サンノゼ飛行日誌
6月以前の飛行日誌ログです。
- 2000年 6月30日 19:00−
前回の続きだが、宿題の回答を教官と一緒に検証することに。大体はOKだが勘違いの部分もあり、質問の意図がわからず空欄のところもある。CTAF(無管制空港における自主アナウンス)の設問など同じような内容で3つほど連続しているところもあり、それぞれニュアンスが違うのかと思ったら「テストを作ってる奴が馬鹿なだけです」と教官のお言葉(^^;)。エアスペースに関する知識がかなり薄れており、特にクラス B, C エアスペースでの手順や制限事項がおぼつかない。クラス B はともかく C はすぐ隣のサンノゼ国際空港だからしっかり覚えていないと危なくって飛べたものではない。「まぁ大体いいでしょうが、もう少し復習しておいてください」とのこと。これで地上講習は一段落で、クロスカウントリーに出てゆくまで当分はやる事がないらしい。本日の座学 1.0 時間。
- 2000年 6月27日 19:00−
今日の座学は今までの総集編、Presolo Written Exam という筆記テスト。筆記とは言っても暗記力を試すような類のものではなく、教科書や法律書、飛行機のマニュアルを参照しながら設問に答えてゆくという合理的な形式。ただし航空ルールや機材が年々変わっている割に設問の内容は昔のままなので、いささか不合理な質問も時に見受けられる。教科書と首っ引きで回答していったが、とても2時間で全問答えることはできなかった。ここの所離着陸ばかりで、それ以外の知識がずいぶん薄れかけているなーと実感。残りの質問は金曜日までの宿題ということに。本日の座学 1.7 時間。
- 2000年 6月25日 15:00−
N24373 1.4h/23.6h 18th
今日は教官の都合でいつもの KIYO 氏ではなく HISATOU 氏の同乗で飛ぶ。3回ほどノーマル・ランディングを繰り返した後、フラップを使わない「ノーフラップ・ランディング」の実習。ダウンウィンドレッグでパワーを絞るところまでは同じだが、フラップは出さずに 75〜85kts でグライドするようトリムを合わせ、フラップ使用時とほぼ同じパスを通って降りてゆく。アプローチしながら次第にパワーを絞って 65kts で降下姿勢を作り、次第に機首を引いて 60kts のアプローチ速度に合わせる。フラップ使用時と違って速度を殺しつつ高度を維持するのが難しく、しかもファイナルではかなり高い機首上げ姿勢になるので前が見にくい。またフラップ使用時より舵の効きが良くなるのでフレアーで機首を起こし過ぎになることもあり、意識してゆっくりと舵を操作するのがコツだとのこと。
どうしても高度が落ちない場合に使うテクニックが「フォワード・スリップ」。ラダーを一杯に踏みつつ反対側にエルロンを取ることにより、飛行機を斜めに傾けて降りる方法。進行方向に胴体側面を晒して飛ぶため空気抵抗が大きくなるのだが、意識して機首を押さえないと浮き上がってしまう。こんな斜め姿勢で失速すると間違いなくスピンに入り、しかも低空なのでリカバーできない。また、斜めに飛ぶとスタティックポート(ピトー管と対をなす圧力検出穴)と気流の関係で速度計も狂うので信用できない。斜めに飛びながら正確なピッチ角を認識するのはちょっと難しいが、エンジンカウリングの一点(例えばリベットの位置)をリファレンスとして、これと地平線の作る角度からピッチを判断するとのこと。本日のログタイム 1.5 時間。
- 2000年 6月24日 17:00−
N24373 1.5h/22.2h 17th
