1936年発布

赤軍臨時野外教令


第二章 捜索及び警戒
  1. 其の四 対化学防禦
    1. 第55
      対化学防禦の主要なる目的は毒物に対して直接軍隊を防護し、化学兵器を使用する敵に対し軍の戦闘行動を保全するに在り
    2. 第56
      敵航空機の到達し得る地域に於いては、各兵種各部隊及び兵団指揮官は如何なる状況に於いても、常に対化学防禦の処置を講ずるものとす
    3. 第57
      軍隊の対化学防禦計画は指揮官の決定せる戦闘目的に基き、兵団(部隊)幕僚之を立案し、左記事項を包含す
      化学捜索、化学監視、気象観測、各個及び集団防護に関する処置、通過地点又は一定地区の消毒手段、軍隊及び後方に対する化学攻撃の防止法、防火の処置
    4. 第58
      軍隊の対化学防禦を行うには左記諸件を規定するを要す
      1. 地形、特に軍隊の行進路及び配備地域の化学捜索。(特に敵の撒毒に便なる地域に注意す)既に毒化せられたる地域(地帯)に対しては、其の迂回又は通路消毒の目的を以って地形偵察を行う
      2. 捜索及び警戒機関には毒化地域の発見及ぴ之が予告の為、化学兵を配属す。敵飛行機の現出に当りては化学兵は毒物雨下の有無に注意し、これを発見せば速かに其の位置及び毒化時期を報告す
      3. 行軍又は戦闘部署の各部隊に所要の消毒材料を配当し、且つ毒化地区(地域)の消毒手段を予定す
      4. 気象観測並びに対化学監視哨(移動及び固定)勤務を規定す。自動車化機械化部隊に在りては中隊毎に、又自動車化部隊に在りては行進間各小隊毎に、信号器材を有する対化学監視哨を設置す
      5. 被毒人馬に対する衛生並びに獣医救急勤務を規定し、戦場消毒所の行軍序列及び配置を定む
      6. 軍需品、糧秣及び給水地の防毒手段を予定す
    5. 第59
      化学捜索の主要目的左の如し
      1. 敵の化学攻撃準備の兆候を判定す
      2. 化学攻撃の開始を発見する外、毒化地域の所在、使用毒物の性質、毒化地域又は地区の限界、毒化手段及び其の時期並びに迂回路の有無を偵知す
      3. 対化学監視哨、消毒材料其の他の配置に便利なる地区地点を選定す
    6. 第60
      空中警報は同時に化学警報たるものとす
      化学警報「ガス」はサイレン其の他、所有通信器材を以て伝達せらる。本警報に依り軍隊は第47及び第48に示す所に拠り化学防護の処置を為し、洗浄消毒所は被毒人馬の洗浄を準備す。行軍間に在りては道路の近傍、風上側に開設し、発見し易き旗及び標識を以って標示す
    7. 第61
      持久性毒物を使用せる敵機の攻撃を受けたる時は、左の如く処置す
      1. 各部隊は速かに前進して毒化地域より脱出す。各幹部は軍医及び獣医等の援助の下に、速かに被毒人馬を発見す
      2. 軽度の被毒人馬は現地に於いて治療を行いたる後、戦列に止まり、強度の被毒人馬は大隊長の命令に依り大隊(連隊)洗浄消毒所に送致せらる
      3. 化学小部隊は毒化地域の限界を査定し、明瞭なる標識を以って之を標示し、且つ其の迂回路を標示す
      4. 行軍間に在りては、速かに後続部隊に毒化地域の存在すること並びに、其の迂回路を通報し、且つ標兵を残置す
      5. 連隊化学兵は、要すれば通路の清掃又は所要の地域消毒の為、必要の処置を講ず
    8. 第62
      化学部隊は気象観測の為其の気象班を使用し、且つ航空部隊及び砲兵の行う気象観測の結果を利用す
      第63
      陣地攻撃に於ける対化学防禦の主要なる任務は、敵の化学兵器使用に当り、軍隊をして攻撃を中絶すること無く所望の成果を収めしむるに在り
      各部隊長(兵団指揮官)は、捜索に依りて知得せる情報並びに自己の状況判断に基づき、左の事項を判断す
      1. 開設すべき通路の数、位置及び開設の時期
      2. 毒化地域の近傍に在る敵の制圧手段
      3. 毒化地域通過部隊に対する防毒資材の配当
    9. 第64
      敵の化学攻撃の成果を微弱ならしむる為、採るぺき手段左の如し
      1. 積極的に敵の化学攻撃準備を破壊する為、あらゆる手段を講ず(我が砲兵、飛行機其の他を以ってする毒物の使用等)
      2. 戦線及び後方に於いて各部隊、司令部、包帯所及び通信所等の為に、組織的に対化学掩蔽部及び防毒設備を有する個所(密閉せる個所・濾過器等)を設置す。長時間毒物に対する化学勤務に任ずる部隊あるときはその交代を予定す
      3. 各部隊に煙幕中に於ける射撃に必要なる資材を交付すると共に、煙幕中に於ける射撃効果を期待する為、側方観測及び飛行機による射撃指導を計画す
      4. 各部隊に敵の化学攻撃に当り採るべき行動計画を指示す
    10. 第65
      積載卸下地区(停車場)の対化学防禦は鉄道輸送たると自動車輸送たるとを問わず、左の如く実施す
      1. 軍隊及び貨物の輸送に任ずべき輸送機関には天幕を装備し、特に周到なる注意を以って兵器、糧秣等の輸送物件を被覆す
      2. 積載卸下作業中軍隊は常に「装面準備」の姿勢に在らしめ、化学及び空中警報の要領を告知し、警報に際し採るべき処置を熟知せしむ
      3. 積載卸下地区(停車場)に対する空中攻撃に当り、同時に被害を蒙らざる如く風上に離隔して洗浄消毒所を設置す
    11. 第66
      後方に於ける対化学防禦の主要たる目的は兵站路、補給停車場及び積換所に於ける前送及び後送作業の中絶並びに、後方機関人馬に対する毒害を防止するに在り
      後方に於ける対化学防禦は左の如く之を実施す
      1. 積換所の対化学防禦は師団又は軍団幕僚の責任とす
      2. 兵站線(特に橋梁・隘路等)、補給停車場、端末停車場、兵站区、鉄道橋、通信中枢その他に於ける対化学防禦は、軍用道路長官及び兵站司令官の任とす。但し端末諸倉庫自体の対化学防禦は、当該倉庫長の区処によるものとす
      3. 後方諸施設に於ける対化学防禦は夫々当該施設の長官、之を区処す
    12. 第67
      部隊後方機関は対化学防禦に関し左の如く作業す
      1. 糧秣の毒物に対する周到たる防護
      2. 毒化被服及び装具の交換
      3. 兵器々材各種技術資材の消毒
      4. 毒化物件の輸送及び消毒