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ベル P-63 キングコブラ(Kingcobra:大王コブラ) P-39 の発展型
P-63(20.8K)P-63
前下方視界の素晴らしさがよくわかる撮影アングル。P-63 の主要生産型は A と C の二種類しかないが、外見はほとんど違わずシリアルナンバーから逆引きしなければ識別困難。この機体は末尾の 417 しか見えないが、尾部下面に腹ビレが見えないので P-63A-9(42-69417 号機)ではないかと思う。


 P-63 キングコブラは P-39 エアラコブラを発展させた機体です。高々度性能を改善するため機械駆動式二段過給器を備えたアリソン V-1710 エンジンを搭載し、速度と航続距離向上を図って層流翼を採用しています。機体のレイアウトはそっくりで一見すると単なる改造型に見えますが、P-63 の寸法は一回り大きくなっており両者の間にパーツ互換性もありません。
 試作型 XP-63A の初飛行は 1942 年 12 月 7 日です。量産型は V-1650 マーリン・エンジンを搭載した P-63B となる予定でしたが、急増した P-51B の需要によってマーリンの余裕がなくなり、アリソンを搭載した P-63A の量産発注がなされます。P-63A のテストパイロットによる評価は悪くなく「空戦性能は P-51, P-47 に比肩し得る」と言われましたが、P-38, 47, 51 を含めた4機種のなかではもっとも低速で上昇力も悪いとも評価されました。更に致命的なのは著しく短い航続距離で、このため米陸軍では P-63 を「戦闘に不適な機材」と結論づけ一部を国内の練習部隊に配備した以外はほとんど(全タイプ 3305 機中 2421 機)をソ連へのレンドリース機として輸出してしまいます。ソ連では Il-2 や Yak-9, La-5 など国産の優秀機が大量に生産された後だったこともあり、本機は高空能力に優れた局地迎撃機として防空隊に優先配備したと伝えられ、実戦での本機の活躍ぶりは余り伝えられていません。また戦後フランス政府に供与された機体はインドシナ紛争で対地攻撃に投入されています。

 米軍では P-63 を一度も実戦に使わずじまいでしたが、実弾射撃訓練には使用しました。…ただし撃つ側ではなく撃たれる側としてですが…しかも有人で!
 RP-63「ピンボール」は爆撃機旋回銃手の実射演習用に開発されたもので、軍用機史上でも珍しい「有人標的機」という機種です。機体は武装・装甲を撤去した代わり外板全面をジュラルミン厚板で貼り直していましたが、もちろんいくら厚い板でも通常弾では射貫されてしまうので、鉛と黒鉛粉末を固めた特殊な「砕けやすい」演習用弾丸が開発されました。機体には衝撃センサーが装備され、命中弾を感知するとスピナ先端のランプ(撤去した機関砲を置換)が点滅するようになっていました。「空飛ぶパチンコ(ピンボール)」とは搭乗員による非公式なニックネームですが、まさに本質を得た命名です。
 こんな冗談のような機体が開発されたばかりか 330 機も量産されたという事実は、ドイツ奥地への白昼爆撃などで米重爆がいかに深刻な被害を蒙ったか、そして銃手の技量向上がいかに重要かつ困難な課題であると認識されていたことを物語ります。
 しかしながら、戦後はジェット戦闘機の急速な発達によってプロペラ標的機の存在意義は薄まりました。生産された「空飛ぶピンボール」の大部分は標的機ではなく、標的曳航機として使われたそうです。
(文・ささき)

緒元(P-63A-10)
製作1942年
生産数3305 機(全タイプ合計)
乗員1
全幅38ft 4in(11.68m)
全長32ft 8in(9.96m)
全高12ft 7in (3.84m)
主翼面積248ft2(23.0m2)
乾燥重量6375LBs(2892Kg)
全備重量8800LBs(3992Kg)
武装37mm 機関砲×1+12.7mm 機銃×2(機首)
12.7mm 機銃×2(主翼下面)
爆弾 500LBs(227Kg)
発動機アリソン V-1710-93 液冷12気筒 1325hp
最高速度410mph(660Km/h) 高度 25000ft(7620m)
実用上昇限度43000ft(13106m)
航続距離450ml(724Km)

P-63 サブタイプ一覧
サブタイプ生産数特徴
XP-632V-1710-47(1350hp) 試作型
XP-63A 2V-1710-93(1325hp) 量産先行試作型
P-63A1825量産型
P-63A-150初期量産型
M4 37mm 機関砲(30発)
P-63A-5150無線アンテナの形状変更
P-63A-7150プロペラをエアロプロダクト製に変更、水平尾翼増積
P-63A-8200プロペラ変更、装甲強化、水噴射機構の追加
P-63A-9450M10 37mm 機関砲(58発) に換装、装甲強化
P-63A-10825更に装甲強化、主翼下にロケット弾レールの装備
XP-63B0マーリン V-1650-5 搭載型、計画のみ
P-63C1227エンジン換装・強化型
P-63C-1215V-1710-117(1500hp, 水噴射時 1800hp)
P-63C-51012尾部下面にフィン(腹ビレ)追加
P-63D1スライド式水滴型キャノピー、翼端 1.5m 延長、腹ビレなし
V-1710-119(1425hp) M9E1 37mm(48発)
P-63E13主翼・エンジンは P-63D と同等 旧型キャノピー、腹ビレあり
M10 37mm 機関砲(58発) または T31 20mm(175発)
P-63F2エンジン換装型
機体は P-63E とほぼ同等だが背の高い垂直尾翼を装備
V-1710-135(1425hp)
XP-63H1P-63E のエンジン換装型
RP-63A100P-63A-10 ベースの有人標的機(既存機改造)
RP-63C200P-63C-1 ベースの有人標的機
RP-63G30P-63C-5 ベースの有人標的機
L-392よく「P-39 改造」と誤解されている、後退翼の実験機
重心位置を補正するため軽量な P-39Q の四翅ペラに換装
余った本機のプロペラがCobraI/IIに流用されたという


★おまけコラム:謎の機関砲 M9
 M9 はブローニング M4 やその発展型である M10 と根本的に異なり、陸軍の対空機関砲 M1 を機載用に改造したと言われる機関砲です。自重は倍近く(M4=96Kg, M10=109Kg, M9=184Kg)もあり、弾薬にも薬莢が長く火薬量の多い専用弾(37x223SR)を使用します。752g の重量徹甲弾を初速 906m/s で撃ち出す M9 は距離 460m で 60mm 装甲板を貫通し、M4/M10(680g, 610m/s) の 20mm に対し実に三倍の威力を誇りました。しかしながら重過ぎる重量が災いし、また空対地ロケット弾の性能向上によって米軍が機載大口径砲への興味を失ったこともあって、これを搭載した機体は P-63D ただ一機に終わっています(しかし生産された M9 の一部は海軍に採用され魚雷艇に搭載されたそうです)。今日 M9 37mm について詳しい資料はあまり残っておらず、果たしてどの程度の実力があったのか謎の機関砲となっています。

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