サンノゼは相変わらず暑い日が続くが、今日は軽い向かい風があって視界がよく、乱暴な上昇気流やガブリ風もない理想的なコンディション。着陸パスの読みが甘いのは相変わらずだが、60kt で降下姿勢を作るのには慣れてきて、慣れることによって余裕が出てきたらしい。タッチダウン直前のフレアーではただ闇雲に操縦桿を引っ張るのではなく、機体の浮き沈みに合わせて舵を使えるようになってきた。ちゃんとした速度・角度でちゃんと操縦したセスナ 152 は驚くほど滑らかな着陸を見せ、「俺って上手いじゃん?!」と嬉しくなる。場周旋回中に先行機の交信や着陸ぶりに注意を払う余裕もでてきたが、あまり外に注意が行ってしまうと機体の操縦手順がおろそかになってしまい、まだまだ修行が足りないことを思い知らされる。通常の着陸はだんだん良くなってきたので、今後は横風着陸(クロスウィンド)やエンジン停止シミュレーション(エマージェンシー・ランディング)、ノーフラップランディングなどの高等技法に移っていきましょうと教官のお言葉。本日のログタイム 1.5 時間。
- 2000年 6月19日 19:00−
今回は電波航法装置の使い方。まず最初は VOR(VHF Omnidirectional Range)。地上の VOR 局から発信される特殊な変調電波を専用の受信機で解読することにより、電波局から見た自機の方位を知ることのできる装置である。VOR 局からは放射状に指向性を持つ電波が発信されていると仮定し、この線のことをラディアル(Radial)と呼ぶ。飛行機に装備されている VOR 装置は受信機と表示器からなり、受信機で VOR 局の電波をとらえ、表示機のダイヤル(OmmniBearing Selector, OBS)を回してラディアルを設定することにより、時機から見たラディアルの方向に指針(Cource Deviation Indicater, CDI と呼ぶ)が振れ、VOR 局の方位(To/From) も表示される。ここで注意しなければならないのは、CDI/To/From ともに OBS で設定したラディアルに対する方位を表示していることであり、自分の飛行機の機首がどちらを向いているかには無関係だということ。特定のラディアル線に乗る(インターセプト/トラッキング)場合、単に CDI 指針に向け旋回するだけでは同じ場所をぐるぐる回ることになってしまう。またラディアルの設定を 180 度間違うと指針も 180 度逆の方位を示し、これをリバース・センシングと呼ぶ。このように VOR を正しく読んで航法に使うには若干のコツが必要なのだが、機首方位計と VOR 表示器が一体化した HSI(Horizontal Situation Indicator) と呼ばれる装置もあり、これならば単にツマミを回して指針の示す方向に飛べば間違いなくラディアルに乗ることができる。ただし HSI は値段が高く(100万円以上!)、そんじょそこらの飛行機には付いていないうえ、機上荒らし(!)のターゲットにもなりやすい由。
VOR の流行る以前に主流だった航法装置が ADF(Automatic Direction Finder) である。これは長波/中波帯の電波を使うもので、VOR が指向性電波に対する時機の位置を表示するのに対し、単に電波局への方向を示すだけのもの。指針の方向に進めば電波局に辿りつく(ホーミングという)ことはできるので「無いよりはマシ」だが、機体が風に流されてもコース偏移は電波局への相対角度としてのみ表示されるので、ラディアルからの偏移を表示する VOR に比べると特定のコースのトラッキングが難しい。ADF と機首方位計が一体化した RMI(Radio Magnetic Indicator) なら多少楽ができるが、VOR の普及した現在ではバックアップ用くらいにしか使わないとのこと。
電波局を基準にした航法しかできない VOR/ADF に対し、任意のコースを設定できる航法機器も存在する。これらは一般に RNAV(Area Navigation) と呼ばれ VORTAC, LORAN, INS, GPS などがある。VORTAC は軍用 TACAN 航法装置の応用であり、VOR 局からの方位および距離(DME と呼ばれる距離測定装置を使う)を使って極座標でコースを管理するもの。LORAN(Long Range Navigation) は位相を合わせた複数の長波発信局からの位相差を利用して位置検出する装置で、もともと第二次大戦中にヨーロッパ戦線での夜間爆撃誘導として開発されたもの。現在ではほとんど使われていない。慣性航法の INS、衛星航法の GPS についてはカーナビでお馴染みだろうから割愛。特別な訓練習熟の必要なく正確な航法ができる INS/GPS は今後 VOR を押しのけ主流になってゆくかも知れないが、「機械とは故障するもの」。空中で落雷を受けて電装系が全滅したら便りになるのは磁気コンパスと推測航法(山勘航法とも言う)だけなのだ。もっとも、有視界飛行(VFR) ではそこまでの航法技量は要求されないのだが…本日の座学 1.8 時間。
