第十二章
STEP BY STEP

ノースカロライナ級




S:さーて、ずっと貧乏臭いフネばっかりだったな
☆:ようやくゴージャスなホンモノの戦艦達が出てくるのですねっ
S:今までのは、まあ有る意味どんぐりの背比べだった
  これから出てくる連中とは、はっきりいって格が違う
  太平洋を挟んで睨み合った二つの大海軍が
  その持てる能力の全てを投入して建造したモンスター達を見ていこう
★:まずは、ノ−スカロライナです

S:ノースカロライナ級は英国のKGVと同じく
  第二次ロンドン条約の制限にしたがって計画された条約型戦艦だ
  つまり当初は14インチ主砲を搭載する予定だったんだ
★:そして日本の回答を待って16インチ砲に変更したんですね
S:元々米国では14インチ3連装を16インチ連装に変更した実績がある
  ノースカロライナの場合は4連装を3連装に変更したんだ
☆:KGVでは4連装3基を予定して、結局出来なかったんですよね
  米国戦艦はどうしてそれが可能だったのですか?
S:防御だろうね
  ノースカロライナはバランスの取れた優れた防御設計をしているけど
  KGV程の重装甲じゃない、これが12門装備を行えた理由の一つだと思うよ
★:装甲が薄くて大丈夫なのですか?
S:舷側装甲は傾斜した12インチだ
  垂直換算で15インチ弱に相当する、KGVより若干劣るけど極端に低いわけではない
  元々14インチ砲に対する対応防御が念頭にあっただろうから、これはこれで充分だ
  そして傾斜12インチなら重量的には13インチ級程度で済む、つまり軽く収まる
★:船内容積の問題は?
S:KGVでもそうだったんだけど、副砲と高角砲を共有にしてリソースを浮かせているね
  これは人員やスペースの節約には最適だろう
  他に長さを伸ばす事で稼いでいるように感じるな
  それに欧州各国の戦艦と比較すると速度も低めだ、これもギリギリの性能妥協だったんだろう
★:つまり、ノースカロライナ級は火力を重視した戦艦だったのですね
S:そして、16インチに載せかえる事で、最強級の火力を持った戦艦として完成した
  もう、欧州各国の戦艦なんか全然相手にならない、ネルソンにだって勝てる
  やばいのは超遠距離で長門と殴りあった場合ぐらいだ、物凄い強力な戦艦になっている
☆:16インチ45口径なんですよね
  なんで、そんなに強力なんです?
  大抵の15インチだって有る程度は16インチに対抗できる威力を持ってますよ〜
S:ノースカロライナから採用された新型16インチ砲はSHSを使っている
  重たい砲弾は遠距離でも威力を残している
  つまり、至近距離では従来の16インチと変わらないんだが
  距離が離れるにしたがって威力差が生まれる
  2〜3万mで交戦するなら、従来型16インチよりも全然強力で、当然ながら15インチなんか相手にもならない

★:米国は何故、こんな凄い物を開発できたのですか?
S:敵国艦船研究の大家である大塚先生によると
  第一次大戦後の戦力バランスが根底にあるらしいね
☆:どゆことでしょ?
  米国は英国と並んで第一位の戦力だったのでは?
S:英国の戦艦主力は15インチ砲8門の戦艦群だ
  米国のは14インチだったでしょ、砲数は10〜12門だけど
  砲数≒命中数とは言い切れないから
  敵艦に対する単位時間あたりの打撃量は似たようなものになる
★:命中数を砲数の二乗根程度とするなら
  打撃量や破壊効果は似たようなものでしょう
S:そうだね、廃艦所要弾数は一般に砲弾重量の二乗根に比例するから
  単純に計算するとこうなる、15インチを1とした場合の相対戦力だ

