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砲兵戦術講授録 原則之部

第二篇 砲兵戦闘ノ共通原則

第五章 射撃実施

砲兵射撃の実施に関しては 時機 場所 及効果の三大要件を以って威力発揚の骨子とし 此等の三項に関しては砲兵各級指揮官の甚深なる留意を要する所なるも 而も其大綱は 高級指揮官之を命令し 或は指示するを要するものにして 之に依って始めて高級指揮官の意図の如く砲兵火力の運用を律し 歩砲の協調を完璧ならしめ全軍戦捷の要道を拓くを得べく 之が為には此等要項の内容に関し相当の理解を有すること肝要なり

  1. 一、時機に就いて

    射撃すべき時機は戦機に適合せしむるを以って最大要件とし 高級指揮官の意図及戦闘指導の方針に合致せしむるを要し 砲兵に与えるべき任務も亦此要件に立脚するものとす

    而して射撃準備の時期に関し 高級指揮官の命令すべき大綱を挙ぐれば左の如し

    1. (イ)
      効力射準備の為の射撃実施
    2. (ロ)
      攻撃実行の為の射撃開始
    3. (ハ)
      防御戦闘の為の射撃開始
  2. 二、場所に就いて

    射撃すべき場所とは 即ち射撃すべき目標若は地域にして 高級指揮官の企図の遂行に関連し専ら戦術的価値によりて之を決定すべく 高級指揮官として砲兵の任務として命令すべき「所望の火力要すれば其命令」も亦某地域 若は某地点 或は某砲兵等の如く 場所に関する指示を包括するものにして 戦闘区域を命ずるも亦然りとす

  3. 三、効果に就いて

    射撃の効果は 射撃の目的達成上不分離のものにして 之が為 高級指揮官は各種砲兵の威力を熟知し 幕僚は砲種、砲数、弾薬の種類 及 数量に関し 適確なる計画 及 部署を行い得るを要し 其砲兵に与える任務に於ても 所望の効果(射撃時間、射撃の目的 若は弾数)を示すを要すること往々なり

  4. 四、砲兵の有効射程に就いて

    砲兵の有効射程は 其最大射程に比し如何なる比率を有するやは 往々論議の題目となり 時としては大なる根拠等なくして最大射程の八割なり或は五割なりと論断せられあるも 此等に関しては少なくも観測の手段 及 射撃の目的 並びに 使用弾種等を併せて考究する所なかるべからず

    1. (イ)

      砲兵は空中観測の利用適切なるときは 最大射程に於ても尚有効に射撃を実行することを得

      但 射距離の増大は 方向 及 射程上の公算誤差を増大して 射撃精度を低下し 発射速度を減少して 同一時間内に於ける砲兵威力の発揮に不利なる影響を及ぼすものとし 且 先鋭弾の効力は其他のものに比し劣ること勿論なりとす

    2. (ロ)

      地上観測による射撃を本旨とするとき 野山砲に在りては約四、五千米を限度として 俗に有効射程と目するは 観測の能否に起因するものにして 観測の能否は使用弾薬、発射法、天候、気象、地形、目標の状態 特に観測の熟否に関するもの多く 吾人をして云わしむれば六、七千米は尚有効射程なりと信ず 少なくも濶度百米の範囲 即ち 六千米迄は 観測上の有効射程たるべきものとす 此の際に在りても観測所の推進適切に行わるる時は 其 有効射程を増大することを得べく 又 野山砲以上の口径を有する火砲は 其弾丸の落達時に於ける爆煙大なるを以て観測更に容易にして 自ずから有効射程を増大し 其口径大なるに従い益々然りとす 認識容易なる爆煙を生ずる試射弾を創意実現することは着意すべき件なりとす

    3. (ハ)

      破壊射撃を実施し 若は経過迅速なる活目標を制圧せんとするに方りては 精度の増大、発射速度の増進を要するを以って 努めて短縮せる有効射程により目標を捕捉せんことを期すべきも 敵後方地域の擾乱 及 交通遮断 及 行動妨害の如き場合に在りては 状況之を許せば努めて其至大なる最大射程を活用して有利に目的を達成し得べき機会多かるべく 又 其偉大にして敵の企及し難き最大射程によりて精神的の効果を収め得べき場合も多かるべし

