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陣地戦に於ける砲兵用法の根本原則は 運動戦に比し異なるものに非ずして 只 使用すべき戦闘資材の多種多量なる為 戦闘状態自ら複雑となり 従って 戦闘指導上少々其趣を異にするものあるに過ぎずして 之を厄介視し 或は 特殊扱せんとするは 既に時代の要求 並びに 現状に逆行せんとする 迷想錯覚なりと謂わざる可からず
陣地戦に於ける砲兵用法上 運動戦に比し少々特色を有する一般的事項は次の如し
陣地戦と雖も 活物たる敵を目標とするを以って 戦況不測の変化は素より之を忌避し難きところにして 此際 単に計画に拘泥し 錯綜する戦況に処して 機械的戦闘指導を遂行せんとするは 根本的誤謬たり 従って 又 組織的計画と称するも弾力性を有し 融通性を持するを肝要とし 之を運用するに方りては 能く現実の状況に即して実施に適用するを要す
陣地戦に於ては 動もすれば物質的威力を偏重し 精神的威力 及 人為的活手段を軽視せんとするの悪傾向なしとせず 如何に多種多量の戦闘資材を用いるとするも 結局人を俟ちて始めて光彩を副うるものなるを以って 常に状況の明察 及 之に対する創意的着想により 敵を屈するの積極性を忘れざること緊要なり
欧州戦に於ける関係軍の史実 並びに 戦後に於ける欧米軍の状態等に鑑み 特に陣地戦に於ては 此等外国軍の模倣を試みんとするの傾向なきにしも非ざるが如し 然れども 我国軍に於ける特色 及 特異の境遇は 単に砲兵に就いてのみ之を観察するも 其砲種、性能、砲数 並びに 弾薬の種類 及 多寡等に関し 別途の色彩を有するのみならず 昨日の珍奇も明日には旧套たるべきを銘じ以って 単に陣地戦に関し最近に絶大の体験を有するの故を以って 直ちに欧米軍の夫れを学ばんとするは絶対に不可にして 我国軍に適応する独特の方式に則り 溌剌たる創意心を以って陣地戦を遂行すること肝要なりとす
陣地戦の特色上 攻防共に砲兵情報勤務の完璧を期するを要し 又 状況之を許すを一般とするを以って 統一的企画の下に砲兵情報班を運用し 十分に其能力を発揮せしむる如く使用すること 最も緊要なり
敵陣地帯の正面に対し力攻を行うを要する場合に在りては 威力強大なる多数の砲兵と 豊富なる弾薬とを使用し 徹底的に敵陣地を圧倒するを以って決定の一条件とし 此等砲兵力の不足 即ち 砲兵の威力 砲数 及 弾薬の整備数に不備を訴える場合に在りては 逐次の攻略を行わざる可からずに至るものとす
今 欧州大戦末期に於て仏軍の主攻撃正面に於て 毎粁ごとに対する必要なる砲兵力(中隊数)の標準とせるものを示せば 左の如し
区分 | 最も堅固なる敵陣地 | 次等の敵陣地 | 弱勢力の敵陣地 |
---|---|---|---|
軽砲 | 一八 | 一四 | 一〇 |
榴弾砲(破壊用) | 一〇 | 七 | 五 |
加農砲(対砲兵用) | 八 | 六 | 五 |
迫撃砲 | 三、五 | 二、五 | 二 |
合計 | 三九、五 | 二九、五 | 二二 |
以上の敵陣地の強度に関しては 単に其築城能力のみならずして 其兵備 並びに 守兵の如何を総合検討するを要すること勿論にして 我国軍に於て如何なる程度に之を参考とすべきやは 充分なる考慮を払うところあるを要すると共に 之と相対的に使用弾薬数を考定し 克 各砲種の威力 特に其射程等に関し 十分の考究を肝要とす
