第六章
いんたぁみっしょん

第二次改装後の霧島




S:さあて、条約型戦艦が出てくるんだけど
☆:ふぇ・・「だけど」?
S:その前に各国の改装戦艦を眺めてみよう
★:でも、国によって改装の度合いがだいぶ異なりますね
S:そうだね
  A:改装をまったくしなかった奴
  B:ある程度の改装をした奴
  C:そして造り替えに近いことをした奴に大別できる
  まあ、ここで言う改装とは外側の細かい装備ではなくて、内部に手を入れたかどうかで考えて欲しい
★:Aに分類できるのは
  米国のメリーランド級、英国のフッドぐらいでしょう
S:比較的世代が若い事もあって後回しにされたんだな
  どっちも改装の予定は有ったんだけど、その前に戦争に突入しちゃったんだ
☆:他の戦艦はどこかしら改造していますねーっ
S:そうだね、ある程度の防御改善とボイラーの変更
  それに主砲の仰角引き上げに射撃指揮装置の新型化ってのが、まあ普通だ
  これによって能力はかなり改善されてるけど、実際問題として戦力としての意味はあまり変わらない
  多少強力になっただけでしかないね
★:戦力としての意味が変わるようなものですか?
S:そう、それがCに分類される連中だ
  つまり、日本とイタリアの改造戦艦群だ

  
新造時の扶桑型超弩級戦艦

  
大改装後の扶桑型二番艦 山城


S:日本の戦艦群の改装内容は
   水線下防御の飛躍的強化
   主砲塔の装甲強化
   甲板装甲の大幅強化
   ボイラーを最新型に変更
   船体を延長して推進抵抗を減少
   バルジの追加に伴う浮力の強化
   主砲仰角引き上げと射撃指揮装置の刷新に伴う遠距離砲戦能力の向上
   対空火器の増強
   主機の交換に伴う出力倍増(長門型は実施せず)
  まあ、こんなとこかな?
★:目立つのは出力強化ですね
S:殆ど新造時の倍の馬力になっている
  結果、主機交換をしなかった長門型以外では数ノット速くなった
  元々日本戦艦は高速だったから、これによって異常な速度を発揮する事になる
  つまり主力戦艦部隊は25ノット、巡洋戦艦は30ノットで走ることが出来るようになった
☆:同世代の他国戦艦の殆どが20ノット程度なのと比較すると圧勝ですねーっ
S:速度の持つ重要性は言うまでも無いよね
  どこかに派遣したい、戦闘で有利に立ち回りたい、そういった時に一番重要なのがこの能力だ
  能力とは相対的なものだから、敵が機動力を発揮するとその分此方は不利になる
  敵が高速戦艦を持ち出したとき、それに一定レベルの対応をしようとしたとき
  旧式低速戦艦だと、場合によっては、より多数を持ち出さないと対抗が出来ない
  日本の戦艦が全て高速であると言う事は、あらゆる条件で有利になるといえる
  直接的な殴り合いだけが戦力の意味ではない、必要なとき、必要な場所に急行する能力が最も重要なんだ
  大事なときに居なかったら意味が無い
  そしてそれは、指揮官の判断力、艦艇の速度、そして艦艇の数で間に合う可能性が変化するんだ
☆:数で劣る日本軍は速度でそれを補おうとしたんですねーっ
S:そうゆう事だ
  そして、殆ど「そんなんアリ?」って装甲の強化をした
  改装された戦艦の甲板装甲は各国の条約型戦艦よりも厚いぐらいになってる
  新型戦艦には攻防では若干劣るとしても、それに近い戦闘能力を期待できたんだ
★:その為に時間とお金を沢山使ったんですね
S:貧乏国ゆえに無理をしたんだね
  見かけも艦橋とかで変化しているけど、最大の違いは高速戦艦化だったんだ
  そして、それ以上の無茶を行ったのがイタリアの戦艦だ
★:イタリア戦艦はほぼ完全な造り替えですね
  
新造時

  
改装後

S:改装内容は
   中央部の主砲塔の撤去
   主砲口径の拡大
   機関部刷新
   船首延長
   新型水中防御システムの搭載
   各種指揮機材の新型化
   副砲の変更
   対空火器の増強

☆:はぇ〜結果的に殆ど最新鋭戦艦と同じになってますねーっ
★:主砲塔を撤去する事で広大な空間を確保したのが特徴ですね
S:元々イタリアの弩級戦艦は3連装と連装の混載で13門という数を搭載していた
☆:13門?
S:第二と第四砲塔が連装で、他は3連装だったんだ
  弩級戦艦登場以降の戦艦の火力強化は主砲数の増加と口径拡大の二つの方向があったんだ
  