      唯 効力射の為には 距離の増大に伴う所要弾数の激増を考慮するの要あり

第一節 弾丸効力

第一款 榴霰弾の効力

曳火榴霰弾の効力は 平均点適当なるときは 多数の弾子に依り 平坦なる縦深地域に暴露せる者に対し最大効力を呈するものなり

榴霰弾曳火するときは 弾子は破裂点の前方に円錐状に飛散す 其散飛界の形状 及 幅員は 砲種、射距離、装薬号、高低射界に依り変化し 落角大にして存速小なれば正円に近似し 落角小、存速大なるに従い楕円より箒星形に順次変化す 而して破裂点と最近弾子の距離は概ね三十米とす 而して効力界の幅員縦長は破裂点高に正比例し 密度は破裂点高の自乗に反比例するものなり

破裂高射表に示せるものに一致せるとき 榴霰弾一弾の弾子の散飛界中人員に対する効力界の縦長幅員を示せば左の如し

砲種 装薬 射距離 幅(米)
3,000 5,000 7,000
縦長幅
  • 馬に対する効力界の縦長は此半量となるなり
  • 本表の弾子の活力は20kgmなり
  • 人に対しては15kgm 馬に対しては30kgmなれば 骨部を貫通し破砕するものなり
  • 馬に対して15kgmなれば 骨に亀裂を生するものとす
A 200 100   20
BA 150 50   15
10K 300 200 100 25
15H 200 100 50 25
II 100 50   20
III 50     20
15K 400 350 300 35

榴霰弾子の密度は 面積一平方米の垂直目標に命中する弾子の平均数を以って之を表す

平均命中弾数と命中人員の百分数との関係はn、z表を以って示さる

nは目標一箇に対する平均命中弾数 zは被弾目標の百分数%なり

nz表
z(%) 戦例
敵兵力数 攻者 成否
0.1 8      
0.2 14 i4,5大 鞍子岑
9D.LiBL(14大)
不成功
0.3 20 i6大、A6中 玉皇廟
10D(17大)54門
不成功
0.4 25 i9大、A62門 韓城堡
6D(10大)69門
成功
0.5 30 i4大、A32門 北大山
3D(13大)150門
不成功
一部成功
0.8 42      
1.0 50   グンビンラン
Gumbinnen
露 28D
壊乱
柳巧屯
10D
退却
1.3 60  
1.6 69
2.1 80
2.8 90
4.0 96

之に依って見るに 概ね三〇%の損害を受くれば歩兵は攻撃力を失い 五〇%に至れば壊乱又は退却するを知るを得べし 又 第一回旅順総攻撃に於ける第九師団の損害は三〇%内外なりしも全滅を報ぜられたるは世人の知る所なり

唯 第六師団韓城堡攻撃の如く 歩砲協同の完全に近きもののみ成功せるは着意すべき点とす

本表に依り知る如く 五〇%の損害を与えるには 一人平均の命中弾子数一なるを要す

砲兵の所謂密度一の射撃とは之を云うなり

野、騎、山砲に於て密度一の射撃を為すに要する所要弾数左の如し

前提
  • 射距離千乃至四千米
  • 平均破裂高射表の破裂高に一致
  • 分火間隔二十五米
  • 百米の差ある数距離射撃

各距離上一方向毎に射距離の粁数に等しき弾薬を発射すれば所望の効力あり

前項に於て一距離上に射撃を射撃を行い平均点の前後約五十米間の被弾地に於ける有効弾子の平均密度を約一とするには 射距離の粁数の約一・五倍の弾数を要す

10K 15H 15Kに於ては 次の如し 但 分火間隔三十米にして其他は野、騎、山砲の条件に同じ

砲種 射距離 装薬号 数距離
距離差百米
一距離
15H 3,000米 1
II
III
IIII 2
4,500米 1 2
II 2
III 3 4
10K 1,500 1
3,000 1 2
5,000 2
7,000 4 6
9,000 8 13
15K 3,000 1
5,000 1
7,000 1 2
9,000 2 3
10,000 3 4

然れども 以上の所要弾数は一平方米の目標に対するものなる故 目標状態に依りては面積に応じさらに之を倍加するを要す

其倍加の標準左の如し

  • 乗馬兵
    一、
  • 歩兵
    立姿
    二、
    膝姿
    三、
    伏姿
    五、
    工事に依り射撃中のもの
    十、
  • 二千乃至三千米に於ける有盾砲兵の人員
    側射
    三、
    正面射
    十五、