- 2000年 6月17日 14:00−
N5090Q 1.3h/20.7h 16th
朝から Oakland の Computer Show に行ってパソコンの部品を買っての帰り道。13:00- の予定だったが他の生徒さんの都合で 14:00- に回される。今日も左斜め前方から 10Kt くらいの風が吹いているが、上空ではビル風や上昇気流が錯綜して複雑にガブられ流される。ある意味着陸練習には持ってこいの天候。今日はトラフィックが多いので左右滑走路で別々の周波数を使い管制しており、いきなり 31R をクロスして左に回される。最初の着陸ではフワフワ浮き過ぎてしまって奥にドスンと接地、タッチアンドゴーできずにフルストップで 31R からやり直す。二回目も奥に行き過ぎて失敗、だが何となく風の状態が見えてくる。三回目はいい姿勢で入って行ったのだがタッチダウン直前に高度が落ち過ぎ、慌ててパワーを入れたので速度が出過ぎてまた奥へ行ってしまう。この時になって初めて、ショッピングセンターのビル風が進入路上空に悪戯している事に気が付いた。四回目は地平線と高度計を交互に注視し、ビル風による高度の変化をピッチだけで誤魔化さず、パワーとピッチのコンビネーションで 60kt の速度を守りながらアプローチしたところ、多少右に流されたものの驚くほどスムーズな着陸ができた。味をしめて同じアプローチを試みた五回目はパワーの入れ方が足りず、40Kt 付近の危険な低速でぺたりと降ろしてしまった。この後アップウィンドで左パターンへの変更をタワーから指示され、31L に三回タッチ&ゴーを行う。今一つ納得がゆかないものの、「何か掴めかけている」状態。とにかく一度でも奇麗な着陸が出来たのは嬉しい。教官にも「良くなってきました」と誉められたが、やはりあと一歩が欲しいところ。タッチダウン時にパワーを抜きながら操縦桿を引いて失速直前の姿勢に持ってゆく、その力加減が微妙らしい。本日のログタイム 1.3 時間。
- 2000年 6月16日 19:00−
先日買ったエアレーサーの写真集を持ち込んで授業前の雑談に花を咲かせる。さて今回のお題目はナビゲーションすなわち航法。航法には大きく分けて(1)地上の目標物を見ながら飛ぶ地文航法(Pilotage)、(2)進行方位と速度から現在位置を割り出す推測航法(Dead Reckoning)、(3)無線を使う無線航法(Radio Navigation)がある。ちなみに天測航法は VFR では使わない。さて地文航法は見ての通りだからいいとして、推測航法という奴はなかなか厄介である。地上を走る車と違って飛行機という奴は風に流されながら飛ぶし、速度計の値も高度や気温によって変化するから補正してやらないと対地方位・対地速度は出てこない。しかも飛行機のコンパスは磁気方位を基準としており、地図上の真方位とは地域によって異なるズレ(Magnetic Valiation)も補正してやらねばならない。
推測航法にはまずチャートにプロッターと呼ばれる分度器の親玉を当てて進行方位を調べる。これを真進路(True Course)と言うが、前述したように地域によって磁気偏差が異なるため(例えば RHV 周辺だと 15.3 度東を向く)、これを修正した方位を磁気進路(Magnetic Course)と呼ぶ。