  15インチ8門 14インチ10門 14インチ12門
命中数 1 1.1 1.2
命中重量 1 0.8 0.9
打撃能力推算 1 0.95 1.05

★:命中する弾丸の重量では不利ですが
  手数で勝るので総合的な打撃能力では充分に対等だと思います
S:まあ、貫徹能力も大体似たようなものだから
  総合的な戦力では対等だといえるね
★:では問題無いのでは無いでしょうか
S:貫徹力で対等といえるレベルなのは50口径砲を備えた連中だけだ
  米戦艦の半分は45口径だから当然威力で劣る
  期待のメリーランド級もネルソンに比べると見劣りするし
  日本の長門は高速だ、米国戦艦は数量はともかく、その戦力に不満が有ったんだよ
☆:贅沢ですねっ
S:まったくだ、他の国が弩級戦艦を何とかやりくりしてるのに
  超弩級戦艦を沢山持っていながら、それに不満だったんだから
★:数が対等で、速度で劣る、つまり前線における実効戦力では米軍は不利ですね
S:両大洋に戦力を分割するから余計にこの問題は大きい
☆:そうなると、個艦戦力を何とかしたくなりますねっ

S:砲の積み替えは認められないから砲弾を重くするしかなかった
  発射時のエネルギーが同じでも、実戦で多用される距離での威力は大きく引きあがる
★:それを各戦艦に搭載したら戦力は大幅に向上しますね
S:特に16インチの奴は無体に強力だ
  だけど、この新型砲弾は従来艦には搭載されなかったみたいだね
  ノースカロライナ以降の新型艦にだけ配備されたらしい
☆:はえ〜何が有ったんですか?
S:砲弾が重たいと言う事は、装填装置とかも全部変更しないといけない
  つまり大規模な改装が必要だ、それだけのお金と暇が無かったんだろうね
  それに砲弾の製造能力とかも問題だ
  それらは優先的に新型戦艦に回されるだろう
★:じゃあ、16インチは新型戦艦だとして
  14インチのSHSは何故使われなかったのかですか?
  一応14インチ戦艦は改装を行っていたはずです
S:16インチ艦がドンドン出てくるなら16インチSHSを製造するんじゃないかな
★:いえ、戦前に製造しておかなかったのかなと・・・
S:ヴィンソン案の可決までの米国海軍とは、物凄く貧乏だったんだよ
  だからSHS運用能力は与えられていない、そこまで大規模な改装はやってないんだ
☆:ゴージャスなお話になる筈だったのに、ビンボ臭い話になってしまってますーっ(;_;)

S:さて、ノースカロライナ級に戻ろう
  このフネは欧州各国の新造戦艦群や日本の新型戦艦に対抗する事を想定して建造されている
  各国の戦艦の性能ははっきりとは判別していないから
  取りあえず自らの出来る範囲でのベストを尽くした感じだな
★:防御を減らしたんですね
S:火力重視でそうなったんだな
  結果的に対応防御で言うと、殆どゼロに近いぐらいに小さい
  これは火力が無茶苦茶にでかいからなんだ、数字のマジックだな
☆:必要充分な防御力は持っているのですか?
S:そうだな、舷側装甲は12インチだから同世代の戦艦と比較するとかなり弱い
  傾斜と対敵姿勢を考慮に入れても2万m以内は危険ゾーンだろう
  甲板装甲は140mmで、上下にも薄いのが有るけど、まあそんなに強力ではない
  元々対14インチだと言われるけど、個人的には多分対15インチなんだろうな
★:つまりKGV級と同様だと?
S:KGVと比べると、舷側装甲も甲板装甲も多少弱い
  これはつまり主砲数に重量を回したからだな
  そしてそれを16インチに交換したので、相対的に攻防のバランスが多少悪化してしまった
  だけど、この防御能力は決して不十分ではない
  同世代の15インチ艦に対して、25,000m前後なら耐える事が出来る
☆:舷側が20kmで甲板が25km・・・足りませんよーっ
S:でもって、これよりも広い範囲で、殆どの戦艦の装甲をぶち抜く
  例え、自分よりも強力な戦艦が登場しても、対抗する事は一応可能だ

