フィジーの最期

−繰り返される悲劇−

22日夕刻

南へ南へと走り続けるフィジーと2隻の駆逐艦に対するドイツ軍機(主にシュトゥーカ)の攻撃は執拗に続けられ、3隻はグロスターが落伍してから最後のその時まで続く4時間に20回以上の敵機の攻撃を撃退した。

高角砲弾を撃ち尽くしたフィジーは最早ドイツ軍機にとって燃え上がる標的艦と化したが、それでもなおアレクサンドリア目指して航行を続けていた。この騎行が遂に止まったのは18時45分のことである。この時フィジーはクレタ島の南岸からおよそ40キロの海上にあった。

雲間から1機のBf109爆装機が飛び出すや緩降下して、フィジーの舷側スレスレに搭載していた500ポンド爆弾を投下した。この機体がヘルベルト・イーレフェルト大尉※1の第2教導航空団第1飛行隊[戦闘爆撃機隊]I(J)/LG2所属機であったか、それとも前にウォースパイトを撃破した第77戦闘航空団第3飛行隊(III/JG77)所属機のどちらであったかは断言できない。

確かなことは、この至近弾の海中爆発により右舷水線下に破口を生じ、同時にダメージがA缶室にまで及んだフィジーは、それまでの全速力から一挙に17ノットにまで減速したことである。※2また艦の傾斜が始まった。

フィジーの乗員は驚嘆するべき努力でなお30分間この艦を走らせたが、19時15分、更に1機のドイツ機がフィジーを発見し、もはや空に対しては無抵抗のほかないこの艦に3発の爆弾を叩き付けてきた。※3

この被弾が長時間勇戦敢闘したフィジーに対する止めとなった、傾斜は急速に増してゆき、一時間後の20時15分、完全に転覆して沈没した。筏とボートを下して先に離脱していたカンダハルとキングストンが日没後になって現場にとって返し、艦から投げ出された乗員523名を救い上げた。フィジーの戦死者は士官16名と下士官兵228名であった。

今日一日の対空戦闘で自らも銃撃と爆弾の至近弾を無数に浴びたキングストンは少なからず傷つきながら、共に悲劇を目撃した僚艦カンダハルと共に、甲板を救助者で一杯にして日没後ようやくアレクサンドリアへと辿り着いたのであった。

※1
ヘルベルト・イーレフェルトは第2次大戦で123機を撃墜したドイツ軍大エースの一人。軍曹としてスペイン内戦に参加し7機を撃墜、大戦中は42年5月に第52戦闘航空団司令に昇進したのを始め第11、第1など多くの戦闘航空団を指揮し、大佐の階級でドイツ敗戦を迎えた。1995年死去。
※2
マッキンタイアの「海戦」によればこの攻撃で艦は停止したように書かれているが、ミッチャムの「ドイツ空軍戦史」には「傾斜して速度が17ノットに低下した」とあり、また「HMS Fiji - OPERATIONAL HISTORY」にも「but was able to steam at reduced speed until half an hour later,」とあることから、この攻撃ではフィジーは減速を余儀なくされたものの航行能力は残っていたものと判断した。
※3
フィジーに対して止めを刺したこの2機の正体については判然としない。1機目はほぼ全ての資料文献で「Bf(あるいはMe)109」と書かれており、「Chronik Seekrieg 1939-1945」には本文中に「I/LG2」とあるものの、同ページ中にある戦闘図表を見るとこのとき攻撃したのは「III/JG77」であるように見える。いずれにせよBf109なのは間違いない。
問題なのは2機目である。「Chronik Seekrieg 1939-1945」にはフィジーの沈没はI/LG2の2機のBf109によるものとし、ミッチャムの「ドイツ空軍戦史」にも著者原文ではBf109としている。
しかし他の資料では2機目についてはその機種を明記しておらず、マッキンタイアの「海戦」、「HMS Fiji - OPERATIONAL HISTORY」、また「ドイツ空軍戦史」の訳者注その他にある、「爆弾は3発」という内容を信じるならBf109の線はまず有り得ない。「ドイツ空軍戦史」の訳者である手島尚氏の注には前記に続いて「Bf109以外の大型機である可能性が高い」としており、私も個人的にはこの説を採りたいと思う。フィジーは12時間以上の連続した戦闘状態にあり、夕闇迫る中で極度に疲労した乗員が単発機と多発機を見間違えることも十分有り得ると考えられるからである。
なお「Chronik Seekrieg 1939-1945」の戦闘図表にはこの時攻撃したのは「I/KG2」、つまりDo17であるとしているが、今のところこれを証明する証拠はないもない。
◇烈:
ふぅ、やっと22日の戦いが終ってくれたみたいだ(疲
◆飛:
疲れたのは乗組員のほうですよっ!
◇烈:
そうだね。結局一番長い艦で12時間以上絶え間なく空襲を浴び続けたことになるんだから。
◆飛:
結局、グロスターもフィジーも助からなかったんですよね…
◇烈:
冷めたことを言うなら、それはグレイハウンドがやられた時点で決まっていたことなのかも知れないけど。
◆飛:
でも、他の誰かが残っていても同じ運命にあったと思います。
◇烈:
巡洋艦を支援に残していなければ今度はキングストンとカンダハルが喰われていただろう。
◆飛:
ならグレイハウンドの生存者を見捨てて遁走するか…
◇烈:
責任感ある指揮官ならそうはできないよね、だから最初の1隻がやられると芋づる式にやられてしまうんだ。
◆飛:
サボ島沖海戦後の叢雲、夏雲。レイテ沖海戦の藤波、不知火もみんなそうですよねー
◇烈:
だから、全艦一丸となってなるべく落伍艦を出さずに帰るのがベストなんだけどね。
◆飛:
そして、ローリングスさんはこの時の悲劇を忘れていませんでした。7日後にその経験が生かされることになります。