之に依って 姿勢を低くするの可なること 工事地物を利用するの有利なるを知り得べく 又 榴霰弾を以って砲兵撲滅の困難なるを窺知するを得べし

第二款 榴弾の効力

榴弾は瞬発信管、短延期信管若は複働信管を附し 其種類に依り効力を異にす

瞬発信管附榴弾は弾着の瞬時に於て破裂し 破片の大部は弾道に略々直角なる方向に飛散するものとす

其形状は落角に依り異る

<<図>>

有効破片は野、騎、山砲に在りては 弾着点より約二十米、十五榴約五十米、十加約三十米、十五加約百米に達す

瞬発信管の作用する限界は 土地の傾斜、土質等に依りて異なるも 野(山)砲にありては約千五百米(千米)以上とす 要するに命中角3°以上にあらざれば不可なり

本弾薬は暴露せるものに対しては榴霰弾に比し効力劣るも 精神的効力甚大にして 最大有効距離も亦大なり 又散兵壕内に在るものに対しても尚効力を有す 特に鉄条網破壊に必要なる弾丸とす

複働信管附榴弾 曳火するときは 其破片の大部は弾道に直角に近き方向に散飛し 中空なる円錐形を為す

野、騎、山砲に在りては 破裂点を去る概ね二十米以上に至れば殆ど効力なし 効力は概ね短延期信管附榴弾に同じ 本弾丸は世界大戦前の旧式遺物なるも 村落、園壁、散兵壕等に隠れる敵を圧倒するには好適の弾丸なり

<<図>>

短延期信管附榴弾 跳飛後第二弾道上に於て破裂する時は 曳火せる複働信管附榴弾の如く破片を散布す 其野山砲の破裂高は 通常二乃至四米 跳飛後約十四にして破裂す

尋常土に於ける跳飛の標準は 射距離 野砲三千米、山砲二千五百米以内とし 命中角十度以内に非ざれば跳飛率不良なりとす

<<図>>

破片は略々等斉に散布す

友軍超過射撃には 瞬発信管附榴弾に比し 破片の後方に及ぶこと少なきを以って有利に利用せらる(瞬発信管附榴弾にて破片の後方に及ぶ距離は 野山砲約五十米 十加約七十米 十五榴約八十米 十五加約百米と考ふれば誤りなからん

掩護物の直後又掩蔽部内に在るものに対しても効力を期し得るを特徴とす

鋼性銑榴弾は 榴弾の代用弾丸として戦時鋼鉄節約の目的より創意せられしものにして 瞬発若は短延期信管を附し 性能榴弾に準ずるも人員に対する有効破片多く密度大なると効力半径小(約半分)なるを異りとし 人馬殺傷に賞用すべきものとす

先鋭弾は瞬発信管若は短延期信管を附し 性能榴弾に準じ 効力少々劣るも 距離を延伸し得るを特徴とす

被弾地に於ける榴弾(鋼性銑榴弾及先鋭弾を含む 以下同じ)破片密度は 破片の飛行方向に対する面積一平方米内に命中する破片の平均数を以って表す

一距離又は数距離上の射撃を行うに方り 射撃地域に於ける破片散布の密度を等斉ならしむる為必要なる分火間隔及距離差は 破片散布の方向公算誤差及射距離公算誤差の各々三乃至四倍とす

野戦砲に在りて榴弾射撃を以って数距離上に射撃を行うに方り 遠近両極限間の有効破片の平均密度を約一ならしむる為 各距離上一方向毎に射撃を要する弾数の標準 左の如し

  • 前提
    射距離
    野、騎、山砲 十五榴五千米以下、十加六千米以上
    分火間隔 距離差
    破片散布公算誤差の三倍(曳火榴弾にては距離差二十五米
効力射 弾種 砲種

KA
BA
15H 10K
各種活目標に対する増加倍率は左の如し
  • 乗馬兵
  • 立姿 膝姿 伏姿
    工事に據り射撃中のもの
  • 有楯砲兵の人員
    (正面射斜射共)
数距離 榴弾 7 4
(低)
6
鋼性銑 4 2.5
(低)
3
榴弾 2
(高)
一距離 数距離のときの約1.5倍
全弾平均点の前後破片散布公算誤差の一倍以内の地域

