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じゃま様
じゃま様、「渦について」を待ちたかったけれど「ヘルムホルツの定理」で、両者の立場の最大の違いが、分かりました。
じゃま様の立場から言えば、境界層による抵抗が全抵抗の60%に登るのに、非圧縮、非粘性の流体力学が役に立つだろうか、というものだと考えました。
私が今ここに熱意をもって書くことの一番の理由は、「別の場でまた、じゃま様とお会いしたときまでに見解の差を埋めておきたい」というものなのですが、60%と言う数字を見たときに、そのような熱意が沸いてきたのです。
この数字には根拠があるのだから、お互いの立場を語り合えば、両者の違いを埋められると考えました。 だから、この場から去るのをやめた。
さて、ここからが私の立場。
じゃま様の抵抗の比率は全速水平飛行の抵抗の比率です。それ以外の飛行の場合はどうかの観点と、ダランベール頃からの非粘性、非圧縮の流体力学の進展について見てゆきたいと思います。
非圧縮、非粘性の流体力学の進展については、単なる教科書の受け売りを、私が編集したために技術史的には少々間違っているかもしれませんが、まとめてみます。 じゃま様も思い出しつつお読みください。
ダランベールのころには、複素関数論が整っていて非圧縮、非粘性の流体は複素ポテンシャルを使って、円柱回りを回る循環流(因みにこれは渦の外部のポテンシャル流れでもあります)や、円柱を過ぎる一様流の解析解が得られていて、流線も容易に作図できた。 しかし粘性が考慮されていなかったため、日常目にする物の水中での抵抗を表すことができず、乾いた流体力学とか役立たずの流体力学とか呼ばれる状態であった。
この後、マグナスによって円柱回りの一様流と循環流を重ね合わせたものが計算され、このような流れから揚力が生ずることを、非圧縮、非粘性流体力学が示すにいたった。 また、一様流速と循環と揚力の間の簡単な関係も見つかった。これ自体には有効な使い道はなかったようだが、これが大きな曲がり角となった。
恐らくマグナス効果をヒントに翼の揚力を解析的に得ようという試みであったのであろう。ジュウコフスキーが等角写像を使って、円柱をジュウコフスキー翼型に写像する写像関数を見つけた。この写像関数によって円柱回りの流れを利用してジュウコフスキー翼型回りの流れを描くことができるようになった。
しかし、循環と一様流を重ねた円柱回りの流れの場合、循環の大きさは任意だったが、ジュウコフスキー翼型のばあい直観的には一定でならなければならぬはずだがどう決めようか、という大問題が残った。
これに、答えを与えたのがほぼ同時のクッタとジューコフスキーであったので、クッタ=ジュウコフスキーの条件と呼ばれるが、以下短くクッタの条件と言う。
クッタの条件には、非圧縮、非粘性流体力学的要請はなにもない。 むしろ、日頃よく目にする後ろが尖った岩の流れの知識や粘性について深く考慮した結果だといわれている。
飛行機が飛ぶようになり、風洞が整備され、次いで写像関数のテクニックも進歩したとき、二次元翼の実験結果は、等角写像での揚力と実験結果の境界層の抵抗の組み合わせで説明できるようになってきた。また、等角写像は翼型の開発にも利用されたが、実機の3次元翼の理論はまだであった。
そこに登場したのがプラントルの揚力線理論で、翼の代わりに循環を1/4翼弦長に配置するという大胆なモデル化を行い、翼幅方向に2次元翼型を(例えばテーパー翼ならば翼幅方向に順次相似縮小して、実質的には2次元翼型から計算で得られる循環を)分布させ、プラントルの微積分方程式を解くことによって、三次元翼の翼幅方向の揚力と抗力の分布を計算できるようになった。勿論、翼全体の揚力、誘導抗力も計算できるようになった。
誘導抗力は、水平飛行をしているときに後縁渦によって生じる吹き下げによる有効迎角の減少を補うために機首上げをするときに起こる揚力の後傾に伴う、揚力の後方向き分力とも解されるし、単位時間飛んだ時に新たにできる後縁渦を作る原動力としての力とも解釈される。
この成果の一つとして、同一アスペクト比同一翼面積の条件で、最小抵抗を誇る楕円翼が一時期流行することになる。
この頃になると、揚力、抗力について実験結果と理論の対応は、次のようになることが定着する。
実験揚力係数=理論揚力係数
実験抗力係数=理論誘導抗力係数+実験境界層抵抗係数
(*) 実験境界層抵抗としては、実験最少抵抗係数(一定値)を使う
現代の航空力学入門書程度ならば、理論揚力係数と理論抗力係数との間に理論的関係があるため、迎角が変化する状況に非常に便利であるため、好んで上式の右辺を使って議論する。
じゃま様こういう流れで、迎角が大きくなることを視野に入れれば、境界層の抵抗は一定値扱いに重要度を落としていき、一方で非圧縮、非粘性の流体力学の成功は、粘性についての深い理解がもし欠けていたなら、悲惨なことになっただろう、とまとめられると思います。
できることならば、非圧縮、非粘性の流体力学にも温かい目を向けて頂きたいと思う次第です。
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