カルカッタの沈没

−艦対空最後の攻防−

6月1日

スファキアで兵員を満載した撤収部隊に少しでも強力な対空火力を与えようと、アレクサンドリアに拘置されていた防空軽巡カルカッタとコヴェントリーに出動命令が下されていた。※1第1次大戦型の軽巡洋艦を対空戦用に特に意識して改造した防空巡洋艦は、その強力な対空砲火で来襲する敵機を撃退する切り札となるはずであった。22日の戦闘でカーライルが撃破されたことはその信念をぐらつかせたものの、今や陸兵を詰め込んで対空戦闘もままならない撤収部隊の艦艇に代って、その頭上に濃密な弾幕を展開し、追いすがるドイツ軍機の攻撃を阻止することがこの2隻には期待されていた。

一方流石に息切れの気配を感じさせないわけにはいかないドイツ空軍も、稼動機の全てで英海軍のあらゆる意図を破砕しようと目を光らせていた。この日の未明にエレウシスの飛行場から既にお馴染みの第1教導航空団、第2飛行隊(II/LG2)のザウアー少尉が2機編隊でJu88を離陸させたのもそのためで、彼らは他の幾つもの編隊と共同してクレタ〜アレクサンドリア間の海域で索敵攻撃を実施するように命じられていた。編隊はギリシャから遥か遠く離れたアレクサンドリア沖にその機首を向けた。

この両者が遭遇したのは偶然としか形容の言葉がない。カルカッタ艦長デニス・リース大佐の指揮の下でキングの撤収部隊と速やかに合同しようとしていたカルカッタとコヴェントリーを、アレクサンドリアの西北約100マイルの海上でザウアー少尉はその視界に捉えたのである。

ザウアー少尉の2機編隊は翼を翻すと直ちに攻撃態勢に入った。2機の双発爆撃機と2隻の防空軽巡との決闘は一瞬で終わった。対空戦闘に特化したはずの防空軽巡側の敗北という形でである。

カルカッタは2発の命中弾を蒙り、それは両方とも致命的な損傷だった。艦は急速に沈没を始め、被弾から僅か数分で船体は完全に沈没した。急速な沈没の割に生存者は多く、372名の乗組員のうち艦長デニス・リース大佐をはじめ255名が僚艦コヴェントリーの甲板に引き揚げられた。

カルカッタの沈没はクレタ海上戦の終結を何より劇的な形で締めくくることになった。カルカッタは長い長いクレタ戦の期間中で最後に沈没したイギリス軍艦となり、同時に半年あまりに渡って続けられたバルカン方面に対する英伊独ギリシャ全ての艦艇の戦闘行動とその損失の最後のものともなった。※2

カルカッタは大改装でレーダーを装備し、高角砲を多数装備したイギリス海軍期待の防空巡洋艦であったが、それをもってしても航空機の前には惨敗としか言いようがない結果に終ってしまった。カルカッタの沈没は艦艇が単体では航空機に抗し得ないことをこれ以上ない形で実証したのである。

イギリス側にとって慰めになることといえば、キング少将※3の撤収部隊が無傷なままアレクサンドリアに帰投してきたことだった。島には守備隊の残骸が未だ取り残されていたが、カニンガムはこれを最後の撤退として乗船できた以外のものは切り捨てる決定を下した。この6月1日、カニンガムはロンドンの海軍省本部に対して地中海艦隊の現状を次のように打電した。−沈没、損傷、ないし極端に速度の低下さぜる艦艇は戦艦2、駆逐艦5のみ−。地中海艦隊は戦力の全てをすり潰してクレタからの撤退任務を終了したのである。

※1
このとき、何故最初からこの2隻がキングの部隊に同行していなかったのか?という理由は明らかにされていない。思えば遡る21日の戦闘でも、カルカッタとカーライルは最初は特定の部隊に属して行動していたわけではなく、カーライルはカルパソス島を艦砲射撃して引き揚げるマック大佐の第14駆逐隊の後退を援護してから、その後で敵中に乗り込むC部隊にカルカッタと共に増援として合流している。この時期の英海軍は、防空軽巡を対空砲火の増強が必要な部署に随時割り当てるというリリーフ的な運用を行っていたと考えられる。
※2
この場合の「バルカン方面に対する艦艇の戦闘行動」とは40年10月末のイタリア軍のギリシャ侵攻から、翌41年6月頭のドイツ軍によるクレタ島の完全制圧までの期間である。正確にはこの締め切りの間にもクレタ島に対する独伊軍の輸送は続けられたと考えられるが、枢軸軍によるバルカン侵攻と英連邦・ギリシャ連合軍の抵抗という形の戦闘に一応の終止符がうたれたことをもって上記の書き方とした次第である。
※3
以前にも述べたが、キングは5月30日をもって海軍中将に昇進している。ただし、果たしてこの日付が事後処理の結果であるという確証が得られないため少将と表記した。
◆飛:
またまた遅れちゃいましたねー
◇烈:
うぅ…本当に申し訳ないこってす。講師とも色々ありまして(ゴニョゴニョ
◆飛:
弁解は罪悪と心得なさい(切捨
◇烈:
へいへい、最後の1隻、カルカッタでやんす。
◆飛:
艦艇対航空機、同数の対決で飛行機のほうが勝っちゃうのねー
◇烈:
得てして単機の航空機がどエライ戦果を挙げることがあるもんです。
◆飛:
文字通り余計な要素のないトーナメント勝負じゃ、言い訳も何もないのね。
◇烈:
無いのはカルカッタの沈没についてのしりょ(ドカバキッ
◆飛:
何か言った?!
◇烈:
イテテ…中にはカルカッタの沈没をクレタ戦に結び付けていないのもあります>特に海外
◆飛:
全く言語道断ね。そういえばもうひとつ辺だとか言って無かったっけ?
◇烈:
まぁね、カーライル、カルカッタ、コヴェントリーの防空軽巡3兄弟、地中海に縁がありましてね。
◆飛:
ん?なんかあったの?
◇烈:
いずれも最期の地は東地中海なんですわ、この3隻。コヴェントリーはトブルク奇襲部隊の敗走を援護して独伊軍機にエジプト沖で喰われ…
◆飛:
カーライルはドデカネス諸島侵攻作戦中因縁のエーゲ海で急降下爆撃により大破、全損判定でアレクサンドリアで係留され終戦…あ、ホントだ
◇烈:
事実は小説より奇なり。偶然とは言え縁を感じますな(笑