さて、ここで上空の気温と風速のデータ(ALOFT または FD)が必要となる。予定される巡航高度と巡航速度(計器指示速度 KIAS)に、気温と気圧を照らし合わせて飛行機のマニュアルにある換算表を使い真速度(True AirSpeed, TAS)を求める。次に、予定した飛行コースの真進路と風向・風速(ALOFT の風向は真方位なのだ)をフライトコンピュータに入れて偏流補正角(Wind Correction Angle)を求める。横風を受けながら飛ぶ場合、横風を打ち消してやる分だけ風上に機首を向けないと流されてしまうのだ。こうして求められた補正角を磁気進路に加えてやれば磁気方位(Magnetic Heading)が得られる。ちなみにヘディングジャイロ(HDG)を持っていない機体の場合、更にコンパス固有の誤差補正を行ってコンパス方位(Compass Heading)を求めなければならない。
さてフライトコンピュータの目盛りには補正角に加え対地速度(Ground Speed, GS)も表示されるので、これを使って推測所要時間(Estimated Time Enroute, ETE)を得ることができる。前述した気温・高度とエンジン予定回転数を飛行機のマニュアルに照らし合わせれば必要な燃料消費量も予測できるので、これに 30 分(夜間は 45 分)の余分を加えた燃料が必要最少燃料搭載量となる。
長距離を飛ぶ場合は飛行ルートを幾つかの「レッグ」に分割し、各レッグごとに上記の計算を行って飛行計画(Flight Plan)を立てるわけだ。こうして作った航法表(Navigation Log)には実際に所用時間(Actual Time Enroute, ATE)を記入してゆき、予定と現実の違いを確かめつつ飛ぶことになる。随分面倒くさいようだけど、確かに面倒くさい(^^;)。おまけに有視界飛行(VFR)の場合フライトプランの作成・提出は義務づけられていないので、適当にドンブリ勘定してエイヤで飛び出してしまうこともできてしまう。もっとも、何かあったら大変な事になるのは御想像どおりだ。ちょうど前日に未帰還機が出て捜索騒ぎが起きたばかりだと言う。
今回は他に VOR(VHF 電波灯台)を使った航法の説明も受けたが、推測航法の解説が長くなったので次回に回すことにしよう。本日の座学 1.6 時間。
- 2000年 6月11日 15:00−
N24373 1.5h/19.4h 15th
朝からボーっとしてあまり体調が良くない。鞄とニーボードを忘れてくる始末。天気は良いけど断雲があり、滑走路に対し少々左前方からの風がある天候。風と上昇気流に揉まれて真っ直ぐ飛ぶのにも苦労する嫌な天候。今日もひたすら離着陸のクローズド・トラフィック。もう何度もやっている南からのアプローチなのに相変わらずグライドパスが読めず、ファイナル・レッグに入って慌ててパワーとピッチをバタバタしてしまう。右旋回中のピッチと高度が掴みにくく、ベースに回るところで激しくパスが狂っているらしい。タッチダウンの姿勢は良くなってきたと言うが…。最初の3回くらいはほとんど復習みたいなもので、ようやく勘が戻ってきて練習すべき課題が見えてくるのはその後である。日曜パイロットの悲しい宿命…せめて三日に一度でもコンスタントに飛べたらなぁ。本日のログタイム 1.5 時間。
- 2000年 6月9日 19:00−
今回は Weight and Balance と Flight Computer の使い方。飛行機という乗り物は空気に浮かぶという性質上、搭載物の重量に対して非常に敏感である。しかもただ「重い」「軽い」というだけではなく、最終的な重心位置がどこに変わるかで飛行特性も操縦特性も変わってしまう。ここで言う「搭載物(Payload)」は搭乗者や荷物だけではなく、燃料やオイル等の消耗品、無線機などの装備品も全て含めたものである。ペイロード容量から飛行作業そのものに必須でない物を抜いた値が有効搭載量(Useful Load)となる。