砲兵の用法を決するに方りては 之が隠匿遮蔽の消極的手段を竭して遺憾なきを期するのみならず 進んで敵を欺瞞するの動作を執らしむるを可とし 此等の要件に基き 砲兵用法上 着意すべき事項を摘述すれば左の如し
軍直属砲兵中 所要のものを第一線師団に配属し 要すれば第二線師団の砲兵部署を定め 爾後の砲兵は之を軍直轄砲兵とし 其占領地域 及 該砲兵と師団砲兵との任務の関係を明示するの要領は 運動戦の場合に準ず
即ち 軍司令官は 軍直属砲兵中、独立山砲兵、野戦重砲兵、十五臼 及 迫撃砲等を主攻撃正面の第一線師団に配属し 要すれば更に第二線師団の砲兵をも増加す 蓋し第二線師団の砲兵は 好んで之を第一線師団に配属するものに非ずと雖も 使用し得べき砲兵力の関係上 之をも断行し 以って攻撃の奏効を容易ならしむるを要することあればなり 但 此際 爾後に於ける該第二線師団の用途を十分に考慮し 其使用に伴い 其固有砲兵を原師団に復帰せしめ得る如く予め配慮するところあるを要す
従って 陣地戦の攻撃に於ける軍直轄砲兵の編組は 十加、十五加 及 二十四榴等を主力とすること一般の場合にして 其任務も亦 軍直轄砲兵の一般任務に準拠すべきものとす 即ち 主として遠距離の対砲兵戦に任ぜしむる理由は 師団砲兵をして 対砲兵戦に顧慮することなく敵陣地帯直接の突破に任ぜしむる為必要なる事項なると共に 使用火砲の特性上 本然のことにして 又 所要に応じ陣地設備の破壊 及 交通遮断、擾乱等に任ぜしむるも亦 同様の着意に依る 其他戦機に応じ 第一線師団の戦闘に協力せしむるは 軍全般砲兵力の極めて豊富ならざる国軍として必要なる融通的用法なりとす
師団長は軍司令官の意図に基き 自己砲兵の使用計画を定め 以って攻撃準備 及 実施間に於ける任務を確定するものとす
師団砲兵の担任すべき任務は運動戦に於ける場合に等しく 師団長の攻撃計画上 砲兵運用に関する要項も亦 運動戦の陣地攻撃に準ずべしと雖も 特に攻撃の準備 及 実施 就中 火力運用に関する要項を逸せざるを要し 其留意すべき件を摘述すれば次の如し
陣地戦に於ける砲兵陣地の選定は 使用すべき砲兵力大なるを以って其実施に伴う困難の度大にして 之が配置の適否は爾後に於ける砲兵威力の発揮に絶大の関係を及ぼすのみならず 其配置適切を欠くときは 既に展開の半途に於て我企図を暴露し 全く其価値を没却することあるべし
陣地選定上 着意すべき主要なる事項左の如し
右は砲兵配置の一般原則なりと雖も 縦深至大の敵陣地を攻撃するが為 特に配慮を要する事項にして 攻撃の進捗に伴い成るべく陣地変換を行うの不利を寡少ならしむること肝要なり
抑々敵に近く砲兵陣地を選定するは 射撃精度上 少数弾薬を以って成るべく至短時間内に攻撃準備射撃を完了すべき要求に合し 且 爾後に於ける我歩兵の攻撃支援の為 緊密なる歩砲の協同を完うし得るを以って 状況之を許せば 当初の配置にて 敵の警戒陣地帯に対し所要の火力を指向し得ると共に 該配置の儘にて 砲兵火力の全部を 敵主陣地帯の後端迄 有効に及ぼし得る如くするを以って理想なりとす 然れども 敵の警戒陣地帯と其主陣地帯との離隔の度大にして我砲兵威力を直ちに敵主陣地帯の後端に及ぼし能わざる時 特に 敵の警戒陣地帯の攻撃の為 我主力砲兵を使用するを要する場合に在りては 必ずしも此両要求を同一配置によりて充足し難きことあるべし