S:では、ノースカロライナの防御を眺めてみよう
★:水線下は多重隔壁による強靭な水中防御を施していますね
S:欧州各国の戦艦から比べると更に進んでいるね
  定評のある応急能力や装備の充実を考えると、大変に強靭な水中防御を持っている
  これは自国のそれよりも、太平洋の向こう側の連中を意識した物だったんだろうね
☆:日本が雷撃重視に走っていましたからねーっ
S:ただ、想定した魚雷の威力がかなり過少だ
  自分達も魚雷の威力を向上させていた事を考えると、これでも不満は有っただろうな
  でも、現時点で出来る最大限を投入していたといえる、優秀だ
  問題は、装甲範囲、特に水線より上がイマイチ狭い
★:何か問題が有るのですか?
S:もし魚雷を喰らったりして傾いたり
  吃水が深くなるとどうなるかな?
☆:舷側装甲が水線上に出なくなるんですね
S:これは傾斜装甲を施した戦艦全般に多い傾向だ
  垂直装甲の癖に全然高さが足りない奴も居るけど、まあ、そんな欠陥軍艦は除外して考えよう
☆:そんなハズレがあるんですか?
S:ビスマルク
☆:あ・・・あは・・・あはははーっ
S:傾斜装甲はどうしても高さを確保するのが大変だ
  より広い面積の装甲板を用意しないと充分な高さを守れなくなる
  まあ、そういった砲弾は甲板に当たるわけだし
  近距離なら甲板や薄い舷側で食い止められるんだけどね
  出来れば中には入ってこないでくれたほうが嬉しい
★:でも致命傷を避けるには仕方が無いでしょう
S:うん、大損傷を受けたときには危険だけど、その前に敵を始末しちゃえば良いんだしね
☆:あ・・・
  つまり、ノースカロライナは耐久力に多少目を瞑ったんですねっ
S:そう、グチャグチャに追い込まれた後の耐久性に多少の問題を抱えているけど
  それで浮かせたリソースを火力に投入したんだな、やられる前にやるって奴だ
  『戦闘不能ですけどまだ浮いてますぅ』なんてのは意味が無いからな
☆:ある意味、ポストジュトランド型としては理想的な方向性の戦艦ですねっ
S:うん、従来型の技術や方向性も含めて考えると
  ノースカロライナは理想に近い戦艦だったと思う
  だけど、殴り合いで物を言う直接防御には多少不満がある
  設計思想は素晴らしいんだけど、完成度がちょっと足りなかったかな
  そしてそれは条約の制限サイズと大砲サイズが原因だと思う
★:大砲を乗せかえる事は出来ても根本的な防御強化は出来なかったと
S:耐久力にそれなりにリソースを費やしているからね
  14インチ砲を基準とした場合、充分な直接防御を持っていて、残りは耐久性能に回せる
  ところが基準が16インチになってしまうと、直接防御が多少不足してしまうわけだ
  最初から16インチを前提としたら、もっと耐久力に目を瞑って直接防御に回せただろう
☆:防御リソースの割り振りが問題だったんですねっ
★:ですが、これ以上耐久力を犠牲にしたら、それはそれで問題では?
S:直接防御が引きあがれば、戦闘能力は更に向上する
  つまり「やられる前にやる」が成立するでしょ
  だから必要な耐久性は多少低下するんだな
  それに直接防御能力が高ければ、一撃あたりで受けるダメージも減る
☆:死に難くなるんですねっ
S:勿論、絶対に沈まない、無敵で無尽蔵な耐久力が得られるならそれは最高だ
  だけど、艦艇の性能とは、結局のところ何かを捨てて何かを得る事になる
  何を優先すべきなのかを間違えてはいけない
  最も優先すべきは?
☆:火力ですっ
S:そして、その火力を戦闘で維持出来る直接防御能力が耐久力よりも優先されるべきなんだ
☆:ノースカロライナ級はもっと詰める事が可能だったんですねっ
S:そして、それは、彼女の次のクラスで達成されるんだ
  彼女達は、その礎となったと見ても良いだろう
  だけど、それでもこの級は無茶苦茶に優秀で強力な戦艦で
  今まで紹介してきた連中のどれよりも優れた戦艦だと言えるかもしれないな


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