砲兵操典

第一篇 徒歩教練
第一章 各個教練

不動の姿勢
  1. 第五
    不動の姿勢は軍人基本の姿勢なり故に軍人精神内に充溢し外厳粛端正ならざるべからず
    不動の姿勢を取らしむるには左の号令を下す
    • 気を著け
    両踵を一線上に揃えて之を著け両足は約六十度に開きて斉しく外に向け両膝は凝らずして之を伸ばし上体は正しく腰の上に落ち著け背を伸ばし且少しく前に傾け両肩を稍後ろに引き一様に下げ両腕は自然に垂れ掌を股に接し指は軽く伸ばして之を並べ中指を概ね袴の縫目に当て剄及頭を真直に保ち両眼は正しく之を開き前方を直視す
    小銃を持つときに在りては右手を以て確実に銃を握る銃を握るには腕間接を稍々前に出し銃身を拇指と食指との間に置き其の他の指は食指と共に閉じ軽く屈めて銃床に添う
    銃口は左腕より約十糎を隔て銃身を後ろにし床尾踵を右足尖の傍に置き銃身を概ね垂直に保つ
    軽機関銃を持つときに在りては右手を以て脚桿を併せ握る
  2. 第六
    休憩を為らしむるには左の号令を下す
    • 休め
    先ず左足を出し爾後片足を旧の所に置き其の場に立ちて休憩す
    休憩中と雖も許可なく話す事を禁ず
    銃を持つときに在りては照星を擦らざる如く之を保つ

右(左)向及後向
  1. 第七
    右(左)向を為さしむるには左の号令を下す
    • 右(左)向け 右(左)
    左踵にて九十度右(左)に向く
    小銃を持つときに在りては右手を以て少しく銃を上げ腰に支えて動作し動作終われば静かに之を下ろす
    軽機関銃を持つときに在りては予令にて左手を以て銃口の下を握り動令にて両手を以て少しく銃を上げて動作し動作終われば静かに之を降ろし左手を旧に復す
  2. 第八
    後向を為さしむるには左の号令を下す
    • 廻われ 右
    右足を其の方向に引き足尖を僅かに左踵より離し両踵にて後ろに廻わり次で右踵を左踵に引著く
    銃を持つときに在りては第七に依り銃を支うるものとす

担銃及立銃、着剣及脱剣
  1. 第九
    担銃を為さしむるには左の号令を下す
    • 担え銃
    小銃を持つときに在りては右手を持って銃を上げ概ね銃身を右に且之を垂直にし拳を略々肩の高さにすると同時に左手を以て照尺の下を握り銃身を半ば前の方に向け少しく銃を上ぐると同時に右手を伸ばして食指と中指との間に床尾踵を置く床尾を握りたる後右手を以て銃を右肩に担い銃身を上にすると同時に左手を遊底の上に置き右上膊を軽く体に接し用心鉄と小嘴との中央(歩兵銃 床尾の環)を体より約十糎離し銃は上衣の釦の線と平行せしめ槓桿の高さを概ね其の第一、第二釦の中央にし左手を下ろす
    軽機関銃を持つときに在りては上体を前に曲げ左手を以て拇指を内側にし握把を上方より握り(十一年式軽機関銃 銃把を握り)上体を起こすと同時に両手を以て銃を上げ銃身を上にする如く右肩に担い次で右手を以て食指と中指との間に床尾踵を置く如く床美を握り銃は上衣の釦の線と平行(十一年式軽機関銃 概ね平行)せしめ用心鉄を概ね右乳の上に在らしむる如く左手を下ろす
  2. 第十
    担銃より立銃を為さしむるには左の号令を下す
    • 立て銃
    小銃を持つときに在りては右手を伸ばして銃を下げ銃身を半ば右の方向に向け概ね之を垂直にすると同時に左手を以て照尺の下を握り銃を下げ銃身を右にすると同時に右手を持って木皮の所を握り其の拳を略々肩の高さにし銃身を後ろにし之を下げ腰に支え同時に左手を下ろし静かに銃を地に著く
    軽機関銃を持つときに在りては左手を以て握把(十一年式軽機関銃 銃把)を握り銃を少しく下げ右手を以て銃身の中央部(十一年式軽機関銃 放熱筒の下部)を握り両手を以て銃を下ろし上体を前に曲げ床尾を置く所に注目して静かに之を置き左手を放ち上体を起す
  3. 第十一
    着剣を為さしむるには左の号令を下す
    • 著け剣
    不動の姿勢に在るときは右手を持って銃を左に傾け銃身を少しく右に史銃口を概ね体の中央にし左手を以て銃剣の柄を握り銃剣を抜き注目して確実に銃口の所に著け両手を以て銃を起し不動の姿勢に復す
    軽機関銃を持つときに在りては銃剣を確実に規整子の所に著く
  4. 第十二
    脱剣を為さしむるには左の号令を下す
    • 脱れ剣
    不どの姿勢にあるときは右手を以て着剣に於ける如く銃を左に傾け注目して左手にて銃剣の柄を握り右手を上げ其の拇指にて駐子を押し左手にて銃剣を脱し左手にて銃剣を脱し之を右の方に倒して剣尖を下にし右手の食指、中指と拇指とにて刀を挟み持ち其の他の指にて銃を保ち左手を翻して柄を握り銃剣を全く鞘に収め左手を以て右手の上を握り(歩兵銃 右手の下を握り)右手を下げて木皮の所を握り両手を以て銃を起し不動の姿勢に復す
    軽機関銃を持つときに在りては銃剣を脱し右手の食指と中指にて刀を挟み持ち又銃剣を鞘に納めたる後左手を以て銃口の下を握りて銃を起す