以上の如しと雖も 砲兵力の大なるに伴い 全砲兵の為 理想的の陣地を求むることは 縦令敵情の判断適正なるも地形上之を許さざること多く 特に敵陣地帯の配置と我砲兵威力の関係上 当初の配置の儘にて敵主陣地帯の後端迄威力を及ぼし難きことあるべきを以って 歩兵の攻撃進捗に伴い所要の砲兵を陣地変換せざるべからざるものとす 而して 斯くの如き陣地変換の時機は 攻者の為最も危害を蔵し有為なる防者の乗ずべき好機会を与え易きを以って 師団長は予め之を統一計画し 其陣地変換の時機 及 兵力に関し 適確なる命令を砲兵指揮官に与え置き 以って砲兵射撃の中絶を来すことなくして陣地変換を行い 且 其前後に於て死節なく有効なる砲兵戦闘を遂行せしむる如く指導すること肝要なりとす
攻略せし敵陣地帯内を通過して陣地変換を行うに際しては 弾痕地帯の為 砲兵の推進を困難ならしむること多く 此際 該砲兵に対して工兵を協力 若は 配属するの着意を忘れざるを要す
急襲の目的を達成せんが為 砲兵 特に増加砲兵の展開に関しては 一層周密なる準備 及 計画を為すこと肝要にして 高級指揮官は 砲兵の準備 及 其完了 並びに 進入の時機に関し 適確なる命令を与うるを要し 之が為 着意すべき件 概ね次の如し
攻撃準備期間に在りては 我が砲兵は 一部を以って之が掩護に任じ 其主力は攻撃実施の為の展開中にして 此際 敵は我準備 特に砲兵の展開を偵察し 若は 我行動の妨害する為砲兵射撃を実施すべく 之に対する我砲兵の行動は 須らく隠忍持久するを要し 敵砲兵に誘致せられて 之と過早の対戦を交ゆるは 徒に我企図を暴露するの不利あり
以上の如しと雖も 攻撃準備の当初より之が掩護に任ぜる一部の砲兵 若は 対陣間より敵の既知せる砲兵の如きは 所要に応じ前述の如き敵砲兵の活動を制圧して 我攻撃準備 及 砲兵主力の展開を有利ならしむるの着意を必要とす 然れども 此際 他の砲兵 特に新たに増加せる砲兵の如きは 此等の戦闘に参加するは絶対に不利にして 若し之を犯す時は 直ちに我企図を暴露し 我砲兵配置を標定せられ 自ら将来の活動力を失うの結果に陥るべし
攻撃準備射撃の実施は運動戦に於けるものと其大綱に於て差異なきものにして 単に陣地戦に於ける特色のみを茲に説かんとす
攻撃準備射撃の実施に関しては 軍司令官之を統一指揮するの傾向 運動戦に比し頗る濃厚なりとす 蓋し急襲を以って攻撃奏効の要訣とし 攻撃に関する総威力を最大限に発揮するの必要と 諸準備の関係上 軍司令官の統一指揮容易なると 併て軍司令官の下に在りて全軍砲兵の指揮機関として適切なる攻城砲兵司令官を有すること多ければなり
歩兵の攻撃前進に先だち 之を行うは勿論なるも 該射撃は之に依りて我が歩兵の攻撃前進を敵に窺知せしむるの端緒となるを以って 或は之を他に転移する等の手段を復行し 敵をして 我歩兵の攻撃前進開始の時機を誤認せしむるを利ありとす
攻撃準備射撃を行うべき時間は 期待すべき効果の程度、敵陣地の強度、我砲兵力 及 使用弾薬 並びに 戦車の有無等により 一定し難きも 状況之を許す限り 成るべく其時間を短縮して急襲の主旨に合せしむるを可とし 参考の為 欧州戦末年に於ける独仏軍の攻撃準備射撃の時間を示せば 概ね次の如し
時日 | 作戦軍 | 作戦地 | 準備射撃時間 | 成果 |
---|---|---|---|---|
三月 | 独軍 | ピカルディ | 五時間 | 堅固なる陣地に対し成功 |
