砲兵操典

第一篇 徒歩教練
第一章 中隊教練

編成及隊形
  1. 第十九
    中隊は通常之を二小隊に分ち小隊には第一、第二などの番号を附す
    正体は概ね兵身幹の順序に従い前後二列に配列して横隊を作る而して其の前後に立ちたる二人を伍と謂う平均奇数なるときは左翼の第二列を欠く之を欠伍と謂う
    後列兵は前列兵の背嚢(背嚢を負わざるときは背)より胸迄に八十五糎の距離を取り正しく前列兵に重なり同方向に位置す
    各兵の間隔は左手を腰に当て肘を側方に張りたるとき軽く左隣兵の右腕に触るるを度とす
    小隊の各伍は第一列に於て右より左に番号を附す之を小隊の正面とす
    正体の両能くに各々翼下士官を置く
  2. 第二十
    中隊の隊形は中隊縦隊、併立縦隊及縦隊とす
  3. 第二十一
    二小隊を編成せる場合に於ける中隊縦隊の隊形第一図の如し
    {第一図 P35}
  4. 第二十二
    併立縦隊は中隊縦隊を側面に向けたるものにして各小隊は通常四列とす
    縦隊は小隊の縦隊を前後に重畳したる物にして各小隊は通常四列とし小隊間の距離は二歩とす
    併立縦隊及縦隊に在りては押伍列にあるものは各々其の伍に列び翼下士官は最右翼列の前(後)方二歩に、小隊長はその先頭の翼下士官の右側に接して位置し中隊長は併立縦隊に在りては右翼小隊長の外側二歩に、縦隊に在りては中隊の戦闘翼下士官の前方二歩に位置す

整頓
  1. 第二十三
    整頓完全なる時各兵は整頓線上に正しき姿勢を取り姿勢を取り頭を右(左)に廻わすとき右(左)の眼を以て其の右(左)隣兵を視外の眼を以て全線を視通す事を得るものとす
  2. 第二十四
    中隊縦隊にある中隊を整頓せしむるには左の号令を下す
    • 嚮導何歩前へ
    各小隊の翼下士官は前進し中隊長は其の位置を正したる後左の号令を下す
    • 右(左)へ 準え
    • 直れ
    「準え」の動令にて中隊は前進し最後の一歩を縮めて整頓線の少しく後方に止り次で頭を右(左)に廻わし小歩にて静かに整頓線に就くただし翼下士官及前、後列兵は左手を腰に当て肘を側方に張り後列及押伍列に在るものは先ず正しく前方の兵に重なりて距離を取り次で右(左)の方に整頓す
    先ず己に近き二、三の兵の位置を正し要すれば逐次に整頓を正す
    反対翼の下士官は要すれば己に近き二、三の兵の位置を正し以て整頓を補助す
    小隊長は整頓を監視す
    「直れ」の号令にて中隊は頭を正面に復し左手を下ろす
    銃を持つときに在りては銃を担うことなく前進して整頓線に就き銃を下ろす

右(左)向
  1. 第二十五
    中隊縦隊にある中隊右(左)向を為せば偶(奇)数兵は奇(偶)数兵の右(左)に出で語を組み四兵相並び小隊長、翼下士官及押伍列に在るものは各々其の位置に在りて右(左)向を為し駈足を以て第二十二に定めたる位置に就き中隊は併立縦隊となる
    併立縦隊にある中隊左(右)向を為せば伍を解き小隊長、翼下士官及押伍列に在るものは各々其の位置に在りて左(右)向を為し駈足を以て第二十一に定めたる位置に就き中隊縦隊となり各自右(左)の方に整頓す

