歩兵操典

第四篇 歩兵砲教練
第二章 射撃
第二節 速射砲

要旨
  1. 第397
    射撃は通常小隊長の命令に基き、分隊長之を号令す
    分隊長は射撃に方り、予め射向上の固有修正量を、射距離の装定に方り射距離上の固有修正量を修正せしむ
  2. 第398
    射撃に方り、移動目標に対しては予め目標、射向修正量、射距離、要すれば照準点を、固定目標に対しては予め目標又は補助照準点、射向修正量、射距離を号令し、発射せしむ
    榴弾を用うるときは、予め之を示す
  3. 第399
    砲手は相互の協同円滑なること、目標を速やかに了解すること、移動目標に対し正確迅速に照準し発射すること、距離分画の装定正しきこと、装填の迅速確実なること、及び目標変換の速やかなることに熟達するを要す
    観測手は観測具の取扱いに精熟し、正確迅速に距離を測定すること、速やかに目標を発見すること、及び射弾の観測的確なることに熟達するを要す

射撃用意及び解除
  1. 第400
    射撃用意を為すには射撃用意の号令にて、二番は洗桿を脱し、結合して五番に渡す。一番は照準具被及び歯弧被を脱して五番に渡し、照準具托架を点検し、照準具、次いで眼鏡を照準具托架に装し、安全板を発火装置にし、眼鏡、照準具、撃発機関の機能を点検し、諸分画を定位にす
    三番は分画筒被を脱して、砲尾を上げ砲尾被を脱し、分画筒被と共に之を五番に渡し、砲尾托架を右脚に畳み、安全栓を発火装置にし、高角照準機、砲腔、砲尾機関、結合軸の機能を点検し、安全栓を安全装置にし、高角分画を定位にす。五番は第一属品箱を砲の左に運び、砲口被を脱して砲腔を点検し、照準具、次いで眼鏡を一番に渡し旧に復し、照準具被及び砲尾被を帯革に縛着し、他の諸被は属品箱に納む。七番以下は弾薬を点検す
    諸分画の定位左の如し
    • 横尺
      100
    • 傾斜分画
      略々100
    • 砲架分画
    • 高角分画
      略々300密位
    • 高低角
    分隊長及び砲側に位置すべき砲手は、射撃用意に方り通常耳に綿等を込む
  2. 第401
    射撃用意を解くには用意ヲ解ケの号令にて、射撃用意と概ね反対の順序に動作す。但し、射撃用意に於ける一番の操作は四番之を為す

陣地に於ける分隊長以下の関係位置
  1. 第402
    陣地に於ける分隊長以下の関係位置は、状況、特に地形に依り異なるも、其の標準第十六図の如し
    第十六図
    分隊長は指揮に便なる如く、砲の右(左)後ろに位置す。四番は砲の左脚に跨りて折敷き照準及び撃発に、三番は砲の右脚に跨りて折敷き装填、射距離の装定に、一番は小隊長と分隊長との間に在りて連絡に任ず。二番は随時砲側の砲手と交代し得る如く砲の左後方に、五番は砲の右後方に、六番は砲側に対する弾薬の補充に便なる如く、砲の後方に適宜離れて(利用すべき地物なきときは約20歩)伏臥し、七番以下は弾薬の搬送に便なる如く適宜離れて伏臥す

装填、照準、発射
  1. 第403
    発射法は指命射及び各個射とす
    指命射を為すには、撃テの号令にて三、四番発射し、次発を準備す
    各個射を為すには、例えば撃テ5発の号令にて所命の弾数を連続発射す
  2. 第278
    移動目標に対し射撃せしむるには、例えば左の号令を下す
    • 一軒屋ノ右 先頭戦車
    • 2ツ右へ
    • 1000
    • 撃テ
    三番は装填し、射距離を装し其の結果を報告し、右手にて次発の弾薬を弾頭部を右にする如く右股に托す
    • 装填するには、右手にて閉鎖機を開き、要すれば砲腔を点検、拭浄し、右手にて弾薬の中央を握り、左手を薬莢底面に添えて、弾軸を砲身軸に一致せしむる如く、之を薬室に挿入し、薬莢起縁部鎖栓の中央に達するや、一挙に左手にて薬莢起縁部を薬室後面に圧着す
    四番は右手を照撃把(高低角の大なる修正を要するときは照撃把の転把)に、左手を砲口転輪の転把に致して照準す
    発射を号令せらるるや、三番は宜シと唱う。四番は此の合図にて撃発す。発射せば三番は装填し、四番は続いて照準す
    後坐量の測定は分隊長の命令に依り行う。此の際、装填に先だち後坐尺を定位に復す
    固定目標を射撃するに方りては、射向修正量は通常横尺に装す
  3. 第405
    各個射に在りては、三番は次発の弾薬を装填し距離分画を点検せば、直ちに三番は宜シと唱え、四番は撃発す。発射する毎に1(2)(3)等と唱え、所命の弾数を発射し終れば終リと報告す
  4. 第406
    不発のときは三番は直ちに撃鉄を圧下し、距離分画を点検し、宜シと唱え、四番は再び撃発す。更に不発なるときは、三番は不発と報告し、分隊長の指示に依り弾薬を抽出す

射向及び射角の修正、目標変換
  1. 第407
    射向を修正するには、例えば4左ヘの号令にて、四番は現在照準しある鏡内密位分画、例えば左2ツなるときは、之に所命の分画を修正しつつ右2ツと報告す
    目標の行進方向、射線に対し異なりたるときは、例えば方向0 2ツ左ヘの号令にて、四番は鏡内密位の0を基準とし修正し、其の結果を右2ツと報告す
    目標停止せるときは、四番は直ちに方向0と報告し、分画0にて照準し、続いて射撃す。分隊長は要すれば新たに号令を下す
    脚の移動を要するときは、四番は脚移動と唱え、砲身を概ね砲架の中央に復す。一番、要すれば分隊長及び二番は、直ちに砲側に到り協同して駐鋤を上げ、分隊長の指示に依り新方向に対し脚を固定し、四番は続いて射撃す
  2. 第408
    射距離を修正するには、例えば900又は50伸バセ(縮メ)の号令にて、三番は分画筒に所命の射距離又は修正量を装し、其の結果を報告す
  3. 第409
    目標変換に方り、射向を修正するには通常分画の定位を基準として新たに号令す。但し、鏡内分画に依るときは、四番は別命なければ横尺を定位に復せず。又、固定目標に対する射撃間目標変換を為すに方りては、射向修正の要領に依ることあり

射撃中止及び停止
  1. 第410
    射撃を中止するには撃方待テの号令にて、三番は安全装置にし、分隊長以下操作を中止し伏臥す。但し、安全栓を以って撃鉄を挟持せず、又、発射後なるときは装填す
    射撃を止むるには撃方止メの号令にて、三番は弾薬を抽出し、鎖栓を閉じ宜シと唱え、四番撃発せば安全装置にし、高角分画を定位に復し、左手にて右方閉脚止の把子を左に押す。四番は三番の宜シの合図にて撃発し、諸分画を定位に復し、右手にて左方閉脚止の把子を右に押す。一、二番は駐鋤を上げて旧に復し、三番の合図にて脚を繋駕姿勢に閉じ、次いで四番は左車輪を旧に復す