五月二十七日 | 独軍 | エーヌ | 二時間四十分 | 成功 |
七月十七日 | 独軍 | シャンパーニュ | 四時間三十分 | 仏軍陣地頗る堅固 且 同軍情報勤務良好なる為 失敗 |
七月十八日 | 仏軍 | エーヌ | なし | 独軍陣地堅固ならず 奇襲成功 |
八月八日 |
仏第一軍 第三十一軍団 |
モンヂヂエ | 四十五分 | 奇襲成功 |
八月八日 |
仏第一軍 第九軍団 |
モンヂヂエ | 四時間 | 困難なりしも成功 |
八月九日 | 仏軍 | モンヂヂエ | なし | 成功 |
九月二十六日 | 仏軍 | シャンパーニュ | 六時間 | 射撃開始午後十一時 成功 |
砲兵は 其攻撃準備射撃に引き続き 直ちに歩兵の前進に協力する為の射撃に転移し 此間毫も間隙を生ぜざること肝要にして 爾後砲兵は運動戦に於ける場合に準じ 歩兵の攻撃前進を支援するものとす
第一線歩兵 中間目標に達するや 茲に歩砲兵の協同を調整するを要し 之が為 歩兵は速やかに彼我の状況を砲兵に通告し 要すれば我が飛行機に対して歩兵線を標示し 砲兵は彼我第一線の状況を確認し歩兵の支援に遺憾なきを期し 犬牙錯綜を常態とする彼我第一線を知悉する為飛行機を協力せしめ 此際 砲兵は敵の快復攻撃を阻止し 且 我が歩兵の敵要点奪取に協力すると共に 所要に応じ少なくも一部砲兵の陣地変換を要するを以って 其活動は頗る多端にして 之が実施の根元は 我が歩兵の現状を明らかにし歩砲協同の円滑を期するに胚胎するものとす
戦果拡張時期に在りては 彼我の第一線は益々錯綜複雑の状態を呈し 砲兵は 当初の歩砲の協定 若は 爾後に於ける之が捕綴のみを以ってしては 歩砲の協同を円滑にし歩兵の支援を十分ならしむること能わざるを常態とす 故に此際 歩兵に配属せる砲兵を以って 之が直接の支援に任ぜしむること最も肝要なり 然れども 此種砲兵と雖も 彼我の砲弾を以って転覆破壊せられある弾痕地帯 若は 敵の塹壕 及 障害物地帯を 超過前進するを要する為 其推進 及 弾薬の前送には 各兵 特に工兵等の協力を与えること肝要にして 全般の戦況上軽視を許さざる事項なりとす
第一線部隊の戦闘力著しく減耗せるか 或は 攻撃方向を変換せんが為 第二線兵団を以って超越交代を行う場合に於ける砲兵の行動は 適時阻止射撃を行いて 我が第一線の交代を掩護し 且 敵の逆襲に備えること肝要なり 従って 又 此際に於ける歩砲兵の協同は極めて緊密なるを要し 之が為 砲兵は歩兵の交代に先だち 予め新部隊長と連絡 及 協定を行い 且 適時砲兵連絡将校を該隊長の許に差遣するを要す
敵の主陣地帯を奪取するや 果敢なる攻撃を続行し 敵をして後方陣地帯に據ること能わざらしむるを本旨とするも 敵は 我が歩砲兵の協同十分ならざると 部隊の混乱せるとに乗じ 往々大規模の逆襲を行い 或は 更に後方陣地帯に於て頑強なる抵抗を試みることあるべし
抑々歩砲の協同は 敵の主抵抗陣地帯を奪取する迄は 予め綿密に協定し 又 之を逐次捕綴し得るも 爾後に於ける事項は極めて概略程度なるを通常とす 従って 砲兵は成るべく速やかに歩砲の協定を遂け 一部の砲兵は万難を排して前方に進出し 速やかに直接第一線歩兵に協同して敵を窮追し 爾余の主力は予定計画に準拠し 速やかに陣地変換を行いて 第一線部隊の行動に協力し敵を追撃すると共に 敵後方陣地帯に対する攻撃準備を促進完了せざる可からず
