歩兵操典

第六篇 通信隊教練
第二章 通信
第二節 小隊及び通信隊
戦闘
  1. 第633
    戦闘の為の前進間、通信隊長は任務に基き、捜索、警戒に任ずる部隊等との連絡の為、無線、視号等を部署すると共に、爾後の使用を考慮し通信隊主力を前方に進出せしむ。此の際、地形地物を利用し、要すれば疎開し、成るべく駄載にて前進す
  2. 第634
    攻撃に方り任務を受くるや、通信隊長は機を失せず通信隊を部署し、極力展開完了迄に所命の通信網を構成す
    通信網構成の為、時間の余裕なき場合に於いては拙速を旨とし、迅速に所望の通信網を構成す
    通信網構成の為、時間の余裕ある場合に於いては、予め周到なる準備を整え、当初より堅固にして組織ある通信網を構成す
    何れの場合に於いても通信系は勉めて簡単ならしめ、通信の円滑を図るを要す
  3. 第635
    通信網を構成するに方り、通信隊長、小隊長は通信所開設の地点、時刻等に関し、連絡すべき指揮官と確実に連絡し置くこと緊要なり。夜間に於いて特に然り
  4. 第636
    通信隊を部署するには、通信隊長は通常小隊長に勉めて現地に就き状況、自己の企図、小隊の任務、通信網、要すれば其の完成時期、通信開始時期、他の通信機関との連繋、通信諸元等、所要の事項を命ず
    通信隊長は各小隊の特性を発揮する如く統合運用し、相互の協同を密ならしむ。之が為、有線小隊は重要の方面及び時機に於いて通常主通信として、無線小隊は有線の使用困難なる場合、有線通信網の完成前、又は其の撤収後に於ける主通信、及び重要の方面に於ける副通信として其の能力を発揮せしむ。視号も亦有利に使用するの着意を必要とす
    戦闘の進捗に伴い、通信隊長は適時小隊に新たなる任務を附与すると共に、要すれば重要なる方面の小隊を直接指揮す
  5. 第637
    有線通信網を推進するには、基点より放射状に構成せる通信系を、連絡すべき指揮官に追随して延線せしむるを通常とす。状況に依り、通信網の一部に於いて追随せしむることなく連絡すべき指揮官の予定位置に新たなる通信系を構成せしむることあり。此の場合に於いては連隊長の意図を明らかにせる後実行し、且つ連絡の中絶を補うの処置を講ず
    予定線路の近傍に通信所の開設を予期する場合に於いては、縦い迂路となるも其の地点を通過して延線せしむるを可とす
    線路は通常単線とするも、戦況、通信の要度、地形、気象等に依り、複線又は往復線と為す
    交換機は通常利用すべき時間を有し、且つ部隊相互に緊密なる連絡を要する場合に於いて使用す
  6. 第638
    無線通信網を推進するには、連絡すべき指揮官の移動に伴い逐次通信所を開設せしむるか、若しくは通信すべき時刻又は位置を指定して通信所を開設せしむ。而して連絡の中絶を避くる為、連隊本部等には為し得る限り2機以上を配当して、逐次躍進せしむるを可とす
    視号通信網の推進要領は前項に準ず
  7. 第639
    有線小隊長、小隊を部署するには、勉めて現地に就き要すれば要図等を与え、状況、自己の企図、分隊の任務、要すれば線路構成の方法、保線及び撤収の方法等を示す。而して分隊の任務は通常連絡すべき指揮官及び其の位置、分隊の経路、要すれば完成時期を以って示す
    視号班に任務を与うるには、通常連絡すべき指揮官及び其の位置、呼出符号等を以ってし、要すれば使用器材を示す
  8. 第640
    無線小隊長、小隊を部署するには、勉めて現地に就き要すれば要図等を与え、状況、自己の企図、分隊の任務、要すれば通信法、通信所の交代法、分隊の進路等を示す。而して分隊の任務は通常連絡すべき指揮官及び其の位置、通信系、通信諸元、要すれば通信開始時期を以って示す
    小隊長は、1通信系中1分隊を統制通信所とし、通信実施上所要の統制を行わしむ。之が為、通常連隊本部に位置する分隊を統制通信所と為す
  9. 第641
    戦闘間、小隊長は指揮に便なる所に位置し、通信の状態を監視し、且つ所要の分隊に逐次新たなる任務を与えて適時通信網を推進、変更し、有線、無線、視号の連繋を適切ならしむ。又、特に戦況の推移を判断し、通信隊長の企図に基き事前の準備を周到にし、要すれば重要なる方面の分隊を直接指導して、自己の意図の如く通信に任ぜしむ
  10. 第642
    通信隊長は歩戦砲各指揮官の協定に基き、特に突撃及び爾後に於ける通信連絡に関し予め協定を遂げ、之が完全を期するを要す。之が為、戦車及び砲兵の連絡者及び通信機関と密に連絡し、此等に与うべき援助、通信施設保全の為戦車及び砲兵の知るべき事項、歩戦及び歩砲間に直接通信実施を要する場合の通信系、通信諸元、通信法、通信開始時期、要すれば副通信の手段等を定め、爾後適時此等を補綴す
    第一線部隊敵に近接し戦闘激烈となるも、通信隊は幹部以下の沈着勇敢なる動作に依り、連絡の確保に遺憾なきを要す
  11. 第643
    防禦に在りては、通信隊長は時間の許す限り綿密に計画を定めて通信隊を部署し、整然たる通信施設を為し、連隊長と其の所属指揮官、監視及び観測機関等と連絡す
    通信施設は地形を利用し、極力工事、偽装を施すと共に、補修材料、予備器材等を整え、被毒防止及び制毒の準備を為す等、手段を尽くして戦闘激烈なる時機に於いても連絡を中絶せしめざること緊要なり
  12. 第644
    夜間通信網を構成するに方りては、所要の部隊と協定を遂げ、之を各小隊に徹底せしめ、事前の準備を整う。夜間は巧緻複雑なる部署を避くると共に、錯誤の予防、及び秘密の保持に関し、特に留意するを要す
  13. 第645
    戦闘間、通信隊長(小隊長)は適時通信網及び連絡の状態、通信隊(小隊)の現況、就中推進能力等を連隊長(通信隊長)に報告し、且つ関係ある連絡機関に通報し、又、状況、通信網の状態等を部下に熟知せしむ
  14. 第646
    通信網の撤収は之を迅速にし、且つ人馬、器材の集結を確実にし、以って爾後の使用に応じ得ること緊要なり。之が為、通信隊長、小隊長は撤収の開始時機及び方法、撤収後の行動等、所要の事項を命ず
  15. 第647
    戦勝を予期し得るに至れば、通信隊長は連隊長の企図に基き、追撃に任ずる部隊との連絡の為、無線、視号等を部署すると共に、有線通信網を迅速に撤収する為、所要の準備を為す
    第一線部隊追撃を開始せんとするや、直ちに前進し得る通信部隊を跟随せしめ、使用中の有線通信網は追撃に関する命令伝達後、撤収し追及せしむ
  16. 第648
    退却に方りては、通信隊長は連隊長の企図に基き、所要の無線、視号等を所命の部隊に同行せしめ、或は退路上の要点に先行して通信を準備せしめ、次いで通信網を迅速に撤収する為、所要の準備を為す。此の際、企図を暴露するが如き行動を厳に戒むるを要す
    通信網の撤収は退却命令伝達後、連隊長の命令に依り実施す