鉄条網破壊の為の所要弾数は左の如し

鉄条網区分 射距離 砲種、弾種、破壊口
野(山)砲
(榴弾)
破壊口幅十米
十五榴
(鋼性銑榴弾)
破壊口幅十五米
十加
(鋼性銑榴弾)
破壊口幅十五米
折畳式蛇腹(深さ八米)には 野山砲にては網形鉄条網の半数とす
網形
(深さ10米)
2,000 100(100)  
3,000 200(200) 100  
4,000 300(300) 150 200
5,000 400 200 250
6,000 550 300 300
屋根形 同上 上記の約三分の一

本表は 一中隊を以って平坦地にあるものに対し 瞬発信管附弾丸を以って平均点を目標の中央に通し 実用射距離公算躱避は射表の一・五倍乃至二倍としたる場合なり

破壊口の幅を増加するときは 概ね之に正比例し弾数を増加す

要するに野山砲にて完成の為所要命中弾数二十発 概成の為約十発にして 此発数命中せしむるに前表の射弾を要するものとす

又 幅員は 各砲車の射向を一点に集中するも 野山砲約十米、十加、十五榴約十五米以下ならしむることは困難なり

土砂に対する漏斗孔中径は 火砲口径の二十乃至二十五倍 深さ五乃至六倍とす

水平コンクリート製術工場に対する高射界破甲榴弾及榴弾の侵徹量は 火砲口径の約二〜三倍、破壊効力を及ぼし得る最大の深さは侵徹量の約二倍とす 低射界の破壊効力は之より小にして射距離に依り異なるものとす

掩蓋機関銃座及掩蔽部の破壊に要する命中弾数左の如し

掩蓋機関銃座 丸太中径二十五糎のもの四層 厚さ六十五糎の土層 野山砲 複働信管附榴弾 25
掩蔽部 軽易なるもの 野山砲 短延期信管附榴弾
掩蓋、
厚さ五十五糎の土層 厚さ一米の割栗石 及 中径二十五糎の木材二層より成るもの
十五榴 短延期信管附榴弾
厚さ一米のコンクリート 十五榴 短延期信管附榴弾 数発大亀裂
第三款 照明弾の効力

照明弾は 夜間局地の警戒 及 夜間射撃の照明に用いるものにして 曳火するや点火せる光剤 弾体外に抛射せられ 徐々に落火しつつ照明作用を呈す

野山砲照明弾の照明持続時間は約二十秒 光剤下降速度毎秒一乃至一・五米にして 破裂高百五十米に於て破裂点の周囲約千米を照明す 其圏内に於ては五号活字の新聞を読むを得べし

実験に依るに 眼鏡を以って目標を望識し得る範囲は 発光点の周囲約百米 観目距離約二千米の範囲に於ては野砲榴霰弾曳火 並びに 着発射撃の観測を為すことを得

第四款 発煙弾の効力

発煙弾は敵の視目を盲目にする目潰 及 友軍を秘匿する煙幕等に用いるものにして 其一弾に依り生ずる煙幕の幅 及 持続時間は風速に依り異なるも 風速三乃至四米(風速六米迄可なり)に於ける標準 左の如し

砲種 煙幕幅(米) 煙幕持続時間
(分)
煙幕の高さは 野山砲及十加は其幅に同じく 十五榴は幅の二分の一なりとす

BA
30 1.0
10K 50 1.5
15H 100 2.5
第五款 焼夷弾の効力

焼夷弾は 着発若は曳火するや高熱を発し 物体に命中せば之を焼盡するものにして 焼夷剤は「アルミニウム」を主剤とし其酸化熱を利用し 概ね二千六、七百度の高熱を利用し焦土と化するものとす

第六款 瓦斯弾の効力

外国軍が大戦間瓦斯弾を使用する例を参考に述ぶべし

某国式の所要弾数左の如し

  射撃目的
急襲
(1目標)
撒毒
(1ヘクタール
制圧
(1ヘクタール

気象状態は定風秒速三〜五米を最良とし 安全隔離距離は 風敵方へ吹くときは三百米 我方に吹くときは千米なりと云う

リガ、カポレット等の独軍の急襲が瓦斯に負う所多きは戦史の示せる所なり 砲兵制圧に於て特に然り

砲種 100 100 500
10K 50 50 300
15H 25 25 200
備考 フォスゲン
(20’持続)
持久弾
(1h持続)
一時弾
(4h持続)
催涙、くしゃみ