行進
  1. 第二十六
    併立縦隊より縦隊の行進を為さしむるには中隊長は要すれば小隊の行進順序、嚮導の行進目標を示すものとす
    第一小隊長若くは示されたる小隊は中隊長の号令に依り行進を起し他の小隊は小隊長 号令に依り適時行進を起し先頭小隊に続行す
    先頭小隊の先頭の翼下士官は嚮導となり列兵に関することなく正規の歩調と速度とを保ち真直若くは示されたる目標に向い行進す各小隊の最右翼列に在るものは歩を嚮導に準い且其の進みたる線を踏み其の他の者及押伍列にあるものは最右翼列の方に準い前方の者に重なりて行進す
    行進距離を失いたるときは漸次に回復す
    若し歩の違いたる時は踏替を為す踏替を為すには後の足を前の足に引著け前の足より行進す駈足に在りては片足にて二歩行進す
  2. 第二十七
    中隊を停止せしむるには左の号令を下す
    • 中隊 止れ
    中隊は停止し動くことなし
  3. 第二十八
    縦隊に在りて行進しある中隊を止め直ちに側面に向かい横隊を作らしむるには左の号令を下す
    • 左(右)向け 止れ
    中隊は停止し第二十五に順じ伍を解き横隊となり行進せし方に整頓す
  4. 第二十九
    縦隊の方向を換えしむるには左の号令を下す
    • 伍々右(左)へ 進め
    先等伍は小なる環形を歩み停止間に在りては前進を起すと同時に以上の動作をなし旋回軸にある兵は最初の数歩を縮め外翼にある兵は正規の歩調を以て行進し常に旋回軸の方に整頓しつつ右(左)に方向を替え続きて行進す各伍は其の前の伍と同所に至り同法を以て方向を換う
    少しく方向を換えしむるには予め行進目標を示す
  5. 第三十
    縦隊より同方向に併立縦隊を作らしむるには左の号令を下す
    • 併立縦隊作れ 進め
    先頭小隊は停止し(停止間に在りては動くことなし)他の小隊は小隊長の指示に依り現在の歩度を以て(停止間に在りては速歩を以てし銃を持つときに在りては之を担う事なく)右方に定規の位置を占むる如く進出し停止す
    先頭小隊の左側に併立縦隊を作らしむるには中隊長は適宜小隊の位置を指示するものとす

叉銃及解銃、解散及集合
  1. 第三十一
    叉銃及解銃は注目して之を行うものとす
    中隊縦隊にあるとき叉銃を為さしむるには左の号令を下す
    • 叉め銃
    奇数伍の前列兵は左手を以て右手の上方を握り銃身を前にしつつ床尾踵を右足先より床尾板の約二倍(歩兵銃 約三倍)だけ前に出し両手を以て銃を左の方に傾く
    偶数伍の前列兵は左手を以て右手の上方を握り床尾踵を左足尖より床尾板の約二倍(歩兵銃 約三倍)だけ前に出し銃身を後にし両手を以て銃を右の方に傾け右隣兵とサク杖を組合わす
    奇数伍の後列兵は左手を以て右手の上方を握り両手を以て銃を挙げ右足を踏出し既に組みたる前列兵のサク杖に組合わせ床尾踵を左隣兵との間隔の中央前に置く
    偶数伍の後列兵は左手を以て右手の上方を握り両手を以て銃身を前にして左足を踏み出し其の照星の下の所を既に組みたるサク杖に依りかけ銃は奇数伍の後列兵の銃と平行にす
    左翼後奇数なるときは適宜翼下士官又は押伍列にあるものと共に叉銃を為す
    翼下士官及押伍列に在る者の銃は適宜列兵の叉銃に寄り掛くるものとす但し一叉銃は五挺を超ゆべからず
    着剣したる時叉銃を為すには前諸項に準じ鍔を以て組合わすものとす
    軽機関銃を持つものは脚桿を開き概ね叉銃の線に準いて銃を地に置く
  2. 第三十二
    叉銃をとかしむるには左の号令を下す
    • 解け銃
    叉銃と概ね反対に操作す
  3. 第三十三
    中隊を解散せしむるには左の号令を下す
    • 解れ
  4. 第三十四
    中隊を集合せしむるには左の号令を下す
    • 集まれ
    第一小隊の右翼下士官は速やかに中隊長の前に来り中隊は之を基準として中隊縦隊となり各兵は整頓す
    叉銃を為し解散しあるときは直ちに叉銃の所に集り静かに己の位置に就く