陣地戦の防御に在りても 決戦を目的とし 其砲兵戦闘指導上 運動戦に比し大差なく 単に陣地帯の構成 及 之が利用上に若干の特色を有し 使用すべき戦闘資材 特に砲兵力の多種多量なるに職由して 多少の特徴を呈するのみなりとす
又 陣地戦の防御と称し 運動戦の防御と唱うるも 其両極端に於てのみ判然と色彩を異にするものにして 其限界の如きは全く不明なるものを存し 従って 本節に於ては 陣地戦の防御に於ける若干の特徴を説述するに止む
抑々警戒陣地の位置は成るべく之を前方に進出せしめ 以って為し得る限り前方に於て敵の急襲を阻止して 時間の余裕を大ならしむるのみならず 警戒陣地の設備 及 兵力と相俟って 之が攻略の為に 敵をして成るべく多くの砲兵力を使用するの已むを得ざるに至らしめ 之に依って 敵をして我主陣地帯攻略の為には 更に此等攻撃砲兵の主力を推進せざる可からざらしむるを以って利とす
以上 陣地戦に於ける状態を考察するに 其警戒部隊は運動戦に比し強靭なる抵抗を遂行するを要するを以って 之が戦闘実行上 砲兵の支援を受くることも亦 運動戦に比し遙に大なるを要するや論なし 然れども 斯くの如き警戒部隊の任務達成の為 警戒陣地と主陣地帯との中間地域に多数の砲兵を配置せんとするは 陣地戦に於ても 全般的に其戦闘遂行の重点は 主陣地帯の戦闘に存するを鑑みる時は絶対に戒むべき事項にして 従って 警戒陣地の位置は 之を主陣地帯に在る砲兵を以って支援し得るを主眼として前方に推進すべきものとす
師団長の防御戦闘指導の要領に基き 専ら砲兵の火力配置と 陣地要点の喪失に際する逆襲 及 計画的攻勢移転の支援火力とを計画すべきこと 運動戦の場合の如しと雖も 陣地戦の特質上 時間的余裕の大なるを一般とするを以って 其火力配置は特に詳細綿密なる計画の下に之を行い 状況に応じ 苟くも機を逸することなく 最も簡易適切に之を実行し得る如く規定し置くを要するのみならず 時と共に 捜索、偵察 及 協定の完備するに伴い 敢えて既定の計画に拘泥することなく 克く所要の修正を施して其実施の完璧を期すべきものとす
陣地線の防御に於ける砲兵は 敵の攻撃準備間に於て之を妨害する目的を以って予め敵の砲兵、司令部 歩兵の占領地域、交通路、宿営地等に対し射撃を準備し置き 敵攻撃準備を開始するや 適時交通遮断及擾乱の為の射撃を行うものとす
抑々陣地戦防御に在りては 敵が対陣状態より攻撃すると 将来又遠距離より前進し来りて攻撃するとに論なく 敵は攻撃準備の為 長く我陣地前に停止しあるを常態とし 之が為 此間 防者は攻撃準備の妨害を行うの重要性と可能性とを具有するものにして 是 運動戦に比し 比較的多くの砲兵力を以って 多少広範囲に亙り 攻撃準備妨害を行うを要する所以なりとす 然れども 此際 攻撃準備妨害の為に使用すべき砲兵は 為し得れば 既に敵の知悉しある砲兵を使用し 特に増加砲兵を使用するは之を戒むるを要し 使用砲兵力も亦 必要なる最少限度に止め 以って我主力砲兵の位置を過早に暴露するの不利を呈せざること肝要なりとす
別に此時期に於ては 飛行隊は砲兵の射程外に在る敵後方の要点を爆撃すべく 此際 砲兵と飛行隊との連繋を要するもの大ならんとす