以上の如き各種火砲の性能弾丸の性能効力に基き 各種目標に対し如何に射撃を実施すべきやは砲兵操典戦闘原則を基礎とし次節に於て説明する所あるべし

其内特に注意すべきは歩兵に対する射撃中 戦機に適合する為臨機指向する所謂状況射撃の依然重要なるを認められ移動弾幕射撃に依る射撃は 世界大戦 特に陣地戦に於て 歩兵の敵陣地攻撃支援の為適用せられたる砲兵の一射撃法なるも 之が為には多数の砲数、弾薬、周密の計画を要し 特に状況の急変に応じ得ざるを以って運動戦に於いて其砲兵力、弾薬、装備等を考えるときは 稀に使用するに過ぎざるものとす

夜間火器の威力を利用し攻撃を強行する場合は 砲兵は通常攻撃せんとする敵陣地の制圧 並びに敵の第一線と後方部隊との遮断を行い 要すれば我攻撃を妨害すべしと予想する敵の制圧に任ず

而して 攻撃奏効せし地点を確保する場合には 攻撃歩兵と緊密に連絡し 予め行える協定に基き敵の逆襲を防止すべき要点に対し適時射撃を行う

砲兵として夜間射撃の可能なる場合 左の如し

  1. 昼間の射撃を継続せんとするとき(気象の変化に応ずる修正を為す)
  2. 昼間予め所要の準備を整えあるとき(曳火信管 又は瞬発信管附弾丸を用い 交会法 又は混合観測に依る)
  3. 電燈 又は照明弾を利用するとき(昼間に同じ)
  4. 夜間火光を認め得るとき(2.に同じ)
  5. 計算法に依る場合  等

効力射は通常至短時間に効果を収め得る如くし 数距離上に行うを可とす

第七款 各種目標射撃要領
目標 状態 射撃要領 砲種弾種 実施要領
備考 目標、状態欄の番号は砲兵操典番号、実施要領の番号は砲兵射撃教範の番号とす
野砲
BA
山砲
榴弾砲
加農
数字は口径(糎)
停止活目標 411 自動火器は特に短時間に所要の効果を収むることに努む   射撃の目的、目標の種類、状態等に応じ速に効果を収むること
移動目標 412
  1. (1)
    目標速度大(待撃的)
  2. (2)
    我放列に対し攻撃し来るもの(必ず近き表尺)
  3. (3)
    敵の必ず通過予想地域(予め射撃諸元決定適時効力射)
   
