1936年発布

赤軍臨時野外教令


第二章 捜索及び警戒
  1. 其の三 対空防禦
    1. 第40
      軍隊は左の如く対空防禦を部署す
      1. 野外対空監視網及び対空警報組織の構成
      2. 高射砲、高射機関銃及び小銃を以ってする対空射撃準備
      3. 駆逐飛行機に依る軍隊の行動、若しくは配備地域の掩護
      4. 敵飛行場の組織的破壊
      5. 特殊地域に於ける阻塞気球及び障碍網の設置
      6. 周到なる対空遮蔽及び行軍並びに戦闘部署の分散
    2. 第41
      各部隊及び兵団幕僚は対空防禦組織の直接の責任者にして、対空防禦計画策定の責に任ず。本計画に包含すべき事項左の如し
      1. 対空監視及び警報組織
      2. 積極的対空手段(高射砲、高射機関銃、戦闘飛行隊及び其の他軍隊の採るべき手段)の決定及び任務
      3. 消極的対空手段の適用に関する特別の部署(偽装、遮蔽、行軍隊形の分散等に関し)
    3. 第42
      野外対空監視警報哨(無線機を配属す)及び各部隊対空監視斥候(乗馬又は徒歩の複哨にして煙火及び無線信号機を属す)は四囲の上空に対し唯一機と雖も、これを見逃さざる如く不断の監視網を構成せざるべからず
      行軍間に在りては行軍警戒部隊は対空監視斥候(又は対空監視哨)を配置し、尖兵、側兵小隊又は後衛尖兵と共に行動せしむ。以上の外、各部隊は対空監視警報哨を補綴する為、側方3乃至5粁の地点に対空監視斥侯を、又縦隊内には各兵種の中隊より対空監視警報哨を配置し、直接対空監視及び警報の受理伝達に任ぜしむ。対空監視斤候相互の距離は2粁以内とす
      戦闘間に在りては其の戦線たると後方たるとを問わず、野外対空監視哨及び対空監視斥候を配置す。対空監視網の第一線を構成するものは大隊対空監視斥候にして、後方にありては連隊、師団及び軍団対空監視哨を以て対空監視網を組織す
      宿宮間に在りては前哨は野外対空監視警報哨及び対空監視斥候を小哨の線に配置す。側方及び後方に対しては休宿中の軍隊より夫々5粁の地点に対空監視斥候を派遣す
      以上の外、各部隊はその宿営地区内に自ら対空監視哨を設置し、当該部隊対空監視斥候及び隣接部隊対空監視哨との間に連絡を維持せしむ
      警戒部隊の対空監視斥候は夫々当該警戒部隊長、宿営地区内対空監視哨は大隊長又は宿営司令官、之を部署し、補足的対空監視哨及び監視斥候の派遣は本隊(縦隊、部隊、兵団)司令部の命令に依るものとす
    4. 第43
      野外対空監視哨及び監視斥候は相俟って同時に四周に対する対空監視を行う
      対空監視斥候の煙火若しくは無線信号あるときは、対空監視哨は直ちに無線信号に依りて之を伝達し、更に各級指揮官は各部隊所定の信号により直ちに之を伝達す(音声、サイレン、喇叭、号笛、煙火信号等)
      戦闘間警報組織は其の攻撃たると防御たるとを問わず前項の要領に拠る
      対空監視哨及ぴ監視斥候は敵戦車の現出に当りても、亦同様警報を発し、又は之を伝達するの義務あり。之が為、特別の敵襲警報信号を規定するを要す(煙火の色、特種の発声信号及ぴ無線信号等)
    5. 第44
      敵襲警報の受信に任ずべき無線機は、行軍間と雖も断えず当直を定め、同一の警報無線通信系に入るものとし、此等無線通信所は悉く其の受信機及び送信機を同一の特定警報波長を以て整調し置くものとす
      無線信号は引き続き1〜2分間に亙り発信せらる