セスナ 152 の場合空虚重量(Standard Empty Weight)は 1081 ポンド。空虚重量とはいわゆる「乾燥重量(Basic Empty Weight)」とは異なり、エンジンオイルや配管に溜まった分の燃料(Unuseable Fuel)、冷却液、必須計器や緊急発信機など標準装備品を全て装備し、燃料とパイロットを乗せればすぐにでも飛び立てる準備ができた状態での重量を指す。これに対し最大離陸重量は 1670 ポンドで、差分の 589 ポンドがセスナ 152 の有効搭載量ということになる。ただし燃料は満タンだと 26 ガロン×ガソリンの比重(ガロンあたり 6 ポンド)の 156 ポンドを引いた 433 ポンドに減り、体重 150 ポンド(68Kg)の人間が二人乗ったら 133 ポンド(60Kg) しか荷物は乗らない計算になる。大柄なアメリカ人が 152 を嫌って上位機種の 172 を多用するのは、座席が狭いことに加え搭載量の少なさにも原因があるようだ。
さて 60Kg の荷物が乗せられるからと言って、好きな場所に荷物をぶら下げていい訳ではない。極端な話尾翼の真下なんかに荷物を下げたら、飛行機は飛ぶ以前に地上で尻餅を付いてしまう。飛行機の搭載物は単に重量だけではなく、重量に重心からの距離を賭けたモーメントとして計算しなければならない。「重心位置」の計算は基準点からの相対距離で行う。セスナ 152 の場合はエンジン防火壁が基準点となっており、標準装備で燃料満タンにすれば防火壁から 56.5 インチ後方に 1670 ポンドのモーメントがかかる。これに乗員や搭載物、装備品のモーメントをプラスマイマスして最終モーメントを求めるのだが、機体ごとに異なる装備品のモーメントについては予め計算済みの表を機内に装備しておくことが FAA の法律によって規定されており、これを Weight and Balance Sheet と呼ぶ。
例えば Nice Air の N86889 号機の場合空虚重量は 1171.6 ポンドで重心位置は基準点から 30 インチ後方、総モーメント 35093。セスナのマニュアルによれば許容重心点は基準点から 31〜36.5 インチと規定されているので、実はパイロットも燃料も乗せないセスナは「飛べない」のだ(当たり前と言えばその通りだが)。仮に操縦席に体重 120 ポンドの僕が乗ったとすると
操縦席の基準距離 39 インチ×操縦席重量 120 ポンド=モーメント 4680
総モーメント=35093 + 4680 = 39773
総重量=1171.6 + 120 = 1291.6
重心位置=総モーメント÷総重量=39773 ÷ 1291.6=30.79
ということになり、やっぱり「飛べない」ことになる。そこで燃料を10ガロン入れてやると
燃料タンク基準距離 40 インチ×燃料重量 60 ポンド=モーメント 2400
総モーメント=39773 + 4680 = 42173
総重量=1291.6 + 60 = 1351.6
重心位置==42173 ÷ 1351.6=31.20
となり、やっと「飛べる」状態になる。これでも重心は前方限界ぎりぎりだ。体重が極端に軽い人なら燃料を更に入れるか後方にバラストを積む必要があるし、逆に体重が重い人なら燃料を抜かなければ重心と搭載重量が許容範囲を越えてしまうかも知れない。機体に Weight and Balance sheet の搭載が義務づけられているのはこれが理由である。
このようにパイロットという人種は頭を使って計算しなければならないのだが、空中で三割になった頭で操縦しながら計算するのは一大難事だ。そこで登場するのがフライトコンピュータである。これは要するに円形の計算尺で、円盤の外周と内周に常用対数 log10n の目盛りが刻まれているというもの。内周と外周の数字を合わせてやればアラ不思議、乗除算の近似計算が瞬時に行える。例えば前述の 42173 ÷ 1351.6 ならば、内周円盤の 13.5 の目盛りを外周の 10 目盛りに合わせ、内周 42 の指す外周目盛りを読めばなるほど 31 の少し外側を指している。絶対に故障せず電池も要らず片手で使えるフライトコンピュータはパイロットの必需品だが、スラスラと使えるようになるには修練が必要だ。本日の座学 1.9 時間。
- 2000年 6月6日 19:00−
今日は D-DAY である。それとは関係ないけど二回目のテスト。今回は 25 問と問題が少ないので一点あたりの減点がでかい。結果は四問ミスで 84 点。あと二問ミスってたら危ないところ。ふぅ、やれやれまぁ通過。