高等司令部 415 最初より確実に之を蔽ふ如く射撃地域 並 正確なる射撃諸元を決定 好機に乗じ迅速射撃 予め他の地点試射転移射    
人員
988〜990
暴露せる人員 急襲的、至短時間 榴霰 殲滅、制圧等効力を時間を以って示すことは 動もすれば形式に囚われるが故に 一に状況に依り定むるものとす
工事に據り戦闘中の者 通常人員の殺傷に止む 精神的効果大なる弾丸(瞬発15Hを交ふ
工事に據り掩護せられたる人員 周密なる準備と多大なる弾薬時間を要す故に若干効力に止む 一部の短榴
掩護物破壊と人員殺傷同時企図   工事射撃の要領
歩兵
992〜994
臨機指向又は予め準備せる火力の移動 直接支援 友軍歩兵の戦闘と緊密なる連繋を保持しつつ 火力を一目標より他の目標に逐次移動 A,BAの他 成るべく15H併用 短瞬榴
曳霰混用
友軍に危害を与えず歩砲火を緊密に連繋し 移動法の秘匿 敵の通過予期地点決定し試射完了し機を失せず射撃(阻止)
  1. 一、
    常に戦機に適合し 所要の火力を所望の場所に指向すべし
  2. 二、
    平均点と歩兵最前線離隔度は
    • A BA
      少なくも150米
    • 15H
      少なくも300米
    (平坦地)とす
  3. 三、
    15Hのみの移動弾幕は歩兵の利用困難
  4. 四、
    彼我接近すれば 漸次破裂高低下又は射距離増大(413)
阻止 A,BAの他 所要に応じ15H併用
固定弾幕に依る阻止射撃 適宜陣地前方或は友軍歩兵の直前に弾幕構成
状況特に地形有利にして斜射側射をなす時は友軍に注意
A,BA短瞬榴(曳霰、15H併用することあり)  
歩兵
995〜998
移動弾幕直接支援 A,BAのみにて行う場合 1. 十分なる効果を収めんとする場合
15米正面毎分二発 弾幕躍進距離5k以内100米有利とす(但平坦地)
1. 通常A,BA 短榴 瞬榴
  1. 一、
    友軍歩兵の行動を基調とす
  2. 二、
    特に主要なる方面のみに行う
2. 友軍の行動を直接遮蔽せんとするとき 2.榴、発煙弾混用
3. 局部的抵抗を困難にすると同時に 遠方位若干地域に対し間隔不規なる射撃を行う 3. A,BA 曳霰(通常)榴(用いることあり)
15Hを参与せしむる場合 1. A,BAの移動弾幕線より遠方位にある要点に対し特に威力を要する場合 15H 瞬榴 1. 各要点に逐次火力集中
2. 敵の要点の工事を詳にする能はざる場合
(50米正面毎分1発密度2倍のこと)
2. A,BAの要領にて移動射撃
3. A,BAを以って射撃し得ざる敵方斜面地域に対する場合 3. 前項の要領に依る
交通遮断
999
交通路上、妨害す
行動不可能ならしむ
急襲的、要すれば断続
時機
  1. 1、目視
  2. 2、情報にて判定
  3. 3、推定
A 10K 15H
  1. 一、
    長時間の絶対的遮断は困難
  2. 二、
    隘路、橋梁、徒渉場、交通路縦射
擾乱
1000
密度は濃密を要せず 通常急襲的
状況に依り緩徐間隔不規
時機
  1. 1、偵知
  2. 2、推定
A 10K 15H
  1. 一、
    重要なる敵地域(司令部、宿営地、集合地、停車場、補給所等)
補修妨害
1001
  敵の補修作業に方り直ちに指向し 監視困難なる場合は間隔不規なる射撃を行う A BA 敵の陣地設備 又は各種の術工物を破壊したる後 其効果を維持する為
目潰
友軍遮蔽1002
目潰
直接敵の目視を遮る
友軍遮蔽
目潰しの要領 煙幕にて遮断
迅速に煙幕構成 爾後緩徐なる射撃に依り之を維持す
  1. 一、
    状況に依り発煙弾に先ち榴弾の急襲
  2. 二、
    榴弾混用
砲種 一中隊正面(米) 構成一門(発) 持続一門(発)
A
BA
200 6 2
短時間
400
12 6
15H 200 2 2/3
10K 150 4 1.5
試射榴、榴霰、射角偏差修正。発煙弾遠方位より、複働信管発煙弾3000以上とす以下着発
238,239,240
照明
1003
歩砲の戦闘を容易にし・・・敵
又は警戒するを目的とす・・・前地
照明せんとする地域を 連続又は間欠的に 又は直接射撃目標を照明する如く射撃す A BA 射表に示す破裂高 所望地域の上空中央 曳火
A,BA先ず二門各々一発 爾後約十秒翼次射
風速七米を越ゆるとき効果なし
242,243
砲兵 運動中のもの撲滅
1004,1005
暴露せる人員に対する射撃要領 曳霰、榴  
陣地に在るもの
1006

状況之を許し 確実に位置決定 且 絶えず射弾観測をし得るか 或は少なくも確実容易に平均点把握できるとき→破壊

其他→制圧

 
  1. 一、
    徹底的損害を与えるは通常至難
  2. 二、
    観測所を求め射撃し指揮を困難にす
制圧
1007
為し得れば炸薬量大なる中口径火砲の弾丸を使用し 至短時間に精神的効果大ならしむ 掩護程度 射距離に依り砲種弾薬を異にす
  1. 一、
    為し得れば斜射側射利用 効果増大
  2. 二、
    沈黙しても監視 ――― 復活妨害
破壊
1008
掩蓋を有せざるもの 主A,BA,15H
(良射距離外10K,15K)
瞬榴
堅固なる掩蓋を有するもの A,BA 砲門射撃 瞬榴
15H 掩蓋貫通 短榴、破榴
特に堅固なる掩蓋を有するもの 24H
  1. 一、
    状況許せば多数中隊の火力集中短時間
  2. 二、
    砲門射撃の為小部隊精密射撃
観測所
1009
  1006〜1008を準用する外 諸工事に対する射撃の要領1014    
鉄条網
1012
  1. 一、
    通常の場合
 
