作戦要務令

第三部


第5篇 戦場掃除
  1. 第260
    戦場掃除の目的は、戦闘後戦線の近傍を捜索し、死傷者に対し速やかに適当なる処置を行い、併せて死傷馬の収容、情報収集、無頼者の掠奪防止、残置又は遺棄物の収集等を行うに在り
  2. 第261
    戦場掃除は、軍より派遣する戦場掃除班等之に任ずるの外、師団長は適時兵器勤務隊、経理勤務班等を派遣し、又、状況の許す限り各部隊をして戦場掃除班を編成し、各々其の行動地域内の戦場掃除に任ぜしむ。止むを得ず其の地に於いて戦闘せざりし部隊をして戦場掃除に任ぜしむることあるも、死者の処置の為には、為し得る限り其の地に於いて戦闘せる部隊より所要の人員を参加せしむること緊要なり
  3. 第262
    傷者は我が軍の者たると敵軍の者たるとを問わず応急手当を施し、速やかに最寄の病院等に送致す
    傷馬は前項に準じて処置するか、若しくは適宜処分す
  4. 第263
    死者に対しては、被服の標記、認識票等に依り、為し得る限り其の氏名、身分、階級、所属部隊等を調査し、死亡原因、地点、日時(推定のときは其の旨を附記す)、ならびに収容日時を明かにし、収容者の自署せる証書を作り、通常火葬(敵軍の者は通常埋葬)に附するものとす。此の際、遺留品中私有物は遺族の為重要なる遺品に鑑み、成るべく将校監督の下に些細の物と雖も取纏むるの着意を必要とす
    斃馬に在りても前項に準じ、馬名、所属部隊、斃死原因、地点、日時を調査整理の上、為し得れば埋葬するを可とす
    前諸項の証書は、成るべく火葬(埋葬)を取扱うべき部隊の将校、下士官、若しくは軍医、又は獣医、之を調製自署し、我が軍のものに在りては速やかに其の所属部隊長に報告又は通報するものとす
  5. 第264
    我が軍に属する者の遺留品中、私有物は本人の遺骨(遺髪)と共に一包と為し、其の氏名、階級、止むを得ざれば認識票番号及び所属部隊を記載し、所属部隊毎に纏め、順序を経て留守部隊に後送し、敵軍のものに在りては証書と共に通常兵站部隊に引継ぐものとす
  6. 第265
    毀損、残置、又は鹵獲せる軍需品、或は再用可能の物件は、縦い直ちに利用せざるものと雖も速やかに之を回収するに勉むること緊要なり。之が為、各部隊は先ず自力を以って之を収集し、又は散逸を防止するを要す
  7. 第266
    収集せる兵器、被服、糧秣、燃料、金櫃、馬等は、彼我両軍のものに分ち目録を調製し報告す。而して、現品は適当の地点に集積し兵站部隊に引継ぎ、重要書類は速やかに高等司令部に送附するものとす
    死者の携帯兵器、銃砲の打殻薬莢、燃料缶等も、為し得る限り前項に準じ処置するを可とす
    不発の弾丸及び爆薬等の危険品、ならびに撒毒地域を発見せば、之を標示して上級指揮官に報告す
  8. 第267
    鹵獲せる兵器、材料等にして特殊のものは貴重なる情報資料たるべきを以って、機を失せず高級指揮官に報告し、又、技術上の研究に資する為、其の一部を後送するを要す