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歩兵操典
第二篇 中隊教練
第二章 戦闘
第一節 分隊
第一款 攻撃
第114
小隊疎開せば、各分隊は通常縦に散開して前進す
第115
分隊長は小隊の攻撃目標、及び分隊の攻撃(射撃)目標を示さるるや、速やかに之を兵に示し、各種の時機を利用して了解せしむ。此の際、勉めて其の限界を明示す。其の指示困難なるときは、敵線に近き著明なる地物を補助とし、或は附近に落達する砲弾等、臨機の事象を捉えて示すを可とす
第116
散開は諸方向に対し敏活に行い得るを要す
各散兵(散開せる兵を謂う)の距離(間隔)は、敵火の状態、地形等に依り適宜伸縮し、別命なければ約3歩(6歩)とす
第117
分隊を傘形(かさがた)に散開せしむるには、要すれば目標(方向)等、所要の指示を与え、左の号令を下す
「
散レ
」
(ちれ)
二番は速歩にて所命の方向に前進し、一、三、四番は駈歩にて第三図に示す関係位置に就きて前進し、五番以下は前進中なるときは一時停止し、通常分隊長の定むる指揮者の指揮に依り、所要の距離を取り、逐次縦に散開して之に跟随す。此の距離は分隊長の掌握を脱せざるを度とし、敵火の状態、地形等に依り適宜伸縮すべきも、平坦地に在りては約50米とす
分隊全部を横に散開せしむるには、要すれば所要の指示を与え
「
横ニ散レ
」
の号令を下す。一乃至四番は第三図の如く散開し、五番以下概ね前(後)半部は其の左(右)へ駈歩にて斜行し、先頭に近き者より逐次間隔を取りつつ横に散開し、続いて前進す
分隊全部を縦に散開せしむるには、要すれば所要の指示を与え
「
縦ニ散レ
」
の号令を下す。兵は一列縦隊に準じ、逐次前より距離を取り、続いて前進す
其の位置に散開せしむるには、
「
其ノ場ニ散レ
」
(
「
其ノ場ニ横ニ散レ
」
)の号令を下す。二番は其の場に位置を占め、一、三、四番は第三図に示す関係位置を占め、五番以下は其の場に位置す(横に散開す)
擲弾分隊に在りては
「
散レ
」
の号令にて、先頭の筒は縦に散開しつつ前進し、次の筒は左、他の筒は右に、各々縦に散開しつつ斜行し、各筒の間隔約12歩に併列す。分隊長は要すれば基準となるべき筒を示す
擲弾分隊の縦(横)散開は一般分隊に準ず
第118
分隊長は通常分隊の前方に在りて前進方向を維持す
傘形散開に在りては、分隊長は自ら前方に在る散兵を直接指揮し、他の散兵は指揮者の指揮に依り、勉めて敵眼敵火を避け、一意前進す。状況に依り、一番をして一時前方に在る散兵を指揮せしむることあり
第119
散開せる分隊は速やかに敵に近接す。之が為、地形を利用し、隊形、歩度を選び、且つ敵火の状態に応じ分隊を区分し、或は各個に、或は同時に前進す。此の間、要すれば匍匐し、又は屈身して躍進す。敵の有効射撃下に長く停止するときは、動もすれば前進の気勢を失い、無益の損害を招くの不利あり
分隊を区分し、或は各個に前進せしむるには、勉めて不規に発進せしめ、敵をして目標を捉うるの遑なからしむるを要す
散兵は距離間隔を墨守することなく、地形地物を利用し、且つ不規なる配置を取る。此の際、著明なる地形地物に蝟集すべからず
第120
分隊長は、敵を制圧せる瞬時、又は敵自動火器の射撃の間断に乗ずる等、好機を看破し分隊を前進せしめ、或は敵の予期せざる点に進出する等、常に敵の意表に出ずるに勉む
第121
分隊は小隊長の命令に基き、適時射撃を開始す
射撃は近距離に於いて敵を確認し、十分なる効果を予期し得る場合に於いて行う
精練なる軍隊は、縦い敵火の下に在りても、我が射撃効力を現し得ざるときは自若として前進を続行し、妄りに射撃せざるものなり
第122
射撃は先ず軽機関銃、要すれば之に狙撃手を加え、状況に依り先ず狙撃手のみを以って行い、敵に近接し火力の増加を必要とするに至れば、更に所要の火器を増加す
火力を増加するに方り過度に小銃を排列するときは、我が重火器の射撃を妨げ、且つ突入に先だち無益の損害を被ること多きに注意するを要す
第123
軽機関銃は通常分隊の攻撃(射撃)目標中有利なるものを、小銃手は己に対向せる部に於いて比較的明瞭なるものを選ぶ
狙撃手は、通常分隊の攻撃(射撃)目標附近に現出する敵の指揮官、監視所、自動火器等、特に有利なるものを機を失せず狙撃す。然れども分隊長は軽機関銃を使用せざるときは、狙撃手をして攻撃(射撃)目標中有利なるものを射撃せしむ。
分隊長、攻撃目標以外の敵を射撃するときは、我に特に危害を与うるもの、若しくは速やかに殲滅を要するものを選ぶ
第124
分隊長は予め目標、射距離(照尺)、要すれば射向修正量、照準点を示し、発射を号令す。散兵を増加するときは先ず其の位置を示す
