作戦要務令

第三部


第1篇 輸送

第1章 鉄道

第1節 鉄道輸送
第1款 乗(下)車
  1. 第19
    軍隊は停車場司令官の定むる乗(下)車に関する規定、及び同官と協定せる所に従い、自ら乗(下)車を行うものとす
    停車場司令部を設置せられざる停車場に於いては、当該駅長と協定して乗(下)車を行うものとす
  2. 第20
    輸送指揮官(止むを得ざれば其の代理者)は所要の人員を伴い乗車地に先行し、乗車すべき人馬、材料の正確なる数量を停車場司令官に通報し、該司令官より所要の件を承知し、列車及び停車場内外を偵察したる後、適時乗車に関する命令を下す
    輸送指揮官の下す乗車に関する命令に於いて示すべき事項、概ね左の如し
    • 乗車部隊、乗車区分
    • 搭載開始及び終了の時間
    • 軍隊の集合場、馬繋場、砲(車)廠、材料集積場
    • 集合法、集合時刻
    • 乗降場、積卸場、及び交通路の使用区分
    • 搭載法、搭載材料の配当
    • 勤務員及び衛兵の割出、差出時刻及び地点
    • 列車内に於ける連絡法
    • 輸送中の警戒部署
    • 輸送中の給養及び衛生
    • 危険予防及び軍機保護上の注意
    • 輸送指揮官の位置等
    輸送指揮官は、軍隊、停車場に到着したるとき及び乗車に方り、準備せる車輌に余剰を生じたるときは速やかに之を停車場指揮官に通報するを要す
    輸送指揮官は軍用輸送券に所要の記入を為し、之を停車場指揮官に提出す
  3. 第21
    輸送指揮官は停車場指揮官に指示する列車組成に基き、乗車部隊、輸送中の警戒等を考慮し乗車区分を決定す
    輸送指揮官は、乗車の為、通常人員、馬、材料毎に将校、止むを得ざれば下士官を長とする搭載掛(所要の勤務員より成り搭載材料を附す)を設く
    各搭載掛は輸送司令官の命令に基き細部の搭載法を定め、之が実施を担任す
    卸下に関しては第2、第3項(原文ママ)に準ず
  4. 第22
    輸送部隊を乗降場及び積卸上に入らしむべき時期は、主として乗車及び乗車後の列車出発準備に要する時間の長短に依り差異あり
    軍用列車の乗降に要する時間は、部隊の編制、装備特に馬の数、材料の多寡及び種類、乗降場及び積卸場の景況、搭載用材料等に依り異なるも、全車輌を連置し既設乗降場又は積卸場を利用し各車同時に搭載する場合に於いては、乗車準備完了後、概ね左の時間内に搭載を終了するを要す。但し、重量又は形状大なる特殊の材料の搭載、若しくは夜暗に在りては更に時間を要す
    人員
    30分
    1時間
    車輌類
    1時間
    分解せる車輌其の他の材料
    1時間30分
    乗車部隊は其の乗車の準備を周到適切にし、乗車時間の短縮に勉むるを要す
  5. 第23
    各搭載掛は人馬、材料を搭載位置に誘導し、其の配当車輌に応じて適当の位置に排列し、同時若しくは逐次に搭載す。此の際、要すれば客車の階段又は貨車の床板に乗車区分を標記す。但し、到着地、乗車部隊、材料等を探知し得るが如き標記を為すべからず
  6. 第24
    輸送指揮官は輸送中警戒の為、地上の敵に対する警戒兵及び対空監視哨を設け、且つ対空射撃部隊、要すれば下車射撃部隊、消毒に任ずる部隊等を部署し、又、列車内必要の指揮官との間の連絡施設を整うること必要なり
  7. 第25
    輸送指揮官は所要の将校を指定し、之に車輌を配当し、輸送中、之が監視に任ぜしむ。該将校は自ら所要の監視を為すの外、各車毎に通常高級先任者をして直接其の取締を為さしめ、且つ、下士官、兵をして各自の乗車せる車輌を記憶せしむ
  8. 第26
    人馬、材料の搭載は概ね左の要領に依る
    1. 一・ 搭載に方りては車輌の搭載力を遺憾なく利用し、使用車輌数の節減に勉むるを要す
      規定積載量を超過して搭載せんとする場合に於いては、停車場司令官の指示を受くるものとす
    2. 二・ 弾薬、揮発油其の他危険品は、勉めて有蓋貨車に搭載するを要す。而して、弾薬其の他危険品に在りては積載量を制限することあり
    3. 三・ 車輌類は通常其の侭搭載す。然れども、前、後車は之を分離し、轅桿等は離脱するを通常とす。而して、車輌は卸下に支障なき範囲に於いて勉めて之を密接して空隙を減少し、且つ、搭載後木材、麻縄等にて相互に結着し、又、木楔を貨車に釘着して、其の転動を防ぐを要す。而して、空隙には通常当該車輌の付属品、監視兵の装具、ならびに急増斜板、鉄道搭卸具等を搭載す
      輜重車は状況之を許せば車輪と車体とに分解して搭載す
      自動車類は頭端積卸場(貨車の縦軸方向より搭載又は卸下し得る如くせるもの)を利用し、若しくは貨車の一側より搭載す。又、自動車は貨車2輌に跨り搭載することあり
