歩兵操典

第二篇 中隊教練
第二章 戦闘
第三節 中隊
第二款 防御
  1. 第196
    中隊は大隊防禦の一部を分担し、火力を以って当面の敵を陣地前に撃滅するに勉め、縦い戦況不利なる場合に於いても能く靭強なる戦闘を持続して、其の陣地を保持し、後方部隊逆襲の支トウたるべきものとす
  2. 第197
    中隊長は任務を受くるや、状況の許す限り綿密に地形を偵察し、中隊の火網を定め、各支点の射撃区域及び占領区域、重火器の任務及び陣地、火力急襲に関する計画、予備隊の配置、戦況の推移に応じて取るべき処置、捜索、警戒、対空、対戦車、対瓦斯の処置、工事、偽装、連絡に関する事項等を定む
  3. 第198
    中隊長は良く地形及び重火器の射撃区域等を考慮し、其の射撃区域内に間隙なき如く火網を構成し、且つ射撃区域外に対しても所要の方向に火力を準備す
    火網は正面射に斜射、側射を適宜配合して陣地前に濃密ならしむる如く支点の火力配置を定め、且つ、所命の地点及び中隊火網内の要点に対し火力急襲を準備す。縦い関係ある重火器の協同を期待し得ざるに至るも、火網に欠陥を生ぜしめざるを要す
    各支点に射撃区域を配当するには、重要部の火力を濃密ならしむると共に、各支点の射撃区域間に間隙なき如く適宜重畳す
    隣接支点の前地に指向すべき射撃に関しては、其の火力、射撃区域、要すれば射撃時機等、所要の事項を示す
    機関銃は側防、火力急襲等に使用す。之が為、分割使用することあり
    自動砲は主として近距離に於ける対戦車射撃に使用し、所要に応じ近距離に於ける対重火器射撃等に使用す
  4. 第199
    中隊長は地形、対戦車火器及び対戦車障碍物の配置等を考慮して、自動砲を最前線に配置し、直轄の肉薄攻撃班(組)を部署すると共に、肉薄攻撃資材を所要の支点に配当し、且つ其の肉薄攻撃に関し所要の統制を行う
  5. 第200
    支点は陣地前方の火制を主とし、予備隊と相俟って能く靭強なる戦闘を為し得る如く、状況、特に地形に応じ、通常小隊を以って之に充つ
    支点の配置は中隊の火網構成を主とし、且つ縦深横広に疎開して、敵火、特に熾盛なる砲(爆)撃の損害を避け、併せて重火器等の間隙射撃、支点相互の支援を容易ならしむる如く定む
    状況、特に地形に依り、一部を支点外に配置し、火網を補足することあり
  6. 第201
    予備隊は、逆襲、第一線の補填、上空及び側背の掩護等に用う
    予備隊の長は、中隊長の命令に基き配置を定め、工事を施し、戦況の変化に応じて占むべき陣地、進路等の為、所要の施設を為す
  7. 第202
    中隊長は捜索の為斥候を派遣するの外、敵の捜索を妨害し、且つ敵情を監視する為、中隊と密に連繋し得る位置に1分隊以下より成る監視部隊1、2個を配置するを通常とす。又、敵情の組織的監視に関し、小隊を部署すると共に、指揮班長をして所要の監視哨を配置し、不断に監視せしむ
    中隊長は監視部隊の撤退時機に関し明確に命ずると共に、警戒部隊の配備及び将来の行動を示す
  8. 第203
    工事は通常中隊長之を統一計画し、時間、材料の許す限り十分に実施す。此の際、中隊全般の陣地及び各支点に、夫々独立性を附与する如く経始し、障碍物及び交通壕を之に調和せしめ、且つ作業力を按排して、其の進捗を状況に適合せしむるを要す。又、敵の熾盛なる砲(爆)撃等を考慮し、中隊配備の一部を変更し得る如く、所要の工事を行うを可とす
    中隊長は主要なる地点に至る距離を測定して標示する等、符号を附し、小隊長に距離測定の基準を与う
  9. 第204
    中隊長は現地に就き、各小隊長に状況、自己の企図を示し、防禦に関し所要の事項を命ず
    中隊長は、爾後勉めて自ら支点の配備を観察し、要すれば一部の修正を行い、又は支点内の配備に関し指示する等、配備の完全を期すること緊要なり
    時間の余裕なき場合に於いては、各小隊をして、先ず其の占むべき位置に就かしめ、逐次命令を補足して配備を完成す
  10. 第205
    戦闘間、中隊長は常に戦況の推移に注意し、適時火力を指導し、特に敵の重要部に対し火力急襲を行い之を撃滅し、或は一時予備隊の火力を以って第一線を支援する等、主動的に戦闘を指導す
    陣地前至近距離に於いて、我が火力の為萎靡混乱せる敵を撃滅するを利とする場合に於いては、中隊長は逆襲を敢行すべし。然れども、軽挙に陣地を棄てて出撃するは戒めざるべからず
    先頭数日に亙る場合等に於いては、巧に配備を変更して損害を避け、敵の意表に出ずるの着意を必要とす
  11. 第206
    敵兵、中隊陣地の一部に侵入せば、猛烈なる射撃と果敢なる突撃とに依り、勉めて其の側背に向い逆襲を敢行し、敵を撃滅すべし