砲兵射撃教範


  1. 第一篇 射撃に関する定説

    第四章 射撃効力

    第一節 弾丸の性能

    榴霰弾
    第三十二
    榴霰弾曳火するとき弾子は破裂点の前方に円錐状に散布す 此円錐体を束稾ソクカウと謂い 弾子の散布する地域を散布界サンプカイと謂う(第十一図)
    散布界の形状及幅員は砲種、射距離、装薬号、高低射界、土地の傾斜等に依り異なるも 落角小にして存速大なる場合に於ては第十一図其一の如く射撃方向に長軸を有する楕円形を成し 全弾の弾着すべき点は最近弾子の弾着点に近く存在す 之に反し落角大にして存速小なるに従い 漸次楕円の長径を短縮し 終に第十一図其二の如く正円に近似し 全弾の弾着すべき点は散布界の中心に接近するに至る
  2. 第三十三
    散布界中人馬に対し弾子の効力を及ぼし得る地帯を効力界コウリョクカイと謂う
    効力界に於ける弾子散布の状態は束稾の近き部分於て濃密にして遠方位に至るに従い漸次疎散となる 而して落角大にして存速小なる場合に於ける効力界の形状及幅員は概ね散布界のものと同様なるも 落角小にして存速大なるに従い効力界の縦長は散布界の縦長に比し著しく小なり
    破裂点の高低は効力界の幅員及弾子の密度に影響するものにして 効力界の深さ及幅員は概ね破裂高に正比して増減し 其弾子の密度は概ね破裂高の二乗に反比して増減す
    効力界の付近の標準 附表第三の如し
  3. 第三十四
    信管を零距離に測合せる榴霰弾の平均破裂点は 初速に依り異なるも 通常砲口前十五米付近に在り 又其効力界の縦長は野、騎、山砲に在りては砲口前三百乃至四百米、十五榴、十加、十五加に在りては砲口前四百乃至七百米に及ぶものとす
  4. 第三十五
    死界内に在る目標に対し最低表尺を取り 信管距離のみを修正して射撃する場合に於ける効力減少の度は 遮蔽角、遮蔽物より目標に至る距離の大小並びに遮蔽物前方の地形に関す 而して遮蔽物前方の地形平坦なるとき野、騎(山)砲に於て射距離千五百米(千米)以下に在りては死界内到る所に若干の効力を期し得べきも 射距離更に増大するときは目標遮蔽物に接近するに従い破裂高過高となり 終に効力を期待し得ざるに至るものとす
  5. 第三十六
    着発榴霰弾は命中角小なるときは弾着点に於て破裂することなく跳飛後第二弾道に於て破裂するも 目標破裂点より約二十五米を隔つるときは殆ど効力なきものとす
  6. 榴弾、鋼性銑榴弾、先鋭弾、破甲榴弾
    第三十七
    榴弾は瞬発信管、短延期信管若は複働信管を附し 其種類に依り効力を異にす
  7. 第三十八
    瞬発信管附榴弾は弾着の瞬時に破裂し 破片の大部は弾道に略ゝ直角なる方向に散布し 落角小なる時は弾着点の側方に於ける密度著しく大なるも 落角大なるに従い産婦の状態は円形に近づくものとす(第十二図)
    有効破片は野、騎、山砲に在りては弾着点より約二十米、十五榴に在りては約五十米、十加に在りては約三十米、十五加に在りては約百米に達するものとす 而して此限界付近に於ける破片の密度は頗る小なり
    瞬発信管の作用する距離は土地の傾斜、土質に依り異なるも 土地平坦にして尋常土なるとき野、騎(山)砲に在りては約千五百米(千米)以上とす
  8. 第三十九
    短延期信管附榴弾 跳飛後第二弾道上に於て破裂するときは 曳火せる複働信管附榴弾の如く破片を散布す 而して野、騎、山砲に在りては其破裂高は通常二乃至四米にして 跳飛後約十四米の距離に於て破裂するものとす
    弾丸跳飛の方向は弾着点付近の地形、土質に依り異なるものとす 而して発射弾数多き場合に於ては破片は略ゝ等斉に散布す
    弾丸の確実に跳飛する射距離は土地平坦にして尋常土なるとき野、騎(山)砲に在りては約三千米(二千五百米)以下とす
    超過射撃を行うに方り跳飛する短延期信管附榴弾は瞬発信管附き榴弾に比し 破片の後方に及ぶこと少なきの利あり(第十三図)
  9. 第四十
    複働信管附榴弾曳火するときは 其破片の大部は弾道に直角に近き方向に散布し 中空なる円錐体を成形す 而して破裂点の距る約二十米以上に至れば殆ど効力を期し得ざるものとす(第十四図)
  10. 第四十一
    鋼性銑榴弾は瞬発信管若は短延期信管を附し 其性能榴弾に類似するも 人員に対する有効破片多きと 効力半径小なるを 異なりとす
  11. 第四十二
    先鋭弾は瞬発信管若は短延期信管を附し 其性能榴弾に類似するも 効力稍ゝ劣ると 射距離を延伸し得るとを 異なりとす
  12. 第四十三
    破甲榴弾は無延期信管若は延期の弾底信管を附し 殺傷効力小なるも 侵徹力並びに破壊効力大なるを以って堅固なる術工物を破壊するに適す
    鋳鉄破甲榴弾は其性能破甲榴弾に類似するも 侵徹力並びに破壊効力共に稍ゝ劣るを異なりとす
  13. 堅鉄弾、被帽弾、破甲弾
    第四十四
    堅鉄弾は鋳鉄製にして炸薬量少なく弾頭特に堅硬にして 軍艦の比較的堅固ならざる部分を破壊するに適す
  14. 第四十五
    被帽弾は弾頭に被帽を施し 軍艦の帯甲部等 最も堅硬なる部分を射洞するに適す
  15. 第四十六
    破甲弾は被帽弾に類似するも被帽を有せず 軍艦の堅硬なる部分を破壊するに適す
  16. 発煙弾、照明弾、焼夷弾
    第四十七
    発煙弾は複働信管若は瞬発信管を附し 煙幕の構成に用いるものにして 其一段の破裂に依り生ずる煙幕の幅及持続時間は風速に依りことなるも 風速三乃至四米に於ける標準 第一表の如し
    砲種 煙幕幅 煙幕持続時間
    野、山砲 三十米 一分
    十五榴 百米 二分三十秒
    十加 五十米 一分三十秒
  17. 第四十八
    照明弾は複働信管を附し 曳火するや点火せる光剤は弾体外に抛射せられ徐々に落下しつつ照明作用を呈す
    七糎半口径の火砲に用いる照明弾は照明持続時間約二十秒、光剤下降速度一乃至一・五米にして 破裂高百五十米なるとき破裂点の周囲約千米を、海上に在りては尚海岸に至るまで視線の両側各ゝ約五十米を照明す
  18. 第四十九
    焼夷弾は複働信管を附し 着発若は曳火するや高熱を発し物体を焼尽す
  19. 第二節 効力

