第四章
Sweet Tone

だんけるく




S:さて、次は極めて特色のある戦艦だぞ
★:ダンケルク級ですね
S:本編で言った戦艦の条件を覚えているかな?
☆:一番強いフネですねーっ
S:基本的に戦艦というか、砲戦能力は装備している大砲の威力だ
  あんまし沢山積んでも重量当たりの火力は向上しない
  重量と火力の効率は砲数が少ない方が良い
☆:だけど、戦闘距離が伸びるというか
  直撃発生確率が低い状況では数がないと話にならないんですねっ
S:そうだね、だから戦艦では適度な数量の大砲を積むのが基本になっている
  つまり砲数は必要な分搭載しているなら、火力という意味では余り重要ではない
  ここまでは判るね
★:はい、つまり火力の指標は基本的に大砲の性能ですね
S:戦艦とは一番強い軍艦だ
  つまり、装備している大砲は最強の物である、これも判るね
★:ええ、そうですね・・・
  あら?ダンケルク級は・・・
S:そう、ダンケルク級戦艦の主砲は33cm
  第一次大戦時に建造されて
  フランス海軍の中核を担っていたブルターニュ級は34cm砲を搭載している
  ブルターニュ級 WW2突入時
ブルターニュ級超弩級戦艦

☆:ダンケルクは最強じゃないんですねーっ
S:近代的な戦艦の歴史を見てもらえば判るんだが
  基本的に新型戦艦は既存の戦艦よりも火力がでかい
  砲数が増えるとか口径が大きくなるとか色々な手法が有るけど
  共通しているのは、火力は大きくなっているって事だ
  言い換えるなら、既存戦艦よりも火力の劣る新型艦は戦艦じゃない
★:また無茶苦茶な事を・・・
S:じゃあ、重巡洋艦は戦艦かい?
  既存戦艦よりも火力の小さい新造戦艦なんて基本的に存在しないんだよ
  そういった艦は巡洋戦艦とか二等戦艦とか海防戦艦って言うジャンルに分けられる事が多い
☆:じゃあ、ダンケルク級は戦艦じゃないんでしょうか?
S:まず、新型33cm砲は既存の34cm砲よりも威力で勝る
  だけど、わざわざ新型砲を造るのに小さい口径を選択したのは面白いね
  別に34cmで作っても良かっただろう、それをしなかった理由はなんだろうな
★:重量ですか?
S:じゃあ、もっと小さい主砲にしなかったのは?
☆:威力ですねーっ
S:じゃあ、もっと大口径にしても良かっただろ?
☆:ふぇ〜・・・何故でしょう
S:だから、ダンケルクは戦艦じゃないんだ
  既存の戦艦とは違うと言い換えるのが正しいかもしれないけどね
  ダンケルク級は旧時代と言っても良い既存の戦艦とは大きく異なる性格を担った艦艇だ
  フランス軍の分類では、ブルターニュ級は艦隊装甲艦、ダンケルク級は戦列艦と違う物になっている
  あの国の分類名は他国とかなり異なる部分も有るので名称を見てどうこう言うのは適当じゃないんだが
  違う分類になっているという事に注意して欲しい
★:ダンケルクは旧来の戦艦とは異なる存在だったのですね
S:彼女は新型の軽巡洋艦や駆逐艦と組んで高速遊撃部隊を構成する存在と言われてるね
  つまり、巡洋戦艦や高速戦艦としての用法が念頭にあるわけだ
  既存の戦艦とは違うのだと内外に大きくアピールする手段の一つが砲の口径だったのかもしれない

