歩兵操典

第二篇 中隊教練
第二章 戦闘
第二節 小隊
第二款 防御
  1. 第163
    小隊は中隊防禦の一支点を成形し、火力を以って当面の敵を陣地前に撃滅するに勉め、敵兵縦い中隊陣地の一部に侵入するも、飽く迄其の陣地を保持し、中隊逆襲の支トウたるべきものとす
  2. 第164
    小隊長は任務を受くるや、状況の許す限り綿密に地形を偵察し、小隊の火網を定め、各分隊の射撃区域及び占領すべき位置、対戦車処置、戦況の推移に応じて取るべき処置、工事及び偽装に関する事項等を定む
    小隊長は逆襲其の他に使用する為、若干の小銃手を控置す。又、火網を構成する為、分隊を分割使用することあり
  3. 第165
    小隊長は射撃区域内に間隙なき如く火網を構成し、且つ射撃区域外に対しても所要の方向に火力を準備す
    火網は各分隊の正面射を主とし、之に斜射、側射、及び擲弾筒の火力を適宜配合し、其の重要部分を最も濃密ならしむ。之が為、分隊に射撃区域を配当すると共に所命の火力急襲地点を示し、又、陣地前の死角は擲弾筒等をして消滅せしめ、且つ一部を以って所命の如く側防の処置を講ず
    各分隊に射撃区域を配当するには、重要部の火力を濃密ならしむると共に、各分隊の射撃区域間に間隙なき如く適宜重畳す。射撃区域を示すには、方向上、要すれば射程上の範囲を明瞭ならしむ。此の際、前方に標識を設くるを利とす
  4. 第166
    支点内の配置は指揮掌握を害せざるを度とし、地形に応じ縦深横広に疎開す。又、支点内に重火器を配置せらるるときは、之と協調し重火器の火力発揚を容易ならしむる如く着意す
  5. 第167
    小隊長配備を決定せば、通常各分隊長に自己の企図、比隣部隊との関係等を示し、次いで分隊の占むべき位置に到り、其の射撃区域、占領すべき位置等を示し、爾後逐次細部の配備及び準備を整えしむ。状況に依り、射撃区域に代え、先ず主なる射撃方向を示し配備に就かしむることあり
    小隊長は対戦車防禦の為通常肉薄攻撃を準備し、資材之を許せば所要の分隊にも肉薄攻撃を準備せしむ
  6. 第168
    小隊長は通常中隊長の企図に基き工事を実施す
    工事は適切なる経始及び偽装に依り、我が配置を察知し難からしむ。又、煙内に於ける射撃の設備を忽せにすべからず
    小隊長は主要なる地点に至る距離を測定して標示し、符号を附し、射撃指揮を容易ならしむ
  7. 第169
    小隊長は中隊長の命令に基き、敵情監視に関し部署し、且つ連絡掛下士官等を補助として絶えず監視す。此の際、敵の砲(爆)撃、煙の使用、瓦斯攻撃等を受くるも監視を中絶せざるごとく留意す
  8. 第170
    敵兵未だ火網に近接せざる間は守兵を掩蔽下に入らしめて配備を秘匿し損害を避くるに勉め、且つ随時射撃を開始し得る如く準備せしむ
    小隊の射撃開始前と雖も、特に有利なる目標に対しては機を失せず之を狙撃せしむること必要なり
  9. 第171
    小隊長は、任務若しくは特に示されたる所に基き、適時射撃開始を命じ、敵兵近接するに従い益々火力を発揚し、陣地前に撃滅すべし
    戦闘の進捗に伴い、小隊長は要すれば分隊の射撃区域及び配置を変更し、火網に欠陥を生ぜざる如く処置す。又、障碍物破壊せられたるときは、破壊点に火力を準備すると共に、補修に勉む
  10. 第172
    敵兵、若し小隊陣地の一部に侵入せば、小隊長は機を失せず其の混乱に乗じ果敢に逆襲し、陣地を奪回すべし。此の際、他の分隊は依然当面の敵を猛射するを通常とするも、為し得れば射撃を以って之に協同す
    隣接部隊の戦況不利なるときは、小隊長は当面の戦況之を許す限り、火力を以って協力し、戦勢の挽回に勉む
  11. 第173
    敵兵若し煙等を利用し攻撃し来るときは、予め準備せる所に従い、至近距離に於いて熾盛なる火力を発揚し、之を撃滅すべし