて側方に脱す
    4. 四・ 起重機に依り馬を搭載するには、馬絡を装せる馬を起重機の直下に位置せしめ、馬絡の吊綰(つりかん)に起重機の鉤を掛け、迅速に桟橋(岸壁)又は舟底より適宜の高さに引揚げ、徐ろに甲板上(甲板には藁若しくは莚を敷くを可とす)に卸し、四蹄甲板に触るるや直ちに馬絡を脱し、最も遠き馬欄より順序に牽入れ懸帯を装す
    5. 五・ 乗船前徒歩兵は靴を脚絆の上に穿ち、背嚢の釣金を脱し、乗馬兵は拍車を除く
      乗船の為舟艇を用うるときは、兵は将校若しくは下士官の誘導に依り銃を提げて乗込み、順次遠き所より艇首に面し前後左右の間隔を密縮して踞坐す。若し海上危険の虞あるときは予め背嚢を卸し、要すれば救命胴衣を装着す
      舟艇内に於いては静粛にし、手其の他携帯品を舷側外に出すべからず
      舷梯は各人距離を短縮し、且つ渋滞なく登ること必要なり。而して、乗船の為舟艇を用うる場合に於いては幇助者を舷梯の最下部に位置せしめ、舟艇より舷梯への移乗を幇助せしむ
      下士官、兵は乗船後速やかに各自の座席に就き、携帯兵器、防毒面、背嚢(背負袋)等は適宜之を座側に置き、以って通路を開放す
      救命具(救命胴衣〔通常乗船直後、時として乗船前各自に分配す〕、浮環)を受領せば各自之を点検し、所定の位置に整頓す
    6. 六・ 陸上勤務員は搭載を終わるや乗船場内外を点検して残置品の有無を検し、全部の乗船を確認したる後輸送指揮官に報告し、其の命令を待ちて乗船す
  8. 第63
    輸送指揮官は軍隊乗船間、通常桟橋(岸壁)附近に位置して全般の指揮に任じ、又、常に搭載掛将校及び碇泊場司令官と密接なる連絡を保持し、所定の時間に搭載を終了せしめ、最後に乗船す。而して、乗船効程に影響を及ぼすが如き状況発生せば、要すれば之が処置に関し碇泊場司令官と協定す
    乗船間、輸送指揮官と碇泊場司令部職員、ならびに陸上と輸送船との連絡の為には、伝令、視号通信、往復舟艇等を使用するを通常とす
  9. 第64
    搭載終了するや、輸送指揮官は之を碇泊場司令官、監督将校、及び船長に通報し、船内を巡視して搭載の景況を検査す。下士官、兵は此の検査終る迄、其の座席に在るを要す
  10. 第65
    輸送指揮官は輸送船上陸地に到着するに先立ち、乗船部隊をして上陸準備を為さしむ
    輸送船隊上陸地に到着するや、其の高級先任の指揮官は速やかに上陸に関し該地碇泊場司令官と、又、要すれば上陸後の宿営、給養、鉄道輸送等に関し関係各機関と連絡協定し、上陸に関する命令を下す
    輸送指揮官は前項の命令に基き、乗船の場合に準じ該地碇泊場司令官と協定したる後、上陸に関する命令を下す
  11. 第66
    上陸順序は通常乗船と反対に行う。而して、上陸は陸上の諸準備を整えたる後開始するを通常とし、短時間に之を終了するに勉むるを要す
    人馬、材料に関する注意、及び勤務員の配置等は乗船の場合に準ず
  12. 第67
    輸送指揮官は上陸せし人馬、材料を速やかに桟橋(岸壁)より退去せしめ、爾後の上陸動作を容易ならしむるを要す