S:さて、ダンケルクの特徴は、前方に4連装砲塔を2基載せた前方集中方式の主砲配置だね
☆:でもぉ・・・後ろに撃てないですよね、利点は有るのですか?
S:まず前に8門向けられる、前方火力が大きい
  高速で走り回り要所に急行するという用法を用いる限りこれは絶大な利点になる
  そして4連装砲塔の採用も重要だ、これで8門搭載しながら重量を軽く済ませる事が出来た
  浮いた重量を防御に回す事で極めて充実した防御力を持っている
★:サイズの割に重厚な防御力を持っているのはそういった理由なんですね
S:問題点もあるね
  まずは後に撃てないってのはかなり困る
  それと砲塔が2つしか無いってのもマイナスだ
  一つ潰されたら戦力半減になる
  となると砲塔の防御を充実させないといけない
  まあこれは当たり前の事で、砲塔損傷は爆沈にも繋がるんだし、重防御するのは当然
  問題は、片方が破壊されるならともかく、運が悪いと隣の砲塔も使えなくなることがあるんだ
☆:えっと、確かドッガーバンク海戦のザイドリッツですねっ
S:うん、ザイドリッツは5番砲塔のバーベットを貫かれて
  下にある弾薬庫関連を経由して背負い配置の4番砲塔に被害が及んだんだな
  これはまあ、極端な例だけど
  二つの砲塔の真中当たりにでっかいのを喰らって両方とも使用不能なんて事態も可能性としてある
★:困りましたね、せっかく砲塔数を減らして防御効率を稼いでも一撃で戦闘能力を喪失しては・・・
S:ポスト・ジュットランド艦の特徴は充実した防御と同時に
  戦訓や研究を反映して、とにかく最後まで火力を維持しようとしているんだな
  このダンケルクの場合、防御範囲が広くなる事を甘受して砲塔の間隙を広くしている
★:勿体無いですね・・・
S:マイナスだけじゃないんだよ、結果として第一砲塔はかなり後ろに向けられる
  ダンケルク級の最大の弱点とも言える後方射界は、この砲塔の指向範囲が大きい事でかなりカバーされる
  もしかすると防御問題よりも、この火力指向範囲を考えて砲塔間隔を広くしたのかもしれない
☆:でも、間隔を広げるなら多連装砲塔の重量の利点が減ってしまうのでは?
S:そうでもないよ
  多連装砲塔の利点は
  砲塔数が減る事による防御範囲の圧縮と
  砲数あたりの砲塔重量の圧縮の二つがある
☆:えっと・・つまりっ、多少広げても重量面の余裕は大きいと言えるんですねっ
S:まあ、例えば常識的な、3連装を前に2基、後に1基って形と比べてどれほど違うのかは難しいけどね
  一応艦政本部が試算した例を出しておこう

  二連装 三連装 四連装
直径 9.0 10.4 13.7
重量 1,132 1,512 2,165
一門当たり 566 504 541
☆:4連装では3連装と比べて重量の利点はあまり無いですねーっ
S:あくまでも日本海軍の試算だからね、条件次第では多少前後すると思うよ
  特にコレは16インチ50口径という巨大な大砲での場合だ

  二連装 三連装 四連装
直径 8.2 9.5 11.0
重量 760 1,060 1,320
一門当たり 380 353 330

☆:こっちは?
S:14インチ50口径砲の試算
★:こっちでは明確に連装数が増えると軽くなってますね
S:砲自体の重量が軽くなって
  砲塔の装甲だとか関連機材だとかを共有できる利点が大きく出てきたと見ても良いかもね
★:つまり重装甲の砲塔で、しかも砲が小さい場合、多連装にした場合の利点が大きくなると?
S:砲塔数が減って甲板面積や投影面積に占める砲塔面積は減少するから砲塔への被弾率も下がる
  戦闘能力維持には向いているといえるかもしれない
★:ダンケルクはつまり極めて効率の良い武装配置方式を採用した戦艦なんですね
S:そうだといえるね

S:ダンケルクのもう一つの特徴は速度だ
☆:30ノット以上出るんですねーっ
S:それまでの戦艦が20ノットだから別次元の機動力だ
  これは何度も述べている艦隊単位での機動運用を考えた代物だ
  あまりにもボロっちい旧式戦艦、充実した巡洋艦以下の戦力、どっちを重視するか
★:ダンケルクは新しい巡洋艦以下との共同行動を選択したんですね
S:例えば旧来の戦艦をサポートしつつそれなりの機動力って選択肢も考えられるね
  速度を落とせば、もっと火力や防御力に回せるだろう
  だけど、それは選択されなかった、つまり旧来の戦艦を見捨てたんだ
  これは他国でも見られる状況なんだが、鈍重艦は片隅に追いやられていくんだな
  ダンケルクはそういった意味でも「旧来の戦艦」じゃ無かったんだ
☆:ネルソンが旧来の戦艦という方向性を突き進んだのと比べると対照的ですねーっ
S:この両者は外見的には前方に主砲を集中配備すると言う事で似た雰囲気をもっている
  だけど共通するのは多連装砲塔の集中配備による防御強化であって
  根底に流れる思想は全然違う方向を向いていたんだ
  それが出来たのは、フランスの既存戦艦がボロっちかったってのが有るんだけどね
★:英国の場合巡洋戦艦や高速戦艦も多数存在していました
  新しいカードを何に使うのか、そういった意味では選択肢が異なるのも自然ですね
S:そうゆうことだね
  戦力とは色んな物との相対的なバランスや位置付けも考えないといけないんだ
  ダンケルクが未来を、ネルソンが現在を見た理由、それも考えないと一概には評価を下せないんだな


たいとる
第3章
第5章