ドレッドノート

  
主砲14門、エイジンコート

  
34サンチ砲装備 オライオン


S:まあ、エイジンコートの14門は行き過ぎとは言えるが
  主砲火力の強化として沢山積むというのは一つの形だったんだ
  一般に、大口径の搭載、次に船体を大きくして砲数を増やし
  次にその大きな船体にもっと大きな大砲を載せ、そしてまた数を増やしって発展する事が多い
  何処の国の戦艦でも、12門前後までの装備例が幾つも有るよね
  搭載数=命中数では無く
  搭載数=重量だから、搭載数の増強は必ずしも利点ではないんだけど
  射撃指揮能力等にまだ未解決な物を抱えていた時代では数量も重要な物だったんだ
★:では、射撃指揮能力が改善されれば必要性は減るのですね
S:第一次大戦末期以降の建造艦では6〜8門装備が一般的になったね
  砲数を増やすより、その重量をより大きな大砲の搭載に使うようになったんだ
  だから、30年代現役最多になるイタリア戦艦の主砲数は無駄に多いとも言える
  中央の3連装砲塔を撤去してもまだ10門残るし、それでも必要十分な数だ
  そこで一基外して、残る主砲は内部を削りなおして320mmに拡大した
☆:削ったりして大丈夫なんですか?
S:駄目だろ
  多分強度や寿命に悪影響を齎す、強度が落ちるから精度も悪くなる可能性がある
★:では無意味ですね
S:だが、一撃の威力は大幅に向上する
  戦艦の存在意義は火力だ
  その火力を引き上げるのは、ある意味自然な方向性だ
  今までが、弾頭重量452kg、13門
  これが弾頭重量525kgの10門だから
★:一斉射撃量は5876:5250で落ちてます
S:でも、期待命中数は?
★:砲数の二乗根として、1.14倍なので、32サンチの方が多くなりますね
S:砲弾の威力も増えるから火力は引きあがったと見るべきだろう

S:次に防御の強化だ、舷側装甲は張り足しができなかったんだが
  最厚部はそのままだけど、それ以外の部位では若干強化された
  舷側装甲は250mmに傾斜甲板40mmのままだけど
  防御甲板位置を一段高いところにして有効容積を増やしている
☆:これだと・・・・傾斜甲板より主要部が高くなりません?
S:だから装甲を妙なところに張ったんだよ

  
S:左側が改装前、右が改装後
★:防御区画や防御構造そのものが違っていますね
S:多少不十分な部分はあるけど、ほぼ最新の構造になっていると言えるね
  そして、そうやって増大した重量を補う為に船首を延長して全長を伸ばした
  これで浮力を増加させながら造波抵抗も減少させることにしたんだ
  他国で一般的なバルジの装着は行われていない
☆:バルジの装着は浮力の強化と水中防御の2つを狙った物ですよね
  この船体延長ですと防御強化にはならないと思いますーっ
S:機関を全部撤去して入れ替えたでしょ
  あの時、機関は細長くなったと思ってくれると判り易い
  つまり、船体の左右に余裕が出来たんだ、そこに水中防御用の構造を押し込んだ
  船体幅が増えないから推進抵抗も増えない、馬力向上をスムーズに速度に転換できる
★:本当に完全造り替えですね・・・
S:結果、イタリアの改造戦艦は飛躍的戦闘能力強化を果たした
  高速で重防御で大火力、改装前とは本当に別の戦艦だな
  でも、元が元だから、実はあんまし大した事が無い
  かけたお金に見合った効果が有ったとはいえない部分の方が大きい
  だけど、この改装はイタリアにとっては必要な行為だったし
  新型戦艦の建造に際しての経験にもなったと思う

S:さて、こうした作業の持つ意味はなんだっけ?
☆:既存の旧式戦艦の戦力としての有効性の引き上げですねっ
S:そゆこと
  旧式戦艦を一定の戦力として計算できるかどうかは極めて重要だ
  特に弱小国ではこれは大きな問題になる
  イタリアや日本は、貧乏であるがゆえに、今持っている旧式戦艦を何とかしないといけなくなったんだ
  普通の人が無理しながらリフォームするようなものだね
  新しい家を購入して、古い奴を他の用途に使うなんて普通の人は出来ないだろ?、あれと同じ事だ


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