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1936年発布
赤軍臨時野外教令
第十章
冬季行動
第272
冬季行動の特性は、積雪、寒気、及び日中の短きことに起因す
冬季に於ける戦闘行動に当りては、指揮官及び後方機関は、特に兵員の体力、健康、及び戦闘力の保持に注意し、兵器其の他戦闘技術資材の利用に遺憾無からしむる如く努力せざるべからず。冬季に於ける戦闘行動は、
イ
軍隊休宿の為、住民地の価値を向上し、之に依りて其の戦術的価値を増加す
ロ
スキーを有せざる歩兵、騎兵、輜重、砲兵、及び戦車の、路外に於ける行動を困難ならしむ
ハ
日中の短きこと及び路外に於ける行動の困難なることに起因し、夜行軍及び夜間行動を行う機会を増加す
軍隊の冬季に於ける運動性及び機動性は、一に其の訓練、装備、及び戦場の特性に依り左右せらる。冬季行動に慣熟せず、且つ所要の装備を有せざる軍隊は迅速に其の戦闘力を喪失し、冬季の使用を準備せられざる戦闘資材は却って軍隊の煩累となるものとす。是等の点に於ける敵の弱点は、不断の努力を以って積極的に之を利用することに努めざるべからず
冬季に在りては凍結せる河川及び湖沼の通過比較的容易なり
第273
行軍を行うに当りては、予め地上及び空中偵察に依り、冬季道路の存否ならびに其の通過の能否を偵知するを要す。行軍は通常6〜7時間を超えざる範囲に於いて之を計画し、住民地、森林、又は風に遮蔽し、採暖燃料豊富なる地区に於いて其の日の行程を終了する如くするを要す。縦隊の大小ならびに其の編組は、其の戦術的独立性並びに住民地(又は露営地)の収容力如何に依りて決定せらる。大休止は多くの場合之を予定せず、小休止は寒気の如何に依り努めて之を短縮す。スキーを有する歩兵部隊は全部主要道路の両側地区を行進し、之に依りて努めて縦隊の長径を短縮するものとす。
行軍間に於ける捜索は、スキー兵、騎兵、戦車、及び路外自動車を以って之を行い、警戒部隊は通常スキー部隊を以って之を編成す。技術兵部隊は、除雪作業、道路の改修、及び縦隊路の開設に任ずるものとす
第274
積雪を伴う冬季に於ける攻撃は、通常道路に沿いて之を行う。此の際、歩兵、戦車、及び砲兵より成る強大なるスキー打撃部隊を以って、敵の側面及び背面を攻撃することに努むるを要す。夜間はスキー隊を以ってする果敢なる夜襲、及び敵の前方部隊の掃蕩の為屡々利用せらる。昼間積雪大なる開豁地に於ける歩兵の接敵及び展開は煙幕を以って遮蔽し、スキーを以って之を行う。隠蔽地に於いては、接敵の為にも又遮蔽の為にも地物(河川、湖沼、森林、林叢其の他)の戦術的特性に大なる変化あることを顧慮せざるべからず。冬季は行軍と戦闘とを問わず、軍隊の偽装に関し特種の条件を必要とすることに注意すべし(白衣、白色幕布等)
砲兵には橇を装せざるべからず。攻撃の進捗に伴い、火力及び車輪(又は橇)を以って遺憾無く歩兵に随伴する為分属主義を採り、且つ無限軌道車輌を以って之を牽引するを要す
積雪30糎以下なるときに於いては、戦車は一般の攻撃に参与す
攻撃部隊の側面は、敵の機動部隊に依る逆襲に対しスキー隊及び飛行隊を以って之を援護すべし
併行追撃を行う為には数個のスキー隊を派遣す。此れ等の部隊は努めて其の機動性を増加し、而も其の体力を愛惜する為、道路に沿い馬匹及び戦車を以って之を曳航するを可とす(平坦地に於いて積雪著しく大ならざるときは路外に於いても亦可能なり)
直接敵と相対峙せる場合、陣地帯より攻勢に転ずる要領は一般の原則に拠る
第275
寒気は防禦を住民地に牽制する傾向大なり。敵に住民地、森林及び林叢等の地物を利用するの自由を与えず、之を我が陣地帯の内部に於いて第一線に近く保持することは大なる価値あり。陣地帯の前縁は、努めて之を冬季歩兵及び戦車の近接困難なる地区(谷地、積雪深き地域、河川、氷原小なる小川等)の後方に選定す
軍隊の配備及び火網組織は、陣地帯前縁及び陣地の両翼側に通ずる諸道路、及び冬季近接路を悉く火制し得ざるべからず。夜間スキー隊を以って小出撃を行うことは有利なり
冬季に於ける土工作業は、多くの時間と特種の技術資材とを要求す。此れ故に時間の余裕無き時は厚さ2乃至3米の胸墻を有する積雪散兵壕を以って一般の散兵壕に代うることを得。軍隊たると陣地設備たるとを問わず、凡て偽装に大なる注意を払うこと肝要なり。寒気大ならず、且つ氷厚薄きときは、凍結せる河川の氷を破砕して長大なる障碍を構成するを有利とす
第276
冬季通信連絡の為にはあらゆる通信連絡機材を使用する外、飛行橇を使用することを得。電話線はスキー兵又は橇に依りて之を設定す。一般にスキー伝令の使用は頗る広汎なり
第277
冬季は夏季に比し毒物の持久性大にして、防護資材の使用も亦複雑なることに注意するを要す
第278
冬季に於いては、昼間行軍(特に快晴の場合)及び軍隊所在地域の掩護に関し、航空部隊に対する要求大となるのみならず、行軍及び休止中の敵に対する攻撃の機会も亦増加す
対空防禦の原則は冬季に於いても亦変ること無し。空中警報に際しては、スキー部隊は速かに進路の両側に沿い広地域に分散し、スキーを有せざる部隊、騎兵、砲兵、機械化部隊は縦長に疎散配置を採るを有利とす。対空防禦資材は主としてスキー又は橇を有せざる部隊の掩護に使用せらる
第279
本科ならびに各部各幹部の冬季に於ける最大の責務は、兵員の体力及び戦闘力の保持に関し配慮を怠らざるに在り。状況之を許せば、宿営及び休止位置は之を掩蔽下に選定するを要す。若し住民地を利用する能わざる時は周到なる注意を以って風に遮蔽せる位置に露営地を選定し、陣地占領に当りては土窟を掘開するのみならず、凡ての場合に於いて、或は掘立小屋を建て、或は軽易なる採暖設備を行い、或は燃料を獲ることに努力せざるべからず
凍傷予防に関し万般の処置を講ずることは、仮令暖気の到来時期に当りても絶対に緊要なり。之が為、適時温暖なる被服を支給し、凍傷軟膏を分配し、脚絆を乾燥し、紙を以って脚を包み、布を以って鐙を追おう当、各種の手段を講ぜざるべからず。兵に対しては互いに監視して凍傷を戒むべきを訓べ、凍傷に際し採るべき処置を教育せざるべからず
冬季は特に厳粛なる軍紀を維持すると共に、行軍の要領に慣熟するを要す。即ち、或は行軍間遅滞する者を戒め、或は自ら絶えず身体を動かして暖を取り、或は休止間坐臥するを戒むる等是なり。騎兵、砲兵、及び輜重に在りては曳馬行軍を行うを有利とす
第280
冬季は独立して行動する部隊の指揮官に対し、組織的に気象通報を行うこと肝要なり
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