      隣接師団又は通信到達距離以上に離隔せる地点よりの無線警報を受理する為、師団又は独立縦隊は左の如く部署す
      1. 隣接地区(又は縦隊の空中及び戦車警報受信の為、無線機2機(本無線は隣接部隊の警報波長を以て受信し、自己の警報波長を以て伝達す)
      2. 自己の警報波長を以って受信し、且つ速かに之を伝達する為、無線機1又は2機
    6. 第45
      空中警報は3機又は其れ以上の飛行機の現出せる場合に於いてのみ発せらるべきものとす
      敵襲無線警報は所定の記号に依る。空中警報は単に数字を使用し1は北、2は西、3は南、4は東を意味するものとし、その結合即ち1、2は北西、3、2は南西、3、4は南東、1、4は北東を表わす。而して右数字は飛行機の前進し来れる方向を示し、若しその始めにTを加うる時は戦車の現出方向を示すものとす
    7. 第46
      対空監視哨の警報伝達の為には、活動中の全有線通信網をも利用するを要す
    8. 第47
      空中警報あるときは、各種対空兵器は直ちに対空戦闘を準備し、軍隊は左の如く行動す
      1. 行軍問に在りては遮蔽手段を採りつつ、疎開又は分散隊形を以って前進を継続す。兵は直ちに防毒面を装し、人馬共に防毒外被を著用す
        各中隊(騎兵中隊)対空射撃部隊及び重機関銃は対空射撃を準備し、到る所対空監視を厳にす
        各部隊化学兵は直ちに所要の準備を為し、速かに毒化地域及び被毒部隊を発見する為、化学捜索を行う
      2. 戦闘間に在りては人馬共速かに防毒外被を装し、依然其の任務を続行す。各中隊(騎兵中隊)、対空射撃部隊(特に指定せらる)及び重機関銃は対空射撃を準備す
      3. 宿営間に在りては行軍若しくは戦闘間と同様人馬の防護及び対空射撃準備を行う外、各自予め準備せる各個掩蔽部(地隙型)に掩蔽す
      村落又は森林内に宿営しある場合には防火手段を講ずるを要す
    9. 第48
      敵戦闘飛行隊の襲撃を受くるに当りては、特に指定せられたる対空射撃部隊及び化学兵以外は、全員速かに地形地物を利用して遮蔽し、防毒面及び防毒外被(外被なきときは外套)を装す
      空中襲撃終了せば指揮官は速かに各部隊の秩序を恢復し任務を続行す。此の際、負傷者及び被毒者の救急の為、看護兵・看護長及び軍医を残置す
    10. 第49
      行軍縦隊を庇掩する為、中口径高射砲1大隊の担任し得る地域は、単層射撃を以てする場合縦隊の進路上18粁、重層射撃を以ってする場合8粁とし、縦隊間隔4乃至6粁なるときは、同時に2縦隊を庇掩することを得
      機械化牽引大隊は大休止の前後を通じ、2回に亙り縦隊の全一日行程を庇掩し得るものとす
      高射砲各中隊は縦隊の前進に伴い、或は独立せる進路を前衛の後尾と斉頭面に、或は前衛の後尾に続行して逐次陣地を占領しつつ前進す。一般縦隊より分離して行動する高射砲中隊の為には特別の掩護隊を附す
      高射砲1大隊は長径5粁の隘路を掩護することを得
      戦闘及び宿営間に在りては、高射砲大隊は単層射撃を以ってする場合直径8乃至11粁の地域を、又重層射撃を以ってする場合直径5乃至7粁の地域を庇掩す
    11. 第50
      小口径高射砲は行軍間師団主力縦隊の庇掩に任じ、縦隊の側方又は梯隊間隔を常時戦闘準備を整えつつ小隊毎に前進す
      高射機関銃は縦隊と同行し、若しくは縦隊の側方を常に射撃準備を整えつつ前進す
