歩兵操典

第二篇 中隊教練
第二章 戦闘
第二節 小隊
第一款 攻撃

戦闘の為の前進
  1. 第144
    戦闘の為前進する中隊疎開せば、小隊は地形地物を利用し、隊形を選び、機敏なる行動に依り、勉めて損害を避け、対空、対戦車、及び対瓦斯の処置を講じ、我が重火器、砲兵等の射撃の効果を利用して速やかに敵に近接す。但し、中隊展開前に於ける小隊の疎開は通常中隊長の命に依る
    縦隊を以って前進中、対空射撃を行うときは、小隊長は方向を示し対空射撃開ケ(たいくうしゃげきひらけ)の号令を下す。奇(偶)数分隊は右(左)側方に出で、各兵は概ね現在の関係位置にて、速やかに距離約3歩、間隔約6歩に開き、所要の射撃姿勢を取る
    敵の瓦斯雨下を予期せば、予め防毒覆及び防毒面を装し射撃を行うを可とす
  2. 第145
    小隊の疎開に在りては、通常分隊を菱形に配置し、状況に依り一線若しくは二線に配置す。分隊間の距離間隔は、別命なければ約50米とす。分隊長は適宜此の間隔を伸縮し、地形の利用を適切にすること緊要なり
  3. 第146
    疎開するには、小隊長は要すれば前進目標(方向)を示し開ケの号令を下す
    先頭分隊は縦に散開しつつ真直に、又は目標(方向)に前進し、他の分隊は分隊長の誘導にて縦に散開しつつ駈歩にて前方より左、右に斜行し、後尾分隊は先頭分隊の後方に在りて菱形の隊形を作り、続いて前進す
    一線若しくは二線に疎開するには、小隊長は予め所要の指示を与う
    疎開せる小隊の前進、停止は小隊長の命に依り、分隊長の号令にて行う
  4. 第147
    戦闘の為の前進間、小隊長は小隊の前方に位置し、敵情、地形を観察し、適時小隊を部署す。又、所要に応じ連絡掛下士官をして中隊長との間に連絡の処置を講ぜしめ、且つ分隊長との間に簡単なる連絡手段を定む

展開、運動及び射撃
  1. 第148
    小隊は火戦の実行に先だち展開す。之が為、小隊長は各分隊に小隊の攻撃目標、所要の分隊に其の攻撃目標、要すれば関係位置を示し、爾余の分隊に行動の準拠を与う。時として、攻撃目標に代え、射撃目標、及び攻撃前進すべき方向を示す
    分隊の攻撃目標を示すには、通常攻撃すべき最前線の敵を以ってす
    小隊長は展開時若しくは其の後に於いて、通常最前線に至る距離、射撃開始の時機、若しくは地点等を示す
  2. 第149
    戦闘間、小隊長は小隊の運動及び射撃を統括す。之が為、中隊長の企図に基き、戦況、地形に応じ分隊に新たなる任務を与え、或は分隊の関係位置適宜変更する等、自己の意図の如く戦闘す
    展開後に於ける分隊の前進、停止、及び射撃は、分隊長直接指揮す
  3. 第150
    小隊長は分隊をして敵火の状態に応じ、巧に地形を利用し、重火器及び砲兵の射撃と協調し、勉めて疎開せる隊勢を保ち、適時有効に射撃し、絶えず前進し、且つ成るべく多くの白兵を貯存して敵に近接せしむ
    小隊長は、附近の重火器の射撃を容易ならしむる為、其の射撃方向を考慮し、適宜分隊の間隔を伸縮し、或は前進を規正す
  4. 第151
    小隊長は戦闘間、地形、敵配備の間隙等を利用し、或は我が火力、煙等の掩護に依り、勉めて敵の側背を攻撃し、又は包囲す。縦い之を行う能わざるも、斜射、側射を利用し、火力に依る包囲的効果を獲得するに勉む
  5. 第152
    擲弾筒は主として突撃動機の作為、状況に依り突撃発起後不意に現出する敵自動火器の制圧、逆襲阻止等の為使用す
    擲弾分隊に射撃を命ずるには、通常目標、距離及び発射弾数、要すれば使用筒数、射撃の目的、射撃位置、弾種等を示す。使用筒数は目標の状態、射撃の目的等に依り異なるも、2筒以下に分割せず
  6. 第153
    戦闘間、小隊長は勉めて最前線に近く位置し、常に敵情に注意し弾着を観察すると共に、各分隊の行動適切なりや、分隊長の射撃指揮良く行わるるや等を監視し、絶えず中隊長との連絡に注意す
    小隊長は連絡掛下士官をして其の指揮を輔佐せしむ

