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1936年発布
赤軍臨時野外教令
第二章 捜索及び警戒
其の一 捜索
第19
敵状其の他に関する情報の収集は、戦闘行動の終始を通じ如何なる場合に在りても、軍隊、司令部、本部及び各軍人の責務なりとす
敵状は、各部隊の戦闘行動、空中及び地上捜索、観察及び傍聴勤務、俘虜及び逃亡兵の訊問、無線捜索、鹵獲文書の研究及び地方住民の利用に依りて之を偵知することを得
特に、
イ
戦闘を以ってする捜索及び地上捜索は敵状に関し完全にして最も信頼するに足る情報を齎す。此種捜索は捜索隊の捜索行動及び特に派遣せる部隊の戦闘に依りて実施し、戦闘間は各部隊悉く之に任ず
ロ
空中捜索は高級指揮官の行う戦略的捜索の主要手段にして、又戦術的捜索の一手段なり
ハ
観察は各種捜索(空中捜索、騎兵、自動車化機械化部隊、砲兵及び徒歩部隊の捜索)に之を伴う外、特に指定せる観察者及び幕僚幹部を以って之を行う
ニ
電話の窃聴は敵と密接に触接せる場合、各部隊之に任ずるか、又は敵の後方に在る電話線に窃話器を挿入して之を行う
ホ
無線捜索(無線傍受及び無線所の標定)は、敵状を偵知し、或は自己無線通信網の通信状況を監視する為之を行う
ヘ
文書は諜者、若しくは戦闘行動、殊に敵の後方に於ける戦闘(司令部の襲撃、伝令の捕獲等により、戦死者又は俘虜より)に依りて之を獲得す
ト
地方住民は往々貴重なる敵状に関する情報を提供することあり、然れども此種情報は他の捜索手段を以って之を慥かむるを要す
第20
戦闘間、特に捜索を目的とする戦闘に於いて観察手段を講ずることは幕僚の重要なる責務の一つなり。観察者は適時上級指揮官に対し、為し得る限り正確且つ完全なる敵の兵力資材及び行動ならびに地形に関する情報を提供せざるべからず
空中捜索を行うに当りては、目視に依る偵察は写真偵察を以って補足確定するを要す
第21
敵の兵力配置を偵知する為には、捜索隊の積極的行動、夜間捜索及び部分攻撃等の手段に依り計画的に俘虜を獲得するを要す
俘虜を獲得せば直ちに簡単なる訊問を行い、俘虜若し軍人たるときは直ちに現地に於いて其の携帯する文書及び筆記物を奪いたる後、護衛を付して司令部に送致す。此の際兵卒と将校下士とを分離す
軍人たる俘虜に対しては相互の談話を許可すべからず
第22
捜索は戦闘間又は其の前後たると平静時たるとを問わず、司令部の一般的捜索計画に基き
中絶すること無く実施す
戦闘又は捜索の結果判明せる敵状は、事後の捜索に依りて之を監視し、日を逐って之を確定す
攻撃開始前後の兵力配置を確知する為、又は何等かの状況に依り、特に命ずる部隊の戦闘に依りて情報を獲得することあり
第23
指揮官は捜索に関する任務を定め、之に必要なる資材を準備す。捜索計画は左記事項を包含し、参謀長之を確定す
イ
捜索目的、偵知すべき事項及び其の期限
ロ
捜索隊又は小部隊の名称及び編成ならびに其の捜索目標(最も重要なる目標に対しては各種の手段を重複して指向す)、正面(又は方向)、地域(又は地点)、及び捜索実施の期限
ハ
捜索機関に対する幕僚幹部の配属(必要の場合)
ニ
捜索隊よりの報告手段(無線、飛行機、戦闘車両、自動車、自動自転車、伝騎、徒歩伝令、情報蒐集所)
ホ
捜索隊の交代に関する部署
ヘ
予備手段及び行動中派遣すべき補足捜索機関(其の編成、任務)
捜索計画の策定に当りては、特科部隊、本科以外の各部及び政治機関の捜索目的も考慮するを要す
捜索計画は捜索の実施に伴い、逐次之を補修して精密ならしむるものとす
第24
捜索機関に与うる任務は次の事項を包含し、参謀長之を定む
イ
敵状
ロ
自己及び隣接部隊の捜索機関の状況
ハ
当該捜索の任務、特に明確に偵知すべき事項を指示す
ニ
報告受領者、送達地点、時期、送達手段及び中間連絡点(設置せらるる場合)
ホ
対空連絡の為の約束記号
ヘ
前方部隊通過の為の合言葉
自己兵団(部隊)の任務を捜索隊長に示す場合に於いては、
必ず口頭を以ってし、且つ其の捜索任務達成に必要な範囲に之を限定するものとす
捜索隊の兵力資材は其の任務及び状況に適応せざるべからず
重要なる方面に於ける捜索機関は相当の突破力を伴わざるべからず。之が為、地上部隊に対しては自動車化機械化小部隊を、又空中部隊に対しては駆逐隊を増加するを要す(空中部隊は飛行機の集団隊形を以って行うことあり)
第25
一般兵団の為の空中捜索は、軍団飛行中隊及び、軍より配属せらるる飛行隊を以って之を行う
師団連絡飛行編隊は、主として戦場監視及び部隊との連絡に任ずる外、友軍第一線を越える事無く敵状偵察を行う。其の飛行高度は戦場上空に於いて500米以下とす。
