砲兵射撃教範


  1. 第一篇 射撃に関する定説

    第三章 射撃の散布

    第二十五
    同一の火砲を以って同一の状態に於て多数の着発する弾丸を発射するも 各種の原因に因り同一点に落達することなく某区域内に散布す 此現象を射弾の散布と謂い 其散布する区域を散布区域サンプクイキと謂う
    散布区域の中心を平均弾着点ヘイキンダンチャクテン若は平均点、此点を通ずる弾道を平均弾道、此点に至る射距離を平均射距離と謂う
    水平地に於て平均点を通し之と砲口を連ぬる直線及此線に直交する直線を設けるときは射弾の散布は此等の直線に関し対称なり 又此等の直線の前後(左右)等距離に之と並行せる二直線を設け此帯内に総弾着点の半数を含ましむる如くするときは此帯の深さ(幅)を射距離(方向)半数必中界ハンスウヒツチウカイと謂い 之に準じ垂直面上に於て求めたる上下(左右)の半数必中界を高低(方向)半数必中界と謂う
    射距離(高低)(方向)半数必中界の半量を射距離(高低)(方向)公算躱避コウサンダヒと謂う
    射弾散布の深さ(高さ)(幅)は平均点の前後(上下)(左右)に於て此点より各射距離(高低)(方向)公算躱避の約四倍なり 即ち全射弾は公算躱避の約八倍の帯内に包含せらる
    射距離公算躱避は方向公算躱避に比し通常著しく大なるものとす
  2. 第二十六
    同一火砲を以って同一の状態に於て多数の曳火する弾丸を発射するときは破裂点は其限界内に散布す 破裂点の散布は着発する弾丸に存する弾道の散布に加うるに 信管の燃焼躱避に依る散布を伴うものにして 前後に長き散布体を成形す 而して其中心を平均破裂点ヘイキンハレツテンもしくは平均点と謂い 之に応ずる破裂高を平均破裂高、破裂距離を平均破裂距離と謂う
    平均破裂点の前後(上下)等距離に平均破裂点及砲口を含む垂直面と直交する二箇の垂直(水平)面を設け此両面の中間に総破裂点の半数を含ましむる如くするときは 此両垂直面(水平面)の距離は射距離(高低)半数破裂界ハンスウハレツカイにして其距離の半量は曳火射距離(曳火高低)公算躱避なり
    方向半数破裂界は方向半数必中界に略ゝ等し
  3. 第二十七
    同一火砲を以って同一の状態に於て多数の曳火榴霰弾若は榴弾を発射するとき 射弾の散布と相俟って弾子若は破片散布散布の密度は 平均弾着点付近に於て最大にして外方に至るに従い著しく小となる 而して其散布は射弾散布の状態と略ゝ同一なりと看破し 其公算躱避を求むることを得 之を弾子若は破片散布の公算躱避と謂う
  4. 第二十八
    射弾の散布区域は弾着点付近の土地傾斜の状態に従い大さを異にするを以って 斜面上に於ける半数必中界を求むる為には水平地に於ける半数必中界に附表第一に示す傾斜係数ケイシャケイスウを乗ずるものとす
  5. 第二十九
    射弾散布の公算躱避は砲数、火砲及弾薬の状態、照準及信管測合の精粗、気象状態等に依り異なるを以って 実用上の公算躱避(実用公算躱避)は此等の事項を考慮して決定するものとす 而して一中隊を以って射撃する場合に於ては射表に示す公算躱避の二倍以内、数中隊を以って射撃する場合に於ては射表に示す公算躱避の二乃至二・五倍となるを通常とす
  6. 第三十
    海上の目標に対する機測射撃の実用公算躱避を求むるには射弾散布の実用公算躱避と射撃諸元決定の公算誤差とを合成するものとす
    射撃諸元決定の公算誤差は測遠機の種類、基線長、観測法及観目距離クワンモクキョリ(観測所と目標との距離を謂う)等に依り異なるものとす
  7. 第三十一
    射弾の命中公算及曳火する弾丸の着発する公算等は射表と 附表第二に示す公算因数コウザインスウ若は散布梯尺サンプテイシャクとを用い 計算に依り之を判定し得るものとす