1936年発布

赤軍臨時野外教令


第十一章 特殊の状況に於ける行動
  1. 其の五 艦隊との協同
    1. 第311
      戦隊及び軍艦は陸軍部隊との戦術的協同に当り、左記任務に服することを得るものとす
      1. 艦砲射撃を以って陸軍部隊の沿岸翼に協力す
      2. 敵の側面及び背面に打撃を加え、陸軍部隊を援助する目的を以って、戦術的上陸部隊を揚陸す
      3. 海上よりする敵の射撃に対し、陸軍部隊の翼を掩護す
      4. 敵上陸部隊の揚陸に対抗す
      5. 海軍航空を以って陸軍に協力す
    2. 第312
      一般軍隊指揮官と海軍指揮官との隷属関係及び相互支援関係は最高統帥の命令に依る
      一般軍隊指揮官、配属又は支援海軍兵力の戦術的用法を決定する場合に於いては、海上兵力を最も有効に使用する為、海軍指揮官の意見を聴取せざるべからず
      海軍指揮官が陸上部隊を指揮する場合に於いても、海軍指揮官は前項同様の義務あるものとす。司令部特科兵(砲兵、通信兵其の他)相互間には必ず連絡者を交換し、又一般軍隊指揮官と海軍指揮官との間には確実なる通信連絡の手段を講ずべし
    3. 第313
      艦砲の利用は当該地区に於ける砲兵の一般戦闘計画に包含せられざるべからず
      艦砲に対しては、軍隊砲兵の射程の及ばざる目標に対する射撃の為特別の任務を課するものとし、中口径海軍砲は敵の後方に在る目標に対し、又は状況に応じて使用せらる
      艦砲に対して任務を附与するに当りては、一般軍隊指揮官は陸上に於ける状況の外、左の件を考慮するを要す
      1. 海上及び空中に於ける作戦状況
      2. 水路学的ならびに測地学的見地に於ける地形の特性、即ち艦船の行動を許す範囲、海上より目標の目視状況、気象関係其の他
      3. 海軍砲の特性(弾道の低伸)、射弾観測の状況、最も有効に使用し得べき弾薬の種類
      4. 海軍砲の威力、準備弾薬の現況、艦船戦闘補給の状態
      5. 通信組織の現状、砲兵捜索、射弾観測及び目標通報の要領
    4. 第314
      隠密に準備せられ、巧みに揚陸せられたる戦術的上陸部隊は、沿岸戦闘に於いて大なる効果を挙げ得るものとす
      沿岸に行動する一般兵団に協力すべき戦術的上陸部隊の兵力は、概ね戦車中隊を属する狙撃1連隊(連隊砲及び機関銃を含む)以下とす
      上陸作戦は尚大規模に行わるることあり
      上陸機動成功の要訣左の如し
      1. 計画の周到、準備の秘匿、機動及び揚陸の迅速、払暁迄に陸上に展開を終了する目的を以って夜間上陸を行うを得ば、極めて有利なり
      2. 敵の抵抗を予想し、揚陸に最も便なる地点、及び敵の抵抗大なる場合、変更すべき予備揚陸点の選定
      3. 戦術的上陸部隊と正面より行動する部隊との適切なる協同
      4. 昼間上陸を行う場合は、特に其の対空防禦
      陸上に於ける上陸部隊の行動不成功に終わりたる場合の帰還に関する計画も亦必要なり
    5. 第315
      海上よりの射撃に対し、艦隊兵力を以って陸上部隊の沿岸翼を掩護する為には、左記方法に依ることを得
      1. 掩護すべき海岸に近接中の敵の撃滅を企図する機動戦隊(潜水艦、水上艦艇、及び航空)を以ってする掩護
      2. 防備資材(水雷)を併用し、戦術的に陸軍部隊と協同中の特種艦船部隊(支隊)を以ってする翼の直接掩護(砲艦、潜水艦、小水雷艇、航空)
      3. 野戦軍の協同中沿岸防禦資材(永久的、一時的、或は移動式海岸砲兵)の利用
      何れの場合に在りても、陸軍部隊の指揮官は、艦隊の行動に応ずる如く独力を以って自ら側面掩護の手段を講ずるを要す
    6. 第316
      敵上陸部隊の揚陸に対する対抗策は、陸海両指揮官の協定に依らざるべからず
      陸上に於ける凡ての企図は、緊密に艦隊の行動と吻合するを要す。即ち、
      1. 捜索計画の一致、及び不断の情報交換
      2. 哨戒勤務の協調、及び相互通報の励行
      3. 上陸部隊の揚陸に依りて脅威せらるる地区ならびに地点に関する協同状況判断
      4. 上陸防禦、及び万一上陸成功せる場合、之が殲滅の為の陸海協同計画の一致
      第一回の揚陸は偽騙行動たり得ることに注意すべし