突撃、陣内の攻撃
  1. 第154
    戦闘の進捗に伴い、小隊長は逐次突撃を準備す。之が為、益々敵陣の状況を詳かにし、特に我が突撃を最も妨害すべき敵の位置及び状態、障碍物の程度、敵陣の弱点等を確めて中隊長に報告すると共に重火器等に通報し、且つ擲弾分隊を部署し、突入後に於ける各分隊の前進方向を示す。此の際、一火点に過大の白兵を指向して無益の損害を被ることなきを要す
    障碍物を通過して突撃する場合に於いては、障碍物の状態、破壊口の数等に応じ突撃部署を適切ならしめ、要すれば小隊自ら障碍物を処理す
  2. 第155
    小隊自ら障碍物を処理して突撃する場合に於いては、小隊長は障碍物の種類、使用し得べき資材等に基き、破壊、掩護通過等の手段を講じ、且つ敵自動火器の配置、小隊の突撃部署等を考慮し、処理すべき部位、及び其の時機、ならびに作業の要領及び掩護の方法を定め、所要の部署を行う
    破壊口を通過して突撃を実施するに方りては、予め各分隊の通過地点、其の順序等を示すと共に、所要の火力、煙等を以って通過掩護の処置を講じ、且つ、通過に際し作業手を先頭に進め破壊を補足せしむること必要なり
    状況、特に障碍物の強度に依り、分隊毎に所要の資材を携行し、突撃と同時に強行通過せしむることあり。此の際、分隊は勉めて広き正面より突破す
  3. 第156
    小隊長は、突撃発起後敵の側防機能不意に現出すること多きを顧慮し、予め重火器と連絡し、且つ所要に応じ煙を使用し、或は臨機の必要に応じ得る如く、擲弾等、発煙筒等を準備せしむ。此の際、敵を欺騙して側防機能の位置を暴露せしめ、事前に之を破壊するを得ば有利なり
  4. 第157
    敵に近迫せば、小隊長は好機に乗じ、或は自ら突撃発起の動機を作為し、突撃を敢行すべし
    小隊自ら突撃発起の動機を作為するには、勉めて敵に近迫したる後、火力を最高度に発揚すると共に、擲弾分隊をして通常突撃すべき目標に対し射弾を集中せしむ。此の際、要すれば煙を使用し、又重火器と連絡すること緊要なり
    突撃発起に関し予め指示せられたるときは、小隊長は速やかに突撃準備を整え、之を中隊長に報告し、所命の如く突撃を敢行すべし
  5. 第158
    砲兵の突撃支援を受くる場合に於いて突入時機の規正あるときは、最後の突撃支援射撃開始と同時に敢然発進し、我が集中砲弾の濃密部に近迫し、最後の砲弾に膚接して突入すべし
    精練にして攻撃精神に富める軍隊は、縦い友軍の砲弾を被るも毫も意に介することなく突進し得るものにして、此の際受くる損傷は、敵より被る大なる損害を償うて余りあるものなり
  6. 第159
    突撃に方り、小隊長は率先先頭に立ち、猛烈果敢に突入すべし
    敵陣に突入するや、小隊長は良く部下を掌握し、敵をして対応の遑なからしむる如く、所命の地点若しくは方向に突進すべし。此の間、縦い隣接部隊阻止せらるるも意に介することなく前進し、適時分隊に新たなる任務を与え、尚抵抗を持続する敵の側背に迫らしめ、特に擲弾筒の威力を発揮する等、各分隊の運用を適切にし、一意攻撃を続行す
    敵の逆襲に対しては、小隊長は火力を集中し、果敢に突撃して之を破摧すべし
  7. 第160
    小隊長は突撃頓挫したるときと雖も、之に屈することなく占領せる地点を確保し、要すれば工事を行わしめ、隊勢を恢復し、百方手段を尽くして突撃頓挫の原因を排除し、旺盛なる責任観念と不撓不屈の熱意とを以って、果敢に突撃を反復すべし
  8. 第161
    攻撃奏功せば、追撃射撃を行うことなく直ちに敵を急追すべし
  9. 第162
    小隊長は弾薬を節用せしめ、且つ其の補充に留意し、緊要の時機不足なからしむるを要す。之が為、特に擲弾筒弾薬に留意し、又、要すれば弾薬の使用を制限し、戦闘に堪えざる者の弾薬を収集する等、機宜の処置を講ず
    小隊長は時々弾薬の現数を中隊長に報告す