    第五十
    被弾地に於ける榴霰弾弾子の密度は面積一平方米の垂直目標に命中する弾子の平均数を以って表すものとす
    被弾地に於ける榴弾(鋼性銑榴弾及先鋭弾も含む以下同じ)破片の密度は破片の飛行方向に対する面積一平方米内に命中する破片の平均数を以って表すものとす
  20. 第五十一
    一門を用い同一射撃諸元を以って多数の曳火榴霰弾を発射し 其平均破裂高略ゝ射表に示す破裂高に一致するとき 弾子散布の方向公算躱避は 概ね射弾散布の方向公算躱避の二乃至四倍に等し
    前項の場合に於て瞬発信管附若は短延期信管附の榴弾を発射するとき 其破片散布の方向公算躱避は野、騎、山砲に在りては約六米、十五榴に在りては約十二米、十加に在りては約八米とす
  21. 第五十二
    一門を用い同一射撃諸元を以って多数の曳火榴霰弾を発射し 其平均破裂高略ゝ射表に示す破裂高に一致するとき 弾子散布の射距離公算躱避は 野、騎、山砲及十加に在りては約三十米、十五榴に在りては約二十五米、十五加に在りては約四十米とす
    前項の場合に於て瞬発信管附若は短延期信管附の榴弾を発射するとき 其破片散布の射距離公算躱避は射弾散布の射距離公算躱避に略ゝ等しきものとす
  22. 第五十三
    一距離若は数距離上に射撃を行うに方り 射撃地域に於ける弾子(破片)散布の密度を等斉ならしむる為必要なる分火管核及距離差は弾子(破片)散布の方向及射距離公算躱避の各ゝ三乃至四倍とす
  23. 第五十四
    野、騎、山砲を以って射距離千乃至四千米に於ける曳火榴霰弾射撃を行うに方り 平均破裂高略ゝ射表に示す破裂高に一致するとき 分火間隔を二十五米とし百米の差ある数距離上に射撃を行い 各距離上に一方向毎に概ね射距離の粁数に等しき弾数を発射するときは 遠近両極減間の被弾地に於ける有効弾子の平均密度を約一ならしむることを得べし 而して射距離四千米以上に於て同一密度を得る為所要弾数増加の比は 射距離増加の比よりも著しく大なり
    前項の場合に於て一距離上に射撃を行うとき 平均弾着点の前後各ゝ約五十米間の被弾地に於ける有効弾子の平均密度を一ならしむる為に要する弾数は射距離の粁数に等しき弾数の約一・五倍とす 又野、騎、山砲に在りては分火間隔を変更したる場合に於て有効弾子の平均密度約一を維持する為の所要弾数は分火間隔二十五米以下なるときは其間隔の大小に略ゝ正比して増減す
  24. 第五十五
    十五榴、十加及十五加の曳火榴霰弾射撃に在りて 平均破裂高略ゝ射表に示す破裂高に一致するとき 分火間隔を約三十米とし百米の差ある数距離上に射撃を行うに方り 遠近両極減間に於ける有効弾子の平均密度を約一ならしむる為各距離上一方向毎に射撃するを要する弾数並びに一距離上に射撃を行うとき 平均弾着点の前後各ゝ約五十米間の被弾地に於ける有効弾子の平均密度を約一ならしむる為に要する弾数の標準 附表第四其一の如し
  25. 第五十六
    野戦砲の榴弾射撃に在りて射距離五千米以下(十加六千米以上)なるとき 分火間隔及距離差を各ゝ破片散布の公算躱避の三倍とし 数距離上に射撃を行うに方り 其遠近両極限間に於ける有効破片の平均密度を約一ならしむる為各距離上一方向毎に射撃するを要する弾数の標準 附表第四其二の如し