今日の座学は「パフォーマンス」について。冒頭 F-16 とセスナの写真を見せられ「どちらがパフォーマンスが上ですか?」と聞かれる。「何をパフォーマンスと決めるかによりますね、F-16 は一人しか乗れないし…」「ご名答」というわけで、燃費や航続時間や離着陸距離や人員貨物搭載量もパフォーマンスのうちなのである。そして同じ飛行機によっても気温や気圧や湿度や燃料貨物の搭載状況によってパフォーマンスが異なる。一般に着陸距離より離陸距離のほうが短く、しかも着陸時は燃料を消費して軽くなっているのに離陸時は燃料を補給して重くなっているから、パフォーマンスの算定がちゃんとできないと着陸できても離陸できないとか、離陸はできても上昇力が足らず飛行場周囲の山を越えられない、なんて喜劇みたいな悲劇になってしまう(しかも実際これは良く起こるのだと言う)。
飛行機の性能は何と言っても周囲の空気密度で決まるわけで、これを「密度高度(Density Altitude)」と呼ぶ。温度は低いほど、気圧は高いほど、高度は低いほど空気密度は高くなるわけだが、さてこれを飛行中にどう換算すればいいのか。
- 高度計の気圧ツマミを 29.92Hg に合わせる。この時高度計の指す値が、AGL=0 の気圧を 29.92 と仮定した気圧高度(Pressure Altitude)」となる(厳密に言えば多少誤差はあるのだが)。
- 外気温計を読み、気圧高度に気温補正を加える。気温の補正は大体 120ft/℃ だが原点が海面 15 ℃として -500ft/℃ で変化するので少々嫌らしい。おまけに気温計が F(華氏) だったりすると更に面倒になるので、換算表や計算尺(フライトコンピュータ)を使って換算する。
例えば海抜 4,000ft の飛行場で気温が 40 ℃に達していると密度高度は約 7,500ft に相当することになり、過給機のないエンジンはかなりの性能低下を起こすことになる。この計算を怠って燃料貨物満載で飛んだりすると越せるはずの山が越せなくってグシャリ…という惨事になるわけだ(x_x;)。
では密度高度が求まったところで、どうやって飛行機の性能を推し量るのか?これは FAA の認可を受けた飛行機ならば、マニュアルの5章に主要な飛行特性と密度高度の関係が乗っているのでそこを参照する。ここには離着陸距離、上昇率、巡航速度と燃料消費率、航続距離、航続時間が表ないしグラフの形式で書かれている。このへんを見ていて何となく「名パイロット」の条件がわかってきた。名パイロットとは「えーい、計算なんて面倒くせーや!」と飛び出し天性のカンと度胸で操縦桿を操る蛮勇ではなく、与えられた状況を冷静に分析し、入手可能な資料を的確に活用して最善の解法を見つける事のできる技術者でなければならないのだ。坂井三郎やチャック・イエーガーの伝説的な武勇伝の裏にも、おそらく緻密な「生き残るため」の計算式があったのだろう(やべ、段々文章が加藤寛一郎になってきた^^;)。本日の座学 1.8 時間。
- 2000年 6月4日 11:00−
N24373 1.5h/17.9h 14th
連日の猛暑が少し落ち着いた涼しい天候。だがこんな日は冷えた重たい空気が低層に停滞し空気が澱みやすい。地平線が見えにくく、飛行機の姿勢を掴みにくい天候だ。今日もひたすら離着陸訓練。風がほとんど無いのでアプローチで浮き上がりやすく、接地のためフレアーをかけてもふわふわと流されて滑走路の奥にドスンと落ちるというみっともない降りかたを繰り返す。空中にグライドパスのイメージを描いておいて、飛行機の挙動に合わせてパワー・ピッチでコントロールしなければならない。毎回毎回同じような事を言っているのだが、眼下に迫るショッピングモールが怖くてついついピッチを引いてしまい、スピードが足りなくなったのを慌ててパワーで補完しようとしたりするから益々変なパスになってしまう。3、4回やれば何となくカンが掴めてくるのだが、地上に降りて三日も経てばけろりと忘れてしまうのが情けない。接地の微妙な感覚はシミュレータでも再現できず、かえって挙動が違うのにイライラしてしまう(燃料満タン、フラップ 30 でアイドルパワーなのになんでこんなフワフワ浮くんだよ!みたいに)。