  1. 一、
    A,BA 瞬榴
弾薬数は砲種、弾薬の種類、射距離、射撃精度、観測難易、目標状態、特に相互の距離、目標附近の傾度、破壊口の幅員等に依り異る
  1. 二、
    死角内
  1. 二、
    15H鋼銑榴を使用することあり
  1. 三、
    命中角小なる慮あるとき
  1. 三、
    A,BA 短榴
    15H大落角装薬
散兵壕其他
1013
破壊する時 其位置明瞭 直接試射を行い得るか精度良好なる転移射を施行し 且 状況之を許す場合   1011
  1. 一、
    破壊か 人員制圧かを決定す
  2. 二、
    集中すべきや 否やを決定
  3. 三、
    射撃間 気象状態の変化に基く平均点の移動を顧慮す
  4. 四、
    効力射撃準備の直後 短時間に目的達成に努む
人員に対する射撃要領 右以外の場合
長大なる散兵壕、交通壕 最重要部なる部分(側防機能、観測所、交通壕、輻輳点、重要障害物)を同時に破壊可能点
諸工事破壊
1014
散兵壕破壊 木材製掩蓋の貫通、掩蔽部入り口の閉塞   15H 短榴、欠く時は短鋼榴、破榴
散兵壕、交通壕 縦射又は斜射:相当の効果を収め得
正面効力射:効力著しく小
A,BA 短榴
近距離の掩蓋あるmg掩体   A,BAの砲門射撃(有利)
堅固なる野戦築城 15H 短榴
24H(為し得れば)
コンクリート製工事 24H 破榴(信管装置は目標強度により)
戦車
1015
攻撃 破壊するものとす 第一線附近に進出せる砲兵担任(挺進TK、不意近距離に現出するTK) A,BA 瞬榴(通常) 244.5
  • 挺進し来るものには 表尺破壊1000以内 無試射 100〜200修正
  • A,10K(BA)700(500)以内修正せず
  • 集合地を偵知 射撃するを利とすることあり
防御 歩兵の抵抗帯附近の対戦車砲兵担任
気球
1016
  射距離、射撃速度大にして曳霰射撃を為し得る火砲
成るべく数中隊の火力急襲的集中、同時繋留車
10k,A 曳霰、瞬榴 246,7,8
  1. 一、
    試射、方位交会法、砲車毎に400の級梯翼次射、時として一方向低破裂
  2. 二、
    効力射 近極限より逐次200増一順の翼次射、遠極限迄反復射撃
    遠方位の破裂点を得ば400減・・・反復
    効力判定せば其距離一順、復行
  3. 三、
    破裂高気嚢の上方射表破裂高の2〜3倍修正高低角
  4. 四、
    気球昇降高低角修正
  5. 五、
    評定して予め精密に射撃諸元決定最初より効力射
騎兵
1017
乗馬せるとき 撲滅 412 通常 榴霰又は瞬榴、襲撃の時は各砲車毎 曳霰、又は瞬榴  
徒歩せるとき 人員に対する射撃要領(特に手馬を求めて射撃するを有利とすることあり)
森林内の敵
1018
森林 森林の状態を考え 砲種 弾薬選定 精神的物質的効果を大ならしむ 高密林(短榴) 低疎林(瞬榴) 口径大なる榴、大落角  
住民地
1019
園壁 五十糎以下 破壊 諸工事破壊の要領 A,BA 榴  
園壁 一米内外 破榴、短榴 15H 10K
住民地内部の敵 人員に対する射撃適用、家屋状態に適応する火砲適用 A,BA 榴、15H 破榴
堅固なる園壁の直後にある敵   15H 瞬榴(高)
家屋の破壊 強度により各種火砲の短榴、破榴