  26. 第五十七
    各種活目標の被弾面積の標準 第二表の如し
    各種活目標被弾面積の標準
    目標の種類 曳火榴霰弾に対する面積
    (平方米)
    榴弾に対する面積
    (平方米)
    乗馬兵
    歩兵 立姿 1/2 1/3
    膝姿 1/3
    伏姿 1/5
    工事に拠り射撃中の者 1/10
    有楯砲兵の人員 側面よりの射撃に対するとき 1/3 1/4
    正面よりの射撃に対するとき 1/15
  27. 第五十八
    着発する弾丸の同一目標に対する侵徹量は 主として弾丸の種類、存速及命中角の大小に関し 又破壊作用は炸薬の種類及量並びに侵徹量に依り異なるものとす
    命中角減少するに従い法線上に於ける侵徹量を減少し 弾丸は終には跳飛するに至る 而して其限界は目標の素質、存速、弾形等に関す
  28. 第五十九
    材料若は障害物等に対し着発射撃を行うに方り 其平均弾着点を略ゝ目標に導きたるとき 射弾を目標に命中せしむるに要する弾数は 通常其射撃に於ける方向及射距離公算躱避の大小に関す 而して其基準は附表第二に示す計算を基礎として判定し得るものとす
  29. 第六十
    鉄条網を破壊するに方り 開設し得べき破壊口の幅員は 射距離の大小、射向整理の良否等に依り異なるものとす 而して其幅員は各砲車の射向を一点に集中し足る場合に於ても 野、山砲に在りて約十米、十五榴、十加に在りて約十五米以下ならしむることは困難なるものとす
    鉄条網の破壊に要する弾数の標準 附表第四其三の如し
  30. 第六十一
    土砂に対し着発する弾丸は 其爆発に依り通常漏斗状の破壊孔を生ず 其幅員は同一火砲、同一弾種に在りても土質及落角の大小に関すること大なり 而して榴弾及破甲榴弾の尋常土に於ける漏斗孔の中径は火砲口径の二十乃至二十五倍、深さは火砲口径の五乃至六倍を標準とす
    延期信管附若は短延期信管附の弾丸に在りては 深く地中に侵入して爆発し 其威力地表面に現れざるものあり 此現象を盲爆と謂う
  31. 第六十二
    コンクリート製術工物に対し着発する弾丸の破壊効力は高低射界に応じ著しき差異あり
    水平コンクリート製術工物に対し高射界射撃に於ける破甲榴弾及榴弾の侵徹量は 通常火砲口径の二乃至三倍にして一弾の破壊効力を及ぼし得る最大の深さは侵徹量の約二倍に達す 而して低射界に於ける破壊効力は高射界のものに比し小にして 其程度は射距離に依り異なるものとす
  32. 第六十三
    掩蓋機関銃及掩蔽部の破壊に要する命中弾数の標準 附表第四其四の如し
  33. 第六十四
    艦船を撃沈し又は戦闘不能に陥らしむる為には 通常舷側を射洞するか或は多数弾丸を以って防御甲板を破壊するを要す 而して水線下の舷側特に其薄弱部に命中する弾丸は至大の効力を呈すること多し 又此の如き効力を収め得ざる場合に於ても命中部位適当なるときは其行動に大なる打撃を与え得るものとす
  34. 第六十五
    艦船の被弾面積は落角と吃水、乾舷高及艦橋高との関係、艦船の長さ及幅並びに行進方向等に依り異なるものとす