射撃開始後は、分隊長は通常、目標、射距離等の変換を要するときの外号令を下すことなく、散兵は停止せば自ら射撃を行う
第125
軽機関銃射撃の為停止せば、二番は自ら射撃位置を選び、三番は弾倉嚢を二番の左側に送り、四番は三番に弾薬を逓送し得るを度とし、二番を基準として逐次其の左後方に地形地物を利用して伏臥す
一番は敵情及び射撃目標、特に弾着に注意し、分隊長を補佐し、要すれば直ちに二番に代りて射撃を行う
第126
擲弾分隊の射撃は通常小隊長の命に依る。分隊長は目標、距離分画、要すれば筒の位置、射向修正量、弾種を示し、発射を号令す
分隊の射撃は目標の状態、目的、発射弾数等に依り異なるも、先ず指命射に依り所用の修正を加え各個射を行うを通常とす。然れども、射撃諸元を得ある場合、状況急を要する場合等に於いては最初より各個射を行うこと多し
射撃位置に就きたる筒は、右より順序に第一、第二等の番号を附す
第127
擲弾筒射手射撃位置を占むるや、第一弾薬手は射手の傍に到り射手に準ずる姿勢を取り、射手の毎発唱うる
「
込メ
」
の合図にて装填し、装填終われば直ちに次の弾薬を準備す
第二弾薬手は射手の右(左)後方適宜の所に位置し、第一弾薬手の弾薬射耗するや之と交代す。射手の携帯せる弾薬は最後に使用するものとす
第128
戦闘間、分隊長は指揮に便なる所に位置し、兵良く射撃の法則を守るや、良く地形地物を利用するや、良く指揮官に注意するや等を監視す。又、絶えず小隊長に注意し、之との連絡手段を講ず
分隊長は敵情、地形を観察し、弾着を観測して分隊の戦闘を有利に導くと共に、所要の事項を適時小隊長に報告す
分隊長は敵火盛んなる場合に於いても、自ら前方、要すれば斜方向の敵を制圧し、断乎前進するを要す
敵に近迫し戦闘激烈となるや、分隊長は益々旺盛なる志気を以って分隊の儀表となり、部下の掌握を確実にし、強固なる意志を以って任務に邁進すべし
第129
突撃の機近づくや、分隊長は要すれば更に小銃手を火戦に増加し、益々沈着して火力を発揚し、敵陣地、特に障碍物、側防機能の状態等を確かめて小隊長に報告し、突撃を準備す。此の際、擲弾分隊長は特に小隊長の企図を詳知し、随時有効なる射撃を実施し得る如く準備す
敵に近迫せる後は、敵の手榴弾投擲距離内に停止せざる如く留意す
第130
分隊長は、自ら好機を発見するか、或は突撃の命令あるときは、直ちに突撃の号令を下し、率先先頭に立ち、全分隊を挙げて猛烈果敢に突入すべし
時として、軽機関銃をして一時我が突撃を妨害する敵を射撃せしむ。此の場合に於いては、軽機関銃は機を失せず追及すべし
擲弾筒の射弾集中の効果を利用し突撃する場合に於いては、分隊は勉めて前方に位置を占め、擲弾分隊と協調し、其の最終弾と共に一挙に突入す
第131
擲弾分隊は、通常突撃すべき目標に対し、急襲的に至短時間に射弾を集中し、敵を圧倒震駭せしめ、以って突撃発起の動機を作為す
分隊長は所命の弾数を発射し終わるか、或は突進せる分隊に危害を及ぼさんとするに至れば、直ちに分隊を率いて突入するか、又は所命の地点に進出す
第132
敵陣に突入せば、分隊は不撓不屈、突撃と射撃とを反復互用し陣内に突進すべし。此の間、小隊長の命令適時到達せざることあるも、分隊長は断乎任務に邁進し、良く部下を掌握し、前進方向を誤ることなく、敵の弱点に乗じ、之が撃滅に勉む。此の際に於ける分隊長以下の適切なる独断と勇敢なる動作とは、既に戦勝の第一歩を占むるものなり
火点(通常自動火器を主体とする個々の敵陣地を謂う)に突入せる分隊は蝟集せざること特に緊要なり
敵の逆襲に対しては機先を制して猛射し、果敢に突撃し之を撃滅すべし
第133
陣内の攻撃に方り、擲弾分隊は損害を顧みず極力小隊の突撃に協力し、且つ自ら突撃を実施すべし
敵の逆襲に対しては、擲弾分隊は直ちに火力を集中し、其の企図を挫折せしむ。状況に依り、逆襲を支援する自動火器を射撃することあり
第134
手榴弾は通常咫尺に近迫せる後に行う突撃、側防機能に対する肉薄攻撃、掃蕩等に使用す
手榴弾を使用して突撃するには、通常若干の兵を潜進し不意に投擲せしめ、分隊主力は爆裂の瞬時、一挙に突入するを利とす
第135
分隊長は弾薬の節用に留意し、緊要の時期不足なからしむるを要す。之が為、携帯弾薬及び其の補充を考慮し、要すれば射撃すべき兵を指定し、或は射撃の時期及び弾数を示し、或は射撃速度を加減する等、各種の手段を講ず
戦闘に堪えざる兵を生じたるときは、其の弾薬を収集す
分隊長は時々弾薬の現数を小隊長に報告す
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