今まで場周旋回の四点ターンで機首が妙にフラフラしていたが、教官の「ラダーが足りないのです」との指摘に合わせて強めにラダーを踏むとなるほど妙な機首振れは収まった。機軸の延長線を地平線と交叉させて、その線が目的のパスを描けるよう脚で経路をえぐる感じ…かな?揺れも滑りも映像でしか感知できないシミュレータでは味わえない感覚で、言葉に移すのも難しい。今回はアプローチ時に意識して背筋を伸ばしたので少し視野が広くなってきたが、これも意識していないとだんだん前傾して計器版とニラメッコするような姿勢になってしまう。ほんの少し頭を引くだけで見える風景はずいぶんと変わるものだが、これもシミュレータでは再現できないところかな…本日のログタイム 1.5 時間。
- 2000年 6月2日 19:15−
授業前、双発機「バロン」の操縦を習っているI氏の知り合いが撮ってきたという五式戦闘機(ki-100)の写真で Warbirds の話題に花が咲く。しかし五式と聞くやいなや「コスフォードですね?」と反応し、背後に写る百式司偵(ki-46-III)を指して「こいつとエンジン同じハ 112 なんですよ、II 型はハ 102 つまり海軍で言う所の栄を使ってたんですが…」とやったらI氏の腰が引けた。(ひぇ〜ん、脅かすつもりじゃなかったんですよぉ、この程度のことは毎日 Warbirds でやってるんですよぉ〜)と心の中で叫ぶ(^_^;)。
さて今日の授業は法規の最後、FAR.91 の後半から。特に重要(試験に出る!)のは飛行機の整備点検必須事項。日本の車検のように飛行機にも一年点検が規定されており、これを怠った機体は耐空性(Airworthiness)がないことになり、これを飛ばした場合は罰せられてしまう。点検には複数の項目がそれぞれ別の期間で規定されているが、例によって語呂合わせをやると "AVIATE" になる。
Anual Inspection(年間定期点検、全航空機に必須、12ヶ月)
VOR Operational Check(VOR 動作点検、計器飛行のみ、30日)
100hour Inspection(教習用もしくはハイヤーの機体のみ、100日)
Altimeter Inspection(高度計動作点検、24ヶ月)
Transponder Inspection(モード C IFR 動作点検、24ヶ月)
ELT Test/Battery Replace(緊急送信装置試験(12ヶ月)およびバッテリー交換(メーカー保証期間の半分)
PIC(Pilot In Command)は飛行機を飛ばす前に整備記録(Maintenance Log)を読み、これらの項目が正しく行われていることを確認しなければならない。実技試験(Check-Ride)の時は必ず聞かれるのでしっかりマスターしておく必要がある。
次は NTSB(National Transport Safety Board, 事故調査委員会)が規定している Accident Report について。Accident(事故) と Incident(ニアミスなどの事件)は英語では区別されているのだが、日本語には的確に対応する訳語がないのでわかりにくい。事故とは人が死んだり重傷を負ったりした場合、機体に大きなダメージが生じた場合(この辺もいちいち細かく定義されている -_-;)等で、それ以外のヒヤリとした事件は Incident になる。また Accident 以外にも NTSB への即時報告を義務づけられている事象があり、中でも「試験に出る」のは「建築物などに $25,000 以上の被害を生じた場合」。そんなもん見積もってからじゃないと $25,000 かどうかわからんじゃないか…とも思うが、ここが落とし穴になるのでよく試験に出るらしい(-_-;)。いよいよ次回は第二回の筆記テストである。どうしよう、今回は全然復習してないぞ?(汗;)。本日の座学 1.7 時間。
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