歩兵操典

第二篇 中隊教練
第三章 夜間戦闘
第一節 攻撃
  1. 第207
    夜間攻撃は特に周到なる準備を整え、中隊長以下必勝を確信して之を敢行するを要す
    精練にして特に攻撃精神充溢し、団結精神鞏固なる中隊は、夜間能く有ゆる困難を克服し、攻撃の成功を期し得るものなり
  2. 第208
    夜間攻撃の命令を受くるや、中隊長は速やかに小隊長に就き企図を示し、敵情、地形を偵察し、且つ部下をして為し得る限り地形地物を暗識し、敵陣地の状況に通暁せしめ、状況之を許せば類似の地形地物に就いて予習を行わしむ
  3. 第209
    夜間攻撃の為、中隊長はなるべく昼間に於いて小隊長を集め、現地に就き的確なる命令を下し諸準備を整えしむ
    前項の命令には、状況、事故の企図、就中中隊の攻撃目標、戦闘遂行の要領、前進及び突撃の部署、方向の維持、障碍物の破壊、警戒、連絡、敵陣地奪取後の処置等、所要の事項を示す
    重火器は通常奪取せる陣地の確保に任ぜしむ。之が為、中隊の後尾を前進せしむ。自動砲は状況に依り残置することあり
  4. 第210
    夜間攻撃に於いては企図を秘匿する為、特に警戒を厳にし、武装を堅確にし、音響を発せざるの処置を施し、突入の外号令を用いざるを可とす。又、一切の火光を敵に対し現に隠蔽し、装填を禁じ、且つ識別容易ならしむる為標識を為さしむると共に、兵に至る迄敵陣地突入後に於ける前進方向の認識を確実ならしむ
  5. 第211
    夜間障碍物を破壊して攻撃する場合に於いては、敵情、特に障碍物の状態及び側防機能を捜索し、我が企図に基き破壊地点、破壊口の数、破壊の時機及び方法等に関し、周到なる計画を定め十分なる準備を整う
  6. 第212
    障碍物破壊の為には、敵の妨害を顧慮し作業時間の余裕あらしむるを可とす。然れども、過早の破壊は我が企図を暴露し、又敵に補修の時間を与うることあり
    障碍物の破壊は勉めて隠密作業に依り、状況之を許さざるときは強行作業に依る。此の際、敵の出撃を顧慮し、一部を障碍物の附近に進めて援護せしめ、又、破壊せる部分に対しては敵の補修を妨害するの処置を必要とす
  7. 第213
    夜間敵に近接する中隊は、行動容易なる隊形にて静粛に前進し、所要の方向に斥候を出して警戒せしめ、大隊長との連絡を確保し、前進方向を維持し、縦い連絡を失うも、確実に目標に到達する如く処置す
  8. 第214
    夜間敵に近接するには、中隊長は先頭に立ち、記号に依り指揮し、他方面の銃声又は喊声に牽かれ前進方向を換うることなきを要す
    前進中、敵の照明又は有効射撃を受けたるときは、一時停止し、若しくは陰影を利用するを可とす。此の際、前進を渋滞し、又は前進方向を誤らざるを要す
    前進中、敵の小部隊、監視兵、犬等に遭遇せば、警戒の為の斥候は之を急襲し、又、中隊長は若干の部隊を予め手裡に存し、所要に応じ之を使用する等、適宜の処置を為し、中隊主力は一意敵に近接す
  9. 第215
    中隊、突撃を準備すべき位置に至るや、前方に派遣しある部隊等と速やかに連絡し、敵情、地形、特に障碍物破壊の状況を明かにし、突撃部署を確定して部下に徹底せしめ、諸準備を完了す。此の際、破壊口の通過掩護の為、煙を準備し、或は一部を予め前方に進むる等の処置を講ずるを可とす
  10. 第216
    夜間に於ける中隊の攻撃隊形は状況に依り異なるも、指揮掌握確実にして、白兵の威力を発揮するに適し、且つ運動容易なるを要す。又、損害の減少をも考慮す
  11. 第217
    突撃に方り、中隊長は先頭に立ち、通常中隊の全力を率い、確実に部下を掌握し、地形を利用し、要すれば匍匐し、極力企図を秘匿して近迫し、射撃することなく突入し、一挙に所命の目標に進出すべし。此の際、所要に応じ、一部を以って敵の妨害を排撃し、或は所要の火点を奪取せしむ
    至近距離に於いて熾盛なる敵火を受くるに方り、直ちに突進すべきや、若しくは地形を利用し、或は匍匐して更に敵に近迫し突入すべきやは状況に依る
    火点の奪取に方りては、敵の不意に出で、為し得る限り其の側背より突入するを利とす。此の際、巧に敵を欺騙するを可とすることあり
    中隊所命の地点を奪取するに方り、地形及び敵の配備に依り、先ず一部を以って之を奪取せしめ、主力を以って確保するを利とすることあり
    夜間攻撃に於いては、友軍の相撃を避くるに注意するを要す
  12. 第218
    中隊長は所命の目標を奪取せば、速やかに秩序を恢復し、直ちに敵情、地形を捜索すると共に、大隊長及び各部隊との連絡を確保し、中隊を部署して至近距離に火力を準備し、所要の工事を行い、警戒を厳にし、敵の逆襲に備え、且つ爾後の行動を準備す