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ロッキード XP-58 チェイン・ライトニング(Chain Lightning:連鎖電光) P-38 の拡大型 長距離援護戦闘機

 XP-58 は P-38 を拡大した発展型です。この機体の開発は政治的思惑と朝令暮改な軍の要求変更とエンジン遍歴に満ち、最終目的と形態が定まるまでに4年の歳月をかけ、初飛行を迎えた頃には設計開始当初とは戦況も技術レベルもまるきり変わっているという浦島太郎状態の悲劇を迎えた機体です。

 事の発端は 1940 年はじめ、英国およびフランスがロッキード社に対し P-38 の輸出を打診してきたことに始まります。米国政府は当時最新鋭のハイテク戦闘機だった P-38 に輸出許可を与えるかわり、ロッキードに対し P-38 より優れた発展型の長距離爆撃援護戦闘機開発を指令しました。ロッキードはこれに応えてコンチネンタル XIV-1430(1600hp) 双発の社内呼称 L-121 を提案し、XP-58 の軍呼称で開発が始まりました。
 しかし開発開始から何ヶ月も経たないうちに XIV-1430 は馬力不足のうえ故障続出のどうしようもない欠陥エンジンであることが露呈し、プラット&ホイットニー XH-2600(1800hp) に換装することが決定します。そう、コイツはあの悪名高い X-1800 です。果たせるかな早くも一ヶ月後には X-1800 開発中止が知らされ、哀れな XP-58 は再びエンジン換装の憂き目に会います。次の相手は空冷星型18気筒の傑作プラットアンドホイットニー R-2800(2000hp) でした。このまま話が進めば XP-58 にもまだ成功の余地があったのですが、軍は R-2800 搭載時の推算性能を不満として液冷星型42気筒のゲテモノエンジン、ライト R-2160(3000hp) への換装を指示してきます。これに加えて与圧キャビンと後方銃手席・動力遠隔銃座の搭載が指定されたため計画重量は設計当初の1.5倍に肥大化、XP-58 は駄作機への王道を着々と歩んでゆきました。

 さて、機体の設計は進んでも「夢のゲテモノエンジン」R-2160 は待てど暮らせど完成しません。そんな 1942 年 4 月に軍は唐突に XP-58 の目的を「長距離爆撃援護機」から「対重爆迎撃機」に変更し、75mm 自動砲の搭載を要求します(この頃米軍は何かに脅えたかのように迎撃機の試作指令を乱発しています)。しかし半年後の 6 月には「対重爆迎撃機」から「対戦車攻撃機」へと目的変更。排気タービンを外して装甲を増加しなきゃと設計変更を始めた数ヶ月後、軍は突然ビーチ XA-38 グリズリー対戦車攻撃機の存在を思い出して XP-58 の仕様変更は不要と判断し、再び「重爆迎撃機」に要求を戻したため設計変更の労力はすべて徒労に消えました。

 この軍の無定見ぶりにはさぞかし設計陣も呆れたことでしょう。ロッキード社内でも XP-58 は低優先度プロジェクトとされ三々五々と人員は引き抜かれてしまい、最盛期に 187 名を数えたスタッフはたった 12 名にまで激減していました。そんな 1943 年 2 月、トラブル続きの R-2160 計画が終に放棄されたという知らせが届きます。振られ続きの XP-58、次の縁談相手アリソン V-3420(2600hp) はまたもやゲテモノ、液冷12気筒の V-1710 二台をクランクケース共有の形で横に結合し、二本のシャフトをギヤで結合して出力を取り出す双子エンジンでした。更に XP-58 においては一台あたり4列24本の排気管が二本にまとめられ、ナセル上面を通って後方の排気タービンを駆動する仕組みが備わっていました。

 四年にわたる試行錯誤を経た 1944 年 6 月、XP-58 はようやく飛行場にその姿を現わしました。75mmm 砲も遠隔銃座も与圧装置も持たないスカスカの状態で乾燥重量は設計当初での全備重量を 2t も上回っており、これだけでも充分失敗は決定的でした。飛ばしてみると双子エンジン V-3420 はトラブル続出、なかんずく排気タービン過熱は深刻な問題でした。しかし仮に XP-58 がまともに飛んだとしても、もはや軍はこんなに複雑で高価な戦闘機を必要としていなかったのです。たった一機の XP-58 はお付き合い程度の短い試験飛行のあと軍の飛行機学校に譲渡され、地上教習教材にされました。すぐにスクラップにしなかったのは、自らの無定見により二百万ドルの巨費を無駄にした軍のせめてもの償いのつもりだったのでしょうか。しかし、この不幸な巨人機のその後の運命は知られていません。
(文・ささき)


緒元(XP-58)
製作1944年
生産数1
乗員2
全幅70ft(21.34m)
全長49ft 4in(15.04m)
全高16ft(4.88m)
主翼面積600ft2(55.7m2)
乾燥重量21624LBs(9809Kg)
全備重量39192LBs(17777Kg)
武装(予定)37mm 機関砲×4または75mm 自動砲×1(機首)
12.7mm×4(中央胴体後方上下に連装銃座)
発動機アリソン V-3420-11/13 液冷24気筒+排気タービン 2600hp
最高速度436mph(701Km/h) 高度 25000ft(7620m)
実用上昇限度38400ft(11704m)
航続距離2650ml(4264Km) 増槽使用時


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