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セバスキー P-35 陸軍初の低翼単葉引込脚単座戦闘機

P-35A(7.6K)P-35A
スウェーデン輸出型の EP-106 を米軍が採用したもの。機首銃を 12.7mm に換装したためブリスター(整流覆)が突出している。両翼に 7.62mm 機銃を持つはずだが、この写真では判別しがたい。


 P-35 は全金属セミモノコック構造、引き込み脚、可変ピッチプロペラ、密閉コクピットなど、第二次大戦における「近代的戦闘機」の要素を一通り備えた米陸軍初の単座戦闘機です。社内呼称 SEV-1 と呼ばれた本機は当初ライト・サイクロン R-1820(850hp) を搭載しており、1936 年 4 月にカーチス Model75(のちの P-36) およびノースロップ 3A と競作になりました。エンジンはのちに新型のプラット&ホイットニー R-1830 ツイン・ワスプ(850hp) に換装されましたが、新型に付き物のトラブルにより 740hp という低馬力での運用を強いられ、性能はかえって低下(289mph->277mph)してしまいました。本機は脚が後方半引き込み式で 1937 年の航空機としては古臭い感もありましたが、逆にその堅実さが買われ P-35 として制式採用され、1937 年 7 月には最初の量産型76機が納入されています。
 セバスキー社では本機の輸出仕様 EP-1 および複座の 2PA も製作し、1940 年にスウェーデンから EP-106(スウェーデン向け EP-1) 120機+2PA 52 機の受注を受けましたが、EP-1 60機+2PA 2機が納入されたところで兵器輸出禁止令が出されます。残った60機の EP-1 は P-35A の呼称で、50機の 2PA は AT-12 の名称で米軍に納入されました。P-35A はツイン・ワスプの改良型 R-1830-13(1050hp) を搭載しており、305mph(491Km/h) の速度を発揮しました。なお、昭和12(1937)年には皮肉にも日本海軍が 2PA 22 機を購入し、A8V「S号」戦闘機の名称を与えています。

2PA-B3(11.5K)日の丸を付けた 2PA-B3 S号戦闘機
カウリングが短いことから R-1820 搭載型と推定される。


 多大な期待を背負って生まれた P-35 でしたが、目覚しい航空技術の発展により採用直後には早くも旧式化が始まっていました。米陸軍では 1941 年までに P-35 を前線から下げ、練習機に格下げしています。改良型 P-35A 60 機のうち 40 機はフィリピンに供与され、太平洋戦争直後にフィリピン防空の主力として奮戦しましたが、旧式で防弾装備も持たない P-35A はより高性能な零戦・隼の相手ではなく、しかも多くは地上で撃破され開戦後一週間で残存8機という大損害に見舞われました。
(文・ささき)


緒元(P-35A)
製作1937年
生産数137機(試作・輸出型含むが複座型 2PA は除外)
乗員1
全幅36ft(10.97m)
全長25ft 2in(7.67m)
全高12ft 5in(3.78m)
主翼面積220ft2(20.4m2)
乾燥重量6373LBs(2891Kg)
全備重量6723LBs(3050Kg)
武装12.7mm 機銃×2(機首)+7.62mm 機銃×2(主翼)
発動機プラット&ホイットニー R-1830-13 空冷14気筒 1050hp
最高速度305mph(491Km/h) 高度 12000ft(3050m)
実用上昇限度30600ft(9326m)
航続距離1150ml(1851Km)

★おまけコラム:エアレースに出た P-35
 セバスキー社では本機の高性能をアピールするため、武装を外した P-35 三機を 1937 年のエアレース(北米大陸横断2042マイル(3286Km)長距離レースの Bendix Torophy)に出場させています。このうち一機は主脚を内側完全引き込みに改良した試作機 AP-2 で、設計者アレクサンダー・セバスキー(Alexander de Seversky) 自身が搭乗する予定でしたが、レース前に着陸事故で機体を破損し出場を断念せざるを得ませんでした。残った二機は二人の有名なレースパイロット、フランク・フラー(Frank Fuller)と女流のジャクリーン・コクラン(Jaqueline Cochran)の手によって圧倒的な強さを発揮し、1937 年〜1939 年の Bendix レースを独占しました。

SEV-S2(11K)レーサー仕様の P-35
1939 年 Bendix 杯ゴールラインにおける SEV-S2 No.77 と Frank Fuller(操縦席内の人物)。軍用の P-35 よりも先を絞った特注カウリングを装備していることに注意。機体表面も平滑に仕上げ直されているようだ。


製造番号機体呼称民間登録コードパイロット193719381939
43SEV-S2
R-1830搭載型
R70YFrank Fuller一位
(258.242mph)
二位
(238.604mph)
一位
(282.100mph)
2SEV-1XP
R-1820搭載型
R18YFrank Sinclair四位
(184.920mph)
----
40SEV-AP2
引込脚改良型
R1250Alex Seversky欠場(事故)----
145AP-7
R-1830搭載型
NX1384Jacquelinie Cochran--一位
249.774mph
欠場(天候不良)


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