行進
  1. 第十三
    行進は勇往邁進の気概あるを要す
  2. 第十四
    速歩の一歩は踵より踵七十五糎を、速度は一分間百十四歩を基準とす
    速歩行進を為さしむるには左の号令を下す
    • 前へ 進め
    左股を少しく上げ足を前に出し右足より七十五糎の所に足を伸ばしつつ踏著け同時に概ね膕を伸ばし全く体の重みを之に移す左足を踏著くると同時に右足を地より離し左足に就きて示せる如く右足を前に出して踏著け行進を続け頭を真直ぐに保ち両腕を自然に振る
    銃を持つときに在りては予令にて短銃を為し行進間左腕を自然に振る
    銃を担うことなく行進する場合に於ては第七に依り銃を支ふるものとす
  3. 第十五
    停止せしむるには左の号令を下す
    • 分隊 止れ
    後ろの足を一歩前に踏出し次の足を引著けて止る
    銃を担いて行進しあるときは止りたる後立銃を為す
  4. 第十六
    行進間後向を為さしむるには左の号令を下す
    • 廻われ右前へ 進め
    左足を約半歩前に足先を内にして踏出し両足尖にて後ろに廻わり続きて行進す
  5. 第十七
    速歩行進間歩調を止めしむるには左の号令を下す
    • 歩調止め
    正規の歩法を守ることなく速歩の歩調と速度にて姿勢を崩すことなく行進す
    再び正規の歩法を取らしむるには左の号令を下す
    • 歩調取れ
  6. 第一八
    駈歩の一歩は踵より踵迄約八十五糎、速度は一分間に約百七十歩とす
    駈歩行進を為さしむるには左の号令を下す
    • 駈歩 進め
    予令にて右手を握り腰の高さに上げ肘を後ろにすると共に左手にて剣鞘を握り動令にて行進を起す其の法両足を少しく屈めて僅かに左股を上げ右足より約八十五糎のところに踏著け次で左足と同法を以て右足を前に出し常に体の重みを踏著けたる足に移し両腕を自然に降り続きて行進す
    銃を持つときに在りては予令にて担銃を為したる後剣鞘を握り行進間左腕を自然に振る
    駈足より停止するには「分隊 止れ」の号令にて二歩前進したる後後の足を一歩前に踏出し次の足を引著けて止り右手を下ろすと共に剣鞘を放つ
    銃を持つときに在りては止りたる後立銃を為す
    駈足行進より速歩行進に移らしむるには左の号令を下す
    • 速歩 進め
    二歩前進したる後速歩に移り右手を下ろすと共に剣鞘を放ち続きて行進す
    銃を持つときに在りては速歩に移ると共に剣鞘を放ち続きて行進す