連絡機が敵状捜索の目的を以って敵線内に進入するは稀有の場合に限る。軍団飛行中隊が一機をもって偵察及び監視に任じうる地域は、戦場に於いては友軍の上空深さ10粁幅12粁、敵方に対し縦深深く捜索する場合に於いては正面幅5乃至10粁、深さ100粁、横方向の某地帯を捜索する場合に於いては正面幅100粁とす。飛行高度は戦場上空に於いては1000米以上、縦深に亙る捜索に於いては1500米以上とす。
第26
師団捜索大隊は、師団作戦地域内に於ける遠距離及び近距離捜索に任ず
イ
遠距離捜索の為には、捜索大隊は師団主力の前方25乃至30粁に進出し、斥候(車載歩兵を伴う装甲自動車2・3両)及び移動監視哨(幹部の長とす)を派遣す
大隊主力と斥候との距離は重機関銃の射程を越えるを得ず、移動監視哨は斥候の後方を自動車を以って前進す
捜索大隊主力たる騎兵及び自動車化機械化部隊の前進は躍進に依る
師団参謀長は捜索大隊の戦闘を観察せしむる為、幕僚幹部に連絡機関を付して捜索大隊に派遣すると共に、空中よりも亦観察の手段を講ずるを要す
ロ
捜索大隊の近距離捜索(師団主力が敵主力と戦闘触接の状態に在る場合)は、一般部隊の戦闘要領又は夜間の小奇襲に依る
捜索大隊を以って敵陣地帯の捜索を行う場合には、砲兵、時として狙撃部隊をも之に増加す。此の場合に於いては敵陣地帯の内部を通視し得る部分を奪取すると共に敵状諜知の目的を以って俘虜の獲得に努むるを要す
此の際、他の部分に対しても亦同時に砲兵の準備射撃を実施し、敵を偽騙すること肝要なり
師団司令部は、捜索大隊の奪取地点、師団主力の位置及び空中よりする幹部の観察手段を予定するを要す
夜間小奇襲は分隊乃至中隊長の指揮する小隊を以って之を行い、砲兵及び機関銃の準備射撃を行わず(奇襲の必要を顧慮す)
第27
敵と直接触接する場合に於いては、師団長は敵陣地偵察の為、師団捜索大隊の外、師団内某連隊の狙撃大隊を之に使用することを得
此の場合、狙撃大隊の行動を支援する為、砲兵2大隊及び戦車(伝令1小隊なるも可なり)を使用す。此の際大隊長は通常歩兵の一部を第一線に使用するものとし、捜索実施の要領は前条「ロ」項に記述する所に拠る
第28
狙撃連隊は乗馬捜索小隊及び部下歩兵の小部隊を以って捜索を行う
連隊長は敵陣地帯偵察の為には各大隊の有する戦闘資材を利用し、狙撃各大隊、連隊砲、工兵及び化学兵に対し、夫々任務を付与す
第29
狙撃大隊は捜索の為、通常選抜斥候群を使用す
大隊の捜索は、昼間主として近距離観察に依り、夜間は俘虜獲得の為の小奇襲に依る
第30
騎兵の捜索は、警戒部隊及び騎兵、又は自動車化機械化兵を以って編成する捜索隊に依りて之を実施す
騎兵及び機械化斥候は直接敵と触接を保持す
徒歩捜索は狙撃部隊に於けると同一の要領に依る
第31
機械化兵団は、其の警戒部隊及び捜索隊を以って敵状捜索を行う
警戒部隊は斥候(通常戦闘車輌2輌)を以って捜索を行う。斥候の主力より離隔し得る距離は2粁以内とし、斥候の後方には直接敵状観察に任ずべき戦車を続行せしむ
機械化旅団は捜索の為通常捜索中隊を派遣す。
捜索中隊は時として特種戦車及び車載歩兵を以って増加せらるることあり。戦車大隊は捜索の為捜索小隊又は斥候(戦闘車輌2、3輌)を派遣す
砲兵、戦車(1、2小隊)及び車載歩兵を増加し、部隊飛行機の空中監視により掩護せらるる捜索中隊の、旅団主力より離隔し得る距離は25乃至35粁とす。中隊は既述の要領に従い斥候及び観察者を派遣す
中隊主力は平均時速10乃至15粁を以って前進し、敵と触接するに至らば、配属砲兵若しくは砲兵戦車の逐次躍進しつつ行う掩護の下に前進を継続す
車載歩兵部隊砲兵戦車及び砲兵は、機関銃若しくは砲火を以って敵対戦車砲を射撃し、捜索戦車の攻撃を支援す
第32
兵団長と捜索隊との連絡は、無線(「コード」に依る)、飛行機、装甲自動車、豆戦車、自動自転車、若くは自動車に依りて派遣せらるる伝令を以って維持せらる
第33
幕僚幹部若くは幕僚及び特科幹部より成る偵察団を以ってする偵察、並びに兵団長自らの視察は、戦闘に関する決心採用前必ず実施せらるべきものとす
其の目的とする所左の如し
イ
他の捜索手段によりて入手せる情報の最終的確定
ロ
予想戦況に対する観念の強化
本偵察は監視所より之を行い、或は飛行機及び戦闘車両を以って之を実施す
第34
通信器材を以ってする捜索は左記目的を以って実施せらる
イ
活動しつつある敵無線通信所の位置を標定し、之に依り司令部の位置及び兵力部署を判定す(方向標定・無線監視)
ロ
無線に依る敵の作戦通信又は通話を傍受し、或いは敵国新聞雑誌の報道を聴取す(無線傍受)
ハ
有線通信器材に依る作戦上の通話を窃聴し筆記電話を窃取す(窃話機の挿入又は傍聴)
第35
特科部隊及び各部の情報勤務、夫々所要の特科及び各部幹部に依りて実施せらる
特科部隊及び各部の捜索及び視察に依りて得たる情報は、速かに之を一般兵団司令部幕僚に通報し、幕僚、各部隊及び各部は互に重要なる情報の交換を行うの義務あるものとす
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