      襲撃に当り低空に降下する飛行機に対しては小銃射撃も亦有効なり、従って各中隊は小銃対空射撃部隊を指定して、特別教育を行い特種弾薬を装備するを要す
    12. 第51
      軍団(師団、連隊)の攻撃に当り戦車の打撃集団及び砲兵を掩護するは、防空機関の最も重要たる任務なりとす
      高射砲中隊の陣地は、敵の空中観測機を撃墜し得るのみならず突撃に当り急遽陣地変換を行うの必要なからしむる為、成るべく敵の第一線に近接せしむるを要す
      高射機関銃は、襲撃飛行隊近接の公算最も大なる向きに対し火力を隻中し得る如く準備すべし
      高射砲大隊は常に射撃準備の態勢にある如く、梯隊区分を以って交互に各中隊を前進せしむ。即ち1中隊陣地変換を行う間、他の2中隊は陣地に在りて依然射撃準備の姿勢に在るものとす
      攻撃間、襲撃飛行隊に対し軍隊を掩護するは連隊高射機関銃の任とす
      徒歩攻撃中の騎兵は空中襲撃に対し手馬を掩護する為、所要の手段を講ずるを要す。之が為、特に機関銃を有する一部隊を配置すること必要なり。砲兵輓馬及び戦闘行李の掩護の為にも亦同様の手段を講ずること肝要なり
    13. 第52
      防禦に在りては第一線高射砲中隊は敵の偵察及び砲兵協力機の行動を妨害する為、陣地帯第一線の前方に対しても亦射撃を行い得る如く位置す
      高射砲陣地は戦車の近接し得ざる地点にこれを求むるか、若しくは対戦車障碍物を以って之を掩護せざるべからず
      高射砲陣地は之を野砲陣地に近く選定することを避くべし。蓋し敵の地上射撃に対し暴露するの虞あればなり
      高射機関銃は低空に降下する敵飛行機に対し、打撃部隊及び砲兵陣地を掩護す。高射機関銃の火力を補足する為、重軽機関銃、小銃部隊及び対空狙撃兵を使用す
    14. 第53
      軍隊(師団、軍団)の配備、行軍若しくは戦闘行動を庇掩すべき駆逐飛行隊は、地上対空監視網を利用して敵飛行隊と空中戦闘を行う。空中戦闘の為の出動は駆逐飛行隊長の独断に依るものとす
      駆逐、襲撃及び軽爆飛行隊長は空中捜索の結果に基き、敵飛行場を発見し飛行場に在る敵飛行隊を撃滅す
    15. 第54
      鉄道輸送に当りては、積載卸下地点及ぴ行進中の列車の防空を行わざるべからず
      積載卸下地点の防空は輸送を命じたる統帥部の責任とし、積載及び卸下地点毎に防空指揮官を任命す
      被輸送部隊の指揮官はこれとは別個に自ら対空防禦の処置を講ず
      若し積載卸下地点に予め防空組織の準備なき時は、一般兵団長は所要の資材を以て対空防禦を行い、防空指揮官を任命す
      輸送中に於ける列車の対空防禦は被輸送部隊(又は機関)の先任指揮官の任とす
      其の要領左の如し
      1. 機関車に一組(少尉を長とす)、列車の最後尾に一組の対空監視斥候を配置す
      2. 対空監視斥候、防空機関、先任指揮官及ぴ列車内各部隊相互の間に電話連絡を行う
      3. 高射機関銃(対空射撃設備を有する重機関銃を含む)を左の如く配置す
        機関車の炭水車上2〜3挺
        最後尾の無蓋車上2乃至4挺
        列車の中央部附近2挺
      4. 停車中低空に降下する飛行機を射撃する為、対空射撃部隊(4乃至6分隊)を指定す
      5. 化学、防火及び衛生要員を準備す
      列車の進行中に於ける空中及び化学警報は機関車の汽笛に依るものとす