歩兵操典

第一篇 各個教練
第二章 戦闘
第二節 運動、運動と射撃との連繋
  1. 第60
    兵は、運動、特に発進、停止の動作を機敏にし、敵をして目標を捕捉し難からしめ速やかに敵に近接す
  2. 第61
    早駈(駈歩)(匍匐)にて前進せしむるには、左の号令を下す
    • 早駈(駈歩)(匍匐) 前ヘ (はやがけ(かけあし)(ほふく) まえへ)
    「早駈(駈歩)」の号令にて安全装置にし、小銃手に在りては表尺を倒し右手にて木被の所を握り、擲弾筒射手に在りては残弾あるときは之を抽出し右手にて柄桿を握り速やかに前進準備を整え、「前へ」の号令にて、小銃手に在りては銃口を上にして銃を提げ、軽機関銃射手に在りては右手にて提把を握り通常左手にて充実せる弾倉嚢一箇を持ち、擲弾筒射手に在りては筒を提げ、直ちに早駈(駈歩)にて前進す
    「匍匐」の号令にて、前項に準じ速やかに準備を整え、「前へ」の号令にて、銃、筒を適宜保持し、匍匐にて前進す
    • 匍匐するには、伏臥して左脚を右脚下に深く曲げ、右脚を臀の後ろに曲ぐると同時に左肘又は左手を前に出し、右足にて体を推進し、或は両肘を支点として体を前に進め、又は片肘を支点とし反対脚を前側方に曲げ、其の脚及び膝にて体を推進する等の方法に依る

    発進に方り、準備の為、著しく姿勢を変化し敵の注意を喚起せざるを要す
    早駈若しくは駈歩を為す場合に於いては剣鞘を握らざるも妨げなし
    速歩にて前進せしむるには「前へ」の号令を下す。兵は第二項に準じ速歩にて前進す
  3. 第62
    停止せしむるには左の号令を下す
    • 止レ
    速やかに地形地物、陰影等を利用して停止し、適当なる位置と姿勢とを選び、射撃す。射撃の任務を有せざるときは、伏臥、折敷に準じ適宜姿勢を取り遮蔽す
    伏臥に在りては勉めて姿勢を低くし、軽機関銃射手は通常銃を傍に置く。何れの場合に於いても著明なる地形地物の付近に位置せざるを要す
  4. 第63
    兵は前進の好機を看破して、一地より一地に敏速に直進し、或は地形地物、陰影等を利用する為要すれば針路を偏移し、又は身体を屈し、若しくは匍匐して敵に近接し、且つ、各種の障碍物、壕、弾痕等を適切なる姿勢と歩度とを以って軽快に通過す
    兵は前進方向を確実に維持すること必要なり
  5. 第64
    歩度は敵火の状態、地形等に依り異なるも、敵弾下に在りては早駈、時として駈歩にて躍進し、又は匍匐す。敵の有効射撃を被らざるときは速歩を用うることあり
    早駈若しくは駈歩にて一躍前進すべき距離は一定し難しと雖も、敵火の効力著しきときは通常30米を超えざるを可とす
  6. 第65
    運動と射撃との連繋を教育するに方りては、停止後速やかに地形地物を利用し的確に射撃すること、及び前進方向と異なる方向の目標に射撃することに習熟せしめ、且つ状況、特に地形之を許せば停止に方り先ず伏臥して右、左に移動し敵の予期せざる所より不意に射撃すること、射撃間敏活に位置を移動すること、発進に方り遮蔽して射撃位置を撤し敵の予期せざる所より前進すること等を演練するを要す