    4. 四・ 火災の虞ある物品を搭載しある無蓋貨車には覆を施し、要すれば束藁を浸したる水桶を備えて監視兵を配置し火災を防ぐ。又、有蓋貨車に在りても車扉其の他に空隙あるときは火災を起こすの虞あるに注意するを要す
    5. 五・ 馬は通常有蓋貨車に搭載す。状況に依り、設備せる無蓋貨車に搭載することあり。此の場合に於いては特に火災予防に注意す
    6. 六・ 馬は貨車の大小型式に依り、馬体を列車の行進方向と直角若しくは並行ならしむる如く搭載し、各車に監視兵を配置す。其の人員は通常四輪車に在りては3名以下、「ボギー」車に在りては5名以下とす。而して、極寒時に在りては監視兵の交代時間を適切ならしむるに注意す
    7. 七・ 馬の搭載に方りては、予め貨車の換気窓を全開し置き、鞍を卸し、輓具を解き、勒を銜ましめ、貨車の入口に踏板を架し、反対側の車扉を閉鎖し成るべく馬を驚怖(原文ママ)せしめざる如く車内に牽入れて繋ぎ、全部の搭載終わるや、馬栓棒、胸板又は張綱を装す。次いで、輸送中使用すべき馬糧、麥袋、水嚢、馬具、監視兵の携帯品等を余積に搭載し、馬沈静するや徐に「きずな」(該当字表示できず)を緩め、両側扉を全開又は半開す。但し、開閉部には必ず駒止綱を結着し、又劇動に依る扉の急激なる閉鎖を予防する方法を講ずるを要す
    8. 八・ 馬は搭載前穀類を減飼して干草を多く与え、若干の運動を行いて、其の沈静を図り、搭載直前には水与を行い、又、体高大なるか若しくは騒擾する馬に対しては要すれば項の保護法を講ず
      馬を搭載する無蓋貨車には輸送中必要なる干草を結束して備うるに止め、藁を置くを禁ず。又、馬具は他の車輌に搭載して湿潤を防ぐを可とす
    9. 九・ 馬は短時間の輸送、又は下車後直ちに戦闘を予期する場合に於いては、要すれば馬具を装したる侭搭載することを得。但し、此の場合に於いては搭載馬数を適宜減少すること必要なり
      長時間の輸送に在りては銜を脱し、頭絡のみを以って繋ぐことを得。又、極寒時に於いても適時開扉して換気するを要す
  9. 第27
    下士官、兵は、輸送指揮官若しくは搭載掛の下す「乗車」の号令又は「前へ」の号音に依り乗車す
    搭載掛は乗車前、車輌の種類及び設備に応じ、各兵の占位順序、装具の整頓法等を示し置くを可とす
    軍用列車は遅くも発車5分前に搭載を終了するを要す
  10. 第28
    搭載終了するや、輸送指揮官は各車輌の搭載状況を点検したる後、之を停車場司令官に通報す
  11. 第29
    輸送指揮官は通常下車停車場に到着前、適時下車準備に関し命令す。然れども、馬の繋索は解くことなく、又材料は移動せしめざるものとす
  12. 第30
    軍用列車下車停車場に到着せば、輸送指揮官は該地停車場司令官の規定に従い下車に関する命令を下し、卸下掛をして其の業務を実施せしむ
    輸送指揮官は軍隊をして渋滞なく下車し、且つ速やかに停車場より退去せしむるを要す。大部隊の輸送に於いて特に然り
  13. 第31
    下車に方りては、輸送指揮官は先ず将校及び勤務員をして下車し其の配置に就かしめ、次いで「下車」の号令又は「前へ」の号音にて下士官、兵を下車せしむ
    下車に要する時間は設備に依り異なるも、既設乗降場又は積卸場を利用し、各車輌より同時に下車又は卸下する場合に於いては、人員の下車及び隊列を整うる為10乃至15分、馬の為10乃至20分、材料の為20乃至40分を標準とす。特殊の材料の卸下、若しくは夜暗に在りては更に大なる時間を要す
    馬の卸下に方りては、其の貨車卸下位置に停止したる後にあらざれば車扉を開くべからず。又、反対の車扉は必ず之を閉鎖しあるを要す
    馬を卸下するには、先ず貨車の入口に踏み板を架し、車内の諸物品を卸し、次いで馬栓棒、胸板又は張綱を除きたる後、馬を卸し、馬体検査を行い馬具を装し、乗馬は其の集合場に、輓、駄馬は繋駕又は駄載すべき材料の所在地に之を誘導し、勉めて牽馬運動又は四肢の摩擦を行うを可とす
    卸下終了するや、輸送指揮官は之を停車場司令官に通報するものとす
    卸下したる車輌其の他の材料は、速やかに之を適当の位置に移動搬出せしめ、停車場を空虚ならしむること必要なり
  14. 第32
    状況に依り、予定の停車場以外に於いて下車するを要することあり。此の場合に於いては、線路上に直ちに下車すべきや、或は下車の為線路の適当なる部分又は最寄停車場迄進行若しくは退行すべきや等は、輸送指揮官、列車長(上級車掌を含む、以下同じ)の意見を参酌して、自ら之を決するものとす。此等の顧慮あるときは、輸送指揮官は特に列車長との連絡を緊密ならしむるの処置を講ずると共に、状況に依り将校若しくは下士官を機関車に乗車せしめ、或は機関車の前方に無蓋貨車を連結し之に警戒兵を乗車せしむるの外、各車輌には急造斜板又は鉄道搭卸具等を準備せしむるを必要とす