敵の攻撃準備進捗し 特に攻撃歩兵が第一線に近く進出待機し 且 攻撃砲兵の攻撃準備の準備未完に乗じ好機を捕え 不意 且 猛烈に砲撃を開始し 敵の準備を破砕し 特に敵歩兵を震駭し 以って其企図を挫折するを以って目的とし 之が実施には後述の条件を必要とするも 所要に応じ之を実施し得る如く予め準備を整え置くは 常に防御砲兵の準備として必要なる事項なりとし 其射撃目標は 敵の占領確実なる地域 又は 推定せる待機地域等なりとす
攻撃準備破砕射撃は 防御戦闘の指導上 重大なる関係を有するを以って 其一般計画は 通常 軍司令官 之を統一するものとす
攻撃準備破砕射撃を行うの利は既述の如しと雖も 他面 之が為に 防御砲兵の陣地を事前に暴露し 多大の弾薬を消費するを以って 其実施当を得ざるときは何等の効果を収め得ざるのみならず 却って敵に乗ぜらるるの結果を招来すべきを以って 之が実施の要件としては 情報勤務正確にして 敵の攻撃準備状態 及 攻撃開始の時機を明察し得 且 我が準備の程度 特に準備弾薬の多寡之を許すや否やを考慮し 而も其実施は 好機に投じ敵の機先を制して急襲的に之を行い得ること極めて肝要なりとし 以上の条件を具備せざるとき 特に敵にして其弱点を暴露することなきか 又は 実施の時機を捕捉し得ざるときは 之を実施せざるを要す
攻撃準備破砕射撃を実施すべきや否やは 軍司令官 之を決定するものとす
攻撃準備破砕射撃は 敵の攻撃準備の高潮に達せる時機 即ち敵の攻撃開始直前に於て之を実施するを通常とするも 敵の攻撃開始時期を偵知し能わざりし場合に於ても 時として 敵の攻撃準備射撃を開始するや直ちに之を行う事あり 然れども 此場合に在りては 敵は屡々我砲兵陣地捜索の目的を以って欺瞞的に射撃開始を行うことあるを以って 特に各種情報機関の活動に依り敵の新企図を偵知し 以って過早に我陣地を暴露するの不利に陥らざる如く注意せざる可からず
攻撃準備破砕射撃の目標は 既述の如く敵歩兵にして 之が為 敵の占領確実なる地域 又は 推定せる待機地域等に対し射撃を指向するものなるも 此際 敵砲兵を全然放棄して省みざるや否やに関しては一考を要するものあり
攻撃準備破砕射撃を行うに方り 敵砲兵の大部が我が歩兵に直接の危害を呈せざる場合 之を例せんが 敵砲兵は工事の破壊等に専念しあるか 若は防者の守兵を一時撤退しある空虚の陣地帯に砲火を集中せるが如き場合 或は 敵の砲撃と攻撃前進とを略々同時に奇襲的に行うとき 若は敵砲兵に関し適確なる情報を有せざる場合等に在りては 全力を挙げて敵歩兵に対する破砕射撃に没頭すべきも 其他の場合 特に我歩兵が敵砲火の猛射を受け其危害の度大にして 而かも敵砲兵に対し有効なる制圧を期し得る場合に在りては 対砲兵戦を無視するを許さざるものとす
同時に 敵の司令部、交通路、宿営地等に対しても 火力を指向するを要す
此時期に於ける砲兵の用法は 運動戦の場合に準ずべきを以って 再説を省く
敵兵 我主陣地帯の一部に侵入するや 彼我の部隊は混淆錯綜し 砲兵を以ってする逆襲の支援は頗る困難にして 砲兵は主として 敵の後方部隊を遮断する為 側方 及 後方に対し 阻止の目的を以って射撃するを一般とし 之が為 予め地形の特質と我配備とを熟知し 其戦闘遂行を準備すること肝要なり 敵兵 更に進みて深く我陣地内に進入するや 砲兵は専ら我歩兵に対し間接の支援を期して 我逆襲を阻止せんとする敵砲兵陣地 及 我行動を観察し得べき敵線内の要点 特に敵砲兵の為良好なる観測所 並びに 敵後方部隊の待機